第20話「さよならヴィントラオム………こんにちはヴィントラオム」
白い空間で少女がヴィントラオムに話しかける。
「ヴィン……今の君はもうすぐ壊れてしまうだろうから手早く希望を与えて私が君を救う」
ヴィントラオムは微動だにもしない。
「ヴィーナ・シュピーゲルを助ける方法を、ヴィンは知っている」
ヴィントラオムは小さな声で言う。
「なん、だって……」
「君がヒーナ・ブラッドレイと読んだ本、あれに記されていただろう、原初の魔法、蘇生魔法について」
ヴィントラオムは干からびた芋虫の様に体を引きずりながら、少女に近づく。
「あの魔法は、本当にあるのか……」
少女は頷く。
「あぁ…ある、でも蘇生魔法の復元は命神である私ですらできない、これはヴィン自身にやってもらうしか無い」
ヴィントラオムは命神と名乗る少女の足元で膝をつきながら質問する。
「それで……どうすれば……」
「やけに聞き分けが良いね」
「幸せを奪われることに慣れただけだ」
「まぁ良い、私が出来るのは君を転生させる事と、ヴィン自身の魔力と引き換えに私の力を渡すこと、それと……君のメンタルケアかな」
ヴィントラオムは体を起こして言う。
「ヴィーナを本当に救えるんだな……」
「あぁ、だが2つ注意事項がある、まず転生には君の魔力を使う、ここに君の魂が来た時に魂に残ってる魔力の量が足りなければ、君は本当に死ぬ」
「もう一つは?
「これは個人的な注意だが、ヴィーナ・シュピーゲルを救うという目標は君が生きる事の理由にはならない、君はヴィンの人生を舐めすぎだ、1つの目標に専念させて貰えるほど人生は退屈ではない事を覚えていた方が良い」
ヴィントラオムは少し静かになると、質問をした。
「なぜ、そんなに俺を助けてくれるんだ?」
命神は答える。
「君が好きだからさ、好きになった理由は言えないけど、ヴィンは私のお気に入りなのさ」
ヴィントラオムは座りなおして言う。
「なら、無条件で俺の力を強化してくれよ」
命神は首を振って言う。
「それは無理だ、君がどうしてもと言うならばそうしてやってもいいが、私の魔力は全世界の生物や物体に均等に分配されている、君一人に魔力を渡すと魔力の均衡が崩れて世界のバランスが崩壊し……まぁとにかく世界がめっちゃヤバいことになる、それでも良いなら……」
ヴィントラオムが即答する。
「駄目だ、はぁ、俺の魔力っての?渡すから何ができるのか教えてくれ」
「良いだろう、私が君やってあげられることは主に3つ、君自身の強化、魔法の譲渡、転生条件の変更、君自身の強化は魔力所持上限の向上や身体能力の向上、影の触手の強化もこの中に含まれている」
「魔法の譲渡は何となくわかる……強力な魔法を使えるようにしてくれるとかそういうのだろ……それより分からないのは転生条件の変更っていう奴だ」
「魔法の譲渡に関してはヴィンが言ったとおりだから説明しないとして、転生条件の変更とは転生する種族、転生する場所、ほかにも寿命などが決められる、決めなければランダムだ」
「成程分かった、それじゃぁ今の俺の魔力で、自身の強化を何回出来る?」
「今のヴィンの魔力量を考えると23回だ」
「なら、魔法をくれ、残った魔力をすべて自身の強化に当てて良い」
「分かった」
命神はそう言うと手を叩いた、すると何処からともなく、大量のカードが出てきてヴィントラオムを囲った、カードには魔法の名前と能力と等級が記されている。
「さぁ、好きなのを選びたまえ」
ヴィントラオムは慎重にカードを選び始めた。
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カードが出てきてから数分後ついにヴィントラオムが口を開く。
「決めた……」
「ほぅ、アリシクリーズとは良いチョイスだ」
命神は少し心配そうに言う。
「しかし、それは最上級の命神級だ、その魔法を選ぶと強化に当てられる魔力はほとんどなくなってしまうが……それでも良いか?」
「あぁ、それで良い」
「分かった、能力強化と魔法の譲渡は転生後に自動で行われる、それと…お前が魔法を選んでいる間に考えたのだが……」
ヴィントラオムが聞く。
「何を考えたんだ?」
「ついでだからお前の触手に名前を付けてやろうと思ってな」
ヴィントラオムは言う。
「名前なんていらないけど……」
「私に名前を付けられた全ての存在は上位存在になり強化される、つまり言いたいのは、私につけてもらった方が良いと思うぞ」
「ちなみに何て名前だ?」
命神は満面の笑みで言う。
「スキアテーロスだ………人前で名前を付けるのはなんだか恥ずかしいかも……」
「別にいいじゃん、カッコいいよ?」
命神は恥ずかしくなったのか、話題を変える。
「それよりそろそろ転生するか!よし!しよう!今すぐしよう!!」
ヴィントラオムの足元に魔法陣が出る。
「え、あ、うん……あ!お前の名前って何?」
「?確かに……私の名前って何だろう……」
「あ、無いんだ」
「私は命神としか呼ばれたことが無いからな……お前が付けて良いぞ」
「えーと……帰ってきてからでも良いか?」
ヴィントラオムがそう言った瞬間に魔法陣がカッと光りヴィントラオムは強制的に転生させられた。
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長髪の男が頭を抱えながら言う。
「あぁ……生まれてしまったか……」
ヴィントラオムは思う。
(なんだぁ?もしや出来婚とかか?)
今度は金髪の女性が言う。
「そんな悲観しないでベトム……せっかくの赤ちゃんじゃない」
「子供一人生まれたところで我らが一族で最弱という事実は変わらん……」
金髪の女性は言う。
「そんなこと無いわ、この子がもしかしたら希望の子供になるかもしれないじゃない」
「そんなこと……」
金髪の女性は大きな声で言う。
「もぅ!あなたはお父さんでしょ!!子供が生まれたってだけでうれしい物じゃない!!そう悲観的にばかりならないの!!」
男は初めて微笑んで言った。
「そうだ……」
バタン!!
急に金髪の女性が倒れた。
メイド女性に近づいて叫ぶ。
「奥様!?しっかりしてください!奥様!!」
医者が言う。
「どけ!!搬送する!!旦那様こちらへ」
長髪の男が言う。
「わかった!!おい!ノビリダス!ヴィントラオムを見ててくれ!」
メイド服の女は深々と頭を下げて言う。
「かしこまりました旦那様」
カラカラカラ……
「しっかりしろ!おぃ……」
ギィ……バタン!!
男たちが部屋から出ると、メイドはピンクと緑というケバケバしい瞳をサングラスで隠し、長い黒髪を後ろで結ぶと煙草の様な物を懐から取り出して口に咥えた。
ボ!
ジィ……
女は指先に出した小さな魔法陣からその魔法陣よりも小さい炎を出すと煙草にその小さな炎を点けた。
「ふぅ……君……何者だい?」
ヴィントラオムは背筋が凍る音を聞いたようだった。
「ただの赤ん坊じゃない……只ならぬ知識を持っているだろう」
「……」
ヴィントラオムはただ黙った……嵐が過ぎ去るのを待って。
「よし!」
女は懐からナイフを抜きヴィントラオムの方に向けた。
「喋らなきゃ殺す」
ヴィントラオムはついに我慢できなくなった。
「分かった!分かったから!!」
女は後ろに倒れこみ言う。
「ま、マジで喋ったぁ?!」
これがヴィントラオムとリディア・ノビリダスの出会いであった。
第1章を最後まで読んでくっださった方もチラッとページを開いてくださった方も見ていただき、ありがとうございました。