表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

EPISODE16 哀しみのオレンジ

 13時。3人の執行人は迫りくる敵を蹴散らしながら珠水鳳凰が今の根城にしている葉琉州ヒルズの屋上を目指す。一方大城四紋は

「どうやら来ているようですね?」

「行け…」

 刺客として金城兄弟、メルス、メースを彼らに仕向ける。4対3…女2人と男一人がトップ暗殺者の4人に敵うわけがない。奴らは少し強いだけで所詮は素人。

「息子一人殺せないほど君は根性なしだったとはな…」

 千草は遂に奴の逆鱗に触れてしまい、身体を拘束されてネイルガンで手足を撃たれて釘だらけになっている。

「そんなの無理に決まってるでしょ…」

 刺された腹部をヒールの踵で踏みつけた感触が足に残る。今もそのヒールを履いていれば尚更だ。

「君の処分は息子ちゃんとご友人を倒してからにしてやる…今から楽しみだ…」

「それは無理ね…幸人と明美はあんたなんかに屈しない…!」

「黙れ…!」

 ピュゥン!

「ギィ…!」

「穴だらけの女が調子に乗るなよ!」

 目の前で幸人の強さを見ていた。あの天女のように強い明美と互角以上の戦いを演じた力。今の自分が相手したら命が幾つあっても足りないだろう。それに助けに来てくれるのはわかっているが、きっと「ぶん殴りたい!」と考えるくらい怒っているだろうな…濃厚なキスマークをつけるくらいなら幸人の唇が腫れるくらいキスすればよかった…いやいやダメよ…覚えているのは2歳の幸人のキスは味がしなかった。そんなことを考えている最中

「大変です!外にいた連中が全滅しました…!」

「何…!?」

 監視カメラの映像を確認すると既に3人の執行人がヒルズに突入していた。明美に刀で斬られた人間の胴体は完全に真っ二つで幸人にやられた人間は頭部や全身がグッチャグチャ。いくら何でも早すぎる。それに22ちょっとの小娘も強すぎる…少なくとも100人以上いたのに外の連中は一体何していたんだ!?


 その頃…

「何なんだこのバケモノはぁ…!?」

「怯むな!」

「ウォー!!」

 シュッ…!

「無駄です…」

 グギッ…ボキッ…!

 幸人はまるで流れ作業のように次々と首をへし折っていく。

 バンバン!

「フゥッ!」

 焦って放たれた銃弾など彼にとって当たる方が難しい。そのまま音速の域で首をへし折っていく。

「所詮は女だ!殺れ!」

 4人の男が一斉に明美へ突進していく。彼女の刀が鞘走り

 シャキーン!…ズバッ…!!

 何と刀一振りで4人の首を真っ二つに!古刀並みに研がれているのではないか?完全再現はできないにしろ切れ味と威力は絶大だ。

 バンバンバーン!

「グバァッ!?」

 真美が特に秀でているのはチャカの腕前だ。一瞬にして男たちの急所を撃って次々と絶命させる。さっきまで奴の方が優勢だったのが一気に劣勢に傾く。執行人たちの前ではどんな敵が相手だろうと歯が立たない。最上階まであと2階まで迫ったとき

 バーン!

「フゥ…!」

 3人の前に現れたのはメルスとメース、さらに金城兄弟まで。これで3対4…

「こいつら(メルスとメース)は私に殺らせてもらう」

「なら僕は外道兄弟を相手しましょうか」

「真美は大城を」

「任せてください…」

「フン…なら追いてこい」

 金城兄弟は何故か幸人と真美の2人を大城が待つ最上階へと誘う。明美の戦闘場所はエレベーター前の廊下だ。

「知沙の仇、ちゃちゃっと取らせてもらうわね…」

 シャキーン!

「あの女のせいでこっちも大損害なんだ…お前を殺して、Rose Orangeごと奪う」

「執行人はここで終わる…今この場で死ぬんだからな!」

「終わるのはあんたたちよ…」


 珠水鳳凰 暗殺者 メルス&メース

 まずスタートを切ったのはメース。スカウトナイフは刀よりリーチが短い。それを見て彼女は何と刀を捨てた。

「何のつもりだぁー!?」

 刀を捨てたことに驚くがそれでもスピードを緩めずナイフを振り下ろす。

 バサッ…!

 奴のナイフは彼女の服を掠める。まるで肉に当たった感覚だが掠めたのは服のみ。だがメースは勘違いして何度も何度も斬りつける。

「剣がなくても私は全身が凶器よ…ハッ!」

 ドゴォン!

「ムグゥゥ…!?」

 何と一蹴りでメースの舌は完全に切れた…!

「もう喋らないでね…」

 ドスッ…!

「………!」

 声も出せずに力なく仰向けに倒れる。

「メース!?」

 叫ぶメルスをギロッと睨む。

「次はあなたね…どうしたの?殺ってみなよ…?」

 彼女の服はナイフで切れ落ちて天女が露に。メルスの目に映っているのは天女が迫っているようにしか見えなかった。

「畜生…!来るな!」

 バン!バン!バン!

 プロの殺し屋が銃を撃っているにも関わらず一発も彼女には当たらない。メースを瞬殺した光景を見て完全に手が震えている。段々と近付いてくる彼女目掛けフレイルを投げつけるが

「ハッ…!」

 シャキーン…!

「何…!?」

 何と刀を一瞬で拾って鎖ごとフレイルを真っ二つに!これで奴に得物はない。

「乱れた凶器などただの小道具よ…」

「来るな…!」

「ハァー!」

 ザシュッ!ザシュッ!

「グアァァーー!?」

「拷問開始…」

 両腕を切り落とされたメルスは彼女が持参していたロープで両足をロープで縛りつけて左足は柱に繋げ、右足のロープは彼女の手に。一体何をするのか?

 グチャッ…!!

「ガァー!!」

 何と股間にフレイルを思い切りぶつけて睾丸を粉々に…自分の得物で睾丸を潰されるのは筆舌にしがたいだろう。股間から血が止まらない。彼女はそのままロープをゆっくりと引っ張る…

 ミキキキ…!

 この拷問は引き裂き刑だ。

「本来なら牛や馬を使って引っ張るんだけど、生憎用意できなくてね…今回は私で代用」

 人間の力は牛ほど強くない分、痛みが長引いてむしろ苦痛だ。

「畜生…クソクソクソ…!俺が女なんかに!?殺られるわけねぇんだ…!」

「女を甘く見たようね?子供を生めるのは女しかいない…女ほど強い存在はいないのよ…と教えたところであんたの下半身はもう使えないわね?」

 彼女は腕に力を込めてまるで綱引きの号令のように

「そーれっそーれっ!」

 ミキキキキ…!!

「グアァァ…!やめろ…!やめ…」

 グチャ…!

 股がどんどんと裂けていく…

「ハァァーーー!」

 グチャァー…!!

 メルスの股はそのまま真っ二つに裂けた。何と彼女は人力で人間の脚をもぎ取ったのだ。メルスは想像を絶する痛みと出血多量で壮絶に死んだ。

「外道の下半身ほど汚いものはないわね…」


「大城…!」

「随分とお前たちには苔にされた…」

「お前を殺さなければ川崎さんも…知沙さんも浮かばれないわ…!お前が殺した女性たちの無念、晴らさせてもらうわ…」

「おっと待てよ…まだ私が握っているものを忘れるな」

「母さん…!?」

「幸人…!何で来たのよ?」

 身体の数箇所に釘が刺さった千草が人質か。

「貴様…!母さんに何をした!?」

 ブスッ…!

「イダァ…!」

「やめろ!」

 彼は痛めつけられた母を見て我慢できなくなりダッシュを切る。

「チィ…!」

「こうでもしないとお前は弱くならないからな…」

 金城兄弟が彼を大城のもとへ誘った理由とは目の前に痛めつけられた母を見せつけて弱体化させ、一気に執行人3人を仕向ける殺し屋に倒させるため。だが彼女は至って冷静に…

「残念だけど、可愛がってるメルスとメースは死んだようよ」

「何だと!?」

 一瞬の動揺の隙に彼女は奴が握るネイルガンを狙ってチャカを放つ!

 カチッ!

 少し手元が狂ったが弾丸はネイルガンに命中してガンを離らかした。彼はその隙を狙って急接近して母の手を掴むが…

 グサッ…!

「ゥ…!」

 何と無表情のまま息子の腹をナイフで刺す…

「ハハハハ…!やっぱり人の命が懸かると息子まで刺すか!?」

「やめなさい!」

 彼を助けようと動くが金城兄弟が猛スピードで接近。彼女一人でトップ暗殺者2名はキツすぎる。

「最初からそんなこと想定してたんだよ…これ見ろよ」

「…!?まだ人質を…!」

 見せられたスマホに映っているのは知沙に救われた白石佑美と娘のまどか。入院しているところを再び拉致、人質にされ、椅子に縛りつけられて男2人にナイフを突きつけられている。

「親の指切れ…」

 その声の直後佑美の指がナイフで切り落とされる!奴はインカムを使って手下に指示している…

「貴様何てことを…!?」

「だから言っただろ?女は子を生むだけの無価値な存在だと…やれ…」

 千草は拳を力いっぱい握り彼の顔面を…

 ドスッ…ドスッ…!

「ウゥッ…!」

 身体中釘を刺されているのに力に手加減が感じられない。このまま奴は母親に殴り殺される瞬間が見たいのだろうが、彼の首の強さともなればそうはいかない。段々と千草の方から力が抜けていく。

「幸人…いい加減倒れて…!お願い…!」

「おやおやどうした?このまま殺んなきゃ親子諸共死ぬぞ?」

「はぁ…はぁ…!(どうなってんのよ…倒れないなんて…!)」

 殴る度に釘が食い込んでいく。やがて

 ドテッ…

「諦めてください…僕を倒すなんて無理なことです。それでも殺したいなら、僕は親にも逆らいます…」

 その台詞を吐き捨てると強烈な殺意ある視線を送った。

「ひぃ…」

「どうした?殺せないのか?」

 息子に殺されるかもしれない恐怖で千草の手が止まる。だが

「僕が全て終わらせます…全て終わったら僕と一緒に暮らす。それが、母さんへの宣告です…じゃなきゃ母さんの罪は償えませんから…よって判決は有罪…!」

「…?(言ってることはサッパリなのに…何か意味が不思議とわかる…)」

「いつまで会話してんだ…なら2人共死んでくれ…」

 痺れを切らした大城は千草の頭部を狙って弾丸を放つ。

 バーン!

「フゥ…!!」

「幸人…!?」

 何と彼は弾丸を自分の前腕で受け止める!さらに弾丸が貫通していない状態だ!

「何のつもりだぁ…?」

「お互いフェアにしないと、対等じゃない勝負になるんでね…」

 彼が送った視線の先は

 キンキンキーン…!ザシュ…!

「ギィィ…!」

 それは必死で金城兄弟に対抗している真美だ。だが彼女もやられてるだけじゃなく、明美に叩き込まれた戦闘力は奴らにも通じ、ダメージを与えていた。

「母さん…少し待っててください…」

 そうして彼は金城兄弟に急接近して渾身のドロップキック!その一撃は翼に命中した。

「何男2人で女性を攻撃してるんですか?ここは男同士殺り合いましょうよ?」

「フン…お前はいくら殺しても俺のイライラは収まらない…」

「なら兄さん…コイツを殺してから女殺っちゃおうぜ」

「申し遅れましたが、僕はRedEYEの水瀬幸人です…」

「何だと…!?」

 その言葉を聞いて奴らは急に青ざめた。そもそもRedEYEとは珠水鳳凰に匹敵する力を持つ暗殺者組織のことで、彼の場合直接属してはいないが、請負という形で暗殺任務をこなしている。それでも奴らは負けじと

「RedEYEだかRose Orangeだか関係ない!」

「俺たちはカオレインズのトップ暗殺者だ!」

「真美さんは奴をお願いします…この兄弟は僕が壮絶な痛みと苦しみを与え、殺します…」

 彼は永久凍土よりも冷たい目で金城兄弟を見詰める。その目で見詰められるだけで素人なら凍ってしまう。

「だが忘れるなよ?私たちには…何!?」

 大城は人質の映像を見せようとしたが先に確認し、そこに映っていたのは何と

「僕たちが想定していないとでも…?」

 監禁していた2人の男は縦半分に一刀両断され、そして明美が監視カメラに向かって刃を突き立てているのだ。彼女によって白石親子は無事救出され、切断された佑美の指に至っては玲乃の腕にかかればくっ付くだろう。ご丁寧に葉琉州ヒルズの建物内に人質を監禁なんかしたら、バレるのは時間の問題であることを考えなかったのだろうか?

「これでお前を守る護衛ちゃんは誰もいなくなった…外道兄弟もここで死ぬ…」

「クソが…!こうなったら…」

 バンバン!

 奴は真美目掛けて銃を撃っても戦闘者じゃない素人が当てられるはずもなく

 カチ…カチ…

 弾切れを起こし彼女がゆっくりと近付いてくる。

「やめろ…来るな…!来るな…!」

 奴は金城兄弟と幸人を見る余裕もなく下の階下の階へと降りていく。逃げたところで命のタイムリミットは延びるはずもない…

「大城さん!」

「もうやるしかねぇよ!所詮強敵は水瀬幸人だけだ!」

 シャキン…!

 翼は二刀流を抜き、悠羽は殺人級の拳に鋭いメリケンサックを填める。彼の右腕は弾丸が貫通しておらず、母に殴られ続けた顔面は左目が腫れていてほぼ片目状態。明らかに不利だ。だが…格の違いをその身体に教えてあげましょう…


 珠水鳳凰 トップ暗殺者 金城翼&金城悠羽

 バサ…

 彼は上半身を脱ぐと、凄まじいミミズ腫れと縫い跡が明らかになる。腹部の傷はナイフで刺され、さらにヒールでグリグリと踏みつけられた傷だ。

「来いよ…」

「ウワァー!!」

 傷だらけの身体を見せたのは奴らへの挑発。翼がまず刺した同じ箇所目掛け二刀流を突き立てた。だが彼は冷静に刀の隙間を縫うように

 ドスッ…

「グブゥ…!?」

「フゥ…!!」

 バーン…!

「兄さん!?貴様ァ…!」

 メリケンを力いっぱい握って放った拳は彼の撃たれた右腕に当たる。

「ウ…!」

 弾丸の痛みとメリケンが刺さる痛みに彼の表情が歪む。

「何…!?」

 だが倒れない彼にまた恐怖して悠羽はただ突っ立っているだけ…そのまま

 ゴツン…!!

「ギャァァァ!!?(何て威力だ…!?)」

 手負い状態で圧倒される奴らは傷ついた自尊心、そして焦りと恐怖で剣が乱れる。

「悠羽…!クソ…死ねぇーー!!」

 グサッ…!ポトポト…!

「ヌゥ…!」

 彼は刀を左の手の平で受け止める。

「幸人…!?」

 ポトポト…ポトポト…!

「何…抜けない…!」

 手の平に食い込んでいるのか彼の握力なのか、突き刺さった刀はビクともせず抜けない…

「なら脚貰うぜ…!」

 奴は左腕に握った刀で脚を狙って横薙ぎに振るう!だが

 パキンッ…!

 彼の靴の爪先は安全靴仕様で鉄板が入っている。乱れた刀で斬り掛かっても彼の蹴りで切っ先が折れた。動揺する隙を狙って左手に刺さった刀を抜き、折れた刀を奪うと奴の腹に突き刺す!

 グサッ!

「アギャァーーー…!」

「兄さん…!」

 折れた刀で刺したのは致命傷を避けるためだ。悠羽は力を振り絞って殴り掛かるも…

 ブスッ…!

「兄…さん…!」

「カァ…!!」

 親指と小指で両眼球を突き刺す。まるで人間じゃない行動を見て悠羽の足は完全に止まり、もはやその光景を見ることしかできない…これは彼の必殺技。両眼球脳みそ潰しの極みだ!

「フゥ…!!」

 前腕が隆起する握り潰しにより…

 グチャ…!!!

 まるで爆発を起こしたかのように金城翼の頭は頭蓋骨ごと弾け飛んだ…!

 バタン…

「クソ…どうして俺たちが…こんな男に…!!」

「この力は知沙さんに真美さん…多くの方が僕にくれた力。それが水瀬幸人の力だ…」

「クソが…!ウワァーー!」

 ドスッ…!

「グヌゥゥ…!」

「折角だ…最後は拷問で死にましょうか?」

 周囲に何か拷問に使えるものがないかと探していると、拷問にピッタリのものが…

「タイヤにガソリン…これいいですね…?」

 葉琉州ヒルズはまだ建設中だがゴム製のタイヤとガソリンがあったのは、おそらくカー用品を販売する会社を設立するためだったのだろう。

「幸人…」

「母さんは見ない方がいい…少しだけ待っててください」

 彼はそう言うと奴の首根っこを掴んで拷問するステージを映した。隣の部屋なら飛び火しそうな物は見当たらない。ならここだ。

「貴様…殺してや…」

 ザシュ…

「ギャァァァ!!」

「抵抗できないお前に何ができる…?」

 奴の両腕の筋と両足のアキレス腱を切断。これで抵抗できる術はない…

「イデェよ…!!タイヤで何…すんだ…!?」

 すると何故か彼は自分の首にかかるネックレスを見せ

「このネックレス…知沙さんから貰ったんですけど、似合いますか…?」

「何わけわかんねぇこと言ってんだ…」

「似合うのかと聞いてんだ…!」

 ドスッ…

「ガァー!!」

「お前はタイヤネックレスしか似合わねぇ外道だ…」

 バコッ…ビチャビチャ…!

「うわッ…!何だこれガソリンか…!?」

 彼はポケットから知沙が吸っていたタバコを咥えて火を点ける。本来非喫煙者の彼だが、何をするつもりだ?

 スゥ…ハァ〜…

「やっぱりタバコはクラッときますねぇ…」

 確かにヤニクラを起こしているが少しオーバーだ。

「おい…まさか…!?」

「あれれ…?なぁんか」

 パッ…

「あっ落とした…」

 手から離れたタバコはタイヤに落ちていく。そのまま…

 ボオォォォー!!

「ギャァァァーーー!!!」

 タイヤネックレスとは罪人の首にタイヤをかけ、ガソリンをぶち撒けた後火を点けるだけのシンプルな拷問。だが恐ろしいのはここからだ…

 ドロドロ…!

 溶けたタイヤが首に纏わりつき、タイヤと首が一体化するように焼かれる分苦しみが増す。

「あらら?化け物になっちゃいましたか…」

「カ…カ…」

 タイヤネックレスは首と同時に声帯を焼き尽くす。おそらく「助けてくれ」と訴えているだろうが、声が出ないため彼には届かない…そして

 バタンッ…

 金城悠羽は20分タイヤネックレスで焼かれ続け、最後は人間じゃない醜い姿で壮絶死した。

「終わったか…」

 携帯を開くと真美の方も終了報告が来ていた。どうやら大城は食い散らかされたらしい。

「幸人…」

「母さん…」

 母は片足を引き摺りながら部屋に辿り着いていた。幸いタイヤネックレスの瞬間は見ていない。

 バタンッ…

「母さん…!」

 彼は倒れ込む母にダッシュで駆け寄る。

「母さん…!」

「私…私…ママのくせに酷いことばかりして…ごめんなさい…!本当にごめんなさい…!」

「いいんです…」

「なのに…何で幸人は…一緒に暮らすだけで許してくれるの?」

「執行人であるのは僕も同じです…僕と一緒に暮らすことが有罪判決、これは僕が与えるとても重い罪になります…」

「幸人…!!」

 母は息子のとても優しい言葉を受けて泣き崩れる。そんな彼も泣きながらだが、必死に笑顔を作っている。私は息子を捨てて傷つけた最低な母親なのに…何で私から生まれた子がこんなに良い息子に育つの?それに一緒に暮らすことが息子からの有罪判決なんて…!どこまで優しいの…!

「それと母さん…今日だけ、今日だけでいいですから…親子であることを忘れちゃダメですか…?」

 それはつまりどういうことだろうか?親子であることを忘れることは一つしかない。

「私も忘れたい…ママもずっとしてみたかったの…」

 2人は目を閉じると、お互いの唇を近付け…

 チュ…チュ…チュ…

 遂に親子同士で唇を重ね合わせた…それも息ができないくらいの勢いで、それくらい2人は親子の壁を越えたかったのだろう。

「フフ…甘酸っぱいんだね…」

 何と真美と同じコメントを述べた。

「さぁッ!その前に病院です…!」

「もぉ~!」

 唇にキスをしたがやはり恥ずかしいようだ。

「掴まっててください」

「明美たちは?」

「心配ないです…」

 母をお姫様抱っこして取り敢えずは病院へ。だがこれで珠水鳳凰は完全に壊滅した。金城兄弟にメルス&メース、そして黒幕である大城四紋の死…大城はどんな殺され方だったのだろうか?その答えは…


 ドスッ…ドスッ…!

「貴様…!女ごとき…グワァー…!!」

「女ごとき…?どうよ?嫌いな女に殴られる感覚は…?」

 大城は明美と真美によってRose Orangeが所有する拷問部屋に運ばれ、真美に顔がパンパンになるまで殴られていた。ようやく明かすと言っては何だが、奴が極度のミソジニストである理由は、学生時代から社会人時代まで好意を寄せていた女性にフラれ続けたことによるものだった。確かに恋愛はドラマのようにうまくいくものではなく、諦められない気持ちを経験した人もいるだろう。それなのに女性を一方的に嫌い、無差別に殺し続けた大城四紋の罪は重い…すると

「真美…メインディッシュがようやく用意できたわ…お腹ペコペコで本当大変なんだから?」

 お腹ペコペコ?明美が腹を空かしているのか?その答えは違う…

「お前は罪のない女の子を殺し続けた…よって女の子に殺されろ…」

 すると明美はレバーを下げる。

 ブヒ〜!ブヒ〜!

 何と現れたのは大きな鳴き声を轟かせた4匹の豚。

「豚だと…!?舐めてんのか…!?」

「ちなみにね…この豚ちゃんは女の子…メスね…」

「メス豚だと…?それがどうし…ウッ…!?」

 4匹の豚は奴を鋭い視線で見詰める。放たれてすぐは警戒していた豚だが、傷だらけの奴を見て一斉に

 ドッドッドッ…!

 物凄いスピードで接近してそのまま…

 ガブッ…ムシャムシャ…!ムシャムシャ…!!

「ギャァァァ…!!やめろ…メス豚ごときが…私に触れ…ギャァァァ…!!!」

「豚ちゃんは数日餌を与えるの忘れちゃったからお腹ペコペコなの…数日ぶりのご馳走だから悪いわね…?」

 豚は可愛らしい見た目と愛嬌から勘違いされがちだが、豚は正真正銘の雑食性だ。先祖が猪なだけあり、腹が減れば何でも食べる。ものの数分で奴の身体はグチャグチャに食い散らかされる…アメリカでは実際養豚所を営む男性が持病により倒れ、家畜にしていた豚に身体のほとんどを食われたという痛ましい事件も存在するくらいだ。

「クソが…私が…メス豚なんぞに…!」

 ムシャムシャ…!ムシャムシャ…!

「ギャァァァ!!!」

 豚は一切衰えない勢いで大城四紋の身体を食い尽くした。最後はほんの少しの手足と毛髪のみが残る…豚たちはご馳走に満足したのか動きが少しだけゆったりになる。

「またお腹空いたら食べるでしょ…」

 既に失われた骸を見る真美の表情は晴れた感じがない。

「これが知沙さんと皆の怒りよ…!」

 大城四紋の死は彼女にとって最後の戦いになるのだろうか?

「真美…」

「明美さん…!」

 ギュッ…

「よくやったわ…これで珠水鳳凰は壊滅よ。あなたの脅威になる者はいない」

「明美さんに知沙さん…幸人のおかげです。私は助けられてばっかです…」

「そんなこと言うなら、私だって真美に助けられたことあるわ…」

「えっ…?」

「あなたが強くなったことで、私自身も強くなれたの…じゃなきゃあいつらに勝てなかったわ…」

 神戸真美は確かにクズ旦那に散策殴られたりとクソみたいな人生を過ごしていた。だが明美や知沙、幸人との出会いは彼女の人生を大きく変え、明美自身も自己成長した。遠回りはしたが、人と人との絆を証明できたのだ。

「………」

 再び大城の骸を眺めると跡形もなく食い尽くされていた。彼女の心は社会復帰するか、Rose Orangeに尽くし続けるか、やはり本心は悩んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ