第22話「理由」
(父親が他界した後、母親はおかしくなり、残された俺と幼い弟に虐待を繰り返した)
(母親は宗教に入信した後さらにおかしくなった)
(家の家具は全て売られ、その金で母親が謎の仏像や写真を購入していった)
(俺の寝床などはなく夜は母親の不気味な祈りの声と背中の痛みで安眠できたことは一度もなかった)
(一番恐ろしかったのは、母親の不気味な祈りの声で安心してしまった時だった)
(母親の入った宗教方針で、長男は厳しく育てると強靭な子になり、次男は甘やかして育てると寛容な子に育つと言われていたらしい、それのせいか俺は厳しく育てられた)
(毎日水が張ってあるシンクに顔を押さえつけられ気絶するまで九九を言わされたし、まともな飯は食わせてもらえないから俺の体には骨の形がくっきりと浮き出ていた)
(一度、弟のために用意されたシルベーヌを一口食べたことがあった、俺は罰として家中の害虫を食べさせられた)
(高校生の時、女子が落とした消しゴムを拾ったことがある)
(そこからだったか……学校のありとあらゆる奴にいじめられた)
(犬の糞尿を食べさせられたり歯に針を刺されたり……)
(そんな日々に癒しが出来た、カエルのピョンだ、足を怪我している所を俺が拾い、学校の屋上で世話をした)
(夏休みに入り俺は定期的にピョンの世話をするために学校に行っていたが、8月23日に屋上に閉じ込められた)
(学校は改装で屋上には誰も来ず、空腹の果て俺は唯一の食料を食べてやり過ごした)
(成人した後、俺は宗教団体が経営している商品開発の会社で働くことになった)
(そこで働いていた美幸と言う19歳の女の子と知り合い、兄妹の様に仲良くなった)
(ある時、いきなり俺は地方の工場に出張に出された)
(俺が出張から帰ってきたとき美幸は居なかった)
(俺の母親が教祖に気にいられる為に献上したらしい)
(美幸の使い道は俺でも分かった)
(俺は家に帰った……家に帰って……)
玄関のドアを開けてリディアが入ってくる。
「君は家に帰ってきて母と弟をグチャグチャにした……君は冤罪なんかじゃない、君が彼女らをごみ同然に扱い、殺した……すべて君がやった、それだけの話さ………」
「ふざけんな!こんな事……やった覚えねぇ!!」
玄関の扉にもたれてリディアは言う。
「どうやら、君の記憶は過度の興奮で飛んだんだろう、ほら泥酔した時に記憶が無くなるあれと同じような物さ」
リディアがゆっくりとヴィントラオムに近づく。
「君はヴィーナ・シュピーゲルに救われていたんじゃないか?こんな壮絶な人生を忘れさせてくれる、女神、あるいは天使とかな?」
ヴィントラオムは黙りこくる。
「図星のようだね……そろそろ現実に戻ろうか?」
ヴィントラオムが大量の汗をまき散らしながら、勢いよく起き上がる。
「おはよう……君の寝言は中々面白かったよ……もう君の頭がおかしい理由は分かった、次はなぜ君がヴィーナ・シュピーゲルを愛していたのか教えてくれよ」
「………なんでだよ」
「は?」
「そんなの聞くまでもねぇだろ!!初めて……初めて幸せになれたんだ!!ヴィーナだけじゃない!!タックスも!ヒーナも!ブルーも!みんな俺に幸せを教えてくれたんだ!!あいつらは俺の幸せそのものなんだ!!」
リディアがニタリと笑う。
「あいつらを愛せなきゃ……俺は幸せになれねぇんだ!!これが愛す理由だ!!俺は俺が幸せになるためにあいつらを幸せにしなきゃいけないんだよ!!これの何が悪いんだ!!」
リディアはサングラスを上げると少し怖い笑顔で言った。
「何も悪くないさ!むしろ最高だよ……今日の私はとても運が良いようだ!!」
「何言ってんだお前……うわ!!」
リディアはヴィントラオムを持ち上げ言う。
「ヴィン!!取引をしよう!とても有意義な取引を!」