第28話「転居」
今更ですが、吸血王決戦編のテーマは恋愛です。
ヴィントラオムとべゾルバの激しい対話によって、ハーリッド邸はただの瓦礫となってしまった(主のベトムは知らない)。
ヴィントラオムからしたら、家が無くなったのだ……ここでハーリッド邸の再建が終わるまでヴィントラオムは巨大な川が周りを囲む王都レイスの10分の2を占める巨大な邸宅。
リディアのコネでヴィントラオムはそんな豪邸、王族序列1位:ヴァレンタイン家が所有するヴァレンタイン邸に居候することになった。
付添人は手続きをしたリディアと護衛のべゾルバである。
ヴィントラオムは体を大きく伸ばしながら、デカい声で言う。
「っあー!ようやくついたか!ていうか結構大きいな!!門の前の庭だけで俺の家がいくつ入るんだよこれ!!」
リディアは頭を抱え呆れた様子で言う。
「全く……はしゃぐのもそこまでにしてくれ、君は一応貴族なんだから……品性がない奴と見られてイメージが落ちるのは避けたい」
「なんだよリディア……お前はこんなデカくてロマン満載な家を見ても少しもワクワクしないのか?」
リディアはキッパリ苛酷に答える。
「君の様に幼稚ではないからね私は」
目をギラつかせたべゾルバが通りすがりにリディアの肩をポンと叩くと歩きながら言う。
「こういう時にはしゃいだ方が人生楽しいで!てことでワイはあの門の前にいる屈強そうなおっさんと遊ぶかなぁ……」
奥の方でべゾルバが門番と喧嘩……と言うかべゾルバによる一方的な暴力が始まる。
門番の声がヴィントラオムの所まで聞こえてくる。
「な!なんだ貴様ぁ!!いきなり殴ってくるとは!!」
ヴィントラオムは門番を滅多殴りにするべゾルバを見ながら言う。
「あいつが一番はしゃいでないか?」
リディアは突然、黙々とメイド服のスカートの下から瓶を取り出し、口に運ぶと言う。
「もう、酒を飲まないとやってられないな……」
ヴィントラオムは呆れた様子で言う。
「えぇ!?……これから、ヴァレンタイン家の人たちにあいさつしに行くってのに?」
「大丈夫さ、私は結構酒に強い」
リディアは酒を一口飲む。
ゴク………バタン!!
ヴィントラオムは突然ぶっ倒れたリディアにびっくりして言う。
「えぇ!!一口でつぶれた!!」
ヴィントラオムは倒れたリディアを足でつつく。
「ウッ!……ガァァァァ……スピィィィィィ!」
ヴィントラオムはべゾルバの方を見る。
べゾルバが門番をフルボッコにしながら言う。
「おぉい!!その筋肉は飾りか!はよ起きろ!!ワイは短気なんや!!これ以上待ってられへんで!!この拳が炸裂するでぇ!!」
ヴィントラオムは二人の様子を見ると何も言わず静かに歩き出し、一人ヴァレンタイン邸のエントランスに向かった。
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ヴァレンタイン邸第3食卓で大柄な男が両腕を大きく広げ、デカい声で言う。
「ようこそ!!ハーリッド君!!我が邸宅へ!!」
ヴィントラオムは耳を塞ぎながら言う。
「どうも……お世話になります……」
「おさらいだが!!君がこの邸宅に住む条件は知っているね!!」
いきなり聞いたこともない話が飛び出たので、ヴィントラオムは困惑気味に言った。
「いえ、なんも知りません……と言うか条件付きなのですか?」
大柄な男は腹を抱えて笑った後、ヴィントラオムを見て言う。
「そりゃぁ、君の様な弱小が、我が高貴な邸宅に住むなど、贅の極みよ!!それを許すには相応の仕事をしてもらわなければならん!!」
「……してその仕事とは?」
ドン!!
大男はテーブルに肘をつくと言う。
「我が娘、ヒーデリカの遊び相手だ!!」
ヴィントラオムはそれを聞いて一瞬で理解した。
(これ多分やばい仕事だ!!絶対遊びとか言いながら、めった刺しにされたり、骨折られたり、目玉くりぬかれたりするやつだ!!)
ヴィントラオムは恐る恐る聞く。
「その…娘さんはどんな方なんですか?」
「早速だな!!良いだろう、付いてこい!!ヒーデリカに合わせてやる!!」
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薄暗い通路をヴィントラオムは大男に連れられて歩く。
とても長い通路を階段を下りたり登ったりしながら進むこと5分、ヴィントラオムが場の気まずさに限界を超えようとした頃、大男の足がついにとても大きい扉の前で止まった。
「ここだ」
ここで突然大男の声がとても小さくなる。
ここでヴィントラオムはこのとても大きく分厚い鉄の扉の奥にいる、生物のヤバさを感じ取った。
大男は扉の鍵穴にカギを入れて言う。
「開けるから少し離れろ」
ガシャン!!ガコン!ガコン!ギィィィィ……
ドアの開く音が、ヴィントラオムの精神を削り取っていく。
(……空気中を漂う魔力が物語っている……多分マジな奴だ……これ)
ヴィントラオムは突然大男に張り手で吹き飛ばされ扉の奥の部屋に強制的に入れられる。
「え?ちょ!」
ギィィィィ!!
「五時間後に迎えに来る!!」
ガチャン!!ガコン!ガコン!
ヴィントラオムが振り向くと、真っ白な装飾品と大量の本に囲まれた金色の髪を輝かせている人形のような少女が、ベッドの上で本を読みながら座っていた。
綺麗な紫色の光の無い瞳をした少女、右目には白い眼帯を付けている。
ヴィントラオムは少女を見つめていると、いつの間にか言っていた。
「……ヴィーナ?」