96話 新たな装備
『ユニーククエスト【悪魔の宴】をクリアしました』
そうして問いかけてくる皆さんを何やかんやと誤魔化していると、ふとそのようなシステムメッセージが流れることで私の意識はそちらに向きます。
それと同時に皆さんにもクエストクリアの報告が来たようで、皆さんの注目が私ではなくそちらへと移ったので助かりました。
「どうやら、これで完全に終わりのようだな」
「ですね」
兄様の漏らした声に私はそう言葉を返します。
悪魔との戦闘と私の深層心理の世界での時間が長かったようで、すでに今の時刻は十時半を超えているところでした。お昼ご飯の時間まではまだありますが、始めたのが七時半くらいからだったのを考えると結構経っていたみたいですね。
「じゃあこれでレアちゃんのクエストは完了のようだし、私たちの出番はこれでおしまいかな?」
「そうね、なら私はそろそろ街に戻ってログアウトをするわね」
ソフィアさんとネーヴェさんはそう言葉を発してきたので、私はわかりましたと返すと、ネーヴェさんは早速とばかりに街へと歩いていきます。
ソフィアさんはそれを見て苦笑をこぼしつつも、また何かあったらいつでも呼んでね!と言葉を残してネーヴェさんの後を走って追いかけていきました。
「じゃあ俺もそろそろ戻るな」
「レアさんの容態が大丈夫なのを確認しましたし、私もそろそろいくのです!」
「私もいくね!レアさん、また今度一緒に狩りにいこうね!」
「はい、カムイさんとアリスさん、アオイさんもありがとうございました」
では、と言って三人が去っていくのを見送った後、私はそのままソロさんへ視線を向けて、改めて感謝を伝えます。
「ソロさんもありがとうございました。ソロさんがいなかったら私はどうなっていたかわかりませんでしたし、とても助かりました」
「ふふ、そこまで気にしなくてもいいですよ。それにレアの闇もすでになくなったみたいですし、もう大丈夫そうですね。それと……貴方の思いはとても純粋ですし、素直に伝えるとよいですよ」
「…んにゅっ!?」
ソロさんが最後にこっそりと私にのみ聞こえるように耳元でそのようなことを言ってきたので、私は思わず変な声が漏れてしまいました。
ソロさんは悪戯っぽく笑ってからこちらを微笑ましそうな表情で見ており、どうやら私のこの気持ちは見透かされているみたいです。
ま、まあ人生経験が多そうなソロさんですし、こんな子供である私の思考は手に取るようにわかるのでしょうね。うう、恥ずかしいです…!
「レア?」
「な、にゃんでもりありませんよ…!?」
ソロさんの言葉を聞いて顔を赤くしている私に、クオンが後ろからそう声をかけてきたので私は慌てて誤魔化しますが、先程のソロさんの言葉でどうしても意識してしまいます。
「…まあなんでもないならいいが。じゃあレア、俺たちもこれで解散するから、また明日の火曜日に会おうな」
クオンは私の反応に少し不思議そうにしつつも、そう言葉をかけてきました。
「は、はい!あ、あと時間は何時にしますか?」
「そうだな、なら今と近い時間くらいの十二時辺りでどうだ?」
「わかりました、ではその時間に会いましょう!」
明日にはクオンとダンジョン攻略にもいきますし、今の気持ちはキチンと抑えるようにして気合を入れましょうか!
ソロさんは素直に思いを伝えるとよい、と言ってましたが、流石に今すぐにそんな気持ちを伝えるのは無理です。それでも私たちは学生なのでまだまだ時間もたくさんありますし、それについてはまた次の機会にします。
まあいつかはこの思いは伝えたいですけどね!
「じゃあレアちゃん、また明日ね!」
「またです、レアさん」
「じゃあな、レア!」
「はい、皆さんも今日はありがとうございました。また明日に会いましょう」
そしてクオンとそのパーティメンバーたちのみなさんが去っていくのを私は手を振って見送ります。
「じゃあ俺たちもいいタイミングだし、そろそろいくか」
「そうだな!じゃあレアちゃん、また会おうな!」
「また一緒に買い物もしましょうね!」
「はい、また会いましょう!」
最後まで残っていた兄様とそのパーティメンバーのみなさんも続けて去っていくので、私は同じく手を振って見送った後にソロさんと少しだけ空気になっていたリンネさんへ視線を向けます。
「では、私たちも戻るとしますか」
「ふふ、そうですね」
微笑ましそうな表情で見つめてくる二人の視線を私は受け流し、兄様たちから遅れながらも初期の街へと戻っていきます。
「レアさん、今回のお礼としてぜひお渡ししたいものがあるので、このまま一緒に教会まで来てくれませんか?」
「いいですけど、私は特に何もしてませんよ?」
そう、私は悪魔であるヴァルドさんの相手をクオンとしていただけですし、特に感謝されることはないとは思います。
ですが、そんな私の反応を見つつもリンネさんはそれでもと言って感謝を伝えてきました。
リンネさんの言葉から察するに、悪魔の相手をしてくれただけでもありがたいらしく、私に全てを任せてしまったのに対して自責の念に駆られているようです。
まあそれでも、私的には今ここでこの過去との決別も出来ましたし、クオンとの関係についても発展を頑張ろうという思いが湧いているので、そこまで気にしてませんけどね。
「二人とも、そろそろ着きますよ」
「……!」
そうした会話をしていると、ふと上げたソロさんの声に私とリンネさんの意識は前方に向きました。
クリアも、私の肩で何やら震えて着いたよー!とでもいうような感情を伝えてきており、それに私は軽くなでなでなどをして気持ちを伝えます。クリア自身も撫でられるのは好きなようで、私の手に擦り寄ってきています。
そうしたことをしつつも、私たちは一旦南門を潜って街中へと入っていきます。
「…では、改めて教会までいいですか?」
「わかりました。別に断る理由もないですし、ぜひ貰わせてもらいますね」
「はい。それとソロさんも、一緒にどうですか?」
「…そうですね、ならご一緒させてもらいましょうか」
「決まりですね。じゃあ早速教会まで戻りますか」
そうして私たちはクリアを含めた四人で、そのままクエストに向かうまでにいた教会へと歩いていきます。
その道中では、初期の街にいたプレイヤーの皆さんからの視線が私に集中していますが、前までのように声をかけてはこないので楽でいいですね!
まあ人目は結構ついているので、ちょっとだけ煩わしくは感じてしまいますが。
しかもソロさんやリンネさんにも視線が向いているようで、リンネさんはほんの少しだけ居心地が悪そうにしています。
あ、ソロさんは別ですよ。ソロさんはなんだかこんな状況に慣れているようで、いつもと様子は変わっていません。
「…レアさんは、有名人なのですか?」
そして教会に向かう道を歩いている途中でリンネさんからそう問われたので、私は苦笑をしつつもそれに答えます。
「多分、異邦人の中ではかなり有名だとは思いますね」
「なるほど、道理で人目がこんなにもついているのですね」
続けてソロさんもそう言葉を呟きますが、私は苦笑をするしかありません。な、なんだかすみません。
ここには第二陣のプレイヤーもそこそこいますし、こればかりは仕方ありませんね。
…やっぱり顔を隠すものとかを使ったりした方が良いのでしょうか?声をかけてはきませんが、視線は集まってしまいますし…
「…あの、もしかして【時空姫】ですか?」
私がそのような思考をしていると、私の斜め前からふとそのような言葉をかけられました。
そちらに視線を向けると、そこには身長150cm後半くらいで赤髪で緑目をした初心者らしき女性プレイヤーが立っていました。
なので私は別に隠しても意味はないとは思ったので、素直に言葉を返します。
「多分それであってますよ」
「よ、よかった!あ、あの、もしよければサインをくださいっ!」
周りのプレイヤーたちからの無数の視線を受けているからか、はたまた有名と言われる私と会話をしているからか、理由は定かではありませんが、その女性プレイヤーは何やら緊張しながらもそう言って色紙らしきものを私へと突き出してきました。
「さ、サインですか?別に私のなんて…」
「何を言っているんですか!【時空姫】といったら唯一個人のスレが掲示板に乗っていて親衛隊すら出来ているくらいですよ!そんな人のサインだなんて、とても貴重なのです!」
私の言葉にその女性プレイヤーはむふーっと自信満々な表情を浮かべながらそのように言ってきました。というか、何やら気になることを言ってましたね…?
「親衛隊、ですか?」
「え、知らなかったのですか?」
私の発した言葉に女性プレイヤーは不思議そうな表情をしますが、それは初耳ですね。
「…まあそんなことよりも、サインをお願いします!」
「そ、そんなことって、私には死活問題の気がするのですけど……まあ気にしても仕方ないですし、置いておくとしますか。…サインはこれでいいですか?」
「わー!ありがとうございます!」
一緒に渡されたペンのようなもので適当にサインとして名前を書き、その色紙を受け取った女性プレイヤーはとても嬉しそうにしているので私は微妙な表情をします。サインを書き終わった後についでに先程の親衛隊とやらについて詳しく聞いてみようとした瞬間…
「お、俺にもサインをください!」
「私もお願い!」
突如周りにいたプレイヤーらしき人たちが押し寄せてきて、私に向けてそのような言葉をかけてきます。
どうやら女性プレイヤーの行動を見て、自分もとなったようでこちらに寄ってきたみたいです。
「そ、ソロさん!助けてください!」
「ふふ、やれやれ…」
私の助けを求める声を聞き、ソロさんは魔法が何かで私を浮遊させたと思ったら、そのまま走り出したソロさんとリンネさんに引っ張られるかのように空中を飛んでいきます。
私の肩にいたクリアはサーフィンをしている気分でも味わっているのか、そのまま肩にしがみつきながら楽しそうにしています。
それとソロさんはこんなことも出来たのですね…!というか、そこ!私のスカートの中を覗こうとしないでください!
「…はあ、助かりました」
「このくらいは大丈夫ですよ。それよりもレアのほうこそ大丈夫ですか?」
「はい、ソロさんのおかげで特に問題はありませんでした」
そうしてソロさんたちに引っ張られること少し。人影が少なくなってきた道を歩いていき、教会まで辿り着いたタイミングでソロさんは魔法を解いてくれたので、私はそこで地面へと足をつけます。
ふー…親衛隊とやらについては聞けませんでしたが、これは掲示板とやらを見ているらしいクオンか兄様にでも今度聞いてみますか。
「あ、レアちゃーん!」
「アンちゃん!」
そして教会の敷地に入るなりそのような声が聞こえたと思ったら、アンちゃんを先頭に他の子供たちも私たちの元へと駆けてきました。
「レアちゃん、だいじょうぶだった?」
「はい、この通りピンピンしてますよ!」
そう返した私の言葉を聞いたアンちゃんは、ニコッと笑いながらそっかーと言い、また遊ぼ!とも言ってきたので、私は少しだけ困ったような表情をしてしまいます。
今はリンネさんからのお礼とやらを受け取るために来ただけですし、お昼ご飯までの時間もあるので遊んでいる時間はあまりないのですよね。
「これこれ、あまり嬢ちゃんを困らせてはダメだぞ?」
「はーい」
そのタイミングで子供たちがいた背後から、そんな男性の声が私の元へと聞こえてきました。
そちらに視線を向けると、そこには身長170cm前半くらいで銀色をした短めの髪に青い瞳をした、まさしく優しげなお爺様と呼べるであろう男性がこちらに向かって来ているところでした。
それと同時に子供たちも私たちから離れていき、皆で遊び始めています。…なんというか、平和そうでとてもいいですね。悪魔がここへ来てましたが、被害もなさそうなので安心しました。
「リンネから聞いているよ。なんでも悪魔と戦ってくれたとか」
私は自身にかけられた声を聞き、子供たちから視線を逸らしてそのお爺様へと顔を向けます。
「まあ私一人の力ではなく、皆の力でですけどね」
「ほっほっほ、謙虚なんだね」
私の言葉にお爺様はそう言ってますが、本当に私だけの力ではないので謙虚なわけではないのですけどね。
それにクオンがあのタイミングで来てくれなかったら、私は多分あのまま闇に飲まれて終わっていたとも思いますしね。
「神父様、それでなんですけど…」
「ああ、先に連絡をくれたことだね。もちろん構わないよ。渡してあげなさい」
「はい!…それではレアさん、今お礼の品を取ってくるので、少しだけ待っていてください」
「わかりました」
その言葉を発した後に、リンネさんは司祭館の方へ向かっていくのを私は見送ります。
「それと……ソロ、君も来てたんだね。元気そうで何よりだよ」
「ふふ、そういう君も、変わらず元気なようだね」
リンネさんを見送っていた私は二人のその会話を聞いて少しだけ不思議に思ったので、二人の関係について聞いてみました。
すると、どうやらお二人は昔からの友人のようで、お互いに知り合った仲のようです。
なるほど、友人ですか。ソロさんの交友関係については聞いたことがありませんでしたが、これを見る限りは結構知り合いは多いのかもしれません。
あ、友人といえば、ソロさんはアリさんとも知り合いでしたが、そのアリさんは今頃何をしているのでしょうね?最後に会ったのは第一回イベント前が最後ですし、少しだけ気になっちゃいますね。
「レアさん、お待たせしました」
そう取り止めのない思考を巡らせていると、そんな声と共にリンネさんが戻ってきました。
リンネさんの手には何やら黒色をした箱のようなものを持っているようで、おそらくあれが私へ渡す物なのでしょう。
「では、これをどうぞ」
「ありがとうございます。…早速開けても良いですか?」
「もちろん大丈夫です。どうぞ確認してください」
私は一度声をかけてから手渡された箱を開けて中を確認すること、中には何やら黒色をした洋服と頭を覆い隠すかのような黒色のベール、そして細身の細剣が入っていました。
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黒十字の修道服 ランク S レア度 固有品
DEF+20
MND+40
INT+30
耐久度 破壊不可
・〈黒の十字架〉 使用すると一人の対象が受けているあらゆるデバフを打ち消す。 リキャストタイム一分
・白き祈り 祈りのポーズを取ると、自身の周囲にHPとMPの自動回復効果をもつ簡易な領域を生み出す。
始まりの街の教会に納められていた修道服。その服には祈りの力が込められている。
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黒十字のベール ランク S レア度 固有品
DEF+10
MND+20
INT+40
耐久度 破壊不可
・黒き幻 装備者のマーカーを偽装する。
・第三の魔眼 自身の視界を一時的に見えなくする代わりに第三の魔眼が解放され、周囲を完璧に把握することが出来る。
始まりの街の教会に納められていたベール。そのベールには祈りの力が込められている。
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黒十字剣クルス ランク S レア度 固有品
INT+35
DEX+35
耐久度 破壊不可
・魔法剣 自身の攻撃が全てINT依存になる。
・〈剣気解放〉 一分間自身の振るう攻撃が広範囲化して攻撃力を強化する。 リキャストタイム三分
始まりの街の教会に納められていた細剣。その細剣には祈りの力が込められている。
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鑑定をしてみるとそのような説明が出ましたが、それを見て私は驚きました。なんと、またしてもユニーク装備だったからです。本当に私はユニークアイテムと出会う機会が多いですね?
まあそれはいいとして、早速確認といきましょうか。説明を見た限りでは修道服はともかく、ベールについては前にもらった暗殺者装備と同じでマーカーを偽装する効果を持っているようなので、これはロールプレイなどに活かせと言うことでしょうか?
今までにロールプレイはしたことがありませんでしたが、これもいい機会ですしやってみたいですね!
そして気になる見た目についてですが、修道服は黒をメインに白を組み合わせ、膝丈のスカートをして肩付近にケープのようなものも付けられて可愛く仕上がっているシスター風のクラシカルロリィタとなっており、ベールの方は頭につけて目元と髪を覆い隠す漆黒色をしているみたいなので、これまた今着ているゴスロリ装備と同様にとても可愛いのでかなり気に入りました!
最後の剣については、黒と白の混じった細身のレイピアのような剣となっており、この装備と一緒に使えばとてもよく似合うことでしょう。