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No.104 考え方

全ての授業が終わり、合宿二日目の練習が始まった。部員達は駆け足で体育館へと急いだのだった。


――――――


――――


――



 他の部員よりも一足早く体育館にやってきた純也と亮はすぐに一対一を始めた。どうやら昨日の続きらしい。


「っしゃあっ! ざまあみやがれっ!」


「くそっ…」


純也は亮のディフェンスをかわし、レイアップシュートを決めた。亮も悔しそうな表情を見せるが、すぐに気持を切り替えて、ボールをよこせ、と純也に言った。


「いつだって点は取れるんだ。すぐに取り返してやるからよ」

 

「てめぇなんぞ俺の殺人ブロックで叩き落としてやるぜ ※ただのブロックです」

 

亮の言葉に純也は余裕の笑顔を見せる。しかし、いつ亮が攻めてきても対応出来るように、しっりとディフェンスの構えをしていた。


そんな二人に後からやってきた部員達から声がかかる。

そこには朱雀高校の強い個性達により、すっかり目立たなくなった二年の吉原と一年の遠藤、渡辺の三人がいた。


遠藤が亮を向いて真剣な顔で話しかける。


『なぁ、俺達も混ぜてくれよ。残りの三試合何が起こるかわからないし、俺達も一緒に戦いたいんだ』


大会を見てきて、自分達もやらなければ、という意識が出てきたようだ。

彼らも戦っているのだ。


『試合に出られるかわからないけど、応援でも練習の手助けでもいい。やれることはやっておきたい』


そう渡辺が言った。一対一も大事だが人数が増えると、よりさまざまな練習が出来るようになる。 亮も彼らの気持とそのことを分かっていたため快く引き受けた。


『それに、俺はまだポイントガードを諦めた訳じゃないぜ。チャンスが来たら必ず取り返す!』


二年の吉原だった。彼は亮が入学してポジションを奪われてしまった人物だった。いつか絶対に取り返す、と日々練習に励んでいた。

『ええ、こちらも簡単には渡しませんよ』


亮がニッコリと笑って答えた。純也が口を開く。


「んー……五人か。あと一人いればなぁ……お?」


タイミングよくホームルームを終えた博司が体育館に入ってくる。


『おねがいします!』


入り口で頭を下げて挨拶をしていた博司を純也が呼んだ。


「おーい、練習始まるまでの間三対三でもやろうぜ!」


「あ、うん。ちょっと待ってて」


そう言って博司は更衣室に向かった。


――――――


――――


――



『サボるな! 走れ!』


「くっ……サボって……ねぇよ……」


純也が薫に気合いをかけられる。純也は走るペースを再び上げた。

そして終了を告げるブザーが鳴る。

いつもよりも厳しいフットワーク練習により、純也だけではなく他の部員達も肩から息をしていた。体力に自信のある純也でさえ休憩になると同時に座り込んでいた。他の部員も壁に寄りかかったり、コートに大の字になっている者もいた。


「ちっ、今日はえらくキツイじゃねえか」


呼吸を整えながら純也は近くを歩いていた薫に向かって言った。

 薫はアッサリと「そうか?」と答え、ジュースをとりに行ってしまった。


その様子を見ていた久留美は隣にいた純麗に話しかけた。


「まだ半分もメニューを消化していないのに、いつもよりキツそうですね」


「うーん。昨日五十嵐君の話をしたからかなぁ」


そう言って純麗は苦笑いをした。薫は五十嵐とは中学時代の友達であり、良きライバルだった。気合いが入るのも無理はないだろう。


すべてのメニューが終り、部員達に薫から集合がかかる。


集まってきた部員はその場に倒れ込むようにして座った。


「とりあえず、おつかれさん」


『オ、オス!』


練習が相当キツかったようだ。薫はいつものようにこれからの日程を喋っていく。


「昨日と同じだ。飯の後は自由時間で、風呂は十時までに入ってくれ」

 

「オス!」


博司が小声で純也に言った。

 

「ぜ、絶対に純也君とはお風呂の時間は被らないようにする!」


「まぁまぁそんな事言わずに」


不気味に笑顔を作りながら純也は博司の肩に手をまわした。


「うう」


博司は体育座りのまま、小さくなった。


そして薫は立ち上がった。それを見た部員も一緒に立ち上がる。


「お疲れ様でした!」


『おつかれさんっしたっ!』


そう叫んで頭を下げた。

そして部員達はダッシュで家庭科室に向かったのだった。



――――――


――――


――



純也と亮のによる賑やかな夕食を終え、数名はそのまま体育館へと向かう。

そして各自自主練習が始まった。


ジャンプをして放たれたシュートがリングに当たり、外に弾き飛ばされる。


「ちっ…」


純也は顔をしかめると、外れたボールをダッシュで拾いダンクシュートを決めた。



「くそが!」


ダァァン!


凄い音が鳴り響いた。純也はリングから手を離し、転がったボールを拾いあげドリブルをした。

 

「入らねぇなぁ…」


そんなことを呟いていた純也に、薫が近寄る。


「どうだ? 調子は」


「ちっ…、見りゃあわかんだろ」


薫は軽く微笑むと、ジャンプをせずに腕だけでシュートした。


ボールは綺麗に吸い込まれる。


「純也。お前はシュートを打つときどんなことを考えている?」


「入れ、じゃねぇの?」


そう言って再びジャンプシュートを放つが外れてしまう。ボールを追い掛ける純也に薫は言った。


「考え方は人それぞれだろうが、俺の場合は『入れ』じゃなくて『入れるように打つ』という感じだな。体の一部の動きを意識したりしてな」


純也は訳の分からない様子だった。


「入れ、だとシュートが入っている映像と同時に、シュートを外している自分の姿も頭の中に浮かんでないか? 」

 

 純也は考え込んだ。薫は更に続けた。

 

「純也の得意シュート……例えば、レイアップやダンクを打つときに『入れ』って考えてるか?」


そこで純也はハッと気づいた。


「そう言えばダンクは……イメージが完全に出来上がってるな…。レイアップも、『ここから、こんな動きをすれば入る』…って次々に…」



「アドバイスになったかは分からないが、気持の持ち方、考え方だけでも結構違うものだ。意識は知らないうちに下意識…動きに繋がってしまうことがある。それは悪いこともだ」

 

 試合でシュートを決めてもまったく表情を変えず、いつも冷静にプレーをする薫の秘密はこんな所にもあるかもしれない。


――○分で終わる!

 

――○点で逆転だ!


――やった!


――入った!


――だめだ足が動かない


――キツイ…



そんな考えを常に他にまわせているなら……。

 

もしかしたらその人は考え方だけでも、知らないうちに周りのプレイヤーよりも、少しだけ有利になっているのかもしれない。



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