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嫉妬

 統一歴657年 3月1日 光曜日 15:00 聖王宮 地下格納庫 アレクサンダー



「……貴方(あなた)、お名前は?」


 式典会場の地下にある格納庫で、クラージュから降りた俺に、ペルセヴェランスから降りたアンナ様がお尋ねになった。


 血統官のソレイユ様はアリーダという名前の女性従者に、


「ラウール陛下と騎士団長クロヴィス様が今回の件について説明を求めています」


 と言って、彼女を連れ去ってしまった。


 何とも気まずい空気の中、俺はアンナ様に身体を向け、


「アレクサンダーと申します」


 姿勢を正して報告する。


 しかし、アンナ様は俺の言葉に不機嫌そうに眉間(みけん)(しわ)を寄せる。


「……ふざけているのかしら? わたくし、貴方の家名を聞いているのですけど?」


 黒髪ショートカットの毛先を指先で(つま)まみながら、アンナ様は不機嫌な様子で俺にそう尋ねる。


「家名はありません。私、アレクサンダーは平民です。強いて言えば、トルヴェール村のアレクサンダーでございます」


「ふざけないで! 『名持ちのヴァンピール・アルミュール』の蒸血機関が、平民の血で動く筈がありません! クラージュ、この従者の選定に異議を申し立てますわ!」


 激昂したアンナ様が、俺の背後に控えるクラージュに抗議した。


『我が選定に間違いは無い。この少年こそ、我が装着者に相応しい。我は我自身の『選定権』を以って、この判断の尊重をアンナ卿に願い出る』


 クラージュが威厳のある声でそう返答した。


「クラージュ……」


 アンナ様から俺を庇ってくれた白亜の甲冑の言葉に、俺は感激した。


 しかし、それ以上に驚いている存在が居た。


『驚きました! クラージュが喋っている所を見たのは数年ぶりですよ!』


 青色の甲冑(かっちゅう)、ペルセヴェランスだった。


『アンナ卿は運が良いですね。クラージュは普段は喋らない物静かな甲冑なのですよ?』


 と、ペルセヴェランスがアンナ様に話し掛ける。


 まるで、妹を可愛がる姉のように親しみやすい甲冑だ。


 しかし、クラージュはペルセヴェランスと、ましてやアンナ様と会話をする気も無いのか、緋色(ひいろ)のマントを(ひるがえ)して背中を向けた。


『家名に(すが)る小物の言葉に耳を貸す事はない、少年。そなたは騎士の資格がある。世界が少年に騎士の資格無しと糾弾しようとも、我はそなたを騎士と信じる』


「クラージュ……」


『信じろ。困難に立ち向かおうとする、そなたの中の『魂』を』


 クラージュは一方的にそう告げると、鋼鉄の足音を響かせながら、地下格納庫を後にした。


「な、何て無礼な甲冑なの!? わたくしを、か、家名に縋る小物ですって!? わたくしが、ブルイエ公爵家の令嬢と知っての言葉ですの!?」


 屈辱(くつじょく)で顔を真っ赤にしたアンナ様が、立ち去るクラージュの背中に怒鳴(どな)った。


 しかし、クラージュは反応もせずに地下格納庫を後にした。



 統一歴657年 3月1日 光曜日 16:00 聖王宮 総合会議室



 会議室は重たい空気に包まれていた。


「………」


 騎士団長クロヴィスは、眉間にしわ寄せしながら腕を組んだ。


「ふむ……」


 副団長ロランは、目を細めて思案を(まと)め始める。


「………」


 戦術指揮官マルセルは、女神のような美貌に悲哀を込めて、ベルナール卿が殉職したトルヴェール村の地図を見つめる。


「……ふん……」


 医師長カリーナは、悲しみから眼を背けるように、トルヴェール村の地図から視線を反らした。


「………」


 斥候騎士ダミアンは、影に溶け込むようにその場に佇み、会議室の面々を見つめている。


「けッ……」


 砲撃騎士ヴィクトールは、不機嫌そうにアレクサンダーの生い立ちを写すスクリーンを(にら)みつけている。


 そんな中、会議室の沈黙を破ったのは、ラウール王であった。


()の決定を下す。()の名の元に、従者アレクサンダーを騎士と認め、従者から准騎士の階級へ昇格させる。尚、輸血の件は口外禁止とする。アレクサンダー卿は『突然変異体』であると公表し、当人にもそう説明せよ。異論ある者はおるか?」


 ラウール王は席から立ち上がり、威厳に満ちた声でそう告げる。


 勿論、異論がある者は居なかった。


「第9大隊長ベルティーユ」


「はッ!」


此度(こたび)の選定された准騎士アンナと准騎士アレクサンダーの教育を任せる。特にアレクサンダー卿に向けられる他の騎士の嫉妬(しっと)は重たいものとなるだろう。時間がある時で良い。気に掛けてやってくれ」


「御意……!」


 ベルティーユ卿が、ラウール王の勅命(ちょくめい)に恐縮しながら敬礼する。


「そして、血統官ソレイユ、そなたは輸血の件を研究せよ。悪用を食い止める為には、我らも輸血の詳細を知らねばならん」


「ぎょ、御意。しかし、どうやって……?」


「そればかりはアレクサンダー卿に誤魔化しながら研究を依頼するしかあるまい。手段は任せる。必要な予算があれば、余に申し出よ。全ての責任は余がとる」


「御意……!」


 血統官ソレイユは恐縮しながら敬礼した。


「これにて会議を終了する。皆、ご苦労であった、退席せよ」


 ラウール王はそう告げると、その場にいた上級騎士達は一斉に立ち上がって敬礼し、会議室を規律に満ちた動きで退席した。


 後に残されたのは騎士団長クロヴィスと、ラウール王だけである。


「ふー」


 疲れを排出するかのように、ラウール王はため息を吐き出し、席に座り直した。


「陛下、大変な事になりましたな……」


「大変? 卿はこの状況を楽しんでいないのか? 余のパシオンが聞けば幻滅(げんめつ)するぞ?」


「流石の私も当惑しております」


「ふん、その当惑すらも楽しめ、クロヴィス卿。卿ならできる」


「は。しかし、クラージュは何故、平民であるアレクサンダーを装着者に? ベルナール卿の血が原因でしょうか?」


「それは切っ掛けだろう。クラージュの選定基準はそんなに甘くは無い。クラージュは余が手ずから鋳造した『ヴァンピール・アルミュール』の1体である。あやつは『勇気ある魂』を評価基準としている。アレクサンダーはクラージュの眼鏡に適ったのだ。アレは強くなるぞ、クロヴィス卿?」


「ほほう、そう言われたら、楽しくなってまいりましたな」


 騎士団長クロヴィスは不敵に微笑んだ。


 騎士の闘争本能がさせるのだろう。


 強い騎士は、強い騎士との競い合いを求める。


 騎士とは、男女を問わず、そういう人種であった。



 統一歴657年 3月1日 光曜日 17:00 聖王宮 騎士団本部ビル前 アレクサンダー



 そこから先の手続きは大変だった。


 やっと戻って来た血統官のソレイユ様に説明を求めると、


「昨日、説明した通りだよ。アレクサンダー君の血には魔力エネルギーがある。つまり、キミは突然変異体だったんだよー」


 と説明を受けた。


 何故かソレイユ様の口調は何時もよりも平坦であったが、その内容は俺が納得できるものだった。


 そりゃそうだ。


 5年前に死んだ俺の両親は、聖王教の司祭と修道女であった。


 自分がとある貴族の私生児と説明されるよりも、突然変異体と説明された方が納得ができる。


「えーと、つまり私は魔法が使えるのですか、ソレイユ様?」


「理論上、アレクサンダー君にその潜在能力はあるよ。勿論、適切な訓練が必要だ。よってぇ、キミは明日から准騎士として、第9大隊で訓練を受けて貰う。最初に言っておくけど、拒否権は無いよ? これは、ラウール陛下の勅命だからね!」


「ええ!? ラウール陛下の!?」


 俺は素っ頓狂な声を上げたが、決定は覆らないのは簡単に想像できた。


 ラウール陛下の勅命は、この国の憲法、法律、全てを覆す力があるからだ。つまり、絶対的な例外である。


 イザベラ先生、すみません。どうやら俺は騎士様として道を歩む事になりそうです……。


 嬉しい。嬉しいけど、不安しかありません……!


 俺は心の中で涙を流しながら、不安しかない現実を受け入れた。


「まぁ、諦めてよ、アレクサンダー君♪ 平民従者に『名持ちのヴァンピール・アルミュール』を任せるのは、騎士団としても面子が悪いんだよ。という訳で、明日からはコレ(騎士服)を着て、コレ(騎士剣)を装備して出勤するよーに!」


 そんな訳で、俺には高級な箱に入れられた准騎士の制服と、高級な木箱に納められた騎士剣が支給された。


 先週に支給された従者服と従者剣は後日、返却するように、との事だ。


 当然、俺に拒否権は無い。


 何せ、これはラウール王の決定だ。


「さてと、血統官であるボクの自己紹介は終わっているから、手短にアレクサンダー君の前に居る人を紹介するね♪ こちら、第9大隊の隊長であるベルティーユ=ド・ジルベール卿だよ。明日から、キミを准騎士として鍛えてくれる事になる上級騎士だ」


「よろしくお願い致します、アレクサンダー卿」


 亜麻色の髪の毛をハーフアップに結い上げた髪型に、銀縁眼鏡を掛けた理知的な女性が優しく微笑んで挨拶した。


「よ、よろしくお願いいたします、ベルティーユ様」


「コホン! 言葉遣いがなっていませんよ、アレクサンダー卿?」


「え?」


「アナタは今、この時から准騎士です。ラウール王によって准騎士へと昇格したのです。私を『様』付けするのではなく、『ベルティーユ卿』と呼びなさい」


「し、失礼しました、ベルティーユ卿……!」


「よろしい。明日の9時より、こちらの研修棟に他の准騎士と共に研修を受けて貰います。クラージュに選定された事で驕らず、規律のある行動で他の准騎士の模範となりなさい」


「承知しました」


「よろしい、私からは以上です」


 ベルティーユ卿はそう言って、退席した。


 流石にお忙しい身なのだろう。責任ある立場なのに、俺の受け入れ態勢を前日に整える必要がでてきたのだから、さもありなん、だ。


 そんなこんなで、俺の准騎士としての生活が始まった。


 しかし、さっきから首筋がピリピリする。


 これは、誰かが俺に敵意を向けている証だ。


 理屈は不明だが、俺は自分自身に敵意を向けられたら首筋がピリピリする体質なのである。


 意外と便利な体質で、これで相手の実力がよく解るのだ。


 ちなみに、一番大きな反応だったのは、少しだけ本気を出したイザベラ先生と剣術稽古をつけて貰った時だ。


 あの時は首筋が電気ショックを受けたかのように、ビリビリと震えたのを覚えている。


 それに比べたら、今の首筋に走る敵意は、ちょっとした妬み程度のものだろう。


 ……この感覚があるという事は、俺自身、憧れの騎士団に歓迎されていないようだ。


「……はぅ……」


 俺は少し悲しい気持ちになりながらため息を吐き出し、頂いた騎士服と騎士剣を持って宿舎に向かった。



 統一歴657年 3月1日 光曜日 17:00 聖王宮 騎士団本部ビル屋上 ヴィクトール



「けッ! 気に入らねぇぜ、あのアレクサンダーっていうガキはよぉ!」


 オレ様、ヴィクトール=ド・ブリューゲルは騎士団本部のビルの屋上から、研修棟の前にいるアレクサンダーの野郎を見ていた。


 ここから500mくらいは離れているが、砲撃騎士であるオレ様の視力なら奴の表情まで余裕で観察できる。


 先程から殺気を飛ばしているが、気付く様子も無いのが気に入らねぇ!


 ムカつくぜ!


 ベルナール先輩が命と引き換えに助けたのが、こんなカスみたいな平民のガキ1人の命だったと伝えられただけでも(はらわた)が煮えくり返る。


 その上、あの人の血で上級騎士に匹敵する力を手に入れたのも納得できねぇ!


『おやおや、今日のヴィクトール興はご機嫌斜めだねぇ。話聞こうか?』


「うるせぇ、オネテェティ! オレ様は今、納得できねぇ現実にイラついてんだよ!!」


 オレ様は背後に控える『名持ちのヴァンピール・アルミュール』、オネテェティにそう返事をした。


 金色に輝く板金に、白金色の関節部に、金色のマント。


 全てが俺好みの派手な『ヴァンピール・アルミュール』は、何かと俺の保護者ぶる女だ。


 しかし、戦闘時には頼りになる相棒だ。


『ベルナール卿って、ヴィクトール卿が尊敬していた騎士でしょう? 彼が命と引き換えに護った平民なんだから、アンタも大事にすれば良いじゃない』


「ベルナール先輩の命と、あの平民のガキの命が釣り合う訳が無いだろ! オレ様も! 騎士団の古参メンバーも! 誰も! あのガキと引き換えにベルナール先輩が死んだ事を納得しないぜ!!」


『ふふふ♪ ベルナール卿の事を高く買っているんだねぇ、ヴィクトール卿。まぁ正直、私も今回のクラージュの選定に首を傾げているよ』


「はん! 解ってるじゃねーか、オネテェティ!」


『まぁ、そうさね。他の上級騎士と話し合った方が良いと思うよ、私は。魔力を宿した平民を選んだクラージュの選定が間違っていた場合、私達はフォローする必要がある。つまり、貧乏くじさ。そうだろう、ヴィクトール卿?』


「ふん、それもそうだな!」


 オレ様は視線を空に向けた。


 騎士団配下の第3大隊の旗艦となる飛行船『レイユ・セレスト(天の瞳)』が赤色灯を回転させながら空から王都を警邏(けいら)しているのが見える。


「第3大隊のディオンと話てくるぜ、オネテェティ!」


『解ったよ、ヴィクトール卿。言うまでも無い事だけど、人狼警報が鳴ったら戻って来るんだよ?』


「はッ! 当たり前だろ、オネテェティ! じゃあな!!」


 オレ様は肉体強化魔法を使い、飛行船『レイユ・セレスト』まで跳躍した。


 アレクサンダー。


 何がクラージュの装着者だ。


 あの平民のガキの化けの皮、オレ様が剥がしてやるぜ!

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 評価が上がれば、作者のやる気に火が付きます!


 よろしくお願いします!

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