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准騎士と従者

 今から657年前、小国であったリュミエール王国が大陸全土を征服し、世界統一を成し遂げた。


 時に、統一歴元年。リュミエール王国建国の年である。


 リュミエール王国は魔法という技術を駆使し、小国の身ながら暗黒領域を除く、大陸全土を支配するに至った。


 かつては魔法を行使できる王族や貴族が一世を風靡(ふうび)していた。


 だが、その状況を一変する機関が20年前、統一歴637年に、平民の手によって開発される事となる。


 蒸気機関(じょうききかん)


 石炭で水を加熱し、沸騰(ふっとう)した水蒸気の力で物体を動かすその装置は、魔法の終わりを告げる、……筈だった。


「ほぉ、面白そうな機械だな。()に見せろ」


 かつてのリュミエール王国の王、ルイス10世は、平民が開発した蒸気機関にオリジナルのアレンジを加えた。


 即ち、水ではなく魔法師である王族の血を龍石炭で加熱し、圧縮された血で魔法を発動させる装置を開発したのだ。


 『蒸血魔法(じょうけつまほう)』と呼ばれる、蒸気機関と魔法の融合により、王族と貴族は更なる強力な技術を手に入れた。


 そこからは、平民と貴族の技術競争が始まりであった。


 幾つかの技術的革新が起こり、蒸気機関は最小で30㎝四方の立方体の箱の中に納まるまでに小型化した。


 汽車だけでなく、船、車、自転車にも蒸気機関は組み込める程に小型化に至り、王国は発展の一途を辿る。


 無論、その恩恵は『蒸血魔法』にも適用され、貴族たちは甲冑の中にその装置を組み込んだ。


 『吸血(ヴァンピール・)甲冑(アルミュール)』の誕生である。


 貴族の血を吸い、緋色の蒸気をまき散らしながら500馬力の力で戦場を駆ける甲冑の姿に、王国中の子供達は羨望の眼差しを送り、平民の蒸気技師は敗北感に打ちのめされた。


 だが、今から10年前。


 統一歴647年。前代未聞の疫病がリュミエール王国に蔓延する。


 『人狼病』と呼ばれる病である。


 その奇病は、感染した人間を狂暴化させ、果ては巨大な二足歩行の狼へと姿を変貌させる病だった。


 貴族にとって大変都合が良い事は、この病に感染するのは平民だけであった事だ。


 我が身の問題として認識しない貴族達は、この病への対応の為に財産を切り売りする事を渋った。


 遅々として対応を渋る貴族達を見限ったラウール国王は、自らの荘園を売り払い、国王直属の騎士団を結成する事となる。


 その名も、『吸血(ヴァンピール)騎士(・シュバリエ)(・オルドル)』である。


 騎士が纏う最強の兵器、『ヴァンピール・(吸血)アルミュール(甲冑)』を纏う王国最強の騎士団の誕生であった。


 対『人狼病』の最終兵器にして、人類の守護者たるこの組織が結成され、『人狼』の駆逐が始まった。


 だが、王都を中心に対応に追われる騎士団に、大陸全土をカバーするのは人員が不足していた。


 『人狼』が出ては倒し、『人狼』が出ては倒しの繰り返しではあったが、統一歴657年現在、人類は何とか版図を保つ事が出来ていた。



 統一歴657年 2月30日 時曜日 13:00 王都ルミナール アレクサンダー



 パタン、と俺は歴史本『ヴァンピール・シュバリエ・オルドルの成り立ち』を閉じた。


 これから入る騎士団の成り立ちを記載された歴史本のページは、何度も読んだ箇所(かしょ)なので薄汚れている。


 だが、憧れの『ヴァンピール・シュバリエ・オルドル』は、俺の命を繋いでくれた騎士様が所属していた騎士団である。


 何度読んでも、この騎士団の始まりの物語は、俺の心に勇気を与えてくれた。


 あの日に見た、騎士様の背中。


 その背中に報いる為にも、沢山の人を助けられる従者になろう。


 そう決心を胸に灯すと、


 ──ポォォォォ!!


 と、乗っていた汽車の汽笛が鳴った。


 愛読書の歴史本を鞄の中にしまい、俺は窓の外に視線を向ける。


「あれが王都ルミナールか……!」


 俺の視線の先に、荘厳なビル群が並び立つ都市が広がっていた。


 王都ルミナール。


 リュミエール王国の中心地にして、『ヴァンピール(吸血)シュバリエ(騎士)オルドル()』の本拠地がある場所だ。


 故郷のトルヴェール村の駅からイザベラ先生、その娘にして妹分のクラリスに見送られ、3時間。


 初めて見る王都の荘厳な街並みに、俺は思わず笑みを零した。


 汽車は吸い込まれるように駅のホームに到着すると、アナウンスが響く。


『お待たせしましたぁ、お客様ぁ! 終点、中央ルミナール駅でございまーす! お忘れ物の無いよう、お降り下さいませぇー!』


 独特の間延びしたアナウンスと共に、席に座っていた人達がゾロゾロと立ち上がった。


 おっと、俺も行かないと。


 駅のホームに荷物を背負いながら降りると、駅全体を覆うガラスの天井の荘厳さに度肝を抜かされた。


 故郷のトルヴェール村が丸々入ってしまいそうな程、中央ルミナール駅のホームは大きく、壮観だ。


 幾つもの列車が蒸気を噴き上げながら発車を待機する列も圧巻の規模である。


 俺、王都に来たんだ……!


 そんな実感を抱きながら、駅の改札に向かおうとすると、別のホームに人だかりができているのが見えた。


「んん?」


 視線を向けると、人だかりは皆一様に、とあるホームに停車した蒸気列車を見つめていた。


 華美な装飾が施された豪華な列車が停車している。


 まるで宮殿のように格式高い列車の装飾に、俺は思わず国王様専用列車かな、と勘繰った。


「おいおい、見ろよ。ブルイエ公爵家の専用列車だぜ……」


「という事は、西方から直行して来たのかい……? 王都にブルイエ公爵家が何の用だい?」


 と、近くに居た男性達が小声で噂話を始めた。


 なーんだ、国王様の列車じゃないのか。


 名の在る大貴族様の列車かな?


 『ヴァンピール・シュバリエ・オルドル』以外に興味の無いのが、俺アレクサンダーだ。


 公爵家であろうと、ブルイエ家なんて騎士団の設立に何も関与していないので、興味が湧かないのである。


 そうこうしている内に、豪華な金の装飾が施された樫の木の扉が開く。


 中から現れたのは、以外にも騎士の礼服を身に纏った女性だった。


 赤と白を基調とした荘厳な装飾が施された派手な服は、騎士学校を首席で卒業した騎士に渡される栄誉ある礼服である。


 前言撤回。騎士様なら話は別だ。


 俺は、吸い寄せられるように、その女性騎士に視線を向けた。


 黒髪をショートカットにした髪型に、スラリと伸びた長身。


 切れ長の双眸(そうぼう)蒼玉色(そうぎょくいろ)の瞳を持つ高貴な美貌(びぼう)


 腰に()いた儀仗剣(ぎじょうけん)は美しく、緋色(ひいろ)(さや)が鮮やかに輝いている。


「うわぁ……」


 俺は思わず、感嘆の声を漏らした。


 その姿は、騎士と言うにはあまりにも美しすぎた。


 美しく、眩しく、華やかで、そして完成されていた。


 それはまさに、美の化身であった。


 そんな美しすぎる女性は、切れ長の両目でホームにいる俺達一団を一瞥(いちべつ)し、……何故か俺を二度見し、……もう一度一瞥(いちべつ)し、……最後は訝しげな表情を浮かべながら立ち去って行った。


「おお、あれがブルイエ公爵家の令嬢であらされるアンナ様か……。お噂通りの美貌だのぅ……」


「ああ、ありゃ女神様の生まれ変わりだべぇ……」


 田舎から来た平民の大人達が訛りの強い言葉でウットリとしていた。


 やれやれ。


 しかし、3度もアンナ様は俺に視線を向けたが、俺は何か女性騎士様に粗相でもしたのだろうか……?


 基礎学校で習った常識として、貴族や騎士様の前ではお行儀よく、とイザベラ先生に口酸っぱく教えられた事だ。


 ふむ、従者服に汚れは無いよな?


 うん、きっと勘違いだろう。


 俺はそう結論を付けて、改札に向かおうとした。


 だが、その時だった。


「何をしやがる、貴様ぁ!!」


 と、怒号が別のホームから上がった。


 トラブルの匂いを感じ取ると、俺の身体は自然と怒号のあったホームに向かって走り出していた。


 入団式は明日だけど、この俺の精神はすでに騎士団の一員である。


「何かあったんですか?」


 トラブルがあったホームに近寄り、最寄りの平民男性に声を掛ける。


 最初は鬱陶(うっとう)しそうな表情を浮かべていた平民男性だったが、俺が従者服を着ているのを見て騎士団が来たと思ったのだろう。


「騎士様に平民の子供が走ってぶつかったんだよ。しかも、綺麗な騎士服がアイスクリームでベットリと汚れてる。あの平民の子供、殺されるぞ……」


 男性がそう言ったタイミングで、平民の一団がホームから我さきに退散を始めた。


 身体能力が(はる)かに優れている騎士が暴れたら、平民は命に関わる程の大怪我を負うのは目に見えている。


 視線を向けると、3人組の騎士様と1人の子供と、その子供を(かば)う母親らしき姿が見えた。


「どうしてくれる、貴様! この服は、明日の入団式の式典に着ていく為の礼服だぞ!」


「も、申し訳ございません、騎士様! どうか、どうかお許しください……!」


 子供を守るように抱き締め、母親らしき女性が(ひざまず)いて騎士に助命を嘆願(たんがん)している。


「はぁ、こりゃダメだな……」


 その様子を見た平民男性は、俺の着ている服を一瞥(いちべつ)してため息を吐いた。


 俺が着ているのは従者服だ。


 つまり、俺が平民なので騎士を(いさ)める身分でない事をがっかりしているようだ。


「従者様ならお仕えする准騎士(じゅんきし)様くらい要るだろう? 呼んで来れるか?」


「いえ、申し訳ございません。私は明日、騎士団に入団する予定ですので、お(つか)えする准騎士様にはまだ……」


「そうか……。なら、あの子供は……」


 平民男性が不憫(ふびん)そうな視線を子供に向ける。


 幼い男の子は、アイスクリームをぶつけた存在の恐ろしさが理解できていないのか、ポカンとしている。


 恐らく、貴族という存在を見たのも初めてなのかもしれない。


 何となく、5年前のあの惨劇(さんげき)に取り残された、過去の自分とあの子が重なったような気がした。


 ……よし、決めた。


「……ええ!? お、おい従者様! 何をやってるんですか……!?」


 背後から平民男性の静止の声が聞こえるが、俺はスタスタと歩き出していた。


 そのまま、跪いて助命を嘆願する平民の母親を背にし、騎士様の間に立ちふさがる。


「騎士様、お召し物が汚れた件を不愉快に思うのはごもっともでございますが、どうか怒りを抑えて頂けないでしょうか?」


 あの時に見た騎士様のように、俺は落ち着いた声音で目の前の騎士様に視線を向ける。


 数は3人。


 水色の騎士服から察するに、騎士学校を卒業したばかりの准騎士様なのだと気付く。


 まぁ、准騎士も3人も集まれば『騎士』に匹敵する戦闘力は持っている筈だ。


「何だ、貴様? 平民従者が何の権利で仲裁している!?」


 従者が仲裁に入った事にカチンと来たのか、ズボンをアイスクリームで汚したガタイの良い准騎士様が俺を罵った。


「私如きが仲裁など滅相もございません! 私は准騎士様へ忠言(ちゅうげん)を申し上げに来たにすぎません!」


 俺は大袈裟な動作で道化て見せながら、准騎士様に歩み寄る。


「ほぉう? 忠言だとぉ?」


「はい。ここは中央ルミナール駅でございます。白昼堂々(はくちゅうどうどう)無礼打(ぶれいう)ちは准騎士様の威光(いこう)を損なうと思われます。どうか、ここは穏便(おんびん)に行きましょう、穏便(おんびん)に……」


 俺は丁寧な口調で説明しながら、背後にいる母親にジェスチャーで逃げるように伝えた。


 子供を抱きしめた母親は一瞬ためらったが、俺が何度も逃げるようにジェスチャーする事でようやく覚悟を決めたらしく、


「も、申し訳ございません……!」


 と言ってホームから逃げ出した。


「あ、貴様ぁ!」


 と、追いかけようとする准騎士様の前に、俺は微笑みながら立ちふさがる。


「抑えて下さい、准騎士様。たかが平民ではございませんか。器を見せる時でございます」


 俺は丁寧に、准騎士様を宥めた。


 このまま落ち着いてくれたら……、と思っていた俺が甘かった。


「うるせえ、平民従者!!」


 准騎士様が、突然、俺の顔面を殴った。


 肉体強化魔法が施されているのか、眩暈(めまい)がする程に重たい一撃だ。


 まぁ、簡単に体捌(からださば)きで威力(いりょく)軽減(けいげん)できる程度の威力だったので、俺は数歩だけよろめくだけに留まった。


 しかし、いきなり殴られるのは想定外だ。


「な、何をなさるのですか、准騎士様?」


 俺はダメージが残る頭を押えながら、准騎士様に丁寧に尋ねた。


「ケケケ! おいおい、オーバン? 平民従者が立って居るぜぇ? 手加減したのかぁ、オイ?」


 と、三人の准騎士様の内の1人、三白眼の准騎士様が下品に笑いながら殴った准騎士様を揶揄(からか)った。


 下品すぎる。


 えっと、この人達って准騎士だから、貴族か騎士の家系出身なんだよね……?


「黙ってろ、ボドワン! おい従者! 平民の分際で、俺に恥かかすんじゃねぇぞ!!」


 最初に殴って来た准騎士様が再び俺のお腹に向かって拳を叩きこもうとする。


 俺はそれをスっと避ける。


 正直、故郷のイザベラ先生が投擲するチョークの方が素早いので、避けるだけなら簡単だった。


「な!?」


 オーバンと呼ばれた准騎士様が、俺に避けられた事実に驚きの声を漏らす。


「あ、あのぅ准騎士様? 私、何か粗相をしましたか? そのぉ、罰を受けるにしても内容が解らない事には……」


 俺は愛想笑いを浮かべながら、准騎士様方を落ち着かせるように話しかけた。


 俺からすれば、身体能力が遥かに高い准騎士様と喧嘩するつもりなんて欠片も無いし、意味不明な暴力を振るわれる理由もないからだ。


「解ってないなぁ、平民従者? あの平民の子供は、オーバンの面子を潰したんだ。これは俺達貴族の尊厳に関わる問題だ、理解できるか?」


 今まで黙っていた3人目の准騎士様がキザったらしい口調で俺を指差した。


「め、面子? 礼服を汚されただけで……?」


 俺は本気で困惑した。


 服をアイスクリームで汚されたくらいで潰れる面子なんて聞いた事が無い。


 周囲に視線を向ける。


 既に、人だかりができている。


 うーん、揉め事は明日の式典に響くから遠慮したいんだけどなぁ……。


「違うな。平民によって騎士の礼服が汚されたのだぞ? それ相応の仕打ちを与えなければ、騎士の服は汚しても良いと平民どもが勘違いを起こす。このまま逃したのであれば、オーバンの友人であるこの俺、セドリックの権威が落ちるというものだ」


 セドリックと名乗ったキザな騎士様が意味不明な理論で俺に告げる。


 いや、子供の不注意でやった事を、大人が真似する訳が無いだろ。


 平民専用の基礎学校を卒業したばかりの俺でも解らない、意味不明な理屈である。


「そ、そうでしたかぁ、……い、いやぁ、申し訳ございません、准騎士様。田舎出身の従者にそのような掟があるとは知らずぅ……」


 俺は苦笑いしながら、准騎士様3人を見る。


 最初に殴ってきたオーバンという名前のガタイの良い准騎士様。


 ボドワンと呼ばれた三白眼の下品な准騎士様。


 最後にセドリックと名乗ったキザな准騎士様。


「えーと、つまり、あなた方は私を痛めつけたい、と……。そういう訳ですか?」


「お前があの母親と子供の分まで殴らせてくれるなら、手打ちにしてやるよ!」


 オーバンがポキポキと指を鳴らしながら俺に近付いてきた。


 ──パチン……!


 微かに、空気が弾ける音がした。


 もし、ここが駅のホームの喧噪の中でなければ、その音が聞けたかもしれない。


 だか、もう聞こえない……。


 騎士様、騎士には、いろんな人がおられるのですね……。


 俺は今日、……


「ハ、ハハは……、それは良いアイデアですねぇ……」


「ハハハ! 物分かりが良くて助かるぜぇ、平民従者!! それじゃぁ、一発ぅ、……グフッ!?」


 オーバンという男が身体をビクン、と痙攣させてホームの上で気絶する。


 騎士様、イザベラ先生、ごめんなさい。


 俺、この准騎士どもを、倒します……。


「オイオイ、オーバン? どうしたんだぁ、急に転んで? ……、おい、オーバン? オーバン!?」


 状況を飲み込めない三白眼の准騎士、ボドワンがオーバンに駆け寄る。


 ビクビクと痙攣するオーバンの状態を見たボドワンが目を見開き、次の瞬間には腰から儀仗剣(ぎじょうけん)を抜刀した。


「オイオイ、やってくれたなぁ、平民従者ぁ! てめぇ、オーバンに何をしやがった?」


「えーと、顎をちょっと殴りました」


 俺は正直に答え、笑みを浮かべる。


 ──パチン、パチン、パチン……!


 微かに空気が弾ける音と共に、俺の金色の髪の毛が、僅かに逆立つ。


 俺が臨戦態勢(りんせんたいせい)になったら何時も起こる、謎の静電気の現象。


 そんな体質に辟易(へきえき)としながら、俺は従者剣を鞘に収まった状態のまま抜く事にした。


 流石に剣を持った准騎士相手に丸腰は無理がある。


 鞘から剣を抜かない理由は単純だ。騎士団から(たまわ)った剣を、こんな准騎士どもの血で汚す気になれない。理由はそれだけだ。

 

 だが、ボドワンはそれを挑発と受け取ったのか、


「貴様ぁ!? 従者風情が、准騎士である俺を愚弄するかぁ!」


 と怒鳴り、飛び掛かった。


 オーバンと同じく、詠唱無しの肉体強化の魔法で加速した速度で飛び掛かるボドワン。


 だが、故郷のイザベラ先生の剣の方がもっと強く、速く、洗練されていた。


「せい!」


 俺は素早く、剣の先を構える。


 飛び掛かるボドワンは、まるで吸い寄せられるように、俺が構えた剣先の部分に鳩尾をぶつけた。


 ──バチン!


 あぁ、いけない……! 盛大に静電気が炸裂したからか、


「ギャン!」


 とボドワンは叫んだと同時に気絶した。


 あぁ、戦うと帯電状態になる妙な体質がここで悪さをしてしまったようだ。


 三白眼のボドワンは白目を剥いてホームの床に転がった。


 まぁ、良い。これで、後1人だ。


「……、お前、ただの従者じゃないな?」


 セドリックが眉間(みけん)(しわ)を寄せながら俺を(にら)み、剣を抜く。


 ああ、もう。お前も抜刀するのかよ……。


「止しましょうよ、セドリック様? 従者如きに剣を抜くなんて、そんな野蛮な」


 俺は苦笑しながら鞘に収まったままの従者剣を左右に振った。


 俺からの、「コレで終わりにしない?」というジェスチャーだ。


「野蛮だと? これは貴族の尊厳の問題だ。従者ごときに騎士学校を卒業したばかりの俺達が叩きのめされたら、良い笑いものだ! そんな事、この俺の誇りが許さん!」


 セドリックが吠える。


 何から何まで、あの丘で見た騎士様とは程遠い無様な姿に、俺は心の底から落胆する。


 コレが、俺が憧れた騎士様の誇りなのか……?


 俺は、笑顔を引っ込めた。


 ──バチン、バチン、バチン……!


 空気が爆ぜる音が、聞こえる。


 髪の毛が逆立つ気配に身を委ねながら、俺は口を開く。


「恥を重ねる事になるぞ、セドリック?」


「様を付けろ、平民従者ぁ!!」


「お前に払う敬意は無い!」


「貴様ぁッ!!」


 肉体強化魔法で加速したセドリックが突風のような速度で踏み込み、俺に肉薄する。


 平民は魔法を使えない。


 それは純然たる事実だ。


 だが、イザベラ先生が俺に叩きこんだ戦闘技術は、……本物だ!


「遅い!」


 俺は素早く鞘に収まった剣先を下に向ける。


 そこの剣先に吸い込まれるように、セドリックの(すね)が直撃した。


 イザベラ先生が俺に授けてくれた、素早い人狼に平民でも対応できる剣術の教えが、脳裏に蘇る。


『いいかい、アレク? 人狼の動きは素早い。だけど、奴らが近接攻撃しか手段が無い以上、対処は可能だ。何故なら、人狼が攻撃する以上、絶対にアレクの身体に近寄る必要があるからね。アレクはそこに剣を置いて、相手が来るのを待つだけだ。これで、人狼は勝手に自滅する』


 記憶の中のイザベラ先生はさも簡単そうに、そう言った。


 だが、俺がこの技を完全習得するのに1ヵ月は掛かってしまった。


 イザベラ流剣術とでも言うべきカウンターを主体とした剣術。


 それを使う俺からすれば、身体能力を強化しただけのセドリックやボドワンなんて落胆する程に弱い存在であった。


 そして、……


 ──バチンッッッ!!


 静電気体質がもたらすスパークが、セドリックの脛を直撃する。


「ぐあああッ!?」


 肉体強化魔法で加速した分の威力、従者剣の硬さ、そして、静電気。


 それらが合わさって脛に直撃したセドリックが苦悶の表情を浮かべる。


 これで勝負あった、……なのだが、騎士の誇りを勘違いしているこの男だけは許せん。


(えい)ッ!」


 ──バチンッッッ!!


 俺は裂帛の声と共に、静電気を纏った従者剣でセドリックの顔面にフルスイングを見舞う。


「ヅダッ!!」


 電撃で意味不明な叫び声を上げながら、セドリックの身体が宙を舞い、ホームの床に転がった。


 周囲にいた平民たちが静まり返った。


「平民が、……貴族に勝っちまった……?」


 最初に俺を静止した平民の男性が、静まり返ったホームでぽつりと呟く。


 平民が、3人の貴族を打倒した。


 本来ならあり得ない光景に、理解が追い付いていない様子だ。


 まぁ、良いか。今のうちに退散しよう。


 抜き足、差し足、忍び足。


 おれは周囲に愛想笑いをしながら退散を試みた。


 だが、その時、


 ──ピィィィ!!


 と、警笛の音がホームに響いた。


「げ……」


 俺が警笛の鳴った方向へ顔を向けると、騎士服を纏った騎士様が歩み寄って来るところだった。


 えーと、まずいよね、コレ……。


 平民の従者が、貴族の准騎士様3人を打ちのめした。


 結果だけ見れば、身分制度の敷かれた王国内において、かなりヤバい事をしてしまった事になる。


「おい、そこの従者! これは、どういう状況だ!?」


 男性騎士が怒鳴りながら俺に詰め寄った。


「え、えーと、……喧嘩?」


「もういい! 詳細は詰所で聞かせて貰うからな!」


 俺は騎士様に首根っこを掴まれる形で、駅の詰所へと連行されるのだった。


 あーん、明日は入団式なのに、俺、どうなっちゃうのー?

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 これから毎週金曜日、午後6時に更新します。


 よろしくお付き合い下さいませ!

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