第6話「言わないと!」
前の次回予告で書いた題名と違いますが気にしないでください。
部屋の空気はまるで深夜の墓場だ。
ヴィントラオムの目の前に居るのはヴィーナ。
空気は張りつめている。
最初に口を開いたのはヴィントラオムだった。
「なんで、あんな事になった……説明してくれるか?」
ヴィーナはまるで人形のように固まっていて、動こうとしない。
「頼む……説明してくれ……じゃないとこっちも何も言えない!」
ヴィーナは震えた声で話し始めた。
「お兄ちゃんについてタックスと話してたのそしたらタックスがお兄ちゃんに作ってもらったっていう青い布を見せてきて……」
(この前タックスにあげたネクタイか……)
「ちょっと見せて欲しかっただけなのに、見せてくれなくて……それで耳を引っ張ったら……」
「そんなことであんな大けがをさせたのか!」
ヴィントラオムが声を荒げる。
「そんなことじゃないもん!」
ヴィーナも声を荒げる、ヴィントラオムはヴィーナが声を荒げている様子を初めて見て、少し動揺した。
「それが、子供に怪我をさせた奴の態度か!」
ヴィントラオムが拳を強く握りしめて言う、その拳は少し震えておりそこから肉食獣の様な気迫の裏に小動物の様な怯えがあることを感じ取れる。
もう、ヴィントラオムは自分が何をすれば良いのかを完全に見失っていた。
ブワッ
ヴィントラオムが手を振り上げる。
(あれ…今俺……)
ブゥン!
ヴィントラオムはヴィーナの頬めがけて勢いよく振る。
(何して)
バチィン!!
…………
小さな部屋の中に痛々しい音が響き渡ると、続いて水がゆっくりと流れていく音が鮮明に響く。
心安らぐ静かな森の川のせせらぎのような、そんな音が響き終わる頃には、少年の前に少女はもう居なかった。
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ポチャン…………ポチャン…………
ヴィントラオムの手が真っ赤に腫れている。
ヴィントラオムは掌の痛みを噛み締めている。
あの時、ヴィーナはヴィントラオムの方を見もしなかった、涙すら流さずに、たった一言「ごめんね」とだけ言い残して水路に消えていった。
「何がそれが子供に怪我をさせた奴の態度かだ、ヴィーナだってまだ…………」
涙が零れ落ちる間もない、ヴィントラオムにあるのはただ一つ己への怒りだけ。
「許してくれ……許してくれヴィーナ」
「大丈夫?」
隣に少女の声が置かれる。
ヒーナだった。
「相談…………のろっか?」
少し恥ずかしそうに言うヒーナ、そんなヒーナの言葉を聞くだけで、ヴィントラオムの気は少し楽になった。
ヒーナの存在はヴィントラオムにとって励ましになるのだ。
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「なる程、じゃぁヴィンはヴィーナちゃんを叩いちゃったわけだ…………」
ヴィントラオムは頷き、話始めた。
「こうなった責任は……何処にあった、ヴィーナにヴィーナ自身の力の大きさを教えなかった自分にか、それとも強大な力を使ったヴィーナ自身にあるのか……」
「う~ん」
ヒーナが考え込み、はっとした声を出すと言った。
「ねぇ、ヴィンこっち向いて」
ヴィントラオムは少しばかりの沈黙の後、静かに頷き、俯けていた顔をヒーナの方へ上げた。
「目……瞑って?」
ヒーナが緊張した声で言う。
ヴィントラオムは再び頷き、静かに目を閉じた。
ヒーナが深呼吸をする音が聞こえる。
「い、いくよ?」
何をされるのか分からない状況で緊張しているヴィントラオムは無意識に声を出していた。
「え?う、うん……来い!」
「うおぉぉ!」
バチィン!!
ヴィントラオムは思いっきり頬を叩かれ、ヴィントラオムの頬が真っ赤に腫れあがった。
ヴィントラオムが目を開けたことにヒーナが気が付くと、落ち着いた声で話し始めた。
「責任の在り処とか、そんなのいくら考えたって分からないよ……今は分かることに目を向けなきゃ、大好きな人から叩かれたら、腫れて痛いし、悲しい気持ちになる、もう分かったよね?やらなきゃいけないことが」
ヒーナがヴィントラオムの手を握る。
「相談も終わったし、ヴィンに言わないと!」
「え?」
ヴィントラオムが困惑していると、ヒーナは晴れやかな表情と声で言った。
その言葉はヴィントラオムに何をすべきかを教えてくれた。
そうしたヒーナの協力のおかげで、ヴィントラオムは再びヴィーナと話す覚悟を決めたのである。
ちなみに、ヒーナが何と言ったかは、言わぬが花であろう。
次回「血だらけの大好き」