同期
統一歴657年 3月2日 雷曜日 5:00 聖王宮 騎士団男子寮 アレクサンダー
朝の5時。
准騎士として与えられた個室の中で、俺、アレクサンダーは目を覚ました。
ベッドから身を起こし、改めて寝室を見回す。
騎士団から賜った寝室は、トルヴェール村で過ごしていた頃よりも広い。
一昨日までは同じベッドで寝ていたイザベラ先生や妹分のクラリスの温もりがあった分、今いる部屋はとても冷たく、そして広くなった印象がある。
イザベラ先生や妹分のクラリスが居ない生活に少しだけ寂しさを覚えながらも、俺は洗面所で身だしなみを整えた。
部屋の中にある小型保冷庫を開け、中から昨日マーケットで購入した牛乳パックと粉末プロテインを取り出し、シェイカーで混ぜた後にガブ飲みする。
さぁ、イザベラ先生が課した朝のトレーニングの始まりだ。
柔軟体操、10㎞のランニング、腕立て伏せ100回、腹筋100回、スクワット100回。
一連のトレーニングを、俺は2時間で終わらせる。
イザベラ先生に育てられた日から課せられた早朝トレーニングも、5年も続けたら立派な日常だった。
運動後に再びプロテインを摂取し、シャワーを浴びて汗を流す。
洗面所の鏡に映る自分は、何処かギラついた目をしていた。
少しだけ、緊張しているのかもしれない。
「すー、はー……」
深呼吸した後、再び鏡を見る。
幾分か、穏やかになっているように見えた。
「よし、行くぞ……!」
小声でそう呟き、俺は洗面所を後にする。
身嗜みを整えて准騎士の水色の騎士服に袖を通し、騎士様が使う専用食堂に顔を出した。
上級騎士、騎士、准騎士の皆様が使われる食堂だけあって、内装はとても豪華だ。
「……おい、あれって……」
「……昨日、クラージュに選定された……」
「……『突然変異体』らしいよ……」
食事をカウンターから受け取りながら、周囲で囁かれる言葉に首筋がピリピリとして来る。
どうやら、クラージュに選定された平民の自分を、『突然変異体』という言葉で納得する騎士は皆無のようだ。
俺だって訝しんでいるんだから、赤の他人からすればさもありなん、だろう。
「はぅ……」
小さくため息を吐き出し、俺は誰も座っていない、少し離れた位置に食事を置いた。
今日からずっと、俺は『孤独』と相席しながら食事をする事になりそうだ。
そんな事を考えながら、俺はフォークを動かした。
イザベラ先生。クラリス。
今、無性に2人に会いたい。
1日にして、俺はもう故郷が恋しくなったのだろうか……。
トルヴェール村での毎日が、遠い昔のような出来事に感じる。
と、その時だった。
「失礼するよ、アレクサンダー卿♪」
そう言って、俺の対面に女騎士が腰を降ろした。
「はえ?」
まさか相席してくれる騎士が居るとは思わず、俺は呆けた声を上げてその女騎士を見つめた。
波打つ黒髪をボブカットにした髪型に、澄んだ琥珀色の瞳を持つ双眸。
日に焼けた小麦色の肌を持つ、健康的な美貌。
細く引き締まった体躯に、隙無く騎士服を着こなす美しい身体。
俺の眼には、対面に腰を下ろしたその女性騎士が、とても眩しく映った。
「自己紹介がまだだったね。あたしの名前はヴァネッサ。ヴァネッサ=ド・バスチアン。第4大隊の隊長をしているよ」
彼女はそう言って、第4大隊のエンブレムが刺繍された胸元を指差した。
緑を基調とした布地に、白い盾が刺繍されたデザイン。
それはまさしく、第4大隊のエンブレムだ。
盾のデザインから察せられる通り、この部隊は拠点防御を主な任務としている。
いや、待て。
大隊長という立場なら、目の前の女性騎士の階級は『上級騎士』という事になる。
その立場である彼女が、どうして自分と食事をしようとしているのか、俺の頭は理解が追い付かなかった。
「あの、……どうして、自分と一緒に食事をしようと……?」
「食事は複数人で楽しく、があたしのモットーなの♪ 1人で朝食は食べても美味しくないでしょう?」
ヴァネッサ様はニコニコ微笑みながらそう言った。
俺は周囲に視線を向ける。
……、まるで腫物のように扱う視線だけが、俺に注がれていた。
そんな中、こうやって手を差し伸べてくれた彼女の優しさに、俺の心は少しだけ軽くなった。
「ありがとうございます、ヴァネッサ様」
「コホン。言葉遣いが悪いよ、アレクサンダー卿? あたし達は騎士同士なのよ? あたしの事は敬意と親しみを持ってヴァネッサ卿と呼ぶように!」
「し、失礼しました、ヴァネッサ卿……!」
「うむ、よろしい♪ そういえば、アレクサンダー卿は朝にランニングしていたけど、あれって日課なの?」
「み、見ていたんですか、ヴァネッサ卿?」
「ふふん♪ あたしも日課でランニングしているんだ♪」
「あれ? けど、グラウンドには居ませんでしたよね?」
「あたしの朝のランニングは、パルクールしながら本部のビルの屋上を飛び回っているの♪ 毎朝50㎞を1時間。今度、一緒にやろうか?」
「い、いえ。自分は肉体強化魔法の使い方が解らなくて……」
「あ、そうなの? 結構なハイペースで走っていたから使えると思ってたよ。それじゃ、その身体能力は生まれつき?」
「いいえ。故郷のイザベラ先生が鍛えてくれたんです。最初は1kmのランニングで息切れしていました」
「イザベラ先生? アレクサンダー卿の故郷には剣術を教えてくれる先生がいたの?」
「いいえ、イザベラ先生は基礎学校の先生です。剣術は授業の空いた時間で教えてくれたんです。……もしかして、知り合いですか?」
「ん-、たぶん別人だと思う。あたしが通っていた騎士学校の剣術の先生が、「イザベラという女は、俺が生涯をかけて倒す相手だ!」って言っていたからもしかしてー、と思ったんだ。……けど、基礎学校の先生なら別人ね。その人って平民なんでしょう?」
「はい。イザベラ先生も「自分は平民だ」って言っていましたし、魔法を使っている所なんて1度も見た事がありません」
「ふーん、偶然名前が一緒なだけかぁ。それじゃ、アレクサンダー卿は魔法を使えないの?」
「そうなんです。ソレイユ様、……いえソレイユ卿は潜在的には使えると保証していますが、俺は使い方もわかりません」
「アッハッハッハ♪ そりゃ大変だね、アレクサンダー卿♪ 第9の訓練は魔法を使える前提で鍛えられるから頑張りな!」
「笑いごとじゃありませんよ。俺は今日から不安しかありません……」
「クヨクヨしない! アレクサンダー卿は男の子でしょ?」
「は、はい! 頑張ります!」
「うんうん、その調子だよ、アレクサンダー卿!」
ヴァネッサ卿は不思議な女性だった。
彼女とは、初めて会った気がしない程に、会話がスムーズだ。
南国の太陽のように眩しいが、春の風のように包容力のある女性。
それが、ヴァネッサ卿に抱いた、俺の第一印象だ。
彼女が若いながらも第4大隊の隊長を任されている事に納得を覚えながら、食事を終えた俺は第9大隊の研修棟へ向かった。
生活区となる寮や食堂が立ち並ぶエリアから、芝生の生えた広場を抜け、本部前のビルに隣接する研修棟広場に向かう。
広場の中央に設置された、蒸気仕掛けの時計を見ると、……時刻は8時30分。
集合時間30分前だった。
周囲を見回すが、同期となる准騎士達の姿は見えない。
どうやら研修棟に最初に到着したのは俺らしい。
誰もいない広場で柔軟体操をしていると、ビリビリと首筋に痺れるような感覚がしたので、振り向いた。
「む、アレクサンダー卿が1番乗りでしたか……」
2番目に到着したアンナ卿が不機嫌そうに俺を睨む。
『突然変異体』と説明は受けているようだが、どうにも彼女は俺の事を疎んでいるようだ。
クラージュに「家名に縋る小物」と称された事に怒りを覚えているのだろうが、装着者である俺まで一緒にするのは勘弁して欲しい。
「おはようございます、アンナ様」
俺は恭しく一礼した。
「ふん。礼儀は弁えていて結構。そのまま従者らしく隅にいなさい」
アンナ様はそう言って俺から視線を反らした。
様付けで呼んだ事を『当然の礼儀』とすら考えているようだ。
きっと、これが普通の貴族や騎士の反応なのだろう。
ソレイユ卿やベルティーユ卿、ましてやヴァネッサ卿のように俺の言葉遣いを注意してくれた彼女達は異例の存在なのかもしれない。
そう思っている内に、ぞろぞろと今年入団したばかりの准騎士達が集合する。
アンナ様以外は全員男性の准騎士だ。
建国以来、リュミエール王国の人口男女比は1:3で圧倒的に女性が多いのだが、騎士団の中になると、その比率は逆転する。
女性は荒事には向かない、というのも大きな理由の1つだ。しかし、最大の理由は『蒸血機関』にある。
貴族や騎士の魔法の力を数百倍に強化する『蒸血機関』は、当然のように血液を燃料とする魔法機関だ。
当然、血液を保有する全体量が多い男性の方が採用には有利に働く。
何故なら、男性は生物学的に女性よりも血液の量が多いのが事実だからだ。
そうなると、女性よりも男性ばかりが採用されるのが現実的、という訳である。
それを考慮すれば、それでも男性を押しのけて騎士学校を首席で卒業され、『ヴァンピール・シュバリエ・オルドル』に採用されたアンナ様は別格の実力者を意味しているのだろう。
「ふんッ」
「けッ」
「くッ」
例の准騎士3人がゴミを見るような目で俺を一瞥して挨拶もせずに背を向けた。
粗暴なオーバン、三白眼のボドワン、キザのセドリック。
あの行為をしても除隊処分されていない所をみると、騎士団も人手不足なのか、名の在る貴族の出身かのどちらかのだろう。
「お、おはようございます……」
一応、挨拶した、……が3人は自然な態度で俺を無視した。
あの3人との間に一生、友情は芽生えないという直感だけが残る。
取り敢えず、……あまり関わらないようにしておこう。
そうこうしている内に、第9大隊の責任者であるベルティーユ卿がやって来た。
「本日から、あなた達の指揮官となるベルティーユです。今日から1年間から3年間の研修期間中、私が貴方達の指揮官となります。軍事命令に従わぬ者は軍事法廷が待っている事を肝に銘じ、今日から従って貰います」
ベルティーユ卿は落ち着いた声で俺達一人一人の顔を見て、そう挨拶した。
特に、粗暴なオーバン、三白眼のボドワン、キザのセドリック、そして俺に圧を込めて視線を向ける辺り、駅での事件は知っているのだろう。
うーん、俺の場合は、とばっちりなんだけどなぁ、……とほほ。
「それでは、各自、自己紹介を。首席のアンナ卿からお願いします」
「はッ。わたくしの名前はアンナ=ド・ブルイエでございます。ペルセヴェランスの装着者に選ばれましたが、それに相応しい騎士と周囲に認められるよう、研鑽を重ねます。どうか、よろしくお願いしますわ」
アンナ様は優雅な口調でそう言った。
さすが、自己紹介には慣れているようだ。
「次はアルセーヌ卿」
「はッ。自分の名前はアルセーヌ=ド・マクロン。騎士家系出身です。騎士の家名に恥じぬよう、結果を出します」
アルセーヌ卿の両目は野心でギラギラと燃えている。
もっと上へ。
常にそう考えているのだろう。従者だったら是非、お仕えしたいと思える方だ。
「次はエミール卿」
「あ、ハイ。ど、どうも皆さん、ご機嫌よう。そ、それがし、エミール=ド・マグナと申します。特技は昆虫採集です。どうぞよろしく、ハハハ……」
眼鏡を掛けた細身の青年はそう言って力なく笑った。
何と言うか、自分が騎士団にいる事を場違いに思っているようだ
うん、俺も同じ気持ちですよ、エミール卿。
「次はオーバン卿」
「はい。俺の名前はオーバン=ド・ベクレルだ。特技は剣術戦闘。よろしく!」
粗暴なオーバンは、簡潔にそう言った。
剣術戦闘が得意って、あの程度で……?
俺は頭の中で生じた違和感を、気力で追い出す事にした。トラブルは御免だ。
「次はクレイグ卿」
「はッ。自分の名前はクレイグ=ド・スーラです。風属性のエルメントルート流剣術の空位の使い手です。同門、他門を問わず互いに切磋琢磨しましょう!」
クレイグ卿は真面目な性格なのだろう。
背筋を伸ばして挨拶する姿は立派だ。
エルメントルート流剣術の空位ってどれくらいなんだろう?
オーバンをチラリと盗み見たが、気まずい顔をしている。成程、粗暴なオーバンよりは実力者、という事か。
「次はゴッドフリート卿」
「はい。皆様、初めまして。私の名前はゴッドフリート=ド・ブルダリアスです。不得意な事は特にありませんので、解らない事があれば気軽に質問してみて下さい。どうぞよろしく」
スラリと背の高い美貌の騎士が気取らず、落ち着いた声で挨拶した。
金色の髪の毛をショートカットにした髪型に、エメラルドのように澄んだ双眸。
貴公子のように整った顔立ちと、透明感のある声がとても聴き心地が良い。
気取ったような話し方だが、それが不快にならない気品がある。
ゴッドフリート卿は、実に絵になる貴公子だ。
それに、ブルダリアス家と言えば、『ヴァンピール・シュバリエ・オルドル』の設立にも関わった辺境の侯爵家だ。
家柄、人格、実力、共に申し分ない方である。
従者だったら、この人に仕えるのも面白いかもしれない。
「次はセドリック卿」
「ふふん♪ よく聞け、諸君、俺の名前はセドリック=ド・ブルゴー。ブルゴー子爵家出身の者だ。仲良くしたいのなら許可してやろう。光栄に思い賜え!」
さも自分はイケメンであると言わんばかりに、キザのセドリックは挨拶した。
自信満々のところ悪いのだが、セドリックの顔面はフツメンである。
しかし、よく公爵家出身のアンナ様や侯爵家出身のゴッドフリート様の隣で子爵の名前を誇らしげに出来るものだ。
さすがのゴッドフリート様も苦笑いであり、アンナ様は不愉快そうな表情を浮かべている。
「つ、次はドミニク卿」
「はッ! 自分の名前はドミニク=ド・ルグランであります! ローザリンデ流剣術の空位の段位を持ちますので、後程、クレイグ卿と手合わせがしたいです!!」
筋骨隆々の大男は声を張り上げてそう挨拶した。
堂々と挑戦状をたたきつけられたクレイグ卿は静かに微笑み、
「受けて立とう、ドミニク卿!」
と答えた。
研修棟の広場に集まった准騎士達が、クレイグ卿の返答に拍手で称賛する。
ただ1人、剣術戦闘が得意と豪語したオーバンは俯いてしまっていた。
あー、もしかしてこの人、強いと言っているのに、段位は取っていないのかな?
何だか可哀想になったので、これ以上、この話題に触れるのをやめておこう。
「さて、次はボドワン卿」
「ケケケ! 俺の名前はボドワン! ボドワン=ド・ビロンだ! こう見えて、得意科目は法律だぁ! よろしく頼むぜぇ!」
三白眼のボドワンは、下品に笑いながら挨拶をした。
そ、そうですか。法律が得意なのに、一昨日は平民をイジメて楽しんでいたんですか……。
言動不一致を目の当たりにしたような気分になって、俺は心の中でドン引きした。
「最後はアレクサンダー卿。自己紹介を」
「はい。トルヴェール村のアレクサンダーです。みなさん、ご存知の通りの平民出身の『突然変異体』です。16歳で戸惑うことばかりでございますが、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
パチパチパチ、エミール卿、クレイグ卿、ゴッドフリート卿、ドミニク卿の4人が拍手してくれた。
他のアンナ様、アルセーヌ卿、オーバン、セドリック、ボドワンの5人はそっぽを向いた。
何となくだが、同期の准騎士の中に自分に歩み寄ろうとしてくれている人達がいて、少しだけ安心する。
「さて、自己紹介は終わりです。本日は座学の授業や実技訓練は行いません。今日は本部の案内を行います。今日中に全ての施設を把握するように。それでは、私に着いて来なさい」
ベルティーユ卿はそう言って俺達に研修棟の施設の案内を始めた。
各科目における座学研修用の講堂、訓練用『ヴァンピール・アルミュール』の格納庫、昼食を食べる為の騎士専用食堂(従者は別の場所で食事する事になる)。
最後に案内されたのは、地下の闘技場だった。
「ここが最後に案内する施設です。こちらは、模擬戦を行う為の闘技場と呼ばれる場所です。支給品である『アノニムⅢ』での戦闘も可能な程の面積と高さがあります。お近づきも兼ねて、実戦形式で手合わせしたい方はいますか? 今からですと、そちらの棚にある模造刀での試合となりますが」
ベルティーユ卿の言葉に、クレイグ卿とドミニク卿が勢いよく挙手した。
ある意味、彼女自身もこの展開は予測していたのか、
「許可します。各自、好きな武器を手に闘技場に降りなさい」
と言って、苦笑を浮かべた。
『御意!』
クレイグ卿とドミニク卿は同時に返事をすると、それぞれの武器を手に握り、重さを確かめた。
悩んだ末、クレイグ卿は盾と剣を握り、ドミニク卿は幅広な大剣を選んだ。
「ベルティーユ卿、教えて下さい」
「あら、何ですか、アレクサンダー卿?」
「はい。2人の剣術の流派ついて教えて欲しいです。双方とも、有名な流派なんですか?」
「ええ、勿論。特に、クレイグ卿の流派であるエルメントルート流剣術は国内で最も人気な流派です。特徴を上げれば、属性魔法を駆使しながら剣術で戦う流派ですね。ただし、貴族でも変換できる属性は1種類に限られます。なので、その属性によって細かく派生した流派が乱立していますが、使い手の数で言えば王国で一番多い流派でしょう」
ベルティーユ卿が優しい口調でクレイグ卿に手を向けながらエルメントルート流剣術の説明をしてくれた。
実に分りやすい。
「では、ローザリンデ流剣術とは?」
「ローザリンデ流剣術は男性騎士に好まれる流派ですね。複雑な属性魔法は使いません。肉体強化魔法だけで戦う流派です」
「肉体強化魔法だけ?」
「はい。ただし、この剣術は『先手必勝』と『一撃必殺』を絶対の理念としています。速度と攻撃力に特化して、それ以外に魔法は使いません。相手が防御をしても防御魔法を貫通するダメージを出せば勝てる。それを信条としている流派なので、攻撃的な技を多数持っています」
「成程。それでドミニク卿は大剣を使うんですね……」
俺は得心しながら、ドミニク卿が大剣を選択した理由を察した。
自分がイザベラ先生から習った剣術は、自己防衛専門の技ばかりだった。
それ故に、騎士が使う剣術の世界は、俺にとっては新鮮である。
「ふふふ♪ よく見ておいてね、アレクサンダー卿。魔法を使った騎士の戦いは圧巻よ?」
「は、はい!」
俺は緊張しながら、闘技場で対峙する2人に視線を送った。
攻撃魔法と剣術を織り交ぜて戦うクレイグ卿か、速度と攻撃力に特化させたドミニク卿か。
「用意は良いかしら、2人共?」
ベルティーユ卿が、大きく澄んだ声で2人に問い掛ける。
「問題ありません、ベルティーユ卿!」
腰を低く降ろし、盾を前に構えるクレイグ卿が返事をする。
「自分も行けます! ベルティーユ卿!」
大剣を上段に構えたドミニク卿が元気よく返事をする。
「よろしい。……始め!!」
ベルティーユ卿が叫んだ瞬間、ドミニク卿が素早い踏み込みでクレイグ卿に飛び掛かる。
速い! まるで砲弾だ!
「うおおおッッッ!!」
──ちゅどぉぉぉぉぉんんんッッッ!!
肉体強化魔法と剣術を掛け合わせた、大剣が振り下ろされる。
巻き起こされる衝撃波と、飛び散る石畳の破片が闘技場を震わせる。
ドミニク卿は速く、強い。……だが、クレイグ卿も終わりではない。
──ビュン! ビュン! ビュン! ドビュンッッッ!!
と三条の風の刃が舞い、ドミニク卿の身体が最後に出て来た突風に吹き飛ばされる。
「くぅッ! 流石!!」
ドミニク卿が肩から血を流しながら石畳の上に着地する。
いや、肩だけでない。腰と太ももにも大きな裂傷がある。
ボタボタボタッ、とドミニク卿の鮮血が闘技場の床にまき散らされる。
平民だったら致死量の出血だが、貴族である彼らからすればかすり傷のようだ。
「はぁぁぁッ!」
鋭い気合の掛け声を上げながら、土煙の中からクレイグ卿が長剣を両手持ちで突撃してくる。
ドミニク卿の初太刀を受け止めた盾はもうボロボロだ。
「鋭ッ!!」
横一閃に、クレイグ卿が剣を薙ぎ払う。
まだ間合いの外なのに、何をしているんだ……!?
そう思ったのも束の間、
──ビュンッッッ!!
魔法エネルギーを纏った緑色の真空刃が剣先から迸り、三日月の形となってドミニク卿に肉薄する。
風属性の切断魔法だ!
危ない!
「うおおおおおおおッッッ!!」
ドミニク卿は再び大剣を大上段に構えて振り下ろし、肉薄する三日月型の真空刃を受け止め、叩き落そうとする。
──カァァァンッッッ!!
鉄と鉄がぶつかり合ったような音と共に、大剣の刃と真空の刃が激突する。
「うおおおおおおおッッッ!!」
「はあああああああッッッ!!」
ドミニク卿とクレイグ卿が同時に叫び合う。
ビリビリビリ、と双方の魔法エネルギーの奔流が闘技場を震わせ、周囲にいた俺達の肌を震わせて行く。
そして、……
──ガッキンッッッ!!
金属が破損するような音と共に、クレイグ卿が放った真空刃が消滅する。
それと同時に、
──バッキンッッッ!!
と、ドミニク卿が握っていた大剣が真ん中から両断された。
ドミニク卿は満足しながら微笑み、両手を挙げて降参の意思を示した。
「降参する、クレイグ卿。見事な真空刃だった……」
「貴公の一撃も見事であった。また、手合わせしてくれるかな?」
「勿論だとも!」
闘技場の中央で、傷だらけの2人の准騎士は互いを称賛しながら笑顔を浮かべ、握手した。
おおお!!
これだよ、コレ! 騎士ってやっぱりカッコいい!!
俺は目をキラキラさせながら2人の姿を見届けた。
だが、ベルティーユ卿はそれどころではない。
「まったくもう。男の子っていう生き物はこれだから……! 2人共、すぐに救護室へ連れて行きますから、動かないように!!」
ベルティーユ卿が慌てた様子で2人に声を掛けながら歩み寄る。
「アンナ卿、2人を救護室へ連れて行きますので、席を外します。他の人を見ておいてあげて下さい!」
「承知しました、ベルティーユ卿」
アンナ様はそう言って、ベルティーユ卿に敬礼した。
頷いた我らの教官は、クレイグ卿とドミニク卿を伴って闘技場から退出した。
いやぁ、良いものを見れたなぁ。
そう思っていると、俺の足元へ、
──カラン……!
と音を立てて模造刀が転がった。
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