9話 銀の指輪
「お待たせしました、こちら料理になります」
私たちが話していると、店員さんが来て頼んだ料理をテーブルへと並べます。
「お、きたな」
「待ってました!」
兄様たちはそう言って料理を受け取って、私たちの方へも配ってくれます。
「じゃあ食うか」
「ですね!」
いただきます、といって私たちは食べ始めます。んー!このカルボナーラ、とてもクリーミーで濃厚です!コクが深く、ほんのりとした甘みもあります!口いっぱいに美味しさが広がって、これはまさに至高のカルボナーラですね!私も料理はしますが、ここまでの完成度は作れなさそうです…!
私がそう感動して食べているとふと視線に気づき、そちらを見ると、兄様たちがこちらを見て微笑んでいました。は、恥ずかしいです…!
私はコホンと咳払いをして、そそくさと食べます。そして食べ終わり、私たちは水を飲んで休憩しています。
「ここの料理、凄い美味しかったですね!」
「まあ料理系のトップを走っているプレイヤーだからな」
「そうそう!ここはプレイヤー以外の住人にも大好評の店だからな!」
「なんであんたが自慢げなのさ!」
そう言うセントさんへサレナさんがツッコミを入れます。そうして談笑をしていると、一人の男性がこちらへ近づいてきました。
「来ていたんだな」
「ああ、北の山の帰りに寄らせてもらった」
「北に行っていたのか。それで、どうだった?」
「まあぼちぼちってところだな」
兄様がその男性と話しています。この男性は兄様たちのフレンドなのでしょうか?
「と、悪い悪い。紹介するな、この人はムニルといって、ここの店を開いているプレイヤーで俺たちのフレンドだ」
なるほど、この人がここのお店を開いている人ですか。赤い髪をソフトモヒカンでセットした身長170cm後半くらいで紅目の青年の見た目をしています。
「改めてムニルだ。よろしくな、嬢ちゃん」
「レアと申します。よろしくお願いします!」
私はそう言って挨拶を返します。
「カルボナーラ、美味しかったです!」
「そう言ってくれると嬉しいぜ」
食べた料理の感想も言って感謝の気持ちも伝えると、それにムニルさんも嬉しそうにしています。
「また新しい食材が手に入ったらよろしくな」
「任せとけ。あ、あとレアともフレンド登録しておいたらどうだ?この子は俺の妹で、俺と同じできっと新たな食材を入手出来る気もするしな」
「お、そうなのか。じゃあフレンドいいか?期待してるぜ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
そう言って私とムニルさんはフレンドを交換しました。そして私たちはムニルさんへご馳走様と言って代金を払いお店を出ます。
「この後はレアはどうする?俺たちは一度鍛冶屋や裁縫店に行こうと思っていたが」
「私は木綿を獲得したので、それで服を作って貰おうと裁縫店に行こうと思ってました」
「ならもうしばらく一緒に行くか」
「はい。鍛冶屋にもついていきますね」
「了解」
私と兄様はそう話し、全員で一緒に鍛冶屋へと向かいます。
「向かっているお店って『アイアンスミス』ですか?」
「そうだが…知ってるのか?」
「はい、一度銃を買うために行ったことがあるのです」
昨日一度だけ寄って銃を探したのですよね。まあ他のプレイヤーから序盤では売ってないと言われたので、すぐに出ましたけど。
「なるほど、それでか。じゃあそこのプレイヤーにも会ったのか?」
「いえ、それはまだです」
「ならついでに紹介しておくか」
「わかりました」
武器はユニーク装備を買いましたし、あまり利用することは少なそうですが、顔を広げるに越したことはありませんしね。
「ユニーク装備があるなら、あまり新しい武器は使わなそうね?」
「そうですね、色々と触ったりはしてみたいですけど、メインの武器はこれで変わることはないでしょうね」
「あたしも欲しいなー、それともっとおしゃれな装備も欲しいよね!」
「そうよね〜、やっぱり女の子はオシャレしなくちゃ!」
「ですよね!私も流石に初期装備から変えたくて、木綿を取ってきたのですよ!」
マーシャさんたち女性組と会話をしながら歩いていると、昨日も見た鍛冶屋のお店が見えてきました。
そして私たちを連れて中へと入った兄様は、店員さんがいないようなのでカウンターの奥へと声を上げます。
「アイザ!いるか!」
「あん?誰だ?」
兄様の声に反応して、一人の男性が奥から出てきました。その男性はドワーフのようで、身長はわたしと同じくらいの140cmで、小さいのに横に太く、ですが太っているというわけではなくその分筋肉がついているとわかる身体をしています。焦茶色の髪はぼさぼさで髭も生え、琥珀色の瞳でこちらを鋭く見ています。
「ゼロたちか!よくきたな!」
そんなまさしくドワーフと言える姿をした男性は、兄様を見るなり顔を綻ばせ、カウンターからこちら側へ出てきて兄様の背中を強く叩きそう発します。
「痛いから毎回叩くな」
「まあそれはよいではないか。んで、武器はあるようだし、鉱石でも持ってきたのか?」
「ああ、銅と鉄鉱石を掘ってきたからそれを売りに来た」
「お、それはありがたい。そろそろ備蓄の鉄がなくなりそうだったんだよな」
兄様とそのドワーフ、アイザさんがそう話しているのを横から眺めていると、ふとアイザさんの視線がこちらへ向きました。
「して、そちらの嬢ちゃんは?」
「紹介するのが遅れたが、俺の妹のレアだ」
「初めまして、レアと申します」
「そんな堅っ苦しくなくてよいぞ。俺はアイザだ、よろしくな!」
私がペコリと頭を下げて挨拶をすると、そう返してきました。
「で?そちらの嬢ちゃんの分も何か買ってくのか?」
「いや、レアは銃を使うがユニーク装備だから、この店の武器などはほとんど使わないだろう。まあ、挨拶にきたくらいだな」
兄様がそう言うと、アイザさんは驚いたのか目を見開き興奮して続けます。
「ユニーク装備か?!な、なあ、少しだけでいいから見せてはくれないか!?」
「ま、まあいいですけど…」
そう言って私はニ丁の無垢の魔銃を取りだして渡し、アイザさんは壊れ物を扱うようにそっと受け取って武器の確認をしていきます。
「見た目は普通の武器とかわらないが、見た感じ金属なのかどうかもわからないような素材で出来ている…?しかも進化する可能性があると?しかし俺の【見分け】スキルには…」
ブツブツと言葉を呟きながらじっくりと二丁の銃を確認しています。すると確認が済んだのか、私へ銃を返してきます。
「いやー、ありがとう!しかしユニーク装備は今の段階ではまったくわからないのがわかった!」
「それなのに嬉しそうですね?」
「ああ!これを見て考えた目標は、俺の技術でユニーク装備を超えた武器を作ることだ!」
ガッハッハッと笑ってますが、目には真剣さを宿しています。そして私は返してもらった銃をインベントリにしまいます。
「やっぱり職人ならユニーク装備には興奮するんだな…」
「しかもそれを超える武器を作るなんて、高い目標ね」
ジンさんとマーシャさんがそう言葉を漏らします。
「高くて結構!ゲーム内くらい伝説となる武器もこの手で作ってみたいではないか!」
「確かにそうだよな!やっぱり伝説の武器とかは男の憧れだよな!」
「おお、わかるか!セントよ!」
二人ともグッと握手をしつつ笑っています。どうやら二人の相性は結構良いようで、なんだか悪友のような感じに見えますね。
「とりあえず、買取を頼む」
「おお、すまんすまん、ユニーク装備に浮かれていて忘れとったわ。して、どのくらい取れたんだ?」
「このパーティメンバー全員で掘ってきたから結構あるはずだ」
兄様は取引のメニューを開いてそこへアイテムを移していきます。流石にレーナさんに渡した時と違って量が多いので、カウンターに乗り切らないですからね。それに続いて私たちも同じく、兄様の取引メニューに鉱石たちを移していきます。
ちなみに取引メニューというのは、簡単に言えばインベントリのアイテムを外に出さずに交換出来るようなシステムと思えば大丈夫です。
「ほう、なかなかの量があるな。それに宝石の原石もあるのか。それなら、150,000Gでどうだ?」
「凄い高いですね」
「まあ今は鉄の需要がかなり高いからな、これでもかなりの元は取れるんだ」
私が言うと、アイザさんからはそう返ってきました。確かに、街中でも鉄装備の人は結構見ますもんね。
「了解、それでいいぞ」
「じゃあ、金を渡すぞ」
アイザさんと兄様は鉱石類とお金を交換します。そしてそのまま兄様は私たちへお金を分配もして、それぞれ一人当たり25,000Gになりました。
一人で狩りに行った時よりも多く稼げているうえにパーティなので安全ですし、お金を稼ぐにはやはり複数で行くのが良さそうですね。
「じゃあ俺たちはそろそろ行くな」
「おう、あ、そっちの嬢ちゃんもフレンド交換しておかないか?」
「ぜひお願いします!」
そう言って私はアイザさんとフレンドを交換しました。これでフレンドの数は九人に増えましたね!
そして私たちはアイザさんへ別れを告げ、お店を後にします。
「今度はレーナのところへ向かうぞ」
そう兄様の発した言葉に私たちは了承を返し、続いてレーナさんのお店へと足を進めます。
「兄様たちもレーナさんと知り合いだったのですね?」
「ああ、ベータの時にお世話になってな。そういうレアも知り合いなのか?」
「はい、昨日クオンに紹介されて会っているのです」
この革の胸当てもレーナさん作ですしね、と私は続けます。
「だからか。俺たちも昨日のうちに木綿を集めていて、それで装備を作って貰っているんだ」
「兄様たちも木綿装備にするのですね」
「まあジンは全身鎧にする予定らしいし、セントも軽鎧にするから、買わないらしいけどな」
「そうなんですか?」
「ああ、俺はタンクを目指しているからな」
私がジンさんへ聞くと、そう返ってきました。なるほど、タンクですか。ジンさんは体格が良いですし、立派な盾役になれそうですね。
ちなみにタンクとは、敵の注意を引きつけて積極的に攻撃を受け止める盾となり、味方全員を守る役割を主に担う職業のことです。なので、大体のパーティには一人は必ずいる、大事なポジションなのです。
そうして話しつつ歩いていると、道中の道端で困った顔をしている私よりも小柄な、おそらく身長120cm半ばあたりで銀色のショートヘアをした女の子を見つけました。
「どうしたのですか?」
私はその女の子に元に駆け寄り、少しだけ屈むことで視線を合わせて問いかけます。
「…大事な物を無くしちゃったの」
「落とし物ですか……じゃあ一緒に探しましょうか」
そう言って私は手を差し伸べます。その女の子はコクンとうなづいて、私の差し出した手を掴んできます。
「すみません兄様、ちょっとこの子の大事な物を探してくるので先に行っていてください」
「いや、流石に置いていかないぞ?俺たちも一緒に探すのを手伝うぞ」
「そうそう、みんなで手分けして探したほうが効率いいしね!」
「ありがとうございます…!…それじゃあ、お姉さんたちと探しましょうか!あなたのお名前は何と言うのですか?」
「…ファムっていうの」
「ファムちゃんですね。じゃあ聞かせてもらいますけど、その大事な物はどんな見た目をしているのですか?」
「…銀色をした指輪なの」
「銀色の指輪ですね、わかりました。じゃあ行きましょうか」
そう言って私たちは分かれて指輪を探しにいきます。
「どこら辺で落としたかはわかりますか?」
「…多分、東の路地裏。暗いところで無くした気がするの」
「東の路地裏ですね、じゃあそこから探してみましょうか」
「…うん」
私は兄様たちにフレンドメッセージで東の路地裏にあるかもしれないとメッセージを送ります。そして私とファムちゃんは、東に行ってそこから路地裏へ向かいながら足元を見て探します。
「ないですね…」
しかし、探してもなかなか見つけられません。どこにあるのでしょうか…?
そうしてファムちゃんと路地裏の更に裏にまで行って探していると、一見の廃墟が見えてきます。一応そこも見ておこうと思い、廃墟の中へと入っていきます。
中は思ったよりも綺麗で、家具なども置いてあるみたいですね。そしてそんな廃墟の中を進んでいると、ふと光る物が私の視界に映りました。
その光ったものがある場所に近づいて見てみると、そこにはファムちゃんの探していたらしき銀色をした指輪が地面に落ちていました。
「ファムちゃん、これですか?」
私がファムちゃんにその指輪を見せると、それを受け取りジッと見ます。
「…おねえちゃん、ありがとう。銀色の指輪、みつかった」
「それならよかったです」
私がそう言って微笑んでいると、ファムちゃんはその受け取った銀色の指輪を私へ渡してきます。
「どうしました?」
「…これ、あげる」
「い、いや、ファムちゃんの探していた物ではないのですか?」
「…わたしはこの指輪を代々受け継いできてたの。そしてそれは、自分がこの人なら良いと思った人にあげてもいいって言われてたの。それを無くしてしまったから探していたのだけど、見つけられたからあげるの」
私が聞くと、そう返してきました。そして受け取れと言わんばかりにグイグイと私へとその指輪を押し付けてきます。その勢いに負けて受け取ってしまうと、ファムちゃんはクスリと笑い、光となって消えてしまいます。
すると突然、システムメッセージが流れました。
『ユニーククエスト【時を読む精霊乙女】をクリアしました』
このメッセージをみるに、どうやらあの女の子は精霊だったようです。ということは見た目通りの年齢ではなかったのかもしれませんね。
それとこの世界での精霊はどのような存在なのでしょうかね?まあそれはともかく、今受け取ったこの銀色の指輪が報酬として設定されていたようです。
それにシークレットクエストでもあったので、クリアして初めてこれがクエストだとわかりました。
ちなみにシークレットクエストとは、クリアするまではクエストとしてはわからないもののことを言い、今回のようにクリアして初めてわかるものなのです。
➖➖➖➖➖
銀環の指輪 ランク S レア度 固有品
INT+10
MP+5%
耐久度 破壊不可
・銀の加護 自身の受けるダメージを5%減らす。
魔法の力が込められた銀色の指輪。使用者の意思で成長する可能性がある。
➖➖➖➖➖
そして報酬として貰った指輪を鑑定してみると、このような結果が出ました。すると、まさかのユニーク装備だったようです!
「まさかの、二つ目のユニーク装備ですね…」
無垢の魔銃は二つで一つなので、一つ扱いです。それにしても、なんだか仕組まれているかのように感じますね…
まあそれはさておき、このクエストは終わったと兄様たちへ報告しますか。
「えー!ユニークアイテムのクエストだったの!?」
報告をして、中央の広場で合流したあとにこのことを教えると、そのような言葉が帰ってきました。まあそういう反応にはなりますよね。
「これで持っているユニークアイテムは二個になったんだな」
「そうですね。ですが、ちょっと仕組まれているかのようで少し怖くなります」
もしかして、運営かそれに準ずる存在が私のことを監視でもしているのでしょうか?そうだとしたら、少しだけ嬉しいような恥ずかしいような感情が湧いてきますね。
「それにしても、この装備は私が貰っても本当に良いのですか?」
「ああ、レアがあの女の子のことを気にかけたから手に入れた物だし、俺たちは大丈夫だ」
「まあ少しは羨ましい気持ちもあるけどねー!」
セントさんたちも笑ってそう言ってくれますが……うーん、それなら遠慮せずに私が使わせてもらいますか。
「…では、遠慮なくもらいますね」
私は皆に遠慮され、いただいた指輪をアクセサリー枠の装備として右手の薬指に嵌めておきます。
それと鑑定した情報を見るに、私の持っているユニーク装備は全て成長する可能性があると書いてあるのです。もう少し進んだら弱い武器に成り下がる性能ですので進化出来れば良いですね。
「まあ寄り道にはなったが、改めてレーナのところに向かうか」
「はい」
そうして私たちは今度こそレーナさんのお店へと向かいます。