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EPISODE12 見えないタイムリミット

「フン…これで奴らの命を握ったも同然だ…」

「ええ…所詮奴らもお人好し、ゴミのような命でも救おうとするでしょう…」

「会長様もお盛んですねぇ?しかしあの女も人の命が懸れば自分から奉仕するとは…」

 監禁されている千草は言われるがまま奉仕され続けるストレスから完全に疲弊し、さらに身体中に蕁麻疹が出ている。まさか梅毒か!?

「例の女はこちらで始末しておきました」

「仕事が早くて助かるよ。トライバルは死んだようだが…」

 Rose Orangeの情報屋だった瀬戸百花は腹を裂かれて殺害され、山本紗奈は自殺に見せかけて病院の屋上から転落死させられた。彼女たちを殺害した2人の男、その正体は珠水鳳凰のトップ暗殺者、金城翼と金城悠羽。通称"金城兄弟"。双子揃って最強戦力だが年齢は不明。EPISODE7で幸人に強烈な殺意を感じさせたのもこの2人だ。翼と悠羽は世間に知られているような特殊部隊や軍隊ではなく、カオレインズという世界を統べる暗殺者組織で鍛え上げた超戦闘者。直感で知沙は「勝てるかわからない」と言っていたが確かに純粋な戦闘力なら圧倒的差が生まれてしまう。それに束になって襲撃を掛けられたら幸人でもマズイ。

「次は退屈しなくて済むかもしれないぞ?」

「おぉ?仕事ですか?」

「聞きたい聞きたいです!」

 大城は椅子から立ち上がって

「そろそろ無力な女を殺すのも飽きてきただろ?」

「確かに骨のない女ばかりでしたねぇ」

「フッ…」

 奴は4枚の写真をテーブルに出した。女性の写真だが1枚だけ男の写真がある。左から明美、知沙、真美、幸人。どれもRose Orangeの主戦力たる人物たち。すると知沙の写真だけを2人に差し出し

「この女は高橋知沙40歳。組織のトップ2ってところだ」

「高橋知沙ですか?知ってますぅ!確か息子まで殺っちまったんだとか!」

「ただ死んでもらうでは芸がない。殺さない程度に痛めつけて連れてきてくれないか?」

「でも殺しちまったらゴメンナサイ!」

「破ったら…報酬はゼロだ。他の3人は諸々、メルスとメースに任せておく」

 金城兄弟の他にまだ強力な戦力を備えているのか?奴が立てる計画とはその場で抹殺をするではなく生け捕り。今握っているのは水瀬千草と30名を越える女性の命。

「君には可愛い可愛い自分の息子を連れてきてもらおう」

 突然のことに彼女の目が泳ぐ。

「変な気でも起こしてみろ?いつでも殺せるんだぞ」

「…!?」

 例のカプセルは時間経過かスイッチを押すかで溶けることは解説したが、特殊な作りになっていて無理に吐き出そうにも体内から出すことができない。取り出せる方法は外科手術のみ。溶けてしまったら手遅れだ。従わなければ息子に害が及ばなくとも女性たちが犠牲になる…従えば息子だけに害が及ぶ…息子を救うか、自分と女性たちを救うかの二択を与えられた千草。既に金城兄弟の姿はない。奴は本気で息子の婚約者を拉致する気だ。結局自分が動かないとして奴らが勝手に計画を進めることは目に見えている。こうなったら被害を最小にしなければ!


「ねぇママ…お腹空いた…」

「もうすぐごはん来ると思うわ…もう少し待てる…?」

 大城が所有している監禁部屋に若干5歳と思われる女児と20代の若い母親。下着姿で閉じ込められてどれだけの時が経った?

「もうヤダ…ママのごはん食べたい…!」

「ごめんね…!作ってあげるから…でももうちょっと待っててくれる…!」

 周りには同じように弱っている女性が沢山いる。泣きながら抵抗する女性もいれば、諦めてずっと下を向いている女性もいる。だが母親はあることを信じていた。

「まどか…お外には女の人を守ってくれるグループがいるみたいなの…助けてくれることを信じてみない…?」

「ヒーロー…?」

「そうよ…信じてみよ…?」

 必死で娘に希望を捨てないように訴える。生きていれば何とかなる!だが

「カカ…ゥゥヴ…!?」

 近くにいた30代くらいの女性が突如苦しみ始めた!

「見ちゃダメ…!」

 スイッチが押されたのかタイムリミットなのかカプセルが溶けて黒い血を吐く。さらに目や毛穴から血が溢れ出る…一体どんな毒や成分を入れているんだ?多くの人が必死で吐き出そうとしたのか周りは吐瀉物だらけでストレスからカプセルが溶ける前に下着で首を吊って命を絶った人までいる…自分と娘に残された時間はあとどれくらいだ?さっきまで娘に希望を捨てないよう訴えたがもう限界だ…誰でもいい…この子だけでも助けて…


 同刻の夜。知沙は単独で街に蔓延る犯罪から守るための見廻りをしていた。幸人は上司と会っている。しかし珠水鳳凰はどこから来る?どこを根城にしているのだろうか?掴んでいる情報掴んでいない情報があって行動が読み辛い。だがそのとき…

「ん…?」

 一瞬違う風が吹いたように感じた。彼女は戦闘者だ。EPISODE2では幸人に易々と背後を取られてしまったが、もうあのときの私じゃない。注意深く周りを見ていると

 バーン!

「ヌッ…!?」

 直撃は免れたが左の太腿を掠る。

「何者…!?」

「高橋知沙は骨のある女みたいですねぇ兄さん…?」

「そうみたいだな…」

「(双子?)」

 見るに20代か?幸人と年齢が同じくらいに見える。

「俺たちは金城兄弟。それであんたは、息子殺しの鬼畜親…」

「!?」

「兄さん知ってるぅ!絞め殺した上身体舐めちゃう変態女だ!」

 言うまでもないが、翔星の遺体から彼女の唾液が上半身のほぼ全体から採取されている。それも舐めなければ検出されない量だった。さらに元旦那を刺し殺した際に使用した包丁と翔星の首に付いた指紋が彼女のものと一致。勿論警察は「犯人は母親の高橋知沙だ!」と断定。それにしてもわざと侮辱するように盛り上がってやがる!

「お前たちが何を知ってるのよ!?」

 拳を握りすぎて爪が手の平にまで食い込んでいる。

「さぁさぁ…誰から行こうか?」

「俺最初で!」

「バカにしないで…2人共掛かって来なさい!」

 彼女は侮辱された怒りから1対2の戦いを臨む。

「冗談キツイな?2人相手にしたらあんたなんてすぐ死ぬぜ?」

「私を舐めるな…!」

 彼女は鋭い視線を送る。もうまとめてブッ潰す魂胆だ。

「なら望み通りにしてやろう…」


 珠水鳳凰 トップ暗殺者 金城兄弟

 金城兄弟はメリケンナイフに素手。完全に接近戦か?案の定2人は彼女目掛けて猛ダッシュを切る。しかし

「消えた!?」

 2人向かって来ていたはずなのに一瞬残像が重なるようにして一人の影が消える。何と1秒もしないうちに弟の方が背後に回っていた!

「ウッ…」

 必然的にダイブするように回避するしかなく体勢が崩れる。トップ暗殺者相手ならその隙を見せれば格好の的となってしまう。そしてハイキックが彼女の顔面を捉えようとするが何とかガード。しかし

「グゥー…!」

 ガードを突き破ったハイキックが顔面を捉えた。まるでデカい石がぶつかってきたような衝撃に視界が一気に歪む。

「脚もぉ〜らい!」

「…!?」

 ザシュッ!

「ウゥ…!」

 何とか反応して前に出たことでアキレス腱の切断は免れた。明美のもとで鍛え上げた彼女でもこうなるとは。必死で反撃しているが一切当たらず彼女のみがダメージを受ける。そして

 グサッ…!

「ウゥゥゥ…!!」

 遂に彼女の腹部にナイフが突き刺さる。途端手足が異常に痺れてきた。

「このナイフには神経毒が塗ってあってね…死にはしないよ?」

「ゥゥ…」

 視界が歪んで全身から力が抜ける。もう立てない…

「パーティー会場までさっと運んじゃうか…?」

「…ちくしょう……!」

 彼女は意識を手放した。彼女が言っていた「勝てるかわからない」と予想した戦闘力はそれ以上だったのだ。だが殺さない程度と命令されている奴らは明らかに手加減をしている。真の戦闘力を発揮されたらどうなっていたことかと考えただけで恐ろしい。


「珍しいな?水瀬君から誘ってくるなんて」

「迷惑…でした?」

「なわけないだろう!嬉しいんだよ!何でも好きな物食って飲んでくれ!」

 幸人は坂本を誘って近くの個室居酒屋に来ていた。坂本にとって彼からの誘いは青天の霹靂だが、ずっと一緒に飲みたかった思いが叶って嬉しい限りだ。2人は取り敢えずの生ビールと焼き鳥、刺身盛り合わせを注文する。

「よし乾杯!」

「乾杯…」

 チンッ…ゴクゴク…

 今回誘った理由は自分が闇の執行人であること、25年も会えなかった母親と再会したこと、今後上司に報告しておきたいことを告げるためだ。

「そっか…俺も薄々感じてたよ。水瀬君が裏社会と関わってることくらい」

「………」

「ところで君、高橋知沙とどういう関係なんだ?」

 知沙のことは警察組織の情報網では2023年から容疑者としてマークされた一方、一切行方がわからなくなった。知沙をはじめRose Orangeのメンバーは身元や顔を変えて生きているが、彼女は顔は変えず"矢口里美"という偽名を使って生きてきた。

「僕の婚約者です」

「そうなんだな…」

 本来坂本の役目は彼女を殺人容疑で逮捕しなければならない。もっと言えば彼のことも警察官が警察官を逮捕するという形で逮捕しなければならない。だが意外なことに幸人の正体と知沙の所在を知っている警察官は坂本しかいないのだ。

「逮捕しないんですか?」

 坂本は飲み干してからジョッキを静かに置いた。

「俺の夢話したことなかったよな?」

 この話と坂本の夢がどういう関係がある?突然そんな質問を振られれば首を傾げる。

「俺には時夫っていう息子がいたんだけどさ、生まれてから骨肉腫で亡くなるまで…一度も笑顔を見たことがなかったんだ…」

 坂本逸郎の息子、坂本時夫は生まれつき極度の自閉症で親相手にも笑顔を向けられない子供だった。幸人と時夫は似ていないが坂本の中で重なる部分があり、彼も人に笑顔を見せることがない。一度でも水瀬幸人の笑顔を見てみたいと思ったのだ。部下の一人にしか過ぎないのに…バカな話だと思われるかもしれないが、それでも彼には幸せになってほしかった。

「俺は君なりの幸せを掴んでほしいと思ってるよ。だから高橋さんと結婚するといい…」

 前まで高橋知沙と呼んでいたがここで「高橋さん」と呼んだ。

「ありがとうございます。それと個人的な決着がついたら、僕は刑事を辞めようと思ってます…」

 確かに現状警察署内で彼のことを想っている同僚は正直誰もいない。坂本は彼の居場所を作ってあげようと職場環境の改善に努めてきたが、辞めてしまうのが残念でも彼の望むことなら仕方ない。

「珠水鳳凰は僕が潰します…やっぱり、僕は執行人であることが本来の自分です」

「全く…相変わらず君は大変な選択ばっかするな?憧れちまうよ…!」

 この日は男同士1時間飲み交わした。幸人はこれまで飲み会や職場の人間と一緒に酒を交わしたことが非常に少なかった。彼は誘った側として全額支払おうとすると

「おいおいやめてくれよ…ここは俺が!」

「僕払いますよ…」

「なぁに言ってんだよ?いいよ!」

 結局彼は折れて坂本が払うことに。店を出ると坂本は

「誘ってくれてありがとな?」

「こちらこそ…ご馳走さまです」

 坂本はIQOSを出して一服するが幸人は非喫煙者。フーっと息を吐いて彼に

「みな…いや幸人君…」

「えっ…?」

「これだけは覚えておけ。君は怪物なんかじゃない…人の自由と平和のために戦う護り人なんだ。俺は君のことを誰よりも信じてるよ」

「坂本さん…」

 坂本は今まで怖い存在として認識していた幸人に、初めて照れくさいような激励の言葉を掛けた。すると彼の表情に少し笑顔が見えた。本当ならもっと満面の笑みを見たいところではあるが…酒も進んだしで少し禁断?とも思える質問を

「ちょっと気になったんだけどさ…高校生の頃に彼女を監禁したって噂本当なのか?とてもするようには見えないけどさ?」

 女性に優しいシーンが多くてついEPISODE1で紹介されていたのを忘れていただろう。果たしてその答えは?

「あれは浮気してそうだったからちょっと30分くらい質問責めしただけですよ…確かに長すぎましたけど」

 サイコパスな印象から流れたただのデマだった。30分以上体育館で質問責めをしてしまったのは事実らしい…確かに放課後の体育館でそんなことすれば勘違いされるのもわかる。雑談も交えた2人は軽い笑顔を向けながら

「じゃあな」

「それじゃ…」

 これでしばらく酒をゆっくり楽しめる日はおさらばかもしれない。ここのところRose Orangeからきな臭い情報ばかりが入ってくるが、むしろ今が攻め時であるだろう。だが2人が別れてすぐ…

 ドテドテ…!

 一人の女性が物凄い慌てようで走っている。まるで何かに追われているようにしか見えず、彼もすぐあとを追った。


「ハァ…ハァ…」

 ドテッ…!

「イタッ…!」

 幸人が目撃した例の女性は走り疲れ足を挫いてしまい、少し膝を擦り剥いた。すると追っていた存在が近付き

 コツ…コツ…

 一人の男がゆっくりと迫る。その正体は大城四紋の口からも出ていた暗殺者メース。スカウトというナイフを持っている。一体何の目的で女性を狙っている?奴はスカウトを舐めて振り下ろそうとすると

「フンッ…」

 幸人は女性を守るべく男目掛けてキック。気配を完全に消していたが奴は紙一重で避ける。

「大丈夫ですか!早く逃げ…母さん…!?」

「幸人…!」

 何とメースに追われていた女性の正体は母だった!

「下がっててください!」

「まさか息子ちゃんの救援か…まあいい」

「あんたはメースでしたっけ?」

「俺はスカウトナイフのメース!トップ暗殺者とでも言っておくか」

「なら僕は元公安の水瀬幸人…いやRedEYEの水瀬幸人と言っておきますか」

「えっ…幸人がRedEYE…!?」


 珠水鳳凰 暗殺者 メース

 頭に疑問を浮かべたまま戦闘が始まる。

「俺のナイフは残像と本物が見分けつかないよぉ〜!?」

 スカウトをクルクルと回しながら攻撃を仕掛ける。撹乱するつもりか?だが彼の動体視力は

 ガシッ…

「すぐ見分けつきそうですね?」

 ガッシリと腕を掴むとそのまま下に降ろしてバランスを崩させ

 ドゴン!

「グウ!?」

 彼のニーキックがメースの顔面にめり込む。スペックや戦闘技術すらトップ暗殺者を上回っている。息子の強さを話でしか聞いたことがない母にとって初めて見る戦闘姿に驚きを隠せない。

「トップ暗殺者なら足元も要確認…」

 怯んだ奴はそのままローキックで一回転。うつ伏せに倒れたまま

「ハァー!」

 ドゴォーン!

 延髄に目掛けたネリチャギが突き刺さる!無理矢理立たされた奴の体勢はフラフラで前を見るのも難しい。

 ドスッ!ドスッ!

 彼の凄まじい鉄拳が顔面や胴体を捕らえる。このままメースを殺っちまうくらいの勢いだ。

「…ググ…テメェ…いい加減にしとけよ…!」

「暗殺者が弱いとは笑わせる…このまま死んでもらいますか」

 彼は拳を強く握って奴に接近する。しかし!

 ビリビリビリ…!

「ウゥ…!?」

 突然電気が走る痛みにうつ伏せに倒れる。全然後ろから襲われるような気配はなかった。

「ゥ…」

 気付けなかったのは無理もない。何故なら彼をスタンガンで意識を刈り取ったのは母だからだ!

「母さん…?」

 何とか意識を保とうとしたが、流石に改造されたスタンガンに攻撃されれば彼でも無理だった。

「これでいいの?」

「ああ!さっさと運ぶ…」

 実はこれは予め計画されていたことだった。慌てるように逃げていたのは彼の目に止まるようにした演出で、メースと対峙するように仕向けた。本来ならメースが彼に勝つ形で拉致するはずだったのだが、彼の戦闘力は予想以上の強さでうまくいかず、最悪のケースとして千草がスタンガンで意識を奪ったわけだ。

「悪いわね幸人…」

 彼女の蕁麻疹が酷くなっている…まさか本当に梅毒なのだろうか?それにカプセルが溶けるタイムリミットは?

「やれ…」

 息子に梅毒を感染させるわけにはいかない…目的地に着く前に暴れないように手足をガッチリとガムテープで固定。移さないように恐る恐る…

「俺が運ぶ…!」

 奴はすぐにでも殺したいだろうが破ったら報酬ゼロな上とんでもないお咎めが待っているだけだ。これで珠水鳳凰に拉致されたのは知沙と幸人、取り敢えず恋人同士の2人は捕まえた。残るは明美と真美…奴は4人を捕まえて何をする気なのだろうか?

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