No.107 合宿最終日
合宿三日目。試合まで残すところ二日という事もあってか、五対五中心の、軽い調整のような練習が行われていた。
「おりゃぁあ!」
純也がディフェンスの我利勉をドリブルでかわし、そのまま地面を強く蹴ってリングに向かって跳んだ。
小田原くんがヘルプに来る。しかし純也は空中で体を横にして、ヘルプに来た小田原くんをかわす。
「石川トマホークッ!」
そのままリングの中心ををめがけてボールを叩き付けた。
ドシャンッ!
凄まじい音をたてて、リングが揺れる。
『よし、終りだ。集合してくれ』
『オッス!』
薫の呼び掛けで部員達が一ヶ所に集まった。
「これで合宿は終りだ。短い間だったがお疲れさん」
そして薫がこれからの日程について話し始めた。
「明後日からいよいよ大事な三戦になるが特に今言うことは無い。練習したことを全部出していこう」
『オッス!』
「今日で全員自宅に帰ることになるが、我利勉はどうするんだ?」
急に話しかけられた我利勉は焦っている様子だった。
「えーと…。勢い良く飛び出して来たので…。まだ決まってませんね…」
「…そうか」
そう言って薫は考える。その時、亮が薫に一つの提案をした。
「あの、俺一人暮らしなので俺の家に泊まりますか?」
「え? いいのかい?」
驚く我利勉に亮は笑顔で「ええ」と返事をした。
「っしゃあ! 今日は全員で亮の家で鍋でもやろうぜ! うっちあげ!! はい! うっちあげ!! はい!」
一人でテンションの上がっていた純也に、亮が冷静につっこむ。
「全員入る訳ねーだろアホが」
四月に比べて一年生の数が半分以下になったとはいえ、それでも部員は16人いた。一人暮らしの亮のアパートには全員入りきるはずがない。
「ったく…本当につかえねぇなぁ…」
純也は、ヤレヤレ、といった仕草を見せた。
「常識的に考えろ馬鹿が!」
そんな二人をみて純麗が慌てた様子で言った。
「学校でも良いんじゃない? 合宿の予算余っちゃったし。薫ちゃん、どうかな?」
「まぁいいんじゃないか? ただ、全員家に連絡いれろよ。一度帰ってもいい。一時間後に学校集合――」
『っしゃあ!』
薫がすべてを言う前に純也が更衣室にダッシュで向かった。それを見た他部員も純也の後を追った。
「元気ねぇ」
その様子を見ていた純麗が笑った。
「……買い出しは大丈夫そうだな…」
薫はそう呟き、更衣室に向かったのだった。
――――――
――――
――
着替が終り、ある者は自宅へ、ある者は準備、ある者は買い出しへと出かけていた。
薫の予測通り、買い出し部隊は純也と亮が自ら志願していた。どうしても好きな材料を入れないと気が済まないらしい。
静まりかえった体育館でマネージャーの二人が会話をしていた。
「久留美ちゃん、鍋の準備は薫ちゃんたちがやってくれるって言ってたし、私たちは残りの仕事終わらせよっか」
「はーい」
そして二人は洗濯をするものを集めた。集めたものを洗濯機のある部屋へと持っていき、洗剤を入れてスイッチを押した。全自動式の洗濯機が回り始める。
「さてと…、私は準備を手伝いに行くけど、久留美ちゃんはどうする? 家にはちゃんと連絡した?」
「あ、はい。お姉ちゃんしかいないので大丈夫です。私も準備しに行きますよ〜」
「そっか」
純麗はニッコリと笑った。そして取り留めのない会話をしながら洗濯機のある部屋から体育館へと出た時だった。
「誰!? アナタ達は!」
純麗が叫んだ。体育館の入り口から怪しいギザギザ模様のついたマスクをした集団が入ってきた。その中の一人が喋り始める。
『あれ? 練習してねぇじゃん』
そう言ってマネージャー二人に歩み寄って来る。その顔には真新しい喧嘩の傷が残されていた。
純麗が久留美の腕を両手で掴んでいた。力が込められる。
『まぁいいや。ちょっと聞きたいことあるんだけどさ。純也ってヤツいる?』
久留美が叫んだ。
「いないわよ! 勝手に入ってきて頭おかしいんじゃない!?」
強気な久留美を見て、その集団は笑った。その中の一人があることに気づく。
『あれ…お前もしかしてこの前純也と歩いてた女じゃねぇ?』
――しまった。あの時のグループか。
久留美はそう思ったと同時に言葉より先に純麗の手を握り、走り出していた。
『おっと行かせねぇよ』
すぐに逃げ道を塞がれる。 やがて集団の後ろの方から出てきた一人が久留美をにらみつけた。
『嘘はいけねぇな…。俺らはただ用事があるだけだぜ?』
「い、いないって言ってるじゃない!」
久留美が叫ぶ。久留美を掴んでいる純麗の手に力が込められる。
『よし…つれてけ…』
そう言って背中を向けた。残りのメンバーが久留美を連れていこうとする。
「やめてください! 久留美ちゃんがなにをしたって言うの!」
純麗が久留美の手を握るが、呆気なく離される。
「キャッ!」
『これでも大人しくしてやってんだ。頼むから怒らせねぇでくれよ…。純也ってヤツを呼べりゃあ、なにもしねぇから』
そして純麗の抵抗も虚しく、怪しい集団は久留美を連れて体育館を出て行ってしまった。
残された純麗はまだ残っている恐怖に身を震わせながら、薫たちのいる場所へと急いだ。