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春の赤 と 冬の白銀  作者: よづは
12/26

演じきられた即興に彼は微笑み照明を落とした




 春樹と同じマンションで俺が暮らせているのは、実は両親の手回しのおかげだった。

 春樹が『あの日』天涯孤独、孤児になった時、引き取ると率先したのは祖母、その意見に賛成したのは母だった。


 母は特に困る事もないと言い、父を説得していた。祖母は可哀想だと思い引き取ったが、その時俺は初めて泣いた。


 嬉しかったわけではなく、怒られたのだ。


 祖母が着替えさせようとした時に春樹が異様に嫌がるのを奇妙に思い、父親に協力してもらい服を脱がせたその後だった。



 ミツカッタ


 母親に思いっきり頬をぶたれた。春樹の時よりは、痛くなかった。

「どうして、何にも言わなかったっ!」

 虐待を、俺が知っている。そして何も言わなかった。そんな事、服を脱がせられた春樹が俺に泣きつき、それを俺が庇った時点で気付かれた。それでも、俺は頑として白状しなかった。


 『春樹が母親と引き離されると思った』なんて、言ったら更に怒られると思ったからだ。


 その事は、一言たりとも両親には言っていなかった。



 # # # #



 ビルとビルの間。路地から、男が出てきた。その男の異様な髪色に慄く者も居たが、腕に抱えている男を見て誰も怪しい人間だとは思わなかった。


 男の腕の中には安らかに眠る男、その男に自分の黒い上着をかけて抱えている姿は【友を気遣う優しい男】とも映ったことだろう。

 だが、その抱えられた男は生きておらず【死体を運ぶ男】とも見えただろう。


 異様な色彩、『赤』い髪と白い肌。そして闇のような衣服を纏った男が、道を行く。


 その抱えられた男を心配したのか、通りすがりの一人の女が赤い髪の男に声をかける。

「その人……どうしたんですか?」

 その言葉に、男は小さく微笑み。答える。


「貧血だそうです。大丈夫ですよ。」

 その言葉に、戸惑いがちに女は納得する。

 女の様子に、『赤』い髪の男は会釈をするとさっさと歩いていった。



 抱えられた男。西ニシ 泰祐タイスケは、この時を最後に二度と親しい者の前に姿を見せなかった。





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