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バッドエンドのその先にある転生  作者: 八十神 たたま
第一章:シュピーゲル編
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第2話「この世界の空はきっと青色であろう」

 赤子の目から涙が止まってから五分たった今、赤子はここからどうすれば良いかを考えていた。

 

 赤子はまずへその緒を切ろうと思い自分の体を見たが、不思議なことにへその緒が繋がっておらず、赤子のへそからは何処にも繋がっていない、不気味なへその緒が伸びていた。

 

 赤子は自分の体を確認し終えると、ここが何処なのかと言う疑問を抱いた。


 まずは上を見てみる、赤子は人は幸せに包まれた時、空を見上げると本で読んだことを思い出した。


 今、上を見ても赤子には見たこともない気持ち悪い虫が這い回っている石造りの天井しか見えない、そんな天井を見ながら赤子は、この世界の空はどのような色なのだろうかと考えた。    


 周りを見渡す、赤子は観察の結果、洞窟か何かだと思っていたここは、どうやら書斎の様な場所という事に気が付いた。


 古本の匂いと赤子の母親と思われる女性の死体の匂いがブレンドされている。


 ザァァァ……


 赤子が鼻をつまむと、後ろから水の流れる音を聞き取った。


 赤子が後ろを見ると書棚の奥に人一人が入れるくらいの水路が通っていた。

(なんでこんなところに水路が……)


 ザァァァ……ゴツン!ガツン!

(水路の奥から何か聞こえる……)


 赤子は本を積み上げて足場にし、水路をのぞき込んだ。


 ザァァァアアァァァ! 

 赤子が水路をのぞき込んだのと同時に、人間の生首が水路を高速で通り過ぎた。


「ぎゃぁあ!」

 赤子は突然流れてきた生首に驚いて本から転げ落ちた。


 ガタガタガタン!ゴトン!……ガツン!!

「ゔっ!」

 赤子が勢いよく地面に頭を打った音が水路に響いた。


 音が一通り響き渡った後、今度は壁を叩く音が響く。

 ドン!ドン!ドン!


「なんじゃ!オォイ!マリアンヌ!大丈夫か!何があった!」

 赤子が頭を打ち付けた音は思ったよりも響いたようで、壁の向こうから赤子が聞いたことのない言語で誰かが赤子にしゃべりかけてきた。


(うぅ……なんだ……変な言葉で誰かがしゃべってる……イッ!)

 赤子の後頭部に鈍い痛みと熱が走った。


 ポタポタと何かが滴る音が聞こえてきて、赤子の体には鳥肌が浮かんだ。


 赤子はようやく事態の重さに気が付く。

(まずい、出血してる!このままじゃヤバイ!死ぬ!こんなところで!どうする!誰かに助けてもらうしか……そうだ!)


「オンギャァ!オンギャァ!」

 赤子が思いついたのは精一杯泣くことで、周りに助けを求める事であった。


 赤子が泣き始めると3秒程で、再び声が聞こえた。

「なんじゃ、なんなんじゃ!なぜ赤子の鳴き声が聞こえる!マリアンヌ!3つ数える間に応答が無かったら、そっちに移動するからな!」


(またなんか言ってる……喋ってないで早く助けてくれよ!」

 赤子は痛みに耐えながらそんな事を思う。


「もうそっちに行くぞ!」

 大きな声が響いた後、今度はザッパーン!と何かが勢いよく水に落ちたような音が響き、先ほどの水路に老人が流れてきた。


 老人は水路の淵を掴むと赤子のいる部屋に上がってきた。

 バシャ!ドタン!


「ハァハァ……ングッハァ………マリアンヌ、大丈夫か……何があ」


 老人が赤子を見つけると、驚いた表情をして赤子の方に向かって走った。

 赤子の倒れている所で老人はしゃがみ、ビシャビシャの手で赤子を抱き抱えた。


「なんじゃ!この赤子は何処から!」


 老人は赤子の顔を見て驚く。

「この眼球は忌み子の!いやそれより後頭部からかなり出血しておる……早く治療しなければ!」


 ビリィ!

 老人が自分の着ている服を勢いよく引きちぎり、ちぎった布を赤子の後頭部に強く押さえつけた。 


(よかった……誰か来てくれた……これで助か……)

 赤子の一瞬意識が飛びそうになったが、老人が赤子を抱えながら走り出したことにより、赤子の飛びかけた意識が戻ってきた。


(……それにしてもこの爺さん、何て言ってるんだ……)

「アグガレオーテ!パチリア……パルステナビオーラディマリアンヌ!」


 赤子の思考が色々な感情で混乱している間に、老人は赤子を古びた作図用の机の上にそぉっと置いた。  

 すると老人は懐から栓がされたフラスコを一本取り出した。


 老人がフラスコの栓を抜こうとすると、机の上に置いてある手紙に老人が気が付く。


 ビリィ!

 老人は乱雑に手紙の袋を破ると中に入っていた一枚の紙を見始めた。


 老人が手紙を読み始めてから十秒ほどが経った頃、老人は手紙を机の上に置き、フラスコの栓を勢いよくポン!と開けた。


 そうすると今度は赤子の体をひっくり返して、赤子の後頭部に赤い液体を垂らした。


 老人が液体を垂らし終えると赤子は後頭部から鈍い痛みと熱がスゥーっと消えていくのを感じ取った。 

 赤子の後頭部には、まるでひんやりとした気持ちのいい温度の掌で撫でられているかのような感覚が沸き上がった。


 老人が一息つくと、赤子を買い物かごで作られた簡易ベッドに入れた。

 老人は赤子をかごに入れた後机の前に置いてある椅子に座り、先程の手紙を握りしめ、静かに涙を流した。


 まるで穏やかな森の川のせせらぎの様に目からあふれた涙が頬を伝ってゆく、赤子はそんな老人を見ながら(どんな人生を送ったらこんな泣き方できるんだ……)と思っていた。


「ヴィントラオム……ヴィントラオム・シュピーゲル」

(なんて言ってるのか気になる……)

 赤子も安心したのか目を閉じれば数日目が開かなくなると分かる程の強い眠気を感じた。


 赤子はもう一言、老人の言葉を聞いてから眠ることに決めると、老人の動きを待つ。

 老人が赤子の方を向いて言った。

「眠いのか、そうか……ゆっくりお休み……ヴィン」


 赤子は目を閉じた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「お~い!テイパー!起きろよ!」

 少年が老人の上に乗っかって叫ぶ。


「う~ん」

 老人が苦しそうな声を出しながら目をこする。


「ん~もう少し寝かせてくれ……」


「テイパー昨日魔族語教えてくれるって言っただろ!」

「う~ん」


 少年がこの世界で産声を上げてから4年が経った、少年が今、少年の育ての親であるテイパーに馬乗りして叫んでいる理由は、この世界の三大言語の1つ、魔族語を教えてもらうためである。


「テイパー!早く起きないとテイパーが大切にしてるアレ燃やすぞ!」

 少年がそう言うと、まるでスイッチの入ったおもちゃの様にテイバーが勢いよく起き上がる。


「分かった!分かったわい!待ったく昔から可愛げのない奴よのう」

 テイパーが頭を掻いて立ち上がり、先ほどまでテイパーが掛け布団にしていたズタボロのローブを羽織る。


「今日はどんな単語を教えてくれるんだ?」


「今日は気が変わった、魔族語はやらん」


 少年の頭上に?が浮かぶ。

「じゃぁ何をすんの?」


 テイパーがフーン!と鼻を鳴らして言う。

「今日から新しく魔法学をやるぞ!嬉しいだろー!」


 少年が聞く。

「……え?何をやるって?」


「魔法学をやる」


「……」

「よっしゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 少年は、人は幸せに包まれた時、空を見上げると本で読んだことを思い出した、今、少年が上を見ても気持ち悪い虫が這い回っている汚い石造りの天井しか見えない。


 しかしだが少年には分かっていた、少年の持つ前世の記憶を使えば推測できることだったのだ、この世界の空は青色だという事を。  

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