第31話「恋心」
「その……光栄です!その……私なんかのために戦ってくれて……」
ヴィントラオムの思考はバグり散らかしていた。
初めての様呼びに混乱して今何をすればいいかを完全に見失い……まるでライオンに追い詰められたシマウマの様に震えている。
「ここを出て行かなくても大丈夫です!!私が言えば多分どうにかなります!!」
ヴィントラオムはそれを聞いて我に返る。
「いや…俺のためにそこまでしなくても良い、それにこれからはアイツらも君を一人の子供としてしっかり育ててくれるはずだから……君の言うこと何でもかんでも聞いて育児放棄なんて事は無い………」
ヴィントラオムは少女に微笑みかけて言う。
「だから……」
「駄目です!!」
ヴィントラオムの言葉を少女が止める。
「その……私が嫌なんです……ヴィントラオム様が出ていくというのが………」
ヴィントラオムの脳内は完全に空白と化す。
そんなヴィントラオムを見かねてリディアがヴィントラオムに耳打ちをする。
「彼女は君の事が異性として好きなんだよ、可憐な女の子の恋心を無下にするな……君は今、彼女の王子様なんだから……」
今度はヴィントラオムがリディアに耳打ちをする。
「まぁお前が言うならそうなんだろうけど………でもハッキリ言って俺にそんな勇気無いって……」
べゾルバがヴィントラオムに耳打ちをする。
「ワイから言わせてもらえばな……こんなチャンス滅多にないで………アイツは今吸血族の中でも最強と名高い個人や………ここで味方にできれば吸血王に大きく近づける」
それを聞いたヴィントラオムの顔は生まれ変わったかのように、爽やかになる。
ヴィントラオムは少女に向けて決め顔で言う。
「わかった……君のためにここに残るよ……それでなんだけど……」
少女は目をキラキラさせて言う。
「はい!なんでしょう!!」
ヴィントラオムは少し恥ずかしそうに言う。
「これからも、君の遊び相手させてもらってもいいかな?」
少女が5歩、後ろに後ずさりすると鼻血を垂れ流しながら言う。
「ふぁ、ふぁい……」
ここでリディア、べゾルバは気が付く。
ヴィントラオムは意外と人心を掌握するのが上手いことに……
リディアとべゾルバは後でヴィントラオムの鼻の骨を折るとを心に決めた。
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そしてそんなヴィントラオム強制整形事件から300年が過ぎた。
「ヴィン様ヴィン様!!今日の夜、伝えたいことがあるのですが……私の部屋に来てくださいますか?」
それはついにハーリッド邸の立て直しが終わり、ヴィントラオムたちがヴァレンタイン邸を発つ15分前にヴィントラオムが少女……いや、ヒーデリカから伝えられたことだった。
それはまだヴィントラオムがヒーデリカに自分が去ることを言えずにいた時のことだった。
その理由はヴィントラオムがヴァレンタイン邸を発つ日から1か月ほど遡る。