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バッドエンドのその先にある転生  作者: 八十神 たたま
第二章:吸血王決戦編
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第25話「反逆」

 ヴィントラオムが生まれてから10年が経過した。


 邸宅は主人であるべトムの留守で静寂に包まれている。


「無理!」


「そんなことを言わずに……ほら幸せになるために、強くならなきゃいけないんだろ」


 ヴィントラオムはクイーンサイズのベッドを勢いよく殴る。


 ヴィントラオムがベッドを殴るとベッドは痛々しい音を出し、真っ二つに割れた。

 

 しかしヴィントラオムもリディアもそんなこと気にも留めていない。

 

「10年もあの化け物に殺されまくって!ボロボロなんだよ!!もう無理だ!!べゾルバ!あんな奴!!狂ってんだよ!!」


 リディアは煙草を吹かすと冷静に言う。


「ヴィンも知ってるだろ、あいつはそういう奴なんだ、そういう奴過ぎて二つ名は怪人……考えてみれば人間に怪物の怪が付いた怪人と言う言葉ほど彼を言い表している言葉も無いな」


「そもそもあいつを人間って呼ぶのか?あいつ不老不死なんだろ?そもそも何で不老不死なんだよ?」


 リディアはキッパリとハッキリと言う。

「そこは話せない、まだ君は私の気を許すに値していないからね」


 それにヴィントラオムは反論する。

「気を許すって……お前は人に気を許したことはあるのか?そもそもお前はそんな目を持っているのにどうして人の事を信じられないんだ?!俺の過去を勝手に見て、それをダシにいいように操ろうとして!お前は人を利用する道具としてしか人を見てないんだろう!!」


 リディアは静かに……しかし苛酷に口を開く。

「逆に聞くが、君を信じれば、私に何かいいことがあるのか?」


 ヴィントラオムの沸点はついに頭角を現す。

 

 今までヴィントラオムは拷問に等しいひどい仕打ちを受けてきた。

 

 しかし問題はそこではない、彼には彼を慰める者がほとんどいなかったのだ。


 べゾルバはヴィントラオムにとって教科書だ、しかし先生でも師匠でもない、一つ出来る様になってもそれは凄い事ではないと見られ、出来るようになった事以上を求められる。


 まさに拷問だ。


 今までヴィントラオムは傍観していた、ただ命の危機を、恐怖しなくなる事に対する恐怖を、忘れていく自分を、まるで他人を見ているみたいな顔をして、傍観していた。


 ヴィントラオムは笑う事さえなくなっていた。


 それはヴィントラオムが苦しみから逃れるため、全ての感情を他人の物として見ていたからだ。


 しかし今沸き上がった感情は久しぶりに自分の意志で沸き上がらせた怒りだった。


 べゾルバにグチャグチャにされて沸き起こる生命としての怒りではなく、リディアとリディアの言いなりになっている自分に対する反乱、それをするための人間としての怒り、今ヴィントラオムが感じているものはそれだった。


 だからこそヴィントラオムは自分の思ったことを全て言った……いや、言ってしまったのだろう。


「お前の身勝手にはもううんざりなんだよ!!」


 ガクン!!


 リディアが急に膝をつく。


 まるで時が止まったかのような静寂が訪れる。


 コトン……


「ッ!」


 ヴィントラオムは恐怖した、リディアのサングラスが地面に落ちたことにより見えるようになった、彼女の焦点が合っていない目に。

 

 何かに憑りつかれた様に、リディアは喋り始める。

「いやだ……いやだ!いやだ!!いやだ!!!なんでだ……なんでお前…それを言うんだ!!お前の為だって言ってるのに……」


 そう言うリディアの眼のそばには滅多に見る事のできない、3106カラットのダイヤモンドが輝いている。


 ヴィントラオムは狼狽え恐怖した、とともに更に怒った。

「なんだよ……それもどうせ演技だろうが!!泣けば済むとでも思ってんのかよ!!そんなことで許すかよ!!今まで俺がどんな酷い目に合ってきたか……お前が知らないはずがないだろうが!!!絶対に許さねぇよ!!!!」


 ヴィントラオムは勝ち誇ったように言った。


 しかし言葉を発してから、10秒、3呼吸ほど置いた後、ヴィントラオムは彼女の涙が偽物であるわけがないと気が付いた。


 ヴィントラオムは目を虚ろにさせ、過去と同じ過ちを繰り返した事を深く後悔する。

(あぁ……やっちまった……こいつがウソ泣きなんかするかよ……頭が滅茶苦茶切れるリディアが、俺に10年間感情という感情を見せなかったのに今更ウソ泣きなんかで俺を騙せると思う程、馬鹿なわけ無い……そもそも、こいつにとって俺に泣き顔を見せる事は、この10年を無駄にするのと同じような物だろう……)


 ヴィントラオムは声を出そうとした、しかしリディアはそれを待たずして部屋を出て行った。


 ヴィントラオムは虚しさを心に抱えたまま、トボトボと部屋を出て、目的もなく、あてもなく、ただ廊下を歩き始めた。


 ヴィントラオムが50歩程歩いた頃だったろうか、ヴィントラオムはべゾルバと鉢合わせた。


 べゾルバは呆れた様子で言う。 

「なんか遅いと思ったら………お前ら声がでかいねん……まぁ……なんや……面貸せや」

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