第27話「心行くまで」
べゾルバ・ボンベレードの使う魔法、【フォトスカード】は自分の触れたものを14枚あるカードに一つずつ格納することが出来る。
そんなフォトスカードに格納されている物の中でも【ディミ・シングロ】【瓶天ノ風】【ヤードバイト】の三つは強力な特性を持った武器である。
「おいおい!!逃げるだけかぁ?ヴィン!!」
ドカァン!!ズガァン!!ダダダダダ!!
ザシュ!!ブシャ!!
べゾルバの【瓶天ノ風】による風の猛攻がヴィントラオムの肉を削ぐ。
ブチ……ブチ……
ヴィントラオムは猛攻を必死に避けながら策を考える。
(再生速度が遅くなってきている……このままじゃ死ぬ……もう切り札を切るしかないか……)
【瓶天ノ風:牙ノ嵐】
シュルルルル!!
小さな竜巻が【瓶天ノ風】に纏わりつく。
「ちくしょう!!また大技かよ!!派手なもんだな全く!ならこっちも!」
【黒い命友】
(限界まで……尖らせて…固くして……軽くして………強く捻じらせて!!)
「これで終わりや!!」
べゾルバが会心の一撃を放つ。
それに対抗してヴィントラオムは影の槍を亜音速で飛ばす。
ドゴォォォン!!ギギッ…ギッ……ギギッ
二本の槍が激しく激突し凄まじい衝撃波を生み出している。
べゾルバが吐息を漏らしながら言う。
「ヴィン!!お前まだ何か隠してるんやないか!?」
「教えられないなぁ、それは!」
「そんじゃぁお前の死体にでも聞くわぁ!!」
ギュイィィン!!バキバキバキ!!
ブシャァ!!
【瓶天ノ風】が影を貫いていき、ヴィントラオムの胸を貫いた。
ビシャ!!
徐々にヴィントラオムの体が崩れ去っていく。
「……」
「ッ!これはヴィンやない……」
「これは……影か!!」
べゾルバはあたりを見渡す。
「いったいどこに!」
ブチ………ブチブチ……ブチブチブチブチ……
べゾルバの足元にできた血だまりが少しずつヴィントラオムになっていく。
「よぉ、後ろ取ったぜ………べゾルバ!!」
「なッお前!自分を液体になるくらいグチャグチャにしたんか!?」
「正解……」
ヴィントラオムは紅に輝く魔法陣をべゾルバの背中に押しつける。
「行くぜ……切り札だ!!」
【万能鍵:べゾルバ・ボンベレード神経………LOOCKING】
シャララララ!!
魔法陣から紅に輝く鎖が飛び出てべゾルバの周りを取り囲む。
ガチャン!!ガコン!!ガキン!!
鎖がべゾルバの背中に吸い込まれていく、鎖が全てべゾルバの背中に吸い込まれると機械的な施錠音が鳴り、べゾルバの背中に鍵穴ができべゾルバがビクともしなくなった。
それを見たヴィントラオムは一息つくとふらつきながら声を漏らす。
「……はぁ……もう……」
ドタン!
ヴィントラオムは地面に伏し静かに目を瞑る。
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「うっ……うぅ」
目覚めたヴィントラオムの目の中に飛び込んだのは自分を見下ろすリディアの姿だった。
「ッ!リディア?!」
「おはよう、話の前にべゾルバの魔法を解いてくれないか?君にしか解けないんだろう……あの魔法」
ヴィントラオムは起き上がりながら言う。
「あぁ……」
ヴィントラオムはべゾルバの背中についているカギ穴に触れ目を瞑る。
【万能鍵:べゾルバ・ボンベレード神経………UNLOCK】
「そんなん食らうか!!………?……あれ……リディ?なんでいるんや?」
リディアは落ち着いた様子でべゾルバに言う。
「君はヴィンに負けたのさ、私もヴィンに負けた」
べゾルバは頭を抱えて言う。
「そうか……」
ヴィントラオムはよくわからずに言う。
「ちょっと待て、お前が俺に負けったって……どういうことだ?それ」
「べゾルバから聞いたはずだ、私は君を救おうとした、と言うか諦めさせようとしていた、あのまま行けば君はこの苛酷な世界に心を殺されてしまうと考えたからだ、私は自己中心的な哀れみで君に偽りの苦しみを与え、本当の苦しみから君を救おうとした……しかし私の憶測は外れ、君は諦めるどころか自分のネガティブな感情に真正面からぶつかり、ましては自分を強く燃え上がらせる燃料にしたて、あの怪人べゾルバを倒した……私にとってこの出来事は完敗と言っていい………泣き顔も見せてしまったしね……」
ヴィントラオムは真っ直ぐリディアの目を見て言う。
「聞くべきじゃないって知ってる上で聞かせてもらうが……どうしてあの時、お前は泣いたんだ?」
リディアは不気味な薄ら笑いをして言う。
「言いたくないな」
ヴィントラオムは言う。
「じゃぁ良い……でも……いずれ知りたいな、今じゃなくても500年後くらいには」
「全く……君もいよいよ時間の感覚がバグってきたね……」
ヴィントラオムは目を覆いたくなるほどの眩しい笑顔で言った。
「お前のせいだけどな!」
リディアは笑顔で言う。
「そうか……そうだな…‥まぁこれからは対等な仲間として、もっと私に都合のいい感覚を植え付けるとしよう!ヴィン!」
ヴィントラオムはボロボロになった体を押さえながら言う。
「今更仲間か……なんだかアホっぽいな……それって!」
べゾルバが地面に座り込み冷や汗を垂らしながら言う。
「まぁよろしくお願いしますが出来たのは良いとして……」
べゾルバは指をさして言う。
「この邸宅だった瓦礫……どうするよ?ヴィン……」
「あぁ……それか……とりあえず………逃げるか!」