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春の赤 と 冬の白銀  作者: よづは
15/26

声を落とした語り部は読み上げなかった結末に気づく




 朝登校してきた春樹は、鞄の中から大量の手紙を取り出した。

 今朝、郵便受の中に入っていた物だと言う。それは全て真っ白で、何も書いていない封筒と便箋に書かれていた。

 静かな、いや無機質な文字で何枚も、何枚も


『誰かは解るだろう』 『春樹は心配ない』 『何処に居ても、春樹は安全だ』 『西には頼れない』 『西 泰祐は危険だ。』 『まだ逃げようとするのか』 『何の問題もない』


 まるで、春樹の行動全てを見ているようなそんな手紙だった。

 俺は、春樹に昨日の夜の行動を聞いた。


 帰ってきたときに一通あった手紙に不安を覚え、街に出かけた。そして、泰祐を捜したのだと言う。だが、泰祐の目撃証言を追っていたが誰一人として似た人間すらも見つからなかった。だから、出来るだけ遠くへと足を運んだのだという。

 手紙はまるで春樹の家の直ぐ近くにいながらも春樹の行動を全て把握しているような、そんな文面だった。


 俺は、春樹に警察に通報しろと言ったが昨日のように警察を拒んだ。



 俺は春樹が何故警察を拒むのかを知っている。

 俺も、『あの日』には春樹の――、泰祐の側に居たのだから。


 春樹は警察に深く聞かれた。全て、死んだ『女』の事も―――。


 そしてその所為で、春樹は警察を拒むようになっていた。

 俺はその時、初めて春樹の『母親』を眼にした。

 決して『人』だったとは言えない姿だったが、原型をとどめていた頭部と腕を見た。

 俺は、あの姿を忘れる事が出来ない。いや、あの姿を一目見て忘れられる存在とは、一体どんな存在なのだろうか。あの、異様な色彩――、『肌色』を――……。


 春樹は、自分が何故警察を拒むのかを分かっていないようだった。『あの日』の一番の『当事者』であり、『あの日』の記憶の一番の『被害者』であるというのに。


 

 春樹が何時まで経っても警察に関ろうとする様子が無い事に俺は溜息をついた。そして、昨日の提案を実行する事にした。


「春樹、今日俺が犯人を突き止めてやる。」

 俺の言葉に春樹は少し疑問を覚えたようだ。俺の申し出を受け入れない。くっ、流石に賢い。

 つまり、遠まわしに『家に行かせろ』と言っているのだ。昨日はさり気無く付いていって家へ行こうと思ったのに気付かれて返された。

 春樹はその提案の裏に気付いたようで少し胡散臭いような顔をしたが少しは不安なのか、静かにうなずいた。俺は、早速携帯で家に連絡をして今日は帰らないことを伝えた。






 そして放課後、春樹と共に下校している。春樹は調子を取り戻しているが、教師の方が気遣ってまだ部活をすることは出来ないようだった。その上、春樹に寄り添っていた西が何故か登校していないことに教師は焦りを感じているのだろう。西は、こんな状況の春樹を一人にするような奴じゃない。それは側にいる春樹の方が良く知っているはずだ。


 春樹の家は泰祐の家の三階上、しかもちょうど上に位置する部屋だった。


(こんなに近かったのか)

 意外な事実に俺は感心していると、春樹はさっさと奥の部屋に進んでしまった。その部屋は泰祐の家では寝室になっている部屋だった。恐らく春樹も同じなのだろう。寝室であるであろうために、入り難かったが、付いて行く以外にすることが無かった。

 春樹の寝室はとてもシンプルな物だった。特に飾りッ気の無いベッドとクローゼットだけの部屋。春樹はそれだけの方が安心するのだろうか。

 俺は部屋を見回し、春樹が着替え終わるのを待っていた。春樹は俺が泊まるつもりなのを知っているので自分の私服を適当に見積って俺に投げ渡す。

 春樹は、それだけするとここで着替えろと言って一度寝室から出て行った。


 寝室で投げ渡させた服に着替えると春樹を待つ。クローゼットには特に何も無い事がついさっき解った。だが、この部屋の奥。泰祐の家では『勉強部屋』に偽装した『思い出部屋』のある部分には、一体何があるのだろうか。

 俺は、好奇心にかられその部屋のドアノブを回す。


キィ…、


 扉はあっさりと開いた。


 中は真っ暗で、眼が慣れるまで暫く掛かった。


 中は―――、


 写真だった。


 泰祐も確かに写真を大量にこの部屋に置いていたが、それはアルバムだった。だが、この部屋には写真が壁に無数に貼り付けられていたのだ。


「これ……」


 そこに写っているのは、全て女だった。それもかなり美女ばかりだ。しかも写真は極最近の物もあり、そこに写っている女は全て、彼氏と共に居るような表情をしていた。


「女遊びが過ぎると聞いていたけど……本当だったのか…」

 俺はその事実に少しは驚いたが、納得できる条件は、既に知っていたのだから直ぐに落ち着いた。だが、机の上を見たときには驚愕した―――。


「『橘』―――、『弥生』。」

 そう名前の書かれた物がそこには置かれていた。きっと橘の私物なのだろう。だが、その物は今『事実』とされているもの『真実』となるものだった。


 机の上に置かれている無数の写真立てには、全て『弥生』が写っていた。

 『橘 弥生』。全てが『橘』だった。



「………」

 俺は、写真立てには大して興味を引かれなかった。だが、机の引き出しにちらりと見えるものには、やはり驚いた。



「そうか――――、」


 俺は『真実』を掴んでいた。


 だけど、まだ『真実』の一角に過ぎなかった。




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