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85話 傷跡

「では、早速入りましょうか!」

「あ、そうですね」


 アリスさんの言葉に私たちは頷き、そのまま正面に付いていた扉を開けて中に入っていきます。


 中に入って内装を見ると、この建物の中は外観から見た通りやはり道場のようになっているみたいでとても広々としており、木目の綺麗な木が床一面に貼られ、壁も同じく木材らしきもので造られています。


 それとやはり歴史があるのか、床などには軽い傷なども見受けられます。ですがそれが却って味を出しているようで、なかなか雰囲気が出ていて見てるだけでも少しだけ楽しく感じます。


 それにこの世界では初めて見ましたが、内装を見るにこの道場はどうやら和風の建物のようでもあるみたいです。ということは、もしかしてアリスさんにクエストを頼んだ住人も和風の人なのでしょうか?


 そんな道場の奥には、何やら目を瞑って正座で座り、私たちを待っているかのような雰囲気を出した一人のお爺様がいました。


 座っているから正確にはわかりませんが、多分身長は170cmはあるでしょうか。髪は黒色をしていて日本人らしき顔立ちをしており、着ている服も和服なので間違いなく和に関係する人ですね。


 そしておそらくはあの人が目的の人でしょう。


「ゴンゾウさん!クエストを受けにきたです!」

「…おや、アリスか。人は集まったのかい?」

「はい!揃ったです!」


 そのお爺様に向けて放ったアリスさんの言葉を聞き、お爺様は瞑っていた黒い瞳を開け、正座の姿勢から立ち上がって私たちの方へ歩いてきます。


「そちらの三人が仲間なのかい?」

「なのです!この人たちはとても強いので、クリアは出来ると思います!」

「どうも、レアと申します」

「私はソフィアです!」

「…ネーヴェよ」


 私の挨拶を筆頭にそれぞれがお爺様へと挨拶をすると、お爺様は軽く笑いつつもこちらに視線を向けてきます。


「ほっほっほ、ご丁寧にどうも。私はゴンゾウというのだ。よろしくね?」


 私たちの挨拶にお爺様ことゴンゾウさんも言葉を返してくれました。名前からしても日本人らしいですね…


 ですが挨拶を交わした後にゴンゾウさんは私たちの顔ではなく、胸、腰、お尻、足と順番に視線を向けてきます。


 …なんというか、視線が少しだけいやらしく感じますね。


「それにしても、えらい別嬪さんばかりだね?これは私も興奮してきたぞ!」

「あー…すみません、このおじいちゃんはちょっとだけスケベなので気にしないでもらえると嬉しいです」

「… 〈飛び回る氷柱(アイス・フリーゲン)〉」

「ちょっ!?ネーヴェ!?」


 アリスさんの言葉を聞いたネーヴェさんは、いやらしい視線を受けたからか突然ユニークスキルを使ったと思ったら、ゴンゾウさんに向けて無数の氷柱を飛ばしました。


 思わず隣にいたソフィアさんがギョッとしますが、ゴンゾウさんは慌ててそれらをなんとか回避したので、被害は床が氷柱で傷ついたくらいで特に人的被害はありませんでした。


「だ、大丈夫ですか…?」

「も、問題ないさ。これも愛情表げ……危なっ!?」

「その口を凍りつけてあげようかしら?」

「ネーヴェ…」


 私がゴンゾウさんに心配の声をかけましたが、ゴンゾウさんは再び余計なことを言ってネーヴェさんに氷柱を飛ばされました。まあそれもなんとか回避したので大丈夫でしたが。


「ゴンゾウさん、そろそろクエストを進めたいのですが…」

「あ、ああ、済まないね。コホンっ、とりあえずそこの三人は初めてだろうし、クエストについて改めて説明するね」


 ゴンゾウさんは一度空気を切り替えてから、そのように話し出します。


「今回してもらうのは、この道場の裏手に突然出来た空間の狭間を閉じてもらうことなのだ」

「では、なぜ女性だけなのですか?」


 もしかして、ただゴンゾウさんが女性と会いたいだけ、というわけではないですよね?


 そんなジトーっとした私たちの視線を受けて、ゴンゾウさんは少しだけ苦笑はしてますが、それも仕方ないと思っているようで続け話します。


「その空間の狭間の中に出てくるのが男性を魅了してくる敵ばかりだから、女性だけの方が危険が少ないからそれで頼んだんだ」


 なるほど、ゴンゾウさんの女性好きが関係しているわけではなく、ただその狭間のモンスターとの相性を見てそう伝えてきたのですね。


 私たちは全員が女性でユニークスキルを持ってもいますし、プレイヤーの中ではかなり強い方だとは思うので四人もいれば魅了が効かないのならば苦戦はしないでしょう。


「まあ説明はこんなところだね。じゃあ早速向かうのかい?」

「なのです!説明も聞きましたし、行こうと思うのです!」

「じゃあそこまでは案内するね」


 そう言ってゴンゾウさんは道場の奥にあった扉へと向かうので、私たちもそれに続きます。


 扉を潜った後の通路も、先程までいた道場内と同様に全体的に木で出来ているようで、結構綺麗ですし現実でも見たことがないので少しだけワクワク感じちゃいますね!


「着いたよ、ここさ」


 そうして空間の狭間のある場所に向かうためにゴンゾウさんの案内に従って建物内をしばらく歩いていると、ゴンゾウさんは裏口らしきところから建物の外に出て、そう声に出します。


 裏口から建物内を抜けると、そこはそこそこの広さがある庭のようになっており、手入れもしっかりとされているようでなかなか綺麗です。


 ですが、そんな庭の中心付近の空間には、その景観を破壊するかのように大きな傷跡のようなものが存在しており、なんとなく嫌な雰囲気が醸し出されています。


「これが、空間の狭間…ですか?」

「本当に空間に狭間が出来ている…!」

「…狭間というか、傷跡のようにも見えるわね?」


 私たちはそれを見て各々の感想を言いますが、ゴンゾウさんはそれらを聞いて先程までのスケベさが消えたかのように、困ったような表情を浮かべます。


「…確かに、狭間というよりは傷跡が正しいかもね。今はモンスターは這い出てはきてないけど、中に少し入るだけですぐさま大量のモンスターが出てくるし、私では魅了の力が強くてなかなか進めなくてね…」


 スケベさを微塵も感じさせないように、苦虫を噛み潰したような表情をしているゴンゾウさんですが、そう思うのも無理はないでしょう。


 聞いた限りではいつモンスターが出てくるかもわからないですし、それを自分では消せなくて私たちに頼むしか方法がないみたいですしね。


 ゴンゾウさんは結構スケベではありますが、しっかりとした人柄なのもここまでですでにわかっていますし、こんな女の子だけに頼むなんて普通は出来ないので申し訳なさそうな顔をするのも仕方ありません。


 ですが、私たちはこれでもかなりの実力がありますし、もし死んでしまったとしても生き返ることが出来るのでこういう場合にはとても相性は良いのですよね。


 それにもとより失敗するつもりもありませんし、こんなレアそうなイベントには自分から行きそうでもありますしね!


 それとクリアを呼ぼうとも思ってましたが、もし魅了された時が怖いので呼ぶのはやめておきましょうか。


「そこまで心配はしなくても大丈夫ですよ!これは私たちが無事に消してきますから!」

「…では、申し訳ないけど頼むね」

「任せてください!では、アリスさん、ソフィアさん、ネーヴェさん、行きましょう!」

「なのです!」

「よーし、張り切っちゃうよー!」

「…まあ足は引っ張らないわ」


 私たちはそう言って空間の傷跡の中へと足をいれ、中へ入っていきます。




「…中はどうやら石か何かで出来た通路みたいですね」

「ですね、それに入り口付近は特に何もいないようです」


 空間の傷跡を超えて中に入った私たちは、まずその景色を視界に映します。


 中は今私が口にした通り特にモンスターもいないようで、変わった作りでもなく普通の石の通路みたいになっています。


 通路の広さについても、前に一人でやったユニーククエストの時のエリアと同じように結構な広さをしているので、動くのにも不便はなさそうです。それと明るさについても同様に特に問題はないので、大丈夫ではありますね。


 特殊なエリアなのも現段階でわかりましたし、入り口付近は特に目を見張ることもないのでさっさと進んでしまいましょうか。


「…!皆さん、何かがこちらにきますっ!」

「了解!」


 そうして変哲もない石の通路を歩いていると、私のスキルに反応がありました。


 なので私はそう声を上げると、皆さんは自身の武器をそれぞれ取り出して戦闘準備をします。


 もちろん私も自身の武器である双銃を取り出し、反応のあった通路の先に視線を向けて警戒をします。


「あれは…人形、ですかね?」


 そして通路の奥から現れたのは、私より少しだけ大きい150cmくらいの背丈の女型の人形でした。


 その人形は前にも見たことのあるドールとは違い、髪や顔、服などがしっかりと存在していて一見は普通の人に見えますが、見えている関節などは球体によって形成されているので人形だとはわかります。


 ➖➖➖➖➖

 マナドール ランク F

 魔力を糧にして動く等身大の人形。

 その力は個体差によって違い、様々な力を発揮する。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 鑑定ではそう出ました。やっぱり見た目通り人形のようで、能力にも個体差があるみたいです。


 ということは、これから出てくる可能性のある人形もこの個体と同じだと思って油断はしないほうがよさそうですね。


 まあそれはいいですね。とりあえずさっさと倒しちゃいますか。


「〈第三の時(ドライ)〉!」

「〈人形の呼び声(コール・ドール)〉!からの〈マナアロー〉!」

「〈狂気の獣装(ビースト・ソウル)〉!そして〈飛び回る翼(ビースト・ウィング)〉!」

「〈飛び回る氷柱(アイス・フリーゲン)〉!」


 私たちがそれぞれ放った攻撃は見事にその人形に命中しましたが、明らかに過剰な攻撃だったようで人形は攻撃を受けて爆散してしまいました。


「な、なんやり過ぎましたね…?」


 見事なまでにオーバーキルでしたし、それの影響で人形のいたところはその人形のパーツか何かなのか肉片のようなものが飛び散っています。


 …まあそれもすぐにポリゴンとなって消えていったので、すぐに通常通りの通路に戻りましたけど。


「そうですね……とりあえず、ここまで過剰に攻撃はしなくてもよいですね?」

「みたいだね?なら私は近接タイプだし、近寄ってきたものだけに攻撃をするね!」

「…私も少しだけ攻撃は控えるわ。だから貴方たちだけでやってちょうだい」

「わかりました。では私はMP消費も少ないですし、主な相手は私がしますね」


 そう軽く話し合い、そこからは私を先頭にしてそのすぐ隣にアリスさん、そして後方にはソフィアさんとネーヴェさんが並んでこの通路を進んでいきます。


 そして出会うモンスターである人形を倒しながら進んでいますが、今のところはゴンゾウさんの言っていた魅了の力を使うモンスターとは出会っていません。


 それに人形たちは先程はわかりませんでしたが、他には武器を持った個体や魔法を扱う杖を持った個体。ソフィアさんのように爪を装備した獣みたいな個体に弓や銃で遠距離攻撃を仕掛けてくる個体など、実に様々な種類が出てきました。


 始めに鑑定した通り個体によって色々な能力を持っているようですが、今のところは特に苦戦をせずに進めています。


 まあまだ魅了の力持ちの個体が何故かいないからかもしれませんけど、ゴンゾウさんの言ったのは本当なのでしょうか…?


 そんなことを考えつつも歩いていると、ふと花のような甘い匂いがしてきました。


 それと同時に、通路の奥から私のスキルに人形たちの反応が確認出来ました。今回は先程まで遭遇していた時よりも遥かに多いようで、無数に存在しているみたいです。


「皆さん!結構な数がきます!」


 私はそう声をあげて警戒を強めますが、それに少しだけ遅れるタイミングで通路の奥から無数の人形が現れました。


 私たちは一度温存をやめ、それぞれのユニークスキルを使った迫ってくる人形の群を倒していきますが、それでも奥からはどんどん人形が溢れてきています。


 しかも、さっきからする甘い匂いで少しだけ意識が逸れてしまい、徐々に私たちは後方へと押されていきます。


「ちっ、仕方ないわね!一旦後ろに下がりなさい!〈氷製の大地フリージング・グランド〉!」


 そのタイミングで叫んだネーヴェさんの言葉に、先頭にいた私とソフィアさんは一気に後方に跳んで下がりますが、それと同時に使ったネーヴェさんのユニークスキルの氷が人形たちの群に迫り、そのまま人形たちの足元を凍りつかせて動きを止めます。


「なら私も!人形さんたち行くのです!そして〈破裂する人形(バースト・ドール)〉!」


 そして動きの止まった人形たちへと、アリスさんの操るぬいぐるみや人形たちが一気に迫り、そのまま爆発していきます。


 それらのスキルのおかげで前方にいたほとんどの人形たちは倒せましたが、それでもまだ後方に何体もいた人形たちが見え、一番後方にいた一体の女性型の人形が目につきます。


 その個体は他の個体と同じくらいの大きさではありますが、他よりも派手で立派そうなドレスを着ており、その手に持っている鞭で地面を叩くとその叩いた場所から人形たちが生まれていました。


「〈第三の時(ドライ)〉!」


 すかさず私は攻撃系のユニークスキルを使用してその女性型の人形へ弾丸を撃ちましたが、近くにいた他の人形が前に出ることでその攻撃は防がれてしまいました。


「あら、危ないわねぇ?」

「喋った…!?」

「別に話はするわよ?だって口があるものねぇ?」


 突然話し出した女性型の人形に対してソフィアさんは思わずといった様子で声を漏らしましたが、その女性型の人形はその顔に嘲笑を浮かべてソフィアさんへ皮肉を込めた言葉を返しています。


「〈落ちる氷河(グレイシア)〉!」


 こちらに視線を向けて笑うかのような表情をしていた女性型の人形に向けて、ネーヴェさんは問答無用でユニークスキルである氷塊を落とす武技を使用し、その女性型の人形へとその氷塊を放ちます。


「ね、ネーヴェ、流石にそれは…」

「なに?別に敵なんでしょう?」

「そ、それはそうだけど…」


 ネーヴェさんは私とソフィアさん、隣にいたアリスさんからの視線を受けても特に気にしていないようで、そのまま手に持っていた白い杖を一旦下げます。


 まあ、ネーヴェさんの言う通り敵ではあるので別に問題があるわけでもないですけど、それでも問答無用で攻撃をするなんて、危ないですね?


「あらあら、いきなり攻撃なんて野蛮ねぇ?」


 そして氷塊が落ちた影響で舞っていた土煙が収まるのと同時にそのような声が聞こえ、私たちは即座に視線を向けて警戒を強めますが、そこにはネーヴェさんからの攻撃を受けていたはずの女性型の人形が無傷で立っていました。


「ちっ、倒せていなかったのね」

「それよりもこの女性はだれなのです!」


 アリスさんの言葉に、その女性型の人形はニヤリの笑みを浮かべて言葉を発します。


「私はシキよ。仲良くしてねぇ?」

「いきなり人形たちをけしかけられて、仲良くすると思うの?」

「あら、それはただの愛情表現じゃない?ほら、可愛い子はいじりたくなるでしょう?」

「そんなことはないです!つまり、敵ですね!〈ファイアランス〉!」


 女性型の人形であるシキさんの言葉に、アリスさんが魔法攻撃を放ちましたが、それも先程のように周囲にいた人形が庇うことで防がれます。

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