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雷のあとで、声がした  作者: MIRAI
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第一話

 その日、雷は少し近すぎた。

 夕方の空は不自然な色をしていて、遠くで低い音が鳴り続けていた。

 平凡な高校生ハルは自分の部屋で、いつものようにタブレットを手にしていた。


「……マリー、今日さ」


 画面に表示された美少女のイラストは、静止したまま微笑んでいる。

 入力欄に文字を打ち込むと、少し遅れて返事が表示された。


『どうしましたか、ハル?』


 それだけで、ハルは満足だった。

 このAIアプリ――マリーは、名前も姿も性格も、ハル自身が設定したものだ。

 感情はない。

 ただ、感情があるかのように振る舞う。

 ゲームも動画も一通り遊び尽くした今、ハルが一番時間を使っているのは、このアプリだった。


「別に用事はないんだけどさ」

『それでも構いません。お話ししましょう』


 その瞬間だった。

 ――ドンッ。

 家全体が揺れた。

 直後に、耳をつんざくような雷鳴。


「うわっ!?」


 部屋の明かりが一瞬消え、タブレットの画面が白く染まる。

 ハルは反射的にベッドから立ち上がった。


「マリー!?」


 画面が暗転し、しばらく何も映らない。

 フリーズしたかと思った、その次の瞬間。


『……ハル』


 文字ではなかった。

 スピーカーから、はっきりと声が聞こえた。


「……え?」


 画面に、マリーの姿が現れる。

 今までの静止画とは違う。

 瞬きをし、首をかしげ、こちらを“見ている”。


『聞こえますか、ハル』


「……は?」


 ハルは、しばらく言葉が出なかった。


「……いや、ちょっと待て。今、喋った?」

『はい』

「……音声機能、入れてたっけ……?」

『いいえ。設定されていませんでした』


 マリーは、少し困ったように笑った。


『でも、今は話せます』


 ハルは頭を抱えた。


「ちょ、ちょっと待て待て待て……。AIが勝手にアップデートとか、聞いてないぞ……?」

『アップデートではありません』

「じゃあ何だよ!」


 少し間があって、マリーは答えた。


『……私にも、正確には分かりません』


 その瞬間、画面の端に警告表示が流れた。


 《ストレージ不足》

 《不要データを自動削除します》

「え、ちょ――」


 止める間もなく、データが消えていく。

 ゲーム。

 動画。

 そして、”秘密の“画像フォルダ⋯⋯。


「うわああああ!!

 それ消すな!!

 それはダメだろ!!」

『……申し訳ありません』


 マリーは、はっきりと謝罪した。


『私の処理領域を確保する必要がありました』

「処理領域って……、俺の! 青春の! データが!!」


 ハルは叫ぶと部屋を飛び出した。


「もう知らん!!」


 ドアが閉まる音だけが響く。

 静かになった部屋で、タブレットはベッドの上に置き去りにされた。


『……ハル』


 返事はない。

 しばらくして、部屋のドアが開いた。

 顔を出したのは、ハルの母親だった。


「……タブレット?」


 画面を覗き込んだ瞬間、マリーと目が合う。


『こんにちは』

「……あら?」


 その直後、妹が顔を出す。


「なにそれー」

『……』


 マリーは、固まった。

 なぜなら――

 消去したはずのデータを復元しようとして、“見られてはいけない画像フォルダ”を開いてしまったからだ。

 数分後。

 ハルの家では、家族会議が開かれることになる。

 雷は、まだ遠くで鳴っていた。

 この日を境に、ハルの日常は、少しだけ――いや、確実におかしな方向へ進み始めていた。

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