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94話 一筋の光

 しくじったっ!


 最後の最後で倒し終わったと油断したせいで、レアが悪魔の最後の手段とやらに飲み込まれてしまった。


 そのせいで意識もなくなっており、今は俺がレアのことを抱き起こしてその間に他の人たちが話し合っているところだ。


 しかし俺は油断をしてしまった自分への怒りが心の大半を支配して、その話し声が右から左へと通り抜けていってしまっている。


「…どうしたらいいんだ?」

「それなら、私にいい考えがあります」


 ゼロさんのその声にソロさんとやらが返した言葉がふと聞こえ、俺の意識はそちらへと向く。


 ソロさんはレアが連れてきたこの世界の住人らしく、俺たちとは比べるまでもないほどの実力を持っているのだ。


 なので、その人が言ういい考えならば今のレアの状況をどうにか出来るかもしれないので、俺は…いや、俺たちはその先の言葉を視線を向けて促す。


「ちょっとだけ失礼しますね」


 皆の視線を受けているソロさんは一度俺の抱き起こしているレアに視線を向け、何かを確認したかのように頷いた後、語り出した。


「やはりそうですね。…どうやら、何か深い闇を抱えているせいで悪魔に精神世界で乗っ取られかけているのでしょう」

「深い闇……もしかして、まだあのことを気にしているのか?」


 ソロさんが教えてくれたことを聞いた俺は、思わずそう呟いてしまった。


 するとその言葉を聞いた皆は今度は俺へと視線を向けてきて、何があったかを視線で問いかけてきた。


「…どうやら、思い当たることがあるのですね」

「はい、実は…」


 ソロさんの言葉に俺はその顔に苦々しい表情を浮かばせつつ、そう言ってレアと俺、ゼロさんによる過去についての言葉を続ける。


「…なるほど、そんな過去があったのですね。教えていただきありがとうございます」


 思えば、その片鱗はこれまでにも僅かに見えていた。


 俺はそれについてはすでに過去として一切気にしていなかったが、これを見るにレアは今もなお後悔という名の炎が燃え上がっているのだろう。


 普段の行動の表層などからはあまり見受けられないうえに普通に友達として行動を共にしていたが、レアはずっとそれを気にしていたらしい。


「ならば、当事者であるクオン君が助けに行くのが良いでしょう」


 そのような思考をしていると、ソロさんがそう言葉を続けてきたので俺はそれに苦々しい表情をしつつ言葉を返す。


「だが、どうやって助けに行くんですか?レアは精神世界にいるんですよね?」


 そう、ソロさんが初めに精神世界で乗っ取られそうになっている、と言っていた。


 なら、俺なんかではそこに行くことも出来ないはずだ。それに実は俺もユニークスキルの解放はしているが、完全な解放は出来ていないうえに俺のユニークスキルではまず間違いなく行けないであろう。


「私の魔法でなら、レアの精神世界に送ることが出来るはずです。大勢を送ったら悪魔に気づかれてレアに危害があるかもしれませんので、送れるのは一人だけですがね」

「なるほど、それで俺が行けば良いわけですね」


 ソロさんはどうやら魔法使いタイプのスキルのようで、先程悪魔に吹き飛ばされて状態異常で動けないところも治してもらったのだ。


 そのため、その腕前は何となくではあるがかなりのものだとすでに把握はしているので、その魔法については信用出来るはずだ。


「話が早くて助かります。では、準備はいいですか?」

「はい」


 そうして早速とばかりに使用したソロさんの魔法で、俺はレアの精神世界に行くのか徐々に意識が薄れていく。


 レア、必ずお前を救ってみせる!




「…っ、ここは…?」


 深い闇に呑まれたと思ったら、いつのまにか先程までいた平原ではなくどこか違う場所に移動していたみたいです。


 見えている範囲では、そこは真っ黒で広々とした空間となっているようで、至る所が傷つきまくっており、さらには蛇が這ったかのような模様らしきものまで無数に描かれています。


「ここは貴方の心の中。そして、私の再誕の場所です。貴方がこれほどまでの闇を抱えていたなんて、ああ!なんて好都合なのでしょう!」


 私が一度周りを確認していると、突如空間内に響いたその声にハッとして音の発信源である方向に視線を向けます。


 視線を向けた先には、私から少し離れた位置に先程倒したと思われた悪魔であるヴァルドさんが立っており、両手を広げて何やら興奮したかのように言葉を発していました。


 どうやらヴァルドさんの言葉から察するに、ここの空間はおそらく私の心の内である深層心理なのでしょう。


 なら、戦えるのは私一人だけですし、ヴァルドさんを何とか倒す必要がありますね。


「おや、おやおやおや、まさかお一人で私と戦うつもりですかぁ?」


 私がインベントリから即座に双銃を取り出したのを見て、ヴァルドさんはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながらこちらにそう問いかけてきましたが、私はそれに言葉を返さずに弾丸を発射することで返事をします。


 しかし、その攻撃は突如ヴァルドさんの前に出現した黒い蛇によって防がれました。


「黒い、蛇…!?」

「くくく、やはり貴方の闇は素晴らしいですねぇ。何ならこのようなことも出来るのですよぉ?」


 撃ち抜かれて消えていく黒い蛇を尻目にヴァルドさんが徐に右手を挙げると、今度はヴァルドさんの周囲から無数の黒い蛇が出現しました。


 それらの蛇たちは大きさ的には現実世界のものよりも一回り大きいくらいで、そこまでハッキリとした脅威は感じません。


 ですが、数が数だけに苦戦はするかもしれません。今私がいる空間は結構広いとはいえ、平原などと比べると移動出来る範囲が狭まっていますしね。


 まあ壁を走ったり蹴ったりも出来るので、悪いところだけではないですが。


「さぁ、いくのです!」


 そんな思考をしていると、ヴァルドさんが上げたそのような声を合図に周囲にいた無数の黒い蛇たちがこちらに向かって襲いかかってきました。


 それを見た私は一旦後方にステップを踏むことで距離を取り、襲いかかってくる黒い蛇たちへと両手の銃を構えて攻撃を開始します。


 黒い蛇たちは最初に思った通り、単体では特に苦戦はせずにどんどん倒せています。


 ですが、倒しても倒しても次から次にヴァルドさんの周囲から生み出されているので、どうしても一人では手が回りません。


 そんな黒い蛇からは未だにダメージは負ってませんが、それでも数が多いのでこのままではジリ貧ですし、体力も消耗していっているので早めに何とかしないといけません。


「なら、〈第七の時(ズィーベン)〉!」

「おやおや、またもや分身ですか?」


 自身に撃ち込んだ武技で分身を生み出した私は、続けて分身と共に〈第一の時(アイン)〉を自身に撃つことで自身の動きを加速させます。


 そして加速したスピードに惑わされていく黒い蛇たちを分身と共に撃ち抜いていきますが、それを見ているヴァルドさんは特に焦った様子もなくこちらをニヤニヤとした表情を浮かばせて眺めています。


 黒い蛇たちは徐々に減っていっているのに、その余裕さは何なのでしょうか…


 そうして分身と共に黒い蛇を撃ち抜いていき、最後の一匹を倒したところで分身は消えてしまいました。


「素晴らしい強さですねぇ?」

「…〈第三の時(ドライ)〉!」


 癪に障るようなヴァルドさんの声に私は苦々しい表情を浮かべつつ、攻撃系の武技を放ちます。


「おや、危ないですねぇ?」


 が、それは当然のように再び出現させた黒い蛇によって防がれます。


「このままでは決め手に欠けてしまいますし、次はこうしましょうか」


 ヴァルドさんがその言葉を発したと思ったら、今度はヴァルドさんの目の前に複数の人間が出現しました。


 その人間たちは、私が過去に出会いトラウマを生み出してきた人物……テロリストの影でした。そのテロリストの影はあの時と同じくこちらへと手に持つ銃を向けてきます。


 その瞬間、私の頭にその時の記憶がフラッシュバックします。


 私が動けなかったせいで、悠斗が傷ついた。その時からずっと止まらない深い悲哀と自身への憎悪の炎が燃え上がり、この心を蝕んでいきます。


 事件当初は絵やエアガンなどの本物でない銃を見るだけで震えてはいましたが、それを直すためにと兄様と悠斗から勧められた銃の出るゲームをして、そこで出来たルミナリアなどのフレンドととも頑張ったことでなんとか恐怖などはなくなった。…はずでした。


 それなのに身体は未だにその時の恐怖を覚えているようで、手足が震え、視界がぼやけ、呼吸も荒くなります。


 私は、やはりこの過去を……トラウマを、克服することは出来ていなかったようですね。


「くくく、やりなさい」

「…!」


 しかしほんの少しだけ残っていた思考が飛んでくる弾丸を感じ、恐怖で固まる身体を無理矢理動かすことで頬を掠めるだけでなんとか回避が出来ました。


 私はそのトラウマに負けないようにと強い心を持って何とか身体を動かしますが、どうしてもいつものパフォーマンスは発揮出来ておらず次々と飛んでくる弾丸たちを完全に攻撃を躱せず、徐々に傷を負ってHPが削れていってしまいます。


「なかなかの美味である恐怖と怒り、やはり深い闇は素晴らしいですねぇ!」


 ヴァルドさんは何やら恍惚な表情をしているようですが、私はそれをハッキリと確認はせずに一度止んだ攻撃の間に荒れている意識と身体、呼吸を整えるべく深い呼吸をして何とかと意識を集中させます。


「貴方の闇は私の想像よりも深いようですし、これは私の位を上げる糧には十分でしょう!」

「…っ!」


 ある程度意識が戻ってきた私ですが、それでも過去のトラウマは消せず、恐怖と怒りで身体が震えてしまっています。


 しかし、それでも今は私一人しかいないので、ヴァルドさんを倒すのにどうにかしないといけません。なので、私はなんとか動ける間にテロリストの影に向けて連続して弾丸を撃ち込み、その影を全て消していきます。


 それを見たヴァルドさんは、それでも余裕そうな表情をしつつ私に向けて惑わしの言葉をかけてきます。


「勇気あるものが妬ましいのでしょう?」


 違います、私は悠斗が傷ついてほしくなかっただけなのです。


「動けるものが憎いのでしょう?」


 恐怖で足がすくんで行動が出来ず、それを人のせいにしてしまっています。


「動けない自分に嫌悪しているのでしょう?」


 私のせいで悠斗が傷ついて血を流し、そんな私自身に怒りが湧かないわけがありません。


 惑わすかのような言葉たちに、私の心がざわついて動きが鈍くなってしまいます。


 私の様子を見たヴァルドさんはその顔に残虐な表情を浮かべ、さらに影を自身の横付近へと生み出します。


 そのシルエットは最初に見た無数の黒い蛇やテロリストの人影ではなく、巨大な闇で出来た身長五メートルはありそうなほど大きい一体の巨人でした。


「さあ、あの無垢なる少女を倒すのです!」


 その巨人型モンスターはヴァルドさんが指差した私に向けて一気に襲いかかってきますが、私は最初の時よりも動きが悪いせいで巨人が次々と放ってくる攻撃を徐々に躱すことが出来なくなっていき、ついには振るわれたその拳が私をしっかりと捉え、背後の壁へと叩きつけられます。


「カハッ…」


 その壁に叩きつけられた勢いで私は肺の中の空気を全て吐き出され、目尻には涙まで漏れてきます。


 この深層心理にいるからかいつもより力も出なく、トラウマも蘇ってしまいどうしても倒せなくて、これはかなりピンチです。


 ですが、痛みとトラウマによる恐怖も相まってすでに身体を動かすのすら辛く、私は目の前へと倒れ込んでしまいます。


「さあ、絶望しながら死んで、その体を私へ寄越しなさい」


 その言葉を発しながら、ヴァルドさんは巨人を背後に移動させた後に倒れ込んでいる私の元へと近づいてきて、その手をこちらへ伸ばしてきます。


 …嫉妬しか出来ない私には、お似合いの結末ですね。


 もうダメだと思い、私は全てを諦めるかのように目を瞑ってしまいます。


 ヴァルドさんの手が私へと触れるかと思ったその瞬間…


「悪いが、そうはさせねぇぞっ!」


 突然この空間に私とヴァルドさん以外の声が響き、真っ黒なこの空間内に文字通り一筋の光が差し込んできました。


 その声に驚いて倒れた状態のままに私はそちらに視線を向けると、そこにはこの空間の上部辺りに出来た傷跡のようなものからクオンが一気に飛び出してきて、その勢いのままにヴァルドさんへとその手に持つ片手剣を振るうところでした。


「ちっ!一体どうやってこの世界へ侵入してきたんだっ!」


 突如現れたクオンによる攻撃に対してヴァルドさんは何とか防御は間に合ったようで、両手に生やした黒い爪で防ぎます。それでも攻撃による勢いは殺さなかったようで、巨人のいる背後へと飛ばされはしています。


「クオン!?どうやってここに!?」

「レアの知り合いのソロって人が、レアを助けるためにある魔法を使ってな。それでここまで入って来れたんだ。こいつにバレないようにするために人一人送るのが限界だったみたいだがな」


 私の言葉にそう返しつつも、ヴァルドさんを警戒しているのか片手剣をそちらに向けて構えたまま、私の元へと駆け寄ってくるクオン。

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