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EPISODE14 知沙…

 翌朝。幸人と知沙が監禁された部屋に2人の執行人が新たに収監された。

 ガシャン!

「明美さん!?真美ちゃんも…?」

「すいません…やられちゃいました」

「何で男一人かな?また快楽沼に落とそっか…?」

「もう快楽拷問は懲り懲りです…」

 快楽沼と聞いて意気消沈する彼。数日経っているのにこの様子ならまだトラウマが消えないのだろう。何人もの女性と性行為したのに性病に罹っていないのはかなり運良いが…

「冗談よ…それに問題は監禁されている女の子たちよ」

「やっぱりあれを見たんですか?」

「ええ…しかもカプセルが溶ける瞬間もね…」

「わざわざ私たちをそんな近くまで連れてきたのは余程の目的があるはずです…むしろ好都合かもしれないわね」

「私一人じゃとても数十人を助け出すことは無理だわ…それに奴の手にスイッチがある以上迂闊に動けない…」

「僕たち4人にはカプセルが埋められていない…わざわざ僕たちを生かすことが奴に何のメリットが?」

 腕時計の時刻は4時を示しているが携帯がないため朝なのか夕方なのか把握できない。感覚的に女性たちが監禁されている場所がすぐ近くにあることはわかる。厳しい監視の中この状況をどう切り抜ける?4人の執行人は一気に頭をパンクさせる。4人を集めたのには大きな理由があるはず、コールが来るまで取り敢えず待つしかないか?そんなとき

 コツ…コツ…

「どうしたの?」

 ギュッ…!

「なぁに私をママみたいに抱いてるの?まぁよしよし…」

 真美は何故か知沙をギュッと抱き締めた。知沙も娘を抱っこするような感覚になって頭をなでなでする。

「知沙さんが…亡くなったママに見えて」

 知沙と明美は母親を経験している。どこか共通する包容力がやはりあるのだろう。

「てか…まさか川崎さんが私のお兄ちゃんだったなんてぇ…何かここ数日で一番の驚きです…」

「真美さんもお気付きなんですね?」

「知ってんなら教えてくれてよかったでしょ…」

 幸人と明美は知っているが知沙は知らなかった。

「川崎さんが身を挺して探していた理由は妹さんであるあなたを助けたかったんです」

「確かにどうしてそこまでって思ったわ」

「全てが決着したらお兄さんはまた一緒に働こうって言っています。悪くない話じゃないですか?」

 既に何人も殺している自分が社会復帰できるとはやはり考えられない。

「真美は一番若い。悪いことは言わないわ…私という水槽から離れた方がいい。知沙も幸人君と結婚すれば水槽から脱出よ」

 知沙の場合社会復帰は難しいかもしれないが、Rose Orangeで得た報酬が数十年暮らしていけるだけの金額はある。さらに幸人の貯金も合わせれば明美から離れても問題はない。だが

「私は死ぬまでRose Orangeに尽くします」

「知沙さん…」

「私は執行人でいることでしか自分を表現できない…それに翔星の顔も浮かばれないの」

 やはり自分だけ幸せになるわけにはいかないようだ。執行人として命を奪い続けることは即ち、いつ破滅するかわからない選択だ。

「フン…流石私が見込んだ良い女ね」

「幸人君…だから私…?」

「この匂い…?んん……」

 バタン…

 匂いを気にする暇もなく4人は一斉に倒れた。そして煙が完全に換気された瞬間

「運び出すぞ…」


 同刻。すぐ近くに監禁されている母親と娘(EPISODE12参照)は監禁されて数日経ち、来ないかもしれない助けをずっと待ち続けている。数日も経てば女性が亡くなる瞬間を何度見たことか数えられない。まだ5歳のまどかにとって人が亡くなる瞬間はもう耐えられない。そんなとき

 ワーーー!!

「…?何かしら…?」

 突然外?が騒がしくなった。これまで外からの音なんか全く聞こえなかったのに急に歓声?が聞こえてくるのはおかしい。

 バッ!

 さらに暗かった部屋が一気に明るくなり

「眩し…!ぇ…キャアッー…!?」

 足元を見た瞬間女性は一斉に絶叫した。何故ならずっと監禁されていた部屋は床天井壁含め東京タワーにある床のように全てガラス張りで、真下が闘技場のリングに観客席があったからだ。一部の女性は足裏に伝わる感覚がコンクリートとは違うと気付いていたが、暗くて考える余地もなかったみたいだ。紹介が遅れたが母親の名前は白石佑美(26)、娘は白石まどか(5)。

「ママあれ…」

「何あれ…?」

 真下に見えるのは4人の女性…いや一人だけ男性がいる。まさかこの人たちが女性を助けるヒーローなの?

 ドンドン…ドンドン…!

「ここよー!助けてぇーー!!」

 地面から約10m以上、大体ビルの4階分くらい高さがあってさらに強化ガラスで張られている。弱りきった声では幸人たちに聞こえるはずもない。それだけでなく中から外の様子は見えるのだが、幸人たちからは中が見えない。要するにマジックミラーだ。そして彼女たちは


「金持ってんなら世の中良くしなよ…」

「金の出どころが謎すぎますね…」

 4人は同時に拘束を解かれてリングの中へ。状況を見るに順番に敵ファイターと戦わされるのだろう?彼女たちを超えるファイターなどいるのだろうか?

「ようやく会えて光栄だよ…千草の息子、いや警察の皮を被った殺人鬼か?」

「大城四紋…あんたのことは調べついてます…何でも相当なミソジニストなんだとか…」

「女なんて所詮子供生むだけで無価値な存在だ。女ほど醜いものはないしな」

「その割に母さんを気に入ってるようだな…さぁ、お前の目的を言え…」

 幸人と明美は完全に戦闘体勢。2人同時に殴り掛かれば瞬殺できるがポケットの膨らみを見るにおそらくスイッチを隠している。万が一スイッチじゃなく別の物だとしても中身がわからなければ迂闊に動けない。

「おっと動くなよ!これを見ろ」

 奴はスマホを操作すると突然巨大モニターにあるものが映る。それは

「これは!?」

 カプセルを埋められているであろう30人近い女性たち。生きている者で正確には29人。カメラに向かってドア?を叩き続け、口の動きを見るに「助けて!」と叫んでいるのはわかるがモニターは完全に無音で何も聞こえてこない。

「やめろ!」

 カチッ…

「コイツ何てことを…!?」

 カメラに向かって叩き続けていた女性の体内のカプセルが溶ける!血反吐を吐いて苦しむ…

「女を助けたければ言うことに従え…」

「言っておきますが、僕に勝てる奴はいない…お前がどんな敵を寄越そうが無駄だ…」

「それはどうかな?今ここにいる4人がお互いに敵だとしてもかな?」

「どういう意味よ…」

「お前たち4人が殺し合う…最高の殺人ショーを見せてもらう…!」

 ウォーーー!!

「殺し合い…!?」

 悪趣味な政治家や権力者が大歓声を上げている。今から行われる4人の戦士たちの殺し合い。興奮しないはずがない。

「さあ早速誰から行くか決めてもらおうか?」

「ふざけないで!誰が殺し合いなんてやるかよ!?」

「おぉ~いいのか?逆らうならまた押しちゃうぞ?」

 カチッ…

「やめろ!」

「あぁ~押しちゃった…従わないなら女はゴミのように死ぬぞ?」

 すると知沙が

「わかった…あんたらの望み通り殺し合うわ…けど、約束は守ってもらう…」

「知沙さん…!」

「正気?」

「いつか大切なものを失う覚悟はしていた…それが今日、少し早かっただけの話よ…」

「良い覚悟のようだな?」

 本当に殺し合うしかないのか?だが奴は本気だ。このまま言う通りにしなければ全員殺されてしまう!知沙の覚悟を受け止めた幸人が続いて

「わかりました…皆さん、僕は女性が相手だからって手加減しません…全力をぶつけさせていただきます!」

「なら私は幸人君と殺らせてもらうわ…ずっと決着つけたかったのよねぇ!」

「真美ちゃん、あなたの相手は私よ」

「そんな…本当に殺し合うなんて…!?」

 こうして最初の戦いは真美VS知沙。幸人VS明美に決まった。だが4人は臨戦態勢のまま必死で頭を回転させる。それはどこに女性たちが監禁されているかだ。

「(カメラ目線で叩いてるってことは僕たちの様子を見ているはず…一体どこだ?)」

「じゃあ私たちから行きます…真美ちゃん」

「………」

 最初に戦うのは真美と知沙。あとの2人は一旦引っ込み戦うまでの間必死で策を練る。

「私と明美さんが教えたこと…存分に発揮しなさい!」

 とはいっても真美が鍛えた期間は1ヶ月も経っていない。長年経験を積んでいる知沙が相手でも、今はやるしかない。

「やぁー!」

 まだ遅いが必死の踏み込みで接近する。そのまま顔面に全体重を乗せてパンチ!だが尊敬する人を前にして力が出せていないのか知沙の表情は一切変わらなかった。

「甘いわね…」

 ドスッ…!

「ギイィ…!?(何このパンチ…身体が動かない…!)」

 知沙の戦闘力を見てずっと凄いと思っていたが身体中に受け続けて凄みから恐怖に変わる。真美は手も足も出ず一方的に殴られ、顔はパンパンになる寸前。それでも知沙は急所を外しながら瀕死程度になるまで力を加減する。

「なるべく息を止めて動かないで…」

 知沙は小さく呟いた。この言葉を聞いて本当は殺すつもりじゃないことを悟る。息を止めろと言われても気を失えばそれどころではなかったが

「さあこの勝負は私の勝ちよ…これで文句ないかしら?」

 首根っこを掴んで真美の抜け殻状態を見せた。

「流石の強さだ…フンッいいだろう…」

 知沙は真美を引き摺ったままリングから降りた。すると真美がしているネックレスからリングのスポットライトが一瞬反射して10m以上あるガラス?のような所に当たり

「ん…?(今の足…?)」

 人間の手足らしきものが見えた。ほんの一瞬なので見間違いか?だが彼女の視力は裸眼で両目とも2.0とかなり良い。それにガラスの方に視線を向けた瞬間モニターに映る表情に変化がある。ずっと見続けているのがバレたらマズいかもしれない…

「次は私たちね…」

「はい…いつかあんたとは決着をつけてみたかった…叶うなんて燃えてきます…!」

 お互い敵を見る目で睨み合っているがどこか考え合っている。モニターに女性が映っているのは一目瞭然だが背景がどうもおかしい。何人もの女性が壁を叩いているのでわずかしか見えないが後ろに見えるのは一体何だ?すると

 ビューン!

「…!?」

「悠長にしてる場合じゃないわよ…」

 まるで弾丸のように飛んでくる手刀。初めてぶつかり合う元公安の強者と天女のような執行人。

「フゥ…!」

 彼はサイドステップで回避し、そのまま足元を狙って豪快なローキック。

「ハッ…!」

 まるで猛獣同士が殴り合っている光景に知沙も息を呑む。明美の細い身体からは想像もつかないスピードとパワー。最強同士の殺し合いならお互い無傷でいれるはずもなく、戦いから数分で血を流す。

「やりますね…」

「怪物から生まれた子供はやはり怪物ね…」

「僕は怪物じゃない…護り人だ!!」

「ハァーー!」

 ドスッ!

「グブゥ…!」

「ヴゥ…!」

「流石強者同士の戦い…こうでなくっちゃな!」

 満身創痍の幸人と明美。彼には秘策があった。明美との戦いが決まった時点で無傷ではいられない、もしくは瀕死状態になることを想定し、それでも何とか彼女に勝利して最後は知沙に勝たせるという作戦だ。やがて

 ドテッ…

 明美は遂に膝をついた。

「流石…千草の息子ね…」

「さぁこの勝負は僕の勝ちです!これで残るは僕と知沙さんだけだ!」

「まあその女は死んでないが…まぁいいだろう。後で痛ぶるのも悪くないしな…」

 これで幸人VS明美の戦いは幸人の勝利。残るは幸人と知沙の婚約している者同士。すると彼は明美に

「知沙さんに勝たせます…それに」

 実は知沙から一瞬の隙にメモを渡されていた。その内容が

「あのガラスに何かある」

 メモを見た明美も小声で

「多分あの中に人質がいるわ…」

 だが高さ10m以上、もし人質がいるならあの高さからどうやって救出する?知沙を見ると口元の動きのみで何とか

「私を信じて…」


 グゥ〜…

 監禁された女性たちは空腹で壁を叩く気力すらなくなってくる。

「何で聞こえないのよ…?お願い助けて…!もう限界…!」

「私も無理…」

 全員が諦めかけたそのとき

「ねぇ…あの女の人」

「さっきからチラチラ私たちの方見てるね…」

 見てるから何だって?どうせ声が聞こえていないんだから結局意味がない。

「でも待ってよ…もしかしたら私たちに気付いてるんじゃないの!?」

 すると知沙?と呼ばれていた女性が手話を送る。

「何て伝えてるの?」

「もう少し待ってて…みたいです」

 幸い一人の女性が手話を理解できる人だった。その下では


「悪く思わないでね幸人君…初めて会ったときは後ろ取られたけど、もうあのときの私じゃないわ…」

「僕も恋人にあっさりやられるほど甘くありません…」

 知沙はほぼ無傷に対して幸人は満身創痍。無傷で戦い合ったら彼の方に軍配が上がるが、彼はもう負けることしか頭にないのだろう。彼も上にあるガラスに人質がいることに確証を持っているが、彼女ほど頭の回転が早いわけではない。

「(奴の周りには護衛が何人もいる…スーツ姿に軍服…計画がバレたらマズい…)」

「(何とか奴からスイッチを奪う…そうすればこっちにも勝機があるか?)」

「さあ覚悟しなさい…先に翔星のもとに行くのが幸人君なんてね…悪いけど、許して…ね!」

 先に攻撃を仕掛けたのは彼女。彼も迎撃の体勢を取って拳を横薙ぎにするが

 ポトポト…

「あっ…」

 ドスッ!

 動きが鈍った彼は婚約者の攻撃を諸に受ける。彼女にとって快楽拷問以外でダメージを与えたのは初めてだ。

「(どうにか奴の気を逸らしてスイッチを奪う…)」

 数発打撃でダメージを与え続けて取っ組み合いの体勢になり

「私が合図したらコインを奴に投げて…」

「………(そうか…それでスイッチを奪えば)」

「(危険な賭けになるけどこうするしかない!)」

 そのまま彼は仰向けに倒れる。

 ガシッ…ミキキキ…!

 彼女は「苦しい」の幻聴を振り切って彼の首を絞め続ける。そして少しずつ力を抜いていき…勝敗がどちらになるか明確になった頃

「今よ…!」

「…はい!」

 チリーン…!

 彼は指弾でコインを弾き飛ばす!飛ばした先は

 ブチッ!

「痛てっ!?何だちくしょう…」

 コインが当たったことにより奴は警戒する。そして両隣にいた護衛が確かめようと前に出た瞬間!

 ザシュー!

「何っ!?」

 何とこっそり刀を回収した明美が護衛の2人を一刀両断!そして動揺する奴の腕を蹴り上げてスイッチをガシッと掴む。

 シャキン!

「クソが!メルス!メース!」

「フッ…!邪魔者が入ったわね…まあいいわ大城四紋!あんたはこの場で殺すより壮絶死させる」

 明美はスイッチを守ったまま刀を構える。それと同時、反乱に気付いた護衛らが幸人と知沙に向かって銃を乱射!

「幸人君…!」

 彼女は弱りきった彼を引っ張って銃撃を回避。

「あとはどうやってあれを落とすかよ…」

「知沙さんには敵いません…」

「強いくせしてよく言うわよ…!」

 幸いにも護衛らは接近しながら銃をひたすら撃ってくる。自分から命を削りに行っている自覚がないのか…当然撃ち続けていればリロードをする。

 ビューン…

「何!?」

 一人は幸人に脳みそごと頭を潰され、もう一人は知沙の金的で両睾丸を破裂されて壮絶死。そうして奴らの装備からチャカと手榴弾を奪い、ガラスの方へ目線を向けた瞬間!

 スーン…

「…!?」

「なぁにやろうとしてんのぉ?」

「…チィ…!?」

 ザシュー…!

「ヴゥゥーー…!!」

 何と後ろから気配なく現れたのは二刀流の使い手、金城翼。そして

「おっとやらせないよぉ?」

 ドスッ…!

「ギイィ…!!」

 ずっと無傷だった彼女が遂にダメージを負う。それも右胸に八極拳だ。

「何者だ…」

「あいつらは金城兄弟よ!」

「トップ暗殺者の双子ちゃんか…(マズい…知沙さんなら大丈夫でも僕は限界に近い…何とか退かなければ!)」

 思わず周囲を見たが真美は完全に戦意喪失状態。明美はメルス&メースと交戦中。

 彼は痛みで震える脚を抑えて拳を構える。

「さあ来い…外道兄弟!」

「おや兄さん…この状態でもやれるようだね…」

「外道兄弟ね…君も殺人鬼ですよねぇー!」

 翼は二刀流、悠羽は素手か…とことん相手の土俵で戦うのが幸人スタイルだ!

「もう良いタイミングなので死んでもらおっかぁー!」

「…ゥゥ!」

 知沙がいるとはいえいくら彼でも満身創痍状態でトップ暗殺者2人を相手にするのは自殺行為だ。斬られたばかりの背中に灼熱の痛みが走る。

「このジャケット気に入ってたんですよ…命で弁償してもらいましょうかぁ!」

 彼は痛みを無視して2人に突っ込む!柔術で二刀流の攻撃をガードしながら攻撃の手を緩めないが、無傷のトップ暗殺者相手には分が悪すぎる。やがて

 ザシュ…ザシュ…

 彼の肉体は段々削ぎ落とされていく…知沙は

「グブゥ…!」

 今回は一切手加減のない打撃が彼女を襲う。そして

 ドスッ!ザシュ…!

「ウゥ…!!」

 明美も満身創痍でメルスとメースを同時に相手している状況は流石に不利だ。流血し続ける身体から徐々に戦意が奪われていく。それでもスイッチを離さず

「やっと本気出したわね…?」

 すると彼女は上半身を脱いで刻まれた天女を露わに。

「私の中の天女に、あなたたちが敵うかしら…?」

「ほざけ…強気でいられんのも今の内だ!」

 キン!キン…!

 凄まじい八極拳を受け続けた知沙の内臓がグチャグチャになる。さらに

「腕もらっちゃうよぉ〜」

 悠羽は隠し持っていたロングナイフで彼女の右腕を

 ザシュー…!!

「ガァァァーー…!!(マズい…このままじゃ…!)」

「知沙さんッ…!?貴様ァーー!」

「おっと無駄だよ…」

 グサッ!

「カァ…!」

 奴の刀が容赦なく彼の腹部に突き刺さる…限界を迎えた彼は仰向けに倒れ…

「はぁ…はぁ…クソォ゙…!」

「幸人君…!」

 彼女も激痛に耐えられずリングに倒れ込む。明美の方もボロボロだが意地でもスイッチを離さない。

「幸人…」

 すると彼に近付いてきたのは翼ではなく何故か母だ。

「母さん…どうして…?」

「千草…!?」

 千草の姿に気を取られた明美が一瞬余所見をした隙に

「お前も死ね…」

「ヌゥ…!?」

 グシャッ!!

 メルスのフレイルが彼女の頭部に直撃!この一撃に彼女の手から刀とスイッチが離れていく。スイッチを回収した大城はおもむろに彼と千草に近付き…

「結局無駄だったようだな…執行人さんたち」

「大城…!」

「折角頑張ってスイッチ奪ったのになぁ…今どんな気分だ?」

「貴様…!」

 彼が最後の気力を振り絞って立ち上がろうとした瞬間…!

 グサッ…!

「ガァァ…!ウゥ…!ウワァ…!!?」

 何と千草は息子の腹部、それも刀で刺された箇所をヒールの踵で踏みつける!

 グリ…!グリ…!

 容赦なく抉られる痛みに意識を手放しそうになる。彼は必死で脚を離らかそうとするが傷口に踵が食い込む!

「やめなさい…!」

 バン!

「ウヴゥ…!」

「母親に捨てられて目の前で婚約者が死ぬ…素晴らしいくらい絶望的だ…ハハハ…!ハハハハハ!」

「ごめんね幸人…こうするしかないの…」

 虫の息状態の息子に向かって千草は

「でも…幸人のこと本当に愛してるよ…!せめてこれだけはさせて…」

 チュ…

 何と踏みつけたまま彼の首筋に濃厚なキスで吸いつき、酷く濃いキスマークを残す。これが死の刻印とでも言うのか?右腕を切断され、さらに腹部に銃創を受けた知沙は痛みと悔しさで目を閉じた…


「ママ見て!」

 毎日バスケットボールの練習に励む小3の翔星。初めてスリーポイントシュートを練習試合で決めた翌日、母に格好良いところを見せようとバスケコートに呼び出した。そしてバスケットボールをゴールに目掛けて投げた…

 ドンッ…トン…トン…

「あれ…昨日は入ったのに…」

 格好良いところを見せたかったのにギリギリゴールに入らなかった。すると

「惜しいね…でも今投げたボールが次のゴールに繋がるんだよ!」

「俺…ママに格好良いとこ見せたかったのに…」

「誰だって最初からうまくできるわけないじゃん?翔星は今この瞬間瞬間が成長なの!躓いて失敗して、頑張りすぎるからさ、いつだって翔星は格好良いのよ!」

「俺って格好良いの?」

「当たり前じゃん!宇宙一格好良いわ!勿論ママも一番綺麗よね?」

「フフ…えぇ~咲楽の方が綺麗かも!」

「何〜…言ったなぁ〜そう言っちゃう翔星にはママのお仕置きだぞぉ〜!」

「ハハハッ!逃げろぉ〜」

「待てぇ〜!」

 これは臨死体験なのか?だがあまりにも翔星の顔がハッキリ見える。過去に経験した内容と全く同じ。愛する我が子との日々を忘れるはずがない。

「はぁ…はぁ…翔星は足速いね!よしッ、そろそろお腹空いたでしょ?今日の晩御飯はお肉いっぱいよ!」

「本当に?ヤッター!早く食べたい!」

「帰ろっか!」

 私が帰る場所って土なのかな?本当は誰かに看取られながら逝きたいな…全てを諦めかけたそのとき

「知沙…さん…知沙さん…知沙さん…!」

 自分に必死で呼び掛ける声に気付いて慌てて目を開ける。

「知沙さん…!」

「真美ちゃん!?幸人君…!」

 何と死にかけていた幸人が立ち上がり、さらに目も腫れた真美が必死で金城兄弟に抵抗していた。どうやら真美が千草に体当たりして離らかせたようだ。明美もギリギリだが戦えている。チャンスは今しかない!

「(翔星…ママに力を貸して!)ウワァーー!!」

 知沙はガラスに向かい左手で

「掴まってと皆に伝えて!」

 必死の手話が伝わり

「しっかり掴まって!」

 彼女は護衛から奪い取った手榴弾を左手に持つ…ピンを抜いてから爆発するまで3秒から5秒…利き手の右腕は斬り落とされて使えない…ならキックして飛ばすしかない!彼女はタイミングを見計らって手榴弾のピンを咥える。すると…

「(ママ…)」 

「翔星…?」

 翔星の幻影が彼女に笑顔を向ける。そして翔星がスリーポイントシュートの体勢を取ったと同時! 

「行くわよ翔星…!」

「(行こうママ!)」

 ピンッ!

「ヤアァァーーー!!」

 彼女はピンを抜いた手榴弾をキック!

 ビューン…

 手榴弾は放物線を描くように飛んでいく…それはまるで翔星が放ったスリーポイントシュートのように…

「(届け…)」

 蹴り上げられた手榴弾は狙い通りガラスを支えていた接続部分にギリギリ当たり

 ドカーーン!!

 想定通り手榴弾は強化型だった。強化ガラスなら割れなくても接続部分は強化されていない。爆発と共に地面へ真っ逆さまに落ちていく!観戦していた権力者たちは一目散に逃げ出すが何人かはペシャンコだ。

 ドカーーン…!

「何!?貴様ァー!?」

「ギャァー!」

 悠羽は怒りで真美の戦意を完全に奪って知沙の胸にロングナイフを振り下ろし…

「さっさと死ねぇ!」

 ザシュー…!!

「ヴゥゥ…!!」

 それでも彼女は倒れない…!

「ウワァーー…!!」

 何と力を振り絞って悠羽に全力の左ストレートを顔面に喰らわし、その勢いのまま奪ったロングナイフで

「ヤァー!!」

 ザシュ…!

「ガァ…!貴様…!」

 何と大城の胸を右から袈裟に斬る!傷は浅くとも出血は多い。

「大城さん!マズい…早く手当てだ!」

 金城兄弟は戦闘をやめて大城を運び出す。動揺する千草も驚く間もなく金城兄弟に連れ去られたが、彼女の勇気ある行動が幸人と真美の命を繋いだ。そして奪ったスイッチを真美にパスして脚を引き摺りながらヒビが入ったガラスに思い切りキックしてぶち破る。

「早く逃げて…グヴゥ…!」

「お姉ちゃんお怪我…」

「大丈夫よ…!ママと逃げなさい…」

 その様子を見ていたメルスとメースが明美の猛攻を避け

「そうはさせねぇ!」

 メースは手榴弾を知沙と人質に目掛けて投げる…彼女はすぐ気付き

「危ない…!」

 彼女は女性たちをガードするように左手を広げて手榴弾の爆撃を…受ける…!

 ドカーーン…!

「カアァ………」

「知沙ー!!」

「知沙さん…!」

「知沙さん!!」

 爆風で彼女は飛ばされて容赦なく破片とコンクリートが全身を削る…

「チィ…逃げるぞ!」

「絶対殺してやるから待っとけ…!」

「待て…!ゥゥ…!」

 ポトポト…!

 明美は流血しながら爆風の衝撃で開いた扉から人質を避難させ、護衛から奪い取ったスマホで玲乃に緊急オペの連絡を入れる。救出した生存者の数は24人。一刻も早くカプセルを取り除かなければ命はない…するとすぐ玲乃含めたRose Orangeのメンバーが駆けつけ

「早速オペよ!」

 麻酔している余裕はない!玲乃は医師仲間3人と協力してカプセルを取り除くべく緊急オペ。

「絶対に助けるわ!」


「知沙さん…知沙さん…!」

「………何…その格好悪い顔…!グッチャグチャじゃん…?」

 幸人は泣き崩れていてイケメン顔が原型を留めていない。その姿を見て彼女も酷評する。

「知沙さん…嫌だ…!嫌ですよ…!」

「ごめんね…私はもう…無理…かも…でも、最後は…償えたか…な…!」

 彼は唯一残る彼女の左手を握る。血を吐き、途切れそうな命の中力を振り絞って必死で想いを伝える。

「幸人君…初めて会ったと…ら…愛してる……」

「僕は世界一愛してますよ!いや…世界一じゃ足りないです…宇宙一です…!知沙さん…頼むから諦めないで…!」

 お互い着ている服が両者の血で染まる。彼の方も危険だ…すると彼女は涙を流しながら徐々に目を閉じていき…

「翔星…こんなママで…ごめんね…!お腹空いた…よね?翔星の大好きなトマトカレー…作ってあげるから…!ゴブッ…!はぁ…でも…何かママ…眠くなっちゃったな…翔星…また一緒に…!おねんねしよ…愛して…る………」

 その言葉を最後に高橋知沙は…涙を流し最後まで大切な人への想いを綴りながら…永遠に目を閉じた。息子殺しの業を背負い、Rose Orangeの執行人として身を捧げた知沙は40歳で息を引き取った…

「そんな…嫌だ…嫌だよ知沙さぁん…!!目開けてください…知沙さん…!知沙さぁん!ウワァーー…!!ウワァァーーー…!!!」

 彼は限界まで知沙に呼び掛けたが目を覚ますはずもない…そして彼も出血多量から意識を手放すのだった。

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