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1 ご都合展開

気づいたら異世界にいた。

体は元気、仕事先もすぐ見つかり、運もやたらいい。


いわゆる“ご都合展開”だ。

ありがたいはずなのに、なぜか気持ち悪い。


転生してからというもの、世界は妙に整っていて、

選択肢は常に「ちょうどいいところ」に用意されている。


偶然にしては出来すぎている。

でも理由を考えなくても、生活は回ってしまう。


これは、都合よく生き残ってしまった一人の転生者が、

「何も起きないこと」に違和感を覚え始める物語。


気づいたら、知らない天井を見ていた。


木組みの梁。

白い漆喰。

小さな窓から差し込む朝の光。


(……ああ、これ)


たぶん、転生している。


そう思えた理由は単純で、

状況があまりにも整っていたからだ。


混乱はなかった。

叫びもしなかった。


「そういうものだ」と、

体のほうが先に納得してしまっている。


それが一番、気持ち悪い。





体は普通に動いた。

立ち上がってもふらつかないし、

どこも痛くない。


(……死んだはずなんだけど)


そう思った瞬間、

肝心の「死んだ場面」だけが

綺麗に抜け落ちていることに気づく。


怖くはない。

ただ、削られている。


必要な部分だけ、

外されたみたいに。




部屋を出ると、宿の主人らしき人がいた。


「ああ、起きたか。水はそこだ」


説明は、それだけ。


ここがどこなのか。

なぜ私がここにいるのか。


聞けば教えてくれそうだったけど、

聞かなくても困らなさそうだった。


(……親切すぎない?)


でも、誰も不審がらない。

私自身も、疑問を後回しにしている。




外は、分かりやすい街並みだった。


石畳。

低い家。

遠くの城壁。


通りがかった人たちが、

同じことを言う。


「運が良かったね」

「助かったな」

「見つけてもらえて」


全員、同じ調子。


(……本当に?)




視界の端に、文字が浮かんだ。



【状態】

生命活動:正常

重大な異常:なし



消えない。

触れない。


(……まあ、いいか)


そう思えてしまうこと自体、

やっぱりおかしい。




「仕事を探すなら、冒険者ギルドだ」


そう言われたとき、

理由は分からなかった。


でも、それが一番無難だと分かった。


金もない。

身分もない。


なのに、

詰んでいる感じがしない。


(……都合良すぎない?)




冒険者ギルドの建物は、

立派すぎず、古すぎず、

人の出入りも多い。


ちょうどいい。


全部が、ちょうどいい。


転生して、

生きていて、

次の行動先まで用意されている。


偶然にしては、出来すぎている。


正直――

気持ち悪い。


それでも、足は止まらなかった。


世界は、今日も問題なく動いている。


今のところは。


空いた時間で趣味に投稿しています。

処女作ゆえご容赦ください。

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