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6 この町で、暮らすということ。

朝は、思ったより静かだった。


宿の廊下を歩く足音と、

どこかで聞こえる食器の音。


窓を開けると、

市場のほうから人の声が流れてくる。


(……今日も、普通だ)


それが、少し安心する。



洗濯は宿の裏庭でする。


桶に水を張って、

服を浸して、

絞る。


単純な作業だけど、

手を動かしていると頭が空っぽになる。


隣では、

別の宿泊客が同じことをしていた。


「冒険者さん?」


声をかけられて、

少し驚く。


「はい。まだ新人ですけど」


「そう。

 怪我しないようにね」


それだけ言って、

干した布を揺らして去っていった。


(……距離感、ちょうどいい)


踏み込まれない。

でも、冷たくもない。



洗濯が終わったあとは、市場へ向かう。


道は覚え始めたけど、

まだ全部は分からない。


それでも、

迷うほどでもない。


「ミオ」


呼ばれて振り向くと、

昨日も見た八百屋の人だった。


「今日はリンゴ安いよ」


「じゃあ、二つください」


会話はそれだけ。


名前を覚えられているのが、

少し不思議で、少し嬉しい。



市場は、賑やかすぎない。


売り声が飛び交っているけど、

怒鳴るような声はない。


「この町、長いんですか?」


魚屋のおじさんに聞いてみる。


「もう二十年だな」


「長いですね」


「長いけど、

 変わらないからな」


そう言って笑った。


変わらない。


それは、

良いことなのか、

そうでもないのか。


今はまだ、

考えなくていい気がした。



昼前、ギルドの前を通ると、

セラが外に出てきたところだった。


「あ、ミオさん」


「おはようございます」


「今日は依頼、受けますか?」


「いえ、今日は休みにしようかと」


「そうですか。

 それも大事ですね」


業務連絡みたいな会話。


それなのに、

きちんと“顔見知り”として話している感じがする。


(……こういうの、悪くない)



昼は、

適当にパンとスープで済ませる。


宿に戻って、

ベッドに腰掛ける。


何かをしなきゃ、という焦りはない。


強くならなきゃ、

目立たなきゃ、

何かを成し遂げなきゃ――


そういう圧力が、

この町にはあまりない。


(……向いてるかも)


ぼんやり、そう思う。



夕方、

ギルド前でリナとすれ違った。


「あれ、今日は休み?」


「はい。

 洗濯と買い物だけです」


「いいね。

 そういう日も必要」


リナは笑って、

手を振る。


それだけ。


予定を詰められることも、

無理に誘われることもない。



夜。


宿の部屋で、

今日一日を思い返す。


特別なことは、何もない。


怪我もしていない。

誰とも揉めていない。

困ることもなかった。


(……ちゃんと、

 暮らしてるな)


転生してきた実感より、

生活している感覚のほうが強い。


「悪くない」


そう呟いて、

灯りを落とす。


この町での暮らしは、

だいたい、こんな感じだ。

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