9 同じ依頼でもね
4.5話ほど連投します。申し訳ないです。
ギルドの掲示板の前で、
人が少し集まっていた。
珍しいことではない。
でも、ざわつき方がいつもと違う。
「……あの依頼だって」
誰かの声が聞こえる。
リナと顔を見合わせて、
少し近づいた。
⸻
内容は、
昨日私たちが受けたのと
ほぼ同じ依頼だった。
街道脇の林の調査。
魔物の間引き。
違いは、
受けた人たちだった。
「二人とも、
無事は無事らしいけど」
話している冒険者が続ける。
「途中で引き返したってさ」
「失敗?」
「いや、
“中断”だな」
その言葉に、
変な安心感があった。
⸻
リナが、小さく息を吐く。
「……判断、早かったんだね」
「失敗じゃないんですか?」
「この町では、
違う」
そう言って、
リナは肩をすくめた。
「無理して続けて、
怪我するほうが
よっぽど失敗」
⸻
掲示板の前で、
別の冒険者が言う。
「二人とも、
ちょっと欲張ったみたいだな」
「初めての難度上げで、
ありがちだ」
責める声は、ない。
からかう声も、
ほとんどない。
ただ、
「そういうこともある」
という空気だった。
⸻
ギルドの中で、
セラが淡々と対応している。
「中断の報告、
受け取りました」
「怪我は?」
「軽い擦り傷だけです」
「それなら問題ありません」
それで終わり。
叱責も、
長話もない。
⸻
外に出ると、
リナが言った。
「昨日、
引いたの正解だったね」
「……ですね」
「もう一歩行けたかも、
って思うところで
止める」
それが、
この町のやり方らしい。
「ミオは、
どう思った?」
少し考えてから答える。
「……引き返すって、
勇気いるなって」
リナは、
それを聞いて笑った。
「でしょ」
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宿へ戻る途中、
頭の中で整理する。
同じ依頼。
同じ危険。
結果は、
人によって違う。
でも、
どちらも“間違い”じゃない。
(……生き残るほうが、
大事)
この町の基準が、
少しだけ分かった気がした。




