第21話「新しい事、昔の事、君の事」
新章開幕です。
「君は頭がおかしいんだよ」
メイドにナイフを突きつけられてヴィントラオムの体は細やかに震えている。
「君はなぜそこまでヴィーナ・シュピーゲルを愛せたんだ?答えてくれ」
この状況を説明するには、時を遡らなくてはならない。
15分前……
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「コホン!私としたことが取り乱してしまった……」
ヴィントラオムは何かを言おうとするも、赤ん坊の姿で言葉を発するのは躊躇した。
「喋ったら良い、もう君が喋るのは知っているからね」
それを聞いてもヴィントラオムは声を出さなかった。
「まぁ、君が喋らないのなら私が喋るがね」
女はスカートを摘まむと頭を下げて言った。
「私の名前はリディア・ノビリダス……好きに呼んでくれたまえ」
ヴィントラオムは固く閉じていた口を緩める。
「あんた、何で俺が転生者ってわかったんだ?」
リディアは目を大きく見開いて言う。
「えぇ!君転生者なのかい!?」
「え?知ってたんじゃないの?」
「いや初耳だよ……これは色々聞かなければね……」
ヴィントラオムは小さな体を後ろに倒す。
「何にも言う気はないぞ!!」
リディアはナイフをスカートの下から数本出して言う。
「別に良いよ、言わないなら言わせるだけだから……」
「ひぇ」
リディアはヒュンヒュンとナイフを遊ばせながら、ゆっくりとヴィントラオムに近づく。
「まずは人間関係から行こうか?」
10分後……
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ヴィントラオムはぐったりしている。
「10分で……たったの10分で情報と言う情報が搾り取られた………」
「ふーむ……ある程度の事は把握できた……ただ一つ……分からないことがまだある」
ドン!
リディアがヴィントラオムが寝ているベットのシーツに勢いよくナイフを突き立てる。
「君はなぜそんなに頭がおかしいんだ?」
ヴィントラオムは困惑する。
「なにいって……」
「おや、自覚していなかったのか?君は頭がおかしいんだよ」
「何を根拠に……」
「君はなぜそこまでヴィーナ・シュピーゲルを愛せたんだ?答えてくれ」
ヴィントラオムは顔を伏せる。
「なんでって……」
「この問いに即答できない君が根拠だ、たいして愛してもいない人間の為にそこまで身を粉にできる君は異常なんだよ」
「愛してる!!」
リディアがヴィントラオムにグッと近づいて、その神秘的で危険な香りを漂わせる目をグッと開く。
ヴィントラオムの目はその目に奪われ始めた。
「ならもう一度だけチャンスをやろう、君はなぜそこまでヴィーナ・シュピーゲルを愛せたんだ?」
リディアの目を見ているうちにヴィントラオムの意識は深い過去の記憶に飲まれていった。
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「圭太!お菓子は1つまでよ!」
「はぁーい」
その子供は買い物に来るといつも他の子供を見ていた。
それを見て「あの子スポーツとかやってるのかな?」とか「頭よさそーだなー」とかくだらないことを考えながらジッと見ていた。
そんなことをする理由はそうしていないと自分の事を考えてしまうからであろう。
家に帰らなければいけないことを思い出してしまうからだろう。