そうして彼は舞台から影と共に奈落へと退いた
「うわあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!!!!」
「違う! 違うんだ! 私は、何も…」
「五人殺しておいて言う事がそれか。」
突然、声が聞こえた。周りを見回しても、誰も居ない。私は不安になり、ベランダを覗き込む。
下には、確かに体から大量の『赤』を撒き散らして倒れている石井が居た。その側には、小さな物と、大量の人々―――――っ、!
下に居た人間がいっせいにこちらを見る。どうして? この階から落ちたなんて解らないのに。気のせいだと思い、もう一度覗く。
今度は警察が居た。しかも、側に落ちていた物を弄り、こちらを見上げる。
それは携帯電話だった。
「写真でも、撮って…?」
「だろうな」
また、声が聞こえる。私は再び周りを見回すが、何処にも人は居ない。どうすることも出来ずに、開けたままのガラス戸に目をやる。
「気付いたか?」
そこにはガラスに映る私の姿。だが、明らかに今の私の感情にあっていない表情をしている。私は後ろを見る。だが、ベランダの縁に背をつけているのだ、後ろに居るはずが無い。
「そう、私は映っているお前だ。又は、『冬哉』――と言う。」
まるで私の心を読んだかのようにガラスに映る私は話す。向こうはあの三日月形の笑みを浮べている。確かに『冬哉』だ。
「お前は確かに人を殺した。だが、その事を認めたくないが故に別人に罪を擦り付けた。その別人は自分を守ってくれる存在であった冬哉をモデルにした人格、『冬哉』だ。」
『冬哉』は私の感情に反して勝手に話す。そして、口を塞いでみて、気付いた。
「話しているのは――、私…?」
ガラスに映る私は頷く。向こうも同じように口を塞いでいた。その手を離すと向こうも同じように離す。
そうして、唐突に思い出す。
全てが、自作自演――――…?
もう、私には何処からが嘘なのかわからなかった。
全てが、作り出した『冬哉』で。そして全てが『全て』を知る私(春樹)で、私自身が今の私がわかることなんて、今の自分がしなくてはいけない事は。
自分の覚えていない『自分』の尻拭い―――。
「…どうすれば良いんだろう」
「どうすればなんてな。自分でそれだけの事をしたんだ。自分で、責任を取れ。」
簡潔で冷たい結論を『冬哉』は言う。それはそうだと、私は思う。だが、一番良い償い方はどんな物なのだろうか。
「死は、死でしか…ということらしいんだよ。処刑とは……」
それはそうだ。死を商売で償えたのなら、それは不条理だと言うのだろう。
特に私は苦の感情など、無かった。
触れるのは手摺り、足が触れたのは硬い冷たい岩。壁だった。
まるで、冬哉に飛びつく時のように足に当たる壁を蹴る。
『と~おや!』
泰祐と一緒に冬哉に飛びついて押し倒した事があった。冬哉は痛がっていたが、それでも楽しそうだった。
『お前らな~、加減ぐらいしろ!』
その親父臭い言葉に、泰祐と笑いあった。奥のほうから、泰祐の祖母が出てきた。
『元気良いのは良いことだ。冬哉さんも、どぉぞ。』
目の前に出されたのは大きく半月型に切られた、みずみずしいスイカだった。
『いただきます。』『ます!』
まともに、いただきますと言えと、怒られた。
グシャッ、