No.1 謎の男
突然、純也の前に現れた謎の人物。その正体とは…。
とある町の商店街。
そこは発展しているわけでもなく、さびれているわけでもない、どこの県でも見られるような商店街だ。
普段は主に夕食の材料を求める主婦達の世間話でにぎわっている。
その商店街から、更に奥の裏路地に入ると、さっきまでの商店街のにぎわいが嘘のように急に静まりかえる。
廃墟になったビルや壁に描かれたスプレーの落書き……。
そう、ここは不良達の巣窟となっているのだ。
この裏路地をさらに奥へと進んでいくと、裏路地の不気味な静けさとは正反対に、若者達でにぎわっている場所がある。
平日にもかかわらず、なかなかの人数である。
おそらく、二十人くらいはいるであろう。
年齢はさまざまで、十六歳くらいから二十歳くらいまで。
学校へ行かずにほぼ毎日ここに来るやつだっている。
もちろん休日はもっと沢山の人が集まる。
俺はそこで、神だった…。
ヤツと出会うまでは…。
***
――ガーンッ!!
激しい音が周囲に鳴り響く。
それと同時に観客の声援も大きくなる。
『すっ、すげー!!またジュンが決めたぞ!?』
『どんだけジャンプ力があるんだよ!』
ここは、商店街の裏路地にあるストリートバスケのコートだ。
とは言っても、ただの空き地にリングを置いているだけの粗末なものだが……。
そして今、このコートでは俺が試合をしている真っ最中なのだ。
さっきの大きな音は、俺がバスケットリングにダンクシュートをぶちこんだときの音。
俺をディフェンスしていたヤツは吹っ飛び、情けない格好で地面に大の字になっている。
この瞬間がたまらなく気持ちいいんだ。
ん? ファールじゃないかって?
そんなものはない。ここのストリートバスケはルールなどほとんどない。
たとえ、殴ったり頭つきしたりしてもいいんだ。弱いヤツが負ける……ここではそれがルール。
みんなもそれを承知してきているし、俺も大賛成だ。
「おっしゃあ!! 俺の勝ちだ! 約束どおり金もらうぜ」
「ううう……お前やっぱり強ぇな。バスケのウデもだが力がハンパねぇ」
「おう! 自慢じゃねぇが、喧嘩は負けたことがねぇ」
そう言って俺は勝った相手から金をもらう。
ここの名物の賭けバスケだ。
まあ、学生がメインなのでせいぜいジュース代程度、多くて千円くらいだが……。
おっと……自己紹介を忘れてた。
俺の名前は『石川純也』。高校一年生だ。
親は俺が純粋に育ってほしいと思いこの名前をつけたらしいが、今ではこの通りだ。
しかし、俺は親と仲が悪いわけではない。
むしろ仲はいい。
俺はすこしグレてはいるが、特に親には反抗しない。それは、俺が『ある意味』家族を恐れているからだ。
まあ、それは後ほど……。
身長は170センチくらい。
ん? 小さくね〜よ!
普通だろ普通。
実際に俺は小学三年生のときからここにいるが、バスケで負けたのは小さいときだけで今はほとんど負けない。
むしろ今年は無敗だ。
だから小さくてもバスケはできる。
ジャンプ力には自身がありこの身長でもダンクができる。
腕力にも自身がある。
先程も言ったが、喧嘩も常勝無敗だ。
髪型はちなみにボーズ。
ま、長い自己紹介はこれくらいにしておくか。
そろそろ次の試合にするとしよう。
「よし、次。俺と試合するヤツいねぇ?」
…………反応なし。
――今日はたくさん戦ったし、もういいかな?
と、思っていたときだった。その時、静まり返った観客の中から、少し鼻に掛かった、聞き取りやすい声が聞こえてきた。
「俺に勝負させてくれないか?」
「おっ、誰だ? でてこいよ」
そして、人ゴミをかきわけてながら、現れたヤツは身長は185くらいで、青いヘットバンドをしている。
きっと女の子にモテてそうな、いかにもスポーツマンというヤツだった。
はじめてみる顔なので、初めてこのコートにきたんだろう。
「初めて見る顔だな」
「ああ、ここにくるのは初めてだ」
「ここのルールは知っているのか?」
俺は不気味な笑みを浮かべながら問い掛ける。
「見ていてだいたいわかったよ。俺には頭つきは通用しないがな」
謎の男の自信に満ちた答えに、周りのギャラリーは罵声をあびせる。
『ジュン!やっちまえ!お前のバスケが通用しないわけがねぇ』
『ついでに殺してしまえ!!』
『てめーみてぇなスポーツマンがくるところじゃね〜んだよ』
「ギャハハ、ひどい言われようだな。大丈夫かよ?」
「問題ない。はやくこいよ」
「いくぜ……ここに来たことを後悔させてやるよ」
そう言って俺はボールを懐に引き込み、持つ手に力をいれた。
***
トントントン……
静寂の中、地面に音をたて転がるボール。
そして地面に膝をつく俺。
スコアボードに目をやると20対0で完封されてしまった。
「ば……ばかな、なっ、なぜだ?」
――くそっ、これじゃあまるでアニメにでてくる悪役のセリフじゃねぇか。俺、主人公なのに。
「言ったろ? 俺には頭つきは通用しない。
お前がバスケでえばれるのはここだけだ。」
くそっ……負けるのは初めてじゃねぇ。
しかし、完封負けは初めてだ……くそっ。
俺の攻撃(パンチ、頭つき、その他)も全部かわされた。
こんな屈辱は初めてだ。
「お前、何者だ……」
「ん? 俺は朱雀高校バスケ部主将三年、木ノ下薫だ。」
木ノ下薫か……覚えておくぜ。
「じゃあ俺は自主練にもどる。ここはたまたまランニングで立ち寄っただけだからな」
その言葉を残し、薫は走り去っていった。
「ちくしょう……朱雀高校木ノ下薫か…」
いつか、必ず倒してやる!
いつか………ん?
なにかが引っ掛かる。
なんだろう?
朱雀高校?
…………
う〜ん?
…………
同じ高校じゃねえか!!
1on1に目を通していただき、まことにありがとうございます。最後まで完結させるように頑張りますので、どうかよろしくお願いいたします。