表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

EPISODE13 計れない愛情

「ママ!俺あれ食べたい!」

「トマトカレー?」

「うん!」

「オッケー!作ってあげるね!」

 高橋知沙(当時31)は料理好きで、地元のバスケットボールクラブに所属する翔星(当時7)のために沢山栄養つけさせるべく、ほとんどの日は翔星の食べたい物を作っていた。毎日の食卓は

「美味しい!」

「でしょ?ママオリジナルの隠し味!」

「翔星、やっぱママの料理美味いな!」

「フフフ…!」

 当たり前だが現在の知沙と比べものにならないほど明るい。生前の旦那もアルコール依存症や荒っぽい雰囲気も一切なく、嘘だと思われるかもしれないが当時は本当に仲の良い家族で有名だった。こんなに幸せ溢れる家族が、まさかわずか6年後に崩壊することを誰が想像できるだろうか?


 ミキキキ…

「やめて…ママ…」

「はぁ…はぁ…」

「く…くる…ぃ……!」

 このとき一切の手加減はなかった。鬱血した顔、そして死の直前に出た汗。服を脱がし上半身を舐めた後

「そんな…翔星…?」

 彼女は凶器の両手を見る。まさか私が殺したの…!?何で裸なの…そんな嘘よ…!

「嘘よ…私が…!翔星…翔星…!」

 首には素手で絞めた痕が残っている。私は決してやってはいけないことをやってしまった…狂気と愛情を暴走させてしまった…!


 ママ苦しい…ママ苦しい…!

「翔星!はぁ…はぁ…ゥ…!」

 久しぶりに惨劇の日の夢を見てしまった。ナイフで刺された腹部は包帯で手当てされている。すぐに殺すつもりはないのか?

 ガシャン…!

 逃げないように拘束されたか。隣にいる幸人も同様に繋がれている。

「幸人君!幸人君起きて…」

「ウゥ…?知沙さん!?」

 ゴツン!

「痛ッ…!」

 勢い良く起きた彼とゴッツンコ。とんでもない石頭…

「イテテ…幸人君もやられちゃった?」

「はい…正確には不意打ちですけど…」

 どうやら自分が負けたと思いたくないようだ。実際気を許す母に背中を向けただけなので負けてなどいない。だがあの彼が一切気配を感じずスタンガン攻撃受けてしまったとは…千草もやはり元は戦闘者である実力がわかる。

 ガシャン…!ガシャン…!

「取れなさそう?」

「僕でも無理ですね」

 繋がれている鎖は頑丈で拘束を解けない。ここは無駄な体力を使わない方がいいだろう。それに携帯や財布などの貴重品が抜かれていて連絡も取れないか…今拘束されているのは幸人と知沙の2人。

「幸人君…?」

「…?」

 2人揃って捕らえられている、そして翔星と過ごした幸せな日々と、殺害してしまった日の夢の両方を見てしまった彼女の中に何か予感するものがあった。

「さっき…翔星を殺した日の夢を見たの…」

「息子さんを殺した日ですか?」

「そう…」

 いつか覚悟していたが、今日という日が人生の正念場であるかもしれない。結婚するには少し時間が欲しいと彼に言ったがこの選択は正解だったのか?

「私の中で毎日翔星が言うの。ママ苦しい…ママ苦しいよ…って!」

 彼女は息子殺しの業を背負いこれまで執行人として正義を貫いてきたが、汚名は死ぬまで消えることはない。手の平から絞め殺した感覚が消えず罪のない人もまた手に掛けてしまうのではないか…そんな恐怖も抱えていた。

「世の中にはそれぞれ違う母親がいると思うんですよ」

「どういうこと?」

「子供のことを本気で愛せる母親、平気で手を上げる母親、そして子供に全く興味のない母親…知沙さんはどれに該当しますか?」

「それは…」

 世間一般から見れば殺した事実を考えると平気で手を上げる母親と思われるだろう。

「平気で手を上げる母親に決まってるでしょ…!」

「違いますよ…知沙さんは子供のことを本気で愛せる母親です!片時も息子さんを忘れたことがあるんですか?」

「忘れるわけないじゃない!翔星ほど愛した子なんていない…会えるならすぐにでも会いたいに決まってるでしょ…」

 必死で翔星のことを想う言葉を語る彼女にキスをする。

「翔星君だって知沙さんのこと…愛してると思いますよ…誰かを愛する気持ちなんて計算できないんです」

「何その数学みたいな話…?」

「僕が知沙さんを想う愛は少なくとも計算できません…それくらい愛してるってことだけは忘れないでほしいです」

 一歩間違えれば愛を計算できないということは危険なことにも繋がる。彼女は計算できない愛情が噴水のように溢れた結果、翔星を殺害してしまった。心の中に翔星が居続けるのもそのためだったのだろう。彼女は見られたから手に掛けたのではなく、「翔星を一生自分のものにしたかった」のだ。

「私はあの子以上に幸人君を愛したい…だから、私と一緒にここを出よう!」

「そうですね…まずこの部屋から」

 ガシャン…ガシャン…ガシャン!

 彼のフルパワーで鎖が少し千切れる感覚がした。そして

 ピリーン…!

 そのまま鍵を取って拘束を外す。そして彼女の拘束も解こうとした瞬間…!

 ドゴン!

「ウゥッ…!?」

 突然重いキックが彼の顔面にめり込む!何とその一撃は左の頬を歪ませる威力だ。

「誰…!?ウッ…!」

 そのキックは彼女の顔面にもめり込む。一体誰だ?

「どういうつもりですか?」

「今は抵抗しないで…」

「誰よお前…!?」

「あんたが婚約者の高橋知沙ね?息子から話は聞いてる…」

 何と2人を蹴飛ばした正体は千草だった。

「母さん…何のつもりで?」

「死にたくなければ黙って言うことを聞きなさい…」

「お前が幸人君のママか?(酷い蕁麻疹…何か感染してるの?)」

「悪いけど、今は外に出させるわけにいかないの…」

 彼も全身の蕁麻疹に気付く。それに動揺ぶりが半端ない。

「母さん…一体何が」

「触らないで…!」

 ドゴン!

「グゥ…!」

 息子に容赦ない金的を喰らわし、諸に喰らうと痛みから肩に手を掛けてしまい

「触るな…!」

 そのまま再び蹴りで彼を離らかそうとするが

「やめろ!」

 ドスッ!

 何と知沙は自分で鍵を開けて拘束を解き、千草の顔面に思い切り空手パンチを喰らわせる。

 ミキキキ…!

「お前もこのまま絞め殺してやろうか…!」

 知沙は一切手加減せず千草を絞め殺そうとしている!必死に抵抗しているが現戦闘者の彼女を引き剥がすこともできず、顔色がどんどん死の色になっていく。

「やめてください!」

 彼は必死で知沙を引き剥がすと

「はぁ…はぁ…」

「ゴホッ!ゴホッ…!あんたはこの手で息子殺したのよね…?」

「黙れ!」

 ガシッ!

「知沙さん!母さんもやめてください…!母さん…まさか?」

「私に触ると移るわ…」

 蹴飛ばしてまで触らせなかったのは感染症を移さないためだったのか?通常梅毒はセックスでもしない限り感染することはないのに…少し知識が少ないのだろう。

「梅毒ならこの程度じゃ感染しません」

 それに蕁麻疹だけじゃ梅毒かを判断できない。だが全身に陵辱された痕が残る。この状況から早く助けなければ!

「早くここから出ましょう…立てますか?」

「待って!今はダメなの…!皆死んじゃう…!」

「…!?」

「何ですって!?」

 すると千草はスマホを横画面にして例の監禁部屋の映像を見せる。

「これは…!」

 ちょうど一人の女性が亡くなった直後なのか、一人の男に引き摺られて遺体が運ばれている。何人いるんだ?1日に2〜4人亡くなっている。死因は勿論カプセルだ。

「ここの女性は猛毒のカプセルが入れられてるの…奴らがスイッチ押しても溶けるし時間が経っても溶けるわ…!このまま私たちが外に出たら皆死ぬ…」

「何てことを…!?」

 慌てて幸人と知沙も腹部を確認するが手術痕はない。本当に2人を殺す目的はないのか?

「隠れて出ても無駄よ。あちこちカメラで監視してるわ…」

「どうすればいいのよ?」

「奴から盗み聞いたんだけど、明美と真美?って女の人を連れて来るらしいわ」

「明美さんと真美さんをですか?一体何を…」

「とにかく今は変な気起こさないで…じゃなきゃ皆死んじゃう!」

 要するに今は母の言うことを聞くしかない。このまま皆を死なせるわけにいかない3人は悔しい想いを噛み締めた。


 "女性ばかりを狙った連続殺人事件。古くから存在する組織によって犯人は地下闘技場の選手と政財界の男と判明。未だ組織と犯人の行方は不明"

 ネットニュースではカリド本山とトライバルによる殺人事件がリークされている。幸人の公安ネットワークによって犯人が死亡している事実は伏せられたが、リークした以上奴らもRose Orangeを潰しに掛かるはずだ。

「奥様の仇は、幸人と高橋さんが取ってくれました…」

「神戸さんもだろ?本当にありがとう…」

 これで一段落と言えるだろうか?何の罪もない優子を殺害した奴らなら他にもイカれた人間を抱えているだろう。それより昨日の夜から幸人と知沙からの連絡が途絶えている。トライバルをバラバラにした記憶と次への不安から、レストランにいるのに食欲が湧かない。

「これからどうするんだ?」

「私は組織で真犯人を追います。けど肝心の幸人と連絡取れなくなって…」

「水瀬さんに何かあったのか?」

「あいつのことなら心配ないと思いますが…」

 2人はドリンクバーのみの会計を済ませて外に出る。時刻は夕方、そろそろRose Orangeに戻って次なる計画を立てなければならないか。その前に

「川崎さんが狙われてないとはまだ言い切れません。家まで送りますね?」

「いいのか?」

 川崎宅までは徒歩30分の距離。歩いている30分の間で自分が彼女の兄だと告げたい。思わずため息が多くなり

「どうしました?」

「いや…何でもない」

 もし話したら自分の父親や生まれてきた理由も知ろうとするだろう。逆に自分から告げなくても裏社会に入り浸る彼女なら嫌でも知ることになるかもしれない。そうこうしているうちに川崎宅へ辿り着き

「あれ?帰ってないのか?」

「電気点いてないですね…」

 それに鍵も閉まっている。娘2人には家の鍵を持たせているため夕方の時間で2人共帰っていないのはおかしい…下の娘は予め先生に頼んで送ってもらったはず。すると

 パチッ!パチッ!パチッ!パチッ!

 後ろから突然拍手の音が聞こえてくる。その方向に振り向くと

「澪!仁香…!」

「パパぁ…!」

 彼の愛娘が謎の男に捕らわれている!

「お前…!」

「おっとっとぉ!変な気は起こすなよぉ?ガキを助けたかったらな」

「何をする気だ?娘を離せ!」

「そうか…あんた確かうちの方でバラバラにした女の旦那だったか?」

「グググ…!」

 彼は殴り掛かりたくて堪らないのに圧倒的強者が放つオーラに圧倒されて足の震えが止まらない。

「紹介が遅れたなぁ〜俺の名前はメルス!」

「メルス!?百花さんが言ってた暗殺者…(マズい…今は私しかいない…!)」

 真美は武器として持っていたカランビットナイフとチャカを抜く。だが例のメルスはフレイルだ。棘付きの鉄球を繋げたタイプでモーニングスターとも呼ばれる。明らかにフレイルの方がリーチが長い。こうなったらフレイルを当てられる前に撃つしかない!


 珠水鳳凰 暗殺者 メルス

 バーン!

「どこ狙ってんだ?シュッ…」

「何…!?」

 グスッ!

 フレイルが太腿に突き刺さる!さらに鉄球の棘が少し反しになっていて抜けない。

 バンバーン!

「当たらんな…喰らえ」

「ウゥー…!!」

 近くに知沙か幸人がいれば何とかなったかもしれないが一人ではどうしようもない。

「神戸さん…!」

「大丈夫です…」

「やられる妹と無力な兄貴…兄妹仲良く死ぬがいい。あっ、でも殺しちゃいけないんだったなぁ」

「えっ…!?」

「………」

「お前何バカなこと言ってんのよ…!?私に兄妹なんていないわ!そうですよね川崎さん…!?」

「………」

 彼は静まって黙り込んでいる。まさか!?

「お前たちの父親はヤク中の川崎信介。腹違いの兄妹なんだよ」

「これ以上余計なことを言うな…!お前が語る資格はない!ウワァー!」

「無駄なことを…」

「ヌゥゥ…!!」

 顔面に鉄球を諸に喰らいその一撃は彼の右目を潰す…

「ウワァー!!」

「パパ!!」

「お前は殺していいんだった…邪魔だから死んで…あと小娘も…」

「やめろ…!!」

 彼はフレイルが振り下ろされる瞬間に死を覚悟して目を閉じた。そのとき!

 ビューン…グサッ!

「カァ…」

 突然1本のクナイが飛んだ。その切先は娘を拘束していた男の脳天を容赦なく突き刺す。そして

 シャキーン…バサッ!

 華麗なる剣捌きが拘束していたロープを真っ二つ。

「パパ!」

 拘束が解かれた娘たちはダッシュで父親のもとへ駆け寄る。一体誰が助けに?

「遅くなって悪かったわ!」

「明美さん!?」

「ここは私たちで何とかします。川崎さんは逃げてください!真美!」

「ありがとうございます!澪、仁香!こっちだ」

「こっちに逃げましょう!」

 彼女たちの前に現れた助っ人は刀を抜いた明美だった。

 カチッ…

「よくも私たちをコケにしてくれたわね?お前たちの臓腑ごと斬り捨てる…」

 シャキン!

「ちょうどいい…殺ってやろうかぁ!」

「楽しませてくれるかしら?」

 まず攻撃を仕掛けたのはメルス。フレイルを振りかざして彼女の持つ刀に鎖が絡みつく!

 ギギギギギ…

 金切り音が鳴り響く中でお互いが引っ張り合う。だが

「攻撃の幅は無限大よ…」

 彼女は腰に忍ばせていた暗器を凄まじいスピードで投擲。奴は手に持っていたフレイルを離すしかない。

「ムゥ…!?」

 そのまま引きつけて刀をフレイルごとぶん回し、取っ手が奴の側頭部に命中する!

「ヌゥ…!?」

「鎖絡まって刀使えないじゃない?どうしてくれるのよねぇ…」

「調子乗んなクソ女…こっちは殺さない程度に手加減してやってんだ!」

「無駄なことを…所詮お前ごときに私は倒せない」

「フレイルがなければこっちだ!」

 すると奴は青龍刀を取り出す。ならこっちは中国拳法で戦わせてもらおう。

「ハァーー!」

「流石は速い…残念だけど動きが読めるわ…」

 彼女は次々に振り下ろされる青龍刀の攻撃を全て回避し、凄まじい連撃でも彼女の目にかかれば全てがスローモーション。そして

 トンッ…

「私の勝ち…」

 ズドーン…!!

「ブウォー…!?」

 彼女の凄まじい寸打が奴の腹部に突き刺さる!この一撃で奴は吐血だ。そしてゆっくり近付いて刀を奴へ向けると

「さぁ…お前のボスがどこにいるのか吐いてもらいましょっか?」

「ヌゥゥ…」

「10数えてあげる。オーバーしたら首飛ぶわよ…いーち!にー!さーん!」

 すると奴はスマホを取り出して例の監禁部屋、さらに幸人と知沙が捕らわれている部屋の映像を見せた。

「よー…ん?何かしらこれは?」

「今俺がこのスイッチを押せば女の中の毒カプセルが溶けるぞ…溶けたら即死だ…」

「舐めたマネを…!」

「おぉ~と待て…!スイッチを壊したら一斉に女は全員死ぬぞ…」

「チィ…」

「助けたければ剣を捨てろ」

 奴はハッタリなど言っていないだろう。目を見るに嘘は吐いていない。彼女は言われるがまま刀を少し遠くへ投げ

 カチャカチャ!

 奴が呼び寄せた部下たちに銃口を向けられる。変に抵抗すれば奴の思うツボ。彼女は大人しく両手を上げ

「連れて行け…」

 ビリビリビリーー!

「ウッ…!」

 奴は抵抗できない彼女をスタンガンで気絶させる。奴ら珠水鳳凰は大城の機嫌をこれ以上損ねてはいけない。知沙の拉致はうまくいったが幸人の捕獲にかなり手間取ったことで報酬は既に2割減らされている。明美の捕獲に手間取って計4割減らされるかもしれない。

「川崎らは?」

「逃げられました…」

 一人の男が気を失った真美を肩に抱えている。川崎親子を逃がすために必死で時間稼ぎをし、彼女自身は体力が尽きて捕らわれてしまったが、遠くへ逃がすことには成功した。

「この若い女も手間取らせてくれんな…とにかく運ぶぞ!減らされちゃ溜まったもんじゃねぇ」

 車に乗せられた2人は幸人と知沙が監禁された場所まで運ばれていく。これで奴は当初の目的である水瀬幸人、高橋知沙、奥野明美、神戸真美。4人の"執行人"を捕らえることに成功。奴ら珠水鳳凰は完全に執行人たちと30名を越える女性の命を握っている。そして…

「さぁ楽しませてもらうか…執行人さん…」

 裏で大城が遂に動き出す。これから執行人たちによる残酷な殺戮ショーが始まる。さらに監禁した女性は自分のタイミングで殺すこともできる。今まさにこの瞬間が奴にとって至福のひとときだが、果たしていつまで続くのだろうか…


「スヤスヤ…」

「寝たみたいね…」

 幸人は監禁部屋にも関わらず静かな寝息で眠った。そんな彼を優しく寝かしつけるのは知沙だ。彼の髪の毛をなでなでしていると

「あんた…知沙って言ったっけ?」

 後ろから声を掛けたのは千草。やっぱり息子のことが気になって結局様子見に来たのか。

「そうだけど…?」

「明美から色々聞いてるわ。幸人との仲とか…あんたの息子のことも…」

 彼女はなでなでを止める。

「結局何が言いたいの?」

 初めて婚約者の母であり、Rose Orangeの母である千草と顔を合わせたがとても28の息子がいる母親には見えない。自分と4つしか変わらない年齢。すると

「私…本気でこの子を愛せるのかな?」

 知沙なら何を教えてくれるのだろうか?

「なら聞くけど、幸人君のどこを愛せるか…愛せないかが不安なの?」

「どこって…そんな限定的に…とにかく好きだよ!」

「自分には愛する資格がないって…考えてる?」

「それは…」

 すると彼女はおもむろに近付き

 ガシッ…

「何よ?」

 ペロペロ…

「ちょっとくすぐったい…てかそこ脇!」

「脇が一番汗かくね…」

「ちょっとやめて恥ずかしい!」

「おかげで嘘を吐いていないことだけはわかったわ…」

「人を見透かしたようなこと言わないでよ…!?」

 どうやら一番汗をかきやすい部分の方が嘘を見破れるようだ。

「我が子を愛するのに資格なんていらないわ。片時も幸人君のことを忘れたことなんてあったの?少なくとも私は息子を忘れたことなんてないし、幸人君はあなたのことを愛してるわ…それはあなたが一番わかってるはずよ」

 幸人が自分のことを恨んでいないこと、愛していることはわかっている。じゃなきゃ実の母を強く抱き締めたりなんかしない。

「幸人君が教えてくれたの…人を愛する愛情ってのは計算できない。触れ合って感じれたなら、あなただって幸人君を愛してるのよ…」

「私も、あの子を愛していいってこと?」

「当たり前でしょ。あなたもけっこう面白い人ね…?」

「何かムカつくわね…?」

 知沙はタバコを咥えてライターで火を点けようとするが

 チ…チ…

 カチッ

 彼女のジッポライターはオイル切れで点かなかったが、千草が持っていた使い捨てライターでタバコに火を点けた。

 スー…ハ〜…

「1本貰っていい?」

 千草は元々喫煙者だったが禁煙してかなり経っていた。吸っている人を見ると吸いたくなってついおねだり。

「いいよ」

 カチッ…スー

「ねぇ…」

「ん…?」

「幸人君のことを愛してるなら、あの子のこと信じてあげて…婚約者の私が言うんだから信じられるでしょ?」

「そうね…」


 私、高橋知沙の人生は恩師と呼べる女性、息子以上に愛した男の子と出会ってきた。そして何人もの罪人を手に掛けたけど、私も愛する我が子を殺した罪人…私は、翔星を一生自分の所有物にしたかった…!身勝手で自分本位な私は今になってあの夢を見る…やっぱり私に幸せを作る権利なんてないのかな…?でも、あの子の幸せは私が守ってみせる!それが唯一できる私の使命…もしできるなら、幸人君…私と幸せになろう…!いつだって愛してるから…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ