No.105 不審人物
夕食後の自由時間。体育館で純也と薫がシューティングを続けていた。
そこへマネージャー二人がやって来る。純麗が薫に話しかける。
「薫ちゃん、部活で使うジュースがきれちゃってるみたい」
「なるほど…」
薫は少し考え言葉を返す。
「すまないが買い物頼めるか?」
「あ、私行って来ましょうか? 後片付けも終わってないし…」
久留美が薫に向かってそう言った。
「久留美ちゃん、いいの?」
「ええ」
純麗の問掛けに笑顔で答えた。しかし薫は悩ましげな様子だった。
「外が暗くなってるな…さすがにマネージャー一人に行かせるわけには…」
そこに純也がめんどくさそうに言う。
「しょうがねぇな。俺がついて行ってやるよ。やることが多いみてぇだしな」
銭湯でマネージャーの会話を聞いていた純也は無意識にそう言っていた。
「よし、では純也にお願いしよう」
「純也君よろしくねー」
「は〜い」
純也は純麗にそう言われると鼻の下を伸ばしながら答えた。
「まったくもう…」
久留美は口を尖らせ、呆れた様子だった。
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純也と久留美の二人は、近くのスーパーへの道を急いでいた。辺りはそれなりに暗くなっている。
「あ〜、閉店まで間に合うかなぁ」
「確か九時までだったはずだから余裕じゃねえの?」
「そっか…だよね」
久留美そう言って歩くスピードを落とした。そして星空を見上げて話しかける。
「ジュン、最近部活楽しそうだよね」
「そうかぁ? 無理矢理入部させられたんだぞ?」
「ううん、前よりも笑顔が増えたよ。昔みたいにね」
「昔か…」
昔とは優、カズと一緒に空き地のコートで毎日バスケットをしていた時だろう。
「不思議だよね〜。もしかしたらまたカズ君と試合をするかもしれないなんて」
久留美が懐かしそうにそう言った。
「どんな縁だよ…ったく」
そう言って純也は頭を掻いた。その様子を見た久留美はクスクスと笑う。
その時だった。二人が細い道に入った時、ある少年グループに見られていることに気づいた。
「なんだアイツら?」
純也たちを見ながらなにやらコソコソと話をしていた。
「ジュン……ダメだからね」
久留美がそう言って目で訴えかけている。
「ああ、わかってるっつーの。夜になるとあんなヤツらが増えるからな。相手してらんねぇよ」
純也も最近まではあのような感じだったため、特に気にもせずにスルーしたのだった。
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純也と久留美の二人が朱雀高校の門に入ったのを確認し、ある男がポケットから携帯電話を取り出した。
『もしもし? やっと見つけました……はい……朱雀高校です…』
やがて会話が終わると、そのまま学校に背を向け闇の中に消えて行ったのだった。
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就寝時間になった。部員達は枕投げでもしているかと思いきや――。
『ぐーぐーぐー……』
『すぴー………』
『ぐー……すぴー……むにゃ』
泥のように眠っていた。今日の練習がよほどキツかったらしい。
合宿場に隙間なく敷かれた布団の上を部員達は転がりまわる。
暫くの間、いびき声が部屋を支配する。そこに突然ある人物が勢いよく扉をあけて叫んだ。
『失礼します!』
部員達はいきなりの大声に慌てた様子で目を覚ました。
そこには我利勉が険しい表情で立っていた。
「我利勉か…どうした急に? 帰ったんじゃなかったのか?」
薫が眠そうに言った。我利勉は親に合宿を反対され、部活が終わると同時に家に帰っていた。
「僕、今日から大会が終わるまで家に帰りません!」
部員達が驚いていた。
「僕だって戦いたいんです! 一緒合宿に参加させてください!」
なにやら決意している顔をしていた。薫は起き上がり、我利勉に話しかける。
「そうか……とりあえず今日は寝よう」
「はい、すみません」
薫にそう言われると我利勉は荷物を置いた。薫は今のところは我利勉の事情には特に触れなかった。
「っしゃあ! でかしたぞメガネっ! それでこそメガネだ!」
純也が突然意味不明に叫んだ。どうやら寝ぼけているようだ。亮が眠そうに純也に言った。
「ったく…寝ぼけてんじゃねぇよ……寝てるときくらい静かに――」
喋っている途中、亮の顔面に枕が当たった。純也は寝ていながらも亮の悪口に反応したらしかった。
「て、てめぇ…」
こうして部員全員を巻き込んだ枕投げが始まったのであった。