第24話「月光を殺す怪人」
ヴィントラオムが生まれて1日後……
月光が差し込む、屋敷の中庭にて……
「さて、さっそく訓練を始めよう」
ヴィントラオムはまるでひっくり返った幼虫の様にその小さな手足をばたつかせて言う。
「おい!待てよ!俺まだ赤ん坊なんだけど?!」
「大丈夫さ、君の父にも許可を取ってある」
(あのじーさん、まだ生後1日の息子に訓練させることを許すって頭にカビでも生えてんじゃねぇのか……)
「心配するな、赤ん坊と言っても吸血鬼だからちょっとやそっとの事じゃ死なない……筈だ」
「そこはしっかりと自信持てよ!」
「まぁ何とかなることを祈ろう、それじゃぁよろしく頼むよ」
そう言うとリディアはヴィントラオムに背を向け屋敷の中に消えてゆく……
「え?リディアが訓練を見るんじゃないのか?」
「よ、気分はどうや?ガキ」
「え?」
シュパ!!
ヴィントラオムの頭と胴が後ろから伸びた手によって離れ離れにされる。
「はよぉ、答えろや……言っとくが、ワイは短気なんや」
ガシ!
「そぉら……飛んでけ!!」
ブン!!
(あれ?なんで俺の体が見えるんだ……てか、なんか高くね?)
ヒュー……ドチャ!
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「ぃ……ゅうに……百三十三……お!やっとくっついたか……おっそいのぉ」
ヴィントラオムが目を開けるとそこには青いシャツを着た黒いおかっぱ頭の、瘦せた長身の青年が立っていた。
その顔は常に不機嫌そうな表情をしており、その細い目からは生気を感じる余地もない。
「起きるまでに百三十三秒かかったから今からお前を133回殺す、逃げるか、ワイを止めるかして死なないようにせいぜい頑張りや」
「ちょっと待て!!一旦話を」
ブシュ!!ビシャア!!
「がぁあぁああああ!!!!ッゴフ!」
「いーち……」
男がヴィントラオムの胸に腕を突っ込む。
(あぁああああああ!!!痛い!!クソが!!めっちゃ痛てぇ!!何が起こってんだ!クソ!滅茶苦茶いてぇ!ふざけやがって!!なんで内臓抉られてんのに生きてんだ俺!)
ッシャァ!!ドォン!!ズザァァァ……
男はヴィントラオムから心臓を抜き取った勢いで、ヴィントラオムは地面に勢いよく叩きつけられる。
チャ……ブチャ……グチュ……
地面に叩きつけられたヴィントラオムがもがいていると胸に付いた大きく痛々しい傷が、周りの肉を巻き込みながら渦を作って塞がってゆく。
そうして完全に傷が塞がった次の瞬間、男がヴィントラオムの体を上半身と下半身で真っ二つにぶった切った。
「にーい……」
「ッでぇぇぇぇぇぇぇグフ!!」
(やばい……これはほんとうにやばい……)
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「ひゃくさんじゅうさん………お、もぉ133回殺したんか、人を殺してると時間の進みが早く感じるわ………まぁ次は殺されないように対策の一つでも考える事や、せいぜいあがけ」
男はそう言うと屋敷の方に歩き出す。
すると男は奥から来たリディアとすれ違った。
リディアはすれ違いざまで男に言った。
「どうやら終わったようだね」
「うわぁ…あれだけ緑と花に彩られていた中庭が血だらけだ……全く……べゾルバの奴……さて……ヴィーン!だいじょーぶかーい?」
ヴィントラオムは月光を宿し赤く充血したその瞳をリディアの方に向けると、息を切らしながら、言うなれば、首を絞められているのかと思わせるようなか細い声で言った。
「゛ふつう゛に゛む゛……り゛……」