第7話「血まみれの大好き」
兄妹げんか決着!します
この兄弟げんかには色々な問題がある、その1つにヴィーナが一週間以上姿を現していないという、大きな大きな問題がある。
この問題は兄妹げんかにはありがちだが、しかし仲直りの際にはとても大きな壁としてヴィントラオムの前に立ちふさがった。
ヴィーナは今、誰とも会いたくないと思っているのだろうとヴィントラオムは考えた。
ヴィントラオムは部屋を巡りヴィーナの行方を捜す。
この時の時刻はヴィントラオムには分からないが、でも科学者たちが深夜と定めている時間帯だったため人は皆、眠りについていた、ただ1人を除いて……
「ぺ、ペルファさんヴィーナの行方を知らないですか?」
両の瞼を指で開きながら長髪の青年は言う。なんかくねくねしながら……
「しらないやぁ、まぁ多分、これは僕の意見だから家宝にしてもゴミ箱に捨てても、まぁどうしてもいいのだけれどぉ、今の君じゃヴィーナ幼女を見つけられないんじゃないかなぁ……」
ヴィントラオムは熊の背中を撫でる様に恐る恐る聞く。
「そ、そう思う理由は?」
「ん?」
ガシ!
長髪の青年はローブから両手を出して、ヴィントラオムの顔をがっしりと掴んだ。
その掴み方は目つぶしをする寸前の様な掴み方で、彼が親指に少し力を入れて何かを押す動作をすればヴィントラオムの目は二度と見えなくなるだろう。
ヴィントラオムはその時、マジで殺されると思った。
「君はその質問をする資格を持たない、私は意見を与えたが質問をすることを許可した覚えはないぞ?覚悟を持たない真実は全てまやかしに過ぎない、これから先この意見を忘れぬことを強くお勧めするよ?ヴィントラオム少年、そして私への感謝を忘れるな」
ヴィントラオムはその支離滅裂な青年の言動に顔を青くしながら震えた声で答えた。
「は、はぁい……」
ザァァァァ…
水路に流されながら、ヴィントラオムは考える。
(はぁ……マジで殺されるかと思った……マジっで殺されるかと……殺されるかと…………殺される……………殺される?)
………………
「それだ!」
ザパーン!
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(もう…これしかない!)
ヴィントラオムは影の触手を刃のように鋭くして意を決すると、自分の手首に近づける。
シュッ
「ウッ!」
ヴィントラオムは足をぐらつかせる。
「まだ……」
ビッ
「ウガッ!」
バタン
「はぁ……はぁ」
(わかってる…………わかってるんだ、こんなの傲慢だって、自分が死にかければヴィーナが助けに来てくれるなんて……本当に傲慢だ……でも俺じゃこのくらいしないと、多分ヴィーナを二度と見つけられなくなる…)
ヴィントラオムの背中が赤い血で染まり始め、生暖かい血液の温度がヴィントラオムに伝わる。
その感覚はヴィントラオムだけが感じているものでは無かった。
「お兄ちゃん……どうして……」
紫色に染まった唇を動かしヴィントラオムは言った。
「ヴィーナ……俺と話をしてくれないか?」
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ヴィーナの治癒魔法はまさに神業だった、先ほどまで出血多量で死にかけていたヴィントラオムの体を何事もなかったかのように治してしまったからだ。
ヴィントラオムとヴィーナは向き合って地面に座り込んでいて、地面に広がる血に濡れることになんの不満も覚えないようだった。
「俺はお前に謝らなきゃいけない……あの時俺は多分恐れていた、俺はその恐れを、感情の暴走を、怒りにしてしまった、俺は……ただ何も考えてなかっただけなんだ…………あの時少しでも頭を回していれば、あの時すべきことは、お前とタックスの仲直りの手助けだって気が付けたはずだったんだ」
ヴィーナの前でヴィントラオムは深々と頭を下げる。
「あの時、お前を殴ってごめん!やるべきことを見失ってお前を傷つけて……ごめん!こんなの都合がよすぎるが……今更……」
ヴィントラオムの頭を下げている姿は美しかった。
ヴィーナがヴィントラオムの手をそっと握って喋り始める。
「覚えてる?お兄ちゃんが私に名前を付けてくれた時の事」
ヴィントラオムは顔を上げ目を見開く。
「お兄ちゃんはこんな風に手を握って私の名前を教えてくれたよね、さっきまで私は私が嫌いだった、大嫌いだった、お兄ちゃんを苦しめる私が、仲直りできない私が……私はずっと前から私が嫌いだった」
ヴィントラオムが上げた顔を再び下げた。
「でもね、私気が付けたの、ねぇ私の事お兄ちゃんは好き?」
ヴィントラオムはまたまた顔を上げて言う。
「え?いや……まぁ、うん……大好きだけど……」
少女はにっこりと笑って言う。
「知ってる!お兄ちゃんが私の事を大好きって思ってくれていることも、私もお兄ちゃんの事が大好きなことも、全部知ってる、私は私の事が大嫌いだけど、お兄ちゃんが大好きな私なら、私も私を大好きになれる!だからね……」
ヴィーナは何かもじもじとしている。
「だから、私はお兄ちゃんの事が大好き!」
そうヴィーナが言うと同時に、ヴィーナがヴィントラオムに抱き着く。
兄弟はすがすがしい笑顔で抱き合っている。
こうして兄妹は血だらけになりながら大好きと言い合うことによって仲直りした。
その後、タックスとヴィーナが仲直りしてこの件は一件落着と言うわけである。
「やだ!」
ヴィントラオムは自分の耳を疑った。
「な、なんで?」
震えた声でヴィントラオムは言う。
「だってタックス本当に意地悪なんだもん!」
「ど、どういう風に?」
ヴィーナはプンスカしながら答える。
「例えば、私のパン盗んだり、青い布触らせてくれなかったり、バカって言ってきたり、あと青い布見せてくれなかったり……」
「ん~なる程なる程」
ヴィントラオムはコクコクと首を縦に振る。
「でもヴィーナだってタックスに大怪我させたわけだし、お互い割るところはあるんじゃないか?」
ヴィーナは言葉を詰まらせる。
「ここは俺からの頼みってことでさ、俺の妹と弟が喧嘩するのは構わないが、仲直りできないのはよくない、お前だって別にタックスの事が嫌いなわけじゃないだろ?
「……うん」
「なら仲直りだ!」
かくしてタックスの部屋で……
「耳ちぎっちゃってごめんなさい」
タックスは鼻をフンと鳴らす。
「分かればいいんだよ!」
ヴィントラオムが諭す。
「こーら、お前だってヴィーナに謝らなきゃいけないことあるんじゃないのか?」
タックスは焦ったように言う。
「そんなのあるわけ…………ある……わけ」
「あるんだな?」
タックスは観念して言う。
「お前に……その……意地悪して…………悪……かったな」
それを聞いたヴィーナは腕を組み、得意げな顔……いわゆるどや顔をして言った。
「うむ!今回は許してしんぜよう!」
タックスはくすっと笑い「なんだよその口調」と言う、ヴィントラオムはヴィーナの王様口調とどや顔に当てられて可愛さのあまり失神した。
こうしてこ子供達は仲直りすることについて学んだのであった。
「はは、一件落着……」
パタン
「お兄ちゃーん!」×2
一件落着である。
次回「最強!天才!ブルーバルト様!」