そうして役者の即興を終わらせた演技に思いを馳せれば
暗い路地、そこに歩を進める背の高い学生。元気の良さそうな人の良さそうな、男。
西、両手にはアイス。片方にはレモンシャーベット、もう片方にはチョコミント。あまり好まれないチョコミントは西も好きじゃなかった。
西は躊躇いがちに私に声をかける。私の、私を守るものの名前を
「とう、や…?」
そうだ、私は私ではない。身代わり、自分以外の誰かに守ってもらわなくてはいけない。
「――っ、ぁ――!」
苦しそうに、西が声を上げる。その手から…アイスが落ちる。西はそれでも抵抗はしなかった。
西の手が、微かにチョコミントに向かった。もったいないと思っているのだろうか。
西が意識を手放す瞬間。西が目を見開く、そして何処か納得したような穏やかな表情を見せた。
そんな眼で、見るな。
そんな、『春樹』を見る目で見るな!
辿りついたのは、水辺。いや、海だった。かなり街からは遠いが、それでも遠出の価値はあるだろう。私は、近くににあった倉庫で扉の開く物を捜す。
【八番】そう書かれた扉が開き、中にちんまりとした車を見つけた。ここには昔から質の悪い種類の人間が屯する。
その車には鍵がかかってなく、近くの箱の上にはその車の鍵が置かれていた。私は、車を出す。
そして、海からそれなりに距離をとったところで降り、西を運転席に乗せる。足は、アクセルだけに置いた。
エンジンをかけ、西の身体を前に傾ける。西の足に力が掛かり、アクセルを踏む。私は扉を閉め、遠目にその車を見る。
西の体重が完全に足にかかったらしく、車は勢い良く海に飛び込んだ。