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5 この国ってさ、どうなの?

酒場は、相変わらずほどほどに賑わっていた。


騒ぎすぎず、

静かすぎず。


「今日は奢るよ」


リナがそう言って、

先に席に着く。


「え、大丈夫ですか?」


「いいのいいの。

 今日は依頼楽だったし」


断る理由もなかったので、

素直に受け取ることにした。




料理を待つ間、

自然と話はこの街のことになる。


「この辺り、

 冒険者的にはどうなんですか?」


「うーん……

 稼げるってほどじゃないけど、

 死ににくい」


即答だった。


「危険な魔物は少ないし、

 街道も整ってる。

 討伐も、だいたい想定内」


「想定内、ですか」


「そう。

 想定外が起きにくい」


その言い方が、

妙に現実的だった。




「国としてはどうなんですか?」


「普通だよ」


リナは肩をすくめる。


「戦争も今はないし、

 税も高すぎない。

 貴族はいるけど、

 前に出てくることも少ない」


「平和ですね」


「平和。

 だから冒険者が食えてる」


なるほど、と頷く。


危機がないからこそ、

仕事が安定している。




酒が来て、

軽く乾杯する。


「王都とかは、

 もっと賑やかなんですか?」


「そりゃね。

 人も金も集まるし」


「じゃあ、

 いつか行くことも?」


「うーん、

 行きたい人は行くし、

 行かない人は一生来ない」


リナは笑う。


「この街で一生過ごす人も、

 普通にいるよ」


それを聞いて、

少し安心した。


(……急いで

 何かしなくてもいいんだ)




料理を食べながら、

他愛ない話を続ける。


依頼の失敗談。

新人の頃の話。

変な客の愚痴。


特別な情報はない。

でも、この世界が

「どう回っているか」は分かる。


大きな波はなく、

小さな日常が積み重なっている。




店を出る頃、

外はすっかり暗くなっていた。


「ミオはさ」


リナが、歩きながら言う。


「こういうとこ、

 向いてると思うよ」


「……冒険者、ですか?」


「そう。

 無理しない感じ」


褒め言葉かどうかは分からないけど、

悪くはなかった。




――その日、

ギルドの受付では。


セラが、一日の帳簿を整理していた。


依頼件数。

達成率。

怪我人の数。


今日も、特に問題はない。


「……」


新しく追加された名前に、

目が止まる。


ミオ。


数日前に登録した新人。


依頼の選び方も、

報告の仕方も、

すべて無難。


目立たない。

問題も起こさない。


(……やりやすい人)


セラはそう評価した。




特筆すべき点はない。


危険な依頼を受けていない。

トラブルもない。


記録上は、

ただの新人冒険者だ。


帳簿を閉じる。


「明日も、

 いつも通りですね」


誰に言うでもなく、

そう呟いた。




宿へ戻る道で、

私は空を見上げる。


星は多く、

風は穏やか。


この街も、

この国も。


だいたい、こんな感じで回っている。

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