10 昔話は手短にね。
その日の夜、
またリナと酒場にいた。
理由は特にない。
仕事が終わって、
流れで、という感じだ。
「今日は、
静かだね」
「平日ですから」
「そうだった」
リナは笑って、
グラスを傾ける。
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少ししてから、
リナがぽつりと言った。
「さっきの依頼さ」
「はい」
「昔の私だったら、
多分、引かなかった」
「……そうなんですか?」
「うん。
“いける”って思ったら、
そのまま突っ込んでた」
今のリナからは、
あまり想像できない。
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「結果?」
「怪我した」
即答だった。
「死にかけた、
ってほどじゃないけど」
「……」
「足、しばらく引きずったし、
仕事も減った」
リナは、
軽い口調で続ける。
「周りにも
迷惑かけた」
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「怒られたんですか?」
「いや」
リナは首を振る。
「止められなかったこと、
謝られた」
その言葉に、
少し驚く。
「謝られるんですか?」
「この町では、ね」
無茶をした本人より、
止められなかった周囲が
悔やむ。
そういう文化らしい。
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「それで、
考え変わった」
リナは、
グラスを置く。
「“できる”と
“やっていい”は
別だなって」
その言葉は、
静かだけど重かった。
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「ミオはさ」
「はい」
「たぶん、
そのへん分かってる」
「……そうですか?」
「うん。
最初から」
理由は言わない。
深掘りもしない。
ただ、
そう感じた、というだけ。
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店を出ると、
夜風が気持ちよかった。
「ありがと」
リナが言う。
「今日の話、
聞いてくれて」
「いえ。
こちらこそ」
宿へ戻る道で、
考える。
無茶をしない。
引き返す。
続けるために止まる。
この町で、
この人と組んで。
(……悪くない)
そう思えた。




