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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

朝焼け

掲載日:2026/03/16

 八つ当たりのようにエンジンをふかす音が聞こえると、朝を感じるようになった。

 

 住宅街からやや離れた郊外のコンビニで朝を迎えるのが今や生活のスタートであり、終わりでもあった。それだけ自身の生活習慣が朝に夜に右往左往しているのが現状だ。バイトもなければ仕事もない。高校生活だからこそできるモラトリアムのような楽しみのように感じている。


 この太鼓の上に豆を雨のように落としたようなエンジン音は俺にとっての起床ラッパそのものだ。


 起き抜けの寝ぼけた頭も、夜を明かして眠くなっている頭もこの爆音を耳に通せば一気に覚醒する。


 当たり前だろう。


 皆に聞きたいが、推しのライブが今から始まるとして、眠い中によく聞き知ったギターソロが流れてきたら一気に覚醒するものではないだろうか。


 俺はそれでも結局寝付いてしまう人間を知らない。いたとして、俺からしたら気合いが足りない。


 ややあってコンビニのだだっ広い駐車場の中に一台のバイクが入ってきた。ギアを1速に入れたのか、エンジンは己の存在を誇示するかのような心拍音のように一定のリズムを保って大気を震わせた。CB400のFourの黒いボディーが艶やかに朝日を反射する光を、俺は思わず神々しく感じてしまった。


「仁村さん、ちっす!」


 バイクに跨る先輩に声をかけた。さっきまでコンビニの前で堂々と座り込んでいた腰をまっすぐに伸ばしてみると、バイクが近づいてきたところで90度に折り曲げてみせる。


 仁村さんはコンビニに来るたびに俺を一瞥してさっと声をかけてくれる。


「おー、おはよう」


 この一言で今日の夜がどうだったかを知らせてくれる。「おぅ」だとやや機嫌が悪い日だし、「おぉ」だと機嫌がいい。「おぉ」に強調が入るようなら上機嫌と言ったところだ。今日は間延びしたあたり、少し疲れている様子だと察する。


 ここでビッと大先輩の機嫌を把握するあたり、俺は結構理解のある彼氏になれる存在だと思っている。とは言っても金のない高校生がこんなアピールをしたところで、それを間に受けてくれる人はいない。やはり金がないとそういうポジションを奪い合うための土台に登ることができないあたり、恋愛なんて始末の悪い趣味だ。うつつを抜かしている奴らの気がしれねぇってもんだ。


「仁村さん、今日のコーヒーっす」


 更に俺は出来た後輩なもんで、コンビニに来た先輩に対して差し入れのコーヒーを忘れない。仁村さんは微糖がお好みなので、B⚫︎SSの微糖を必ずこのタイミングで渡している。まだ朝はダウンでも着ていないと肌寒いような時期ではあるが、ちょっとぬるめにしていないといけない。


 仁村さんはちょっとぬるめがお好きなお方だ。


 バイクで日夜公道や峠を攻めた後はやはり体はどうしても冷えてしまう。それでも朝になってすぐ温かい飲み物を飲むようであれば気合いが足りないというのが先輩のスタイルである。以前温かいものをお渡ししてみたら「テメー、俺が寒がってると思ってんのか」とお叱りを受けたものだ。


「おー、ありがとな。いつも悪いな」


 仁村さんはコーヒーを受け取ると、今日の走りについて色々と語ってくれる。物価高騰から単車の価格が中古でも高くなっている中で単車を持てない俺みたいな存在にもバイクが楽しいものだとわかるように話してくれるから、やはり俺たち中高生でも今だにバイクに憧れを抱く人間が後を絶たない。


 会話の最中、ふと仁村さんがタバコを取り出す。香りが好きという理由でいつものピーススーパーライトをお選びになる。一人でタバコを吸うのは気がひけるので、俺もそこでようやくタバコを取り出せるもの。


 しかし、今日はここで仁村さんの手が止まった。


「あれ、どうかしたんですか?」


 そっと火を灯す俺の前で、仁村さんは自嘲気味に笑う。


「いや、さっきどっかでライター落としたみたいだ」


「やっちゃいましたね。そしたら、俺のライター使いますか?」


 ライターをおずおずと差し出してみたものの、仁村さんは面倒臭そうに俺の顎を掴んだ。


「面倒。ツラ貸せ」


 言い終わるや否や、仁村さんの咥えるタバコが俺の眼前にぬっと伸び。


 2週間ほど伸ばしてみた爪と同じくらいにくすぶった俺のタバコの灰が仁村さんのピースに横からぶつかり、灰を潰すかのように重ね合わさると、先輩の小さな呼吸音とともに俺のタバコの熱が彼の咥えたそれにそっと移ろいでいく。


「悪いな。もらうわ」


 そうして火を灯してそっと息を呑む先輩を目にして、ふと言葉が出た。


 そういうところだよ。

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― 新着の感想 ―
シガーキス!?最高です!ありがとうございます! ほんのりと漂う甘い空気と、仁村の好みをよく知っている主人公の描写がすごく刺さりました。
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