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春の赤 と 冬の白銀  作者: よづは
23/26

舞台を独り占めして影と踊り狂う彼はどれ程滑稽で愛おしかっただろう!!



 彼女が居なくなった理由は、知ってはいけないことを知ったからだ。


 私は――、最後に彼女が言おうとした事を、知りたい。


「弥生は、花の色を―――」

 弥生が願おうとした事を知りたい。


 『弥生』が最後に言った言葉を知りたい。



 # # # # #



「あっ、そういえばここの踏切って何かおまじないあったよね。」

 弥生がいつもと変わらず私に笑いかける。とても、無邪気にふわりと。私はその笑顔を眩しそうに見てから、弥生の言葉に答える。


「確か――、『踏み切りの音を聞こえないようにして目を瞑ってここを通る事が出来たなら、その時に願った願いは叶う』だったと思うけど………」

 そんな感じの、かなり無謀で命がけなおまじないだったと思う。

 そう、付け足すと弥生は踏み切りを暫く見詰め、そして両の手を叩く。


「よしっ、! やるか!」

 威勢の良い言葉を言って弥生は振り返り私に笑いかけた。その笑顔が何処か悲しく感じた。私は、弥生の言動に驚いて、右手を伸ばす。

「―――っ、! …ぅぇっ__...」

 瞬間、吐き気がした。冬哉が来た時から、右手を使おうとすると内臓と肉の感触を思い出す。弥生は私が言わずともそばで見てしまっていた為、無言で私の頬を両手で掴む。そして柔らかく微笑むと、左の補聴器を外す。

 補聴器を唖然として見つめる私に弥生は言う。

「預かってて」

 私は言い出したら案外頑固な弥生に諦めて、問いかける。


「で、? 弥生姫は何を願うので…?」

 私の言葉に弥生は微笑って右の補聴器を渡す。そして、眼を瞑って歩き出す。

 その背を私は神妙な顔で見ていた。


 ほんの暫くして、赤い音が鳴り始める。それでも私は動かなかった。


 目の前の弥生と私の間に遮断機が一本だけ下りる。弥生は、歩きながら言葉を放つ。


「私はね。聴覚なんかどうでも良いの。」

 その言葉に、少し私は興味を覚えた。弥生は続ける。


「そんなもの無くても、視力がある。視力も無くても触覚がある。生きている。だから、だから春樹君に会えた。」

 電車は『あの日』よりも、早く近付いてくる。


 弥生は真ん中でとまる。そしてまだ言葉を放つ。


「春樹君が、居たから。大好きだったから。」



 途端、脳裏に弥生と過ごした日々が通り過ぎた。


 愛しかった。

 彼女は確かに『弥生』で、彼女の与えてくれる無償の愛情は母親の愛情に何処か近いものがあったと思う。だけど、そんなもの関係なく彼女は愛情を与え続けてくれた。私が兄を、冬哉を殺していたとしてもだ。



 私は走り出す。


「弥生!」

 まるで私の声に弥生は立ち止まったかのように感じた。そして―――こちらを、振り向く。




 踏み切りの真ん中で、弥生は微笑む。必死で走る私を不思議そうに見つめて楽しそうに微笑う。


「私はね。願っているの、春樹君――――………」


 弥生は直ぐ真横にあった鉄の塊に気付かないまま。


 いつものように、微笑んで……――――――



 そして、私だけを見ていた……。









 全て、わざとだった。ここには確かにおまじないがあった。ただ、それは『遮断機に消しゴムを乗せてそれが三日間落ちなかったら、幸せになれる』というものだった。


 ここで死んだなら、補聴器が無くても怪しまれない。頭が残っていなくとも吹き飛んだと言う事にでも出来るのだ。


 だから、ここにした。

 時刻表を暗記し、発車からこの踏み切りに至るまでを正確に計測しそして、学校から踏み切りまでの距離と時間を記録。

 弥生の歩行速度なども計算し、今日を【その日】にするつもりだった。タイミングを合わせるために踏切までの道のりを走らせた。走らせる理由など、簡単だ。

 『競争しようか』と、誘っただけなのだ。弥生は案の定、乗ってきた。そして途中飽きて私と手を繋ぎ、踏切へと歩くのだ。

 踏み切りで、『おまじない』を弥生が言い出したのは予想外だったが、都合が良かった。

 偽物の『おまじない』を教えて、電車に撥ねられる。それを慌てた様子で阻止しようとする。目撃証言も作る事が出来てめでたし、めでたしだ。



 だけど……。

 ……彼女の事は、半分は本気だった。だけど半分は、『弥生』の代わりだった。ただの、母親代わり。本気に、何時の間になっていたのだろうか。似ても似つかないと、気付いたのは何時だったのか。

 何時から、こんなにも愛しくなっていたのだろうか。

 『弥生』よりも、愛しくなっていたのは何時だったのだろうか。


 上を見る。時間が、長く感じる。弥生を潰す瞬間まで、とても綺麗に見えていた。そして、空には『赤』が―――、


 好きな空の色。橙色に、真っ赤な花を咲かせる。


「空に咲く花は真っ赤だったね。」



 私は正面を向く、弥生が笑顔のまま潰されてゆく。



 そして―――、私の身体にようやく『赤』の液体が掛かる。



グヂョッ、



 弥生の身体は鉄の生き物と『赤』に隠された。無くなった。

 そして、弥生の首は、潰される。笑顔が消える。



 あの言葉の先、一つ。聞けないのか。



 『弥生』も最後に何かを言った、だけどちゃんと聞こえる前に居なくなった。


 皆、聞きたい言葉を途中で置いてゆく。





 目の前に、広がる色彩は、私の記憶に染み付く『赤』

 大切な人に染まる、私を自覚する―――――――っ






「うわあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!!!!」






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