塗りつぶされた筋書きを読み返す
走りこんできたのは、一人の男の子。
俺の友人の一人。春樹が出かけたことを知っているただ一人の友人だった。
彼は、ただ息を荒立てて言った。
『踏み切りで、赤い男が。いた。踏み切りで事故があったらしい…』
息も絶え絶えのその言葉でも、俺たちの間ではそれだけで十分だった。
人物を断定出来るのはたった一つ。【赤い男】、今から考えたのなら、【赤く染まった男】かもしれない。だというのに俺は迷わなかった。
母と父の間から抜け出して、踏切へと走った。だが、家を出る前に一度止められた。
『見になんて行くな。』
そう、父に。だが、父は母に、母は祖母に言われて俺を行かせた。父は『見に行くな』と言った。だが、俺は春樹の『安否を確認』しに行くのだ。
母も祖母もそれは知っていた。仕事が忙しいといってもまともに顔すら覚えられないくらいしか会っていない父よりも、忙しいけれど隙を見て小まめにやってくる母の方が俺は信頼していた。それと同じで、母も俺を信頼し、俺が何をしようとしているかさえも考え付いていた。
俺が、春樹のために俺自身の欲を持たないことも。祖母から通して知っていた。
だから、俺は『あの日』踏切へとたどり着けたのだ。
『あの日』もしも、父に言われた通りにしていたなら。春樹は、傷付かなかっただろうか。
春樹を、あんな状態にする事は無かっただろうか?