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1.1 拾われた経緯

最初に気づいたのは、

道の真ん中に人が倒れていたことだった。


行商人のマルツは、

荷車を止めて、少し考えた。


生きている。

でも、放っておけば死ぬ。


「……困ったな」


助ける理由はない。

身分証もない。

祝福紋も見えない。


面倒ごとの可能性のほうが高い。


それでも、

荷車を降りていた。


「まあ……死なせる理由もないか」


あとで思い返しても、

それ以上の理由は見つからなかった。


助けない、という選択肢が

なぜか浮かばなかった。




運んだ体は軽かった。


怪我も病気もないのに、

感触が妙に整っている。


「……変な言い方だが」


マルツは首をひねる。


「点検済み、みたいだ」


自分でも意味が分からず、

それ以上考えるのをやめた。




目を覚ました私は、

驚かなかった。


「助けてくれたんですね」


自然に、そう言えた。


記憶が曖昧だと伝えると、

村の人たちは笑った。


「珍しくない」

「頭を打ったんだろ」


それで話は終わった。


納得できてしまうことを、

誰も疑問にしなかった。




村を出る前、

マルツが聞いた。


「これからどうする?」


少し考えて、答える。


「……働けるところへ」


無難な答えだった。


無難すぎて、

この世界に綺麗に収まった。


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