8 ちょっと背伸びしたってね。
その依頼を見たとき、
正直に言えば、少しだけ迷った。
「……これ、
いつもより上ですよね」
掲示板の前で、
ミオが言うと、リナは横から覗き込む。
「うん。
ランク一つ上」
「危なくないですか?」
「一人なら止める」
即答だった。
「二人なら?」
「様子見ながらなら、あり」
その言い方が、
妙に現実的だった。
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依頼内容は、
街道から外れた林の調査と、
出没している魔物の間引き。
数が少し多い。
動きも、少しだけ素早い。
「無理そうなら、
引くからね」
「分かってます」
装備を確認して、
二人で林に入る。
空気が、
いつもより静かだった。
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最初の接触は、
思ったより早かった。
「……来るよ」
リナの声が低くなる。
魔物は三体。
いつもより、
一体多い。
「ミオ、
右見て」
「はい」
言われた通りに動く。
体が、
ちゃんとついてくる。
考える前に、
足が出る。
(……意外と、
できる)
自分でそう思う余裕が、
少しだけあった。
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一体目を倒し、
二体目を牽制。
三体目が、
一瞬だけ距離を詰めてきた。
「っ——」
リナが、
一歩前に出る。
「下がって!」
言われる前に、
もう下がっていた。
剣が交差して、
魔物が倒れる。
息を整える。
怪我はない。
「……大丈夫?」
「はい」
声が、
ちゃんと出る。
⸻
残りは、
思ったよりあっさりだった。
「よし、
ここまでにしよ」
リナが言う。
「深追いしない」
「……もう少し行けそうですけど」
「行けるときほど、
やめとく」
そう言われて、
納得する。
この町のやり方だ。
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帰り道、
二人並んで歩く。
「どうだった?」
「……ちょっと、
緊張しました」
「でしょ」
リナは笑う。
「でも、
ちゃんと動けてた」
「そうですか?」
「うん。
無理してない感じが良かった」
褒められているのか、
評価されているのか。
たぶん、両方だ。
⸻
ギルドに戻ると、
セラが書類を受け取る。
「今回は、
少し難度が高めでしたね」
「はい。
でも、問題ありませんでした」
「……そうですか」
セラは一度だけ、
二人を見る。
「お疲れさまでした」
それだけ。
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外に出ると、
夕方の空だった。
「ね」
リナが言う。
「今日の依頼さ」
「はい」
「背伸び、
ギリギリだったね」
「……そうですね」
「でも、
悪くなかった」
その評価が、
ちょうどよかった。
大げさじゃない。
軽すぎない。
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宿に戻る途中、
ミオは思う。
いつもより危なくて、
いつもより疲れて。
それでも、
詰む感じはなかった。
(……まあ、
たまにはいいか)
少しだけ背伸びして、
ちゃんと戻ってくる。
この町では、
それで十分らしい。




