19 拝啓、みんなへ。
街道を少し外れたところに、
小さな墓地があった。
派遣先へ向かう道から、
ほんの少しだけ外れた場所。
「……ちょっと寄りたいところあるんだけど」
フィアがそう言ったのは、
昼前だった。
声は落ち着いている。
無理に明るくもしていない。
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「いいよ」
リナが即答する。
「遠くない?」
「うん。すぐそこ」
ミオも、何も聞かずに頷いた。
理由を聞く必要はない。
今は、そういうタイミングじゃない。
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墓地は、静かだった。
風が草を揺らす音と、
遠くの鳥の声だけが聞こえる。
新しい墓は少ない。
古いものが多い。
フィアは、その中の一つの前で立ち止まった。
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名前は、はっきり読める。
花はない。
でも、荒れてはいなかった。
フィアは、しばらくそのまま立っている。
手を組むわけでもなく、
跪くわけでもなく。
ただ、立っている。
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リナは、少し離れたところで待った。
ミオも同じ距離。
二人とも、
背中を向けたりはしない。
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フィアは、深く息を吸った。
胸の奥が、少しだけ重い。
でも、前ほどじゃない。
謝る言葉は、浮かばなかった。
言い訳も、
正しい説明も、
もう出てこない。
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代わりに残っているのは、
まだ続いている、
という感覚だった。
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「行くよ」
小さな声。
誰に向けたとも言えない。
「……まだ全部は終わってないけど」
言い切らない。
断定もしない。
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少しだけ間を置いて、
フィアは、墓の方を見て言った。
「……見ていてね。」
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それだけだった。
何かが解決したわけでも、
許された気がするわけでもない。
でも、
背中を向けて立ち去ることはできた。
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フィアが一歩下がる。
それを合図にしたように、
リナとミオも近づく。
「行こっか」
リナが言う。
「うん」
フィアは頷いた。
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歩き出す。
今度は、
誰も前に出ない。
三人が、自然に並ぶ。
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道に戻ると、
またいつもの景色が広がっていた。
派遣先へ続く道。
遠くは、まだ見えない。
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でも、止まらない。
振り返らない。
ただ、進む。
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フィアは、歩きながら思った。
前に出るかどうかじゃない。
一人でやるかどうかでもない。
今はただ、
見られてもいい自分で進む
それだけでいい。
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「ねえ」
リナが、軽く言う。
「この先、どうする?」
フィアは少し考えてから答えた。
「……行ってから考えよ」
「それ、珍しい」
「そう?」
「うん。でも、悪くない」
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ミオは、その会話を聞きながら歩く。
何も言わない。
ただ、
この三人なら、進めると判断した。
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墓地は、もう見えなくなった。
それでいい。
見えなくても、
見られている。
そう思えた。




