新たなる伝説
一つ星や二つ星の下級冒険者でも受けられ、比較的安全な依頼。
そんなものの中に「警邏」というものがある。
王都では憲兵が、大都市では騎士団が犯罪を取り締まるのだが、
騎士が「団」と呼べるほどいない中堅規模以下の町などでは、
兵士だけでなく冒険者へも町中の見回り業務を一部任せている。
町の中ゆえ、害獣や魔獣が相手となる事はまずない。
現在の王国では、大きめの犯罪はかなり珍しくなっているが、
犯罪が全くないという訳でもなく、未だに必要な依頼であった。
犯罪者が相手の為、戦闘の素人ではどうしても不安がぬぐえない。
下級冒険者達にはうってつけの仕事と言えるだろう。
◆
「今回の同行者は君達か。『閃光の伝説』代表のアルバトロスだ。
まあ、我々が参加しているので、安心してくれたまえ」
自信満々に握手を求めてきた五人組。一つ星である。
握手を返したのは「鋼の息吹」の六人組。こちらは二つ星。
「よろしく頼む。『鋼の息吹』代表のアッセーロだ」
「鋼の息吹」に最近加入し、めでたく自分も二つ星になったドンは、
随分自信満々な一つ星もいるんだなとその様子を見ていた。
まあ、こちら側は全員武器こそ違うが戦士と斥候である。
向こうの「閃光の伝説」は魔術師らしい女性も混ざっている。
魔術師や治癒術師は冒険者達の中でも少数で貴重だと聞くし、
星の数が実力の全てを語る訳でもないだろう。
見習いからいきなり三つ星に上がり、現在六つ星の人もいると聞く。
彼らだって運に恵まれなくて一つ星なだけかもしれない。
自分もこの前まで一つ星だったんだ。偏見は捨てておこう。
その時のドンは素直にそう思っていた。
◆
さすがに合計十一名で同じ道を巡回するのは非効率的であり、
「閃光の伝説」は北方面、「鋼の息吹」は南方面で分担する事に。
冒険者組合の建物の建物を出て、二組はそれぞれに散った。
別れてからしばらく進んでいくと、アッセーロが口を開く。
「何も起こらないといいんだが」
どういう事だろう?見れば彼の表情もあまり良くない。
ドンがこの町に来たのは今回初めてだが、治安が悪いのだろうか?
「えっと、この町ってあまり安全じゃないんですか?」
問題点があるなら共有しておかないと。そう考えてドンが尋ねる。
アッセーロはどう言ったらいいのか考えているようだったが、
黙っている訳にもいかんだろうと理由を口にした。
「三つ星の先輩冒険者から聞いていたんだけどね。
悪気はないけど責任感もない冒険者の一行がいるぞ、って。
まさか彼らと今回一緒に仕事する事になってしまうとは」
巡回路に気を配りつつ、アッセーロが話を続ける。
冒険者の規則上、基本的に依頼主の情報には守秘義務が生じる。
犯罪がらみなどは別として、秘密を軽々しくばらすような者は、
冒険者でなかろうとも信頼などされる訳がないからだ。
だが、冒険者自身となれば別である。情報はある程度公開される。
この冒険者はどんな事が出来るか、どんな事が不得手なのか。
将来一緒に依頼を遂行するかもしれないのだ。知らないと困る。
なんでも、そのラウレールという冒険者は彼らに同行したのだが、
突然現れた敵へ後先考えず突っ込んで行き、秩序も何もなかったと。
敵への攻撃は当たらない、むしろ味方へ攻撃が当たりそうになる、
挙句自分達を含めて範囲攻撃魔術を放ち、敵も味方も全て倒したと。
ラウレールが指示を飛ばす間もなかったらしい。
まあ、指示出来たところで従ったかは疑わしい。
死人が出なかったのが不思議だとも。
「閃光の伝説」に関しては他の冒険者達に情報の裏取りもしたが、
似たような「伝説」の数々が語られるだけだった。
一様に「仕事を理解していない」「後先など考えない」と。
最初聞いていた話では、王立中央学院で技術を収めたとの事だが、
聞き流していて身に付いていなかったのではないか?という惨状。
町中なので範囲攻撃魔術など使わないと思いたい。さすがに。
◆
「鋼の息吹」担当の南方面の巡回は特に何事もなく終わった。
しかしまだ「閃光の伝説」が一人も戻って来ていない。
何かしら問題があれば、誰か連絡に戻る手はずだったのだが。
今はもう日が落ちている。
巡回の分担については特に冒険者組合へ連絡などしていない。
冒険者の裁量に任されているからだが、それが裏目に出た形だ。
ここで「鋼の息吹」が依頼未完の連帯責任を取らされても困る。
北方面へ向かおうかと相談していると、ようやく戻ってきた。
…なぜか全体的に装備が薄汚れている。きれいに磨かれていたのに。
「おや、そちらはもう完了していたのか。
こちらも先程完了したところだ。お互いご苦労だった」
何故か上から目線でアルバトロスだったか、が話し出した。
それほど広い町でもないのに、一体何があったのだろうか。
「ああ、お疲れさまだ。しかし君達一行は何かあったのか?
言っては何だが、それほど広い範囲でもなかったはずだ」
アッセーロは相談していた疑問を口にする。
ドン達も当然聞きたい。まさか問題を起こしたりはしていないか。
「実は迷子になっていてだな」
…は?迷子ってなんだ?
「道なりに進んで行ったのだが、段々と緑が濃くなっていったのだ。
どうやら町を出ていたらしい。気づいたので引き返してきた」
それは、町の巡回を碌にしていないという事ではなかろうか。
確かにこの町は、大都市や主要都市と異なり、城壁が存在しない。
田園地帯が広がり、低い柵で囲まれているだけだ。
しかし、彼らにも地図が渡されているはずなのだが。なぜ迷子。
この日「鋼の息吹」は初めて依頼を遂行出来なかった。
正確には、日を跨いでしまった。
「閃光の伝説」が行わなかった北方面の巡回を改めてやり直し、
冒険者組合へ完了報告したのは深夜。受付も呆れていた。
「閃光の伝説」も文句を言いながらだが、一応は付いてきた。
巡回者の護衛、というかお守なんて前代未聞だろう。
肉体よりも精神疲労がある。それもかなりの。
ドンは今夜「星なんて当てにならない」と別の意味で痛感した。
「閃光の伝説」代表、ようやく名前が思いついた。
彼らの活躍?は「勘違い平行線」より始まっております。




