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春の赤 と 冬の白銀  作者: よづは
13/26

役者の退場の戸惑う彼は何処かに向かう





 何時まで経っても、西が私の待つベンチに帰ってくることが無かった。



 西は―――、行方不明になっていた。


 三度目のショックは、私を冷静にさせた。

 同格の絶望が、何度もやってきた。一度目は、冷静な思考を。二度目は言葉を失った。だが、三度目の絶望はその二つを取り戻させた。

 私は、かなり冷静だった。


 それは、西が死んだとハッキリは言えないからなのか。それともやはりショックだからなのか。


 ともかく、私は元に戻った。




 あの日、西を。私をベンチに座らせ、何処かへ駆け出した西を待っていたが何時まで経っても帰ってこなかった。結局使わなかった傘を返そうと思っていたのに。

 仕方なく、家に帰るとまた手紙が入っていた。


 差出人は無く、中には無機質な文字。


『西 泰祐は帰ってこない。』


 私は、それに絶望した―――。


 西が帰ってこないと言う。その文面にではない。その文の意味は恐らく『二度と帰ってこない』と言うことなのだろうが、そちらではなく。


 完全に、男――…中谷ナカタニ 冬哉トウヤに読まれているという事実に。


 私は絶望したのだ。




 私はせめて今の状況を少しでも変えるために、自分の家に帰る事にした。たった数日、帰ってないだけだったがどうなっているのか気になってしまう。

 小まめに掃除などをしていたのでそれほどまでに酷くは無いと思うのだが……


 私は扉の鍵を開け、中に入る。

 何時も吸っていた部屋の空気よりも少し埃っぽい。だが、それほどまで酷くは無い。


 奥へ進み、一度洗濯機を見る。


 洗濯機の中には何一つ無かった。


 西の事だ。洗濯をしていると思ったのだが。

 私は、辺りを見回しキッチンへ入った。そこのゴミ箱に――――、目当ての物は在った。


 真っ赤に染まっていただろう制服。時間が経って、黒っぽくなった血と肉の跡……。これを見て、西は着れないと思ったのだろう、それか私を思ってか――…。



「………まあ良いか。」

 どちらにしても、私はこの制服を着るつもりは無かった。ただ捜していたと言うだけで。制服をそのままに、私は寝室へと向かう。今着ている制服を脱ぎ、私服に着替える。


 ふと、寝室の奥の扉に目をやる。西の場合、『勉強部屋』になっている部屋だ。私はその部屋の扉を開き、中に入る。

 そこには、写真が多くあった。全て、女の。【恋人】の写真だった。

 私は、色々な女と付き合っていた。何をしたいのか、それは私自身も分からなかった。だからなのか、その行為に果ては無かった。そんな時に、『彼女』に出会った。

 ふわりと、優しく微笑む。人を気遣う、可愛らしい弥生。本物の、無償の愛を与えてくれる。存在……


 そんな弥生が側に居ても、私は止められなかった。ただ、かなりマシになっていただけで……。この事を西は知らない。私に異常なほど気をかける西ですら私は欺いていた。

 このことを、弥生は知っていたが、目を瞑っていた。そして――石川が私に執着を見せたのもこれの所為だった。

 

 夜に適当に出会った女を口説き落とし、遊んで捨てる。そのための金はやけに私に執着し、異様な家庭教師代金を払う西からのものだった。たった一日だけの関係。なのに、石川は同じ学校で弥生と親友だった。


 石川は弥生と違って本気ではなかった。だが、石川は私に異常な執着を見せた。きっと、石川は夜のあの環境に慣れてなかったのだ。でなければ、これほどまでに執着はしなかっただろう。

 たったの一夜、相手にしただけで居なくなるのは良くあるのだ。夜の街では――。



 私は思考の泥沼に嵌りかけていた。だが、手に当たった机の上のものを見て意識がそちらに向く。

 それは、弥生のもの。弥生の、大切な物……。


 写真立てに飾られているのは、嬉しそうに微笑う弥生の姿。この部屋の中に数多ある写真立てには全て、『弥生』が写っている。



「『弥生』―――――。」



 私は『弥生』の写真を抱きしめてから、部屋から出る。灯りをつけなかった部屋は暗く、写真に写る人の肌は黒く見えた。




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