4 悪くない日常、ってね。
冒険者としての生活は、
思ったよりも単調だった。
依頼を受けて、
準備をして、
片付けて、報告する。
それを何度か繰り返す。
危険な仕事は、まだ回ってこない。
大体が街道の見回りか、
弱い魔物の討伐。
「新人はこんなもんだよ」
リナが言っていた通りだった。
数日が経って、
顔を覚えられるようになった。
「ミオ、今日はどうする?」
「この依頼、一緒に行く?」
声をかけられる回数が増える。
特別扱い、というほどではない。
ただ、自然に輪の中に入っている感じ。
(……居心地、いいな)
仕事終わりに酒場へ寄ることもあった。
一杯だけ飲んで、
他愛ない話をして、解散。
深い話はしない。
踏み込まれもしない。
それがちょうどいい。
受付のセラも、
私の顔を見ると軽く会釈してくれる。
「お疲れさまです、ミオさん」
それだけで、
今日の仕事が終わった気がする。
(……ちゃんと、生活してる)
転生した実感より、
日々が回っている感覚のほうが強かった。
ある日の夕方、
ギルドの片隅でリナと並んで報告書を書いていた。
「ミオさ」
「はい?」
「もう、だいぶ慣れたでしょ」
「……そうかもしれません」
「でしょ。
最初から落ち着いてたもんね」
そう言って、
リナは紙にペンを走らせる。
(そう見えるんだ)
自分ではよく分からない。
ただ、
慌てる理由がなかっただけだ。
――その頃。
リナは、内心でぼんやり考えていた。
(ミオ、やっぱ感じいいよな)
出しゃばらないし、
変に張り切らない。
新人にありがちな空回りがない。
(……運もいいし)
危ない場面を、
いつも少し手前で抜けている。
偶然、で済む程度だけど。
「持ってるタイプかな」
そういう人は、たまにいる。
特別じゃない。
でも、一緒に仕事しやすい。
それくらいの評価だった。
書類を提出して、
外に出る。
空はすっかり暗くなっていた。
「じゃ、また明日」
「はい。お疲れさまでした」
別れ際、
リナがふと思い出したように言う。
「無理しないでね」
「……はい」
その言葉を、
深く考えることもなく受け取る。
宿への帰り道、
今日一日を振り返る。
依頼は無事終わった。
怪我もない。
人間関係も、特に問題ない。
(……やっぱり)
悪くない。
「運、いいな」
それくらいで済む話だと思った。
少なくとも、今は。




