表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/169

80話 高原

 そうして無数の視線を浴びながら歩くこと数分で、前にも見たレーナさんのお店の前に着きました。


 私は肩にクリアを乗せたままそそくさと扉を開けてお店の中に入りますが、お店の中にもプレイヤーは結構いるようで、第一陣であろう強そうな装備を身に纏ったプレイヤーや初期装備の見た目をした無数の初心者プレイヤーなど、実に繁盛しているみたいです。


「あ、レアちゃん!こっちこっち!」


 お店の中を軽く見渡していた私に向けてそのような声がかけられたのでそちらに視線を向けると、カウンターにいたレーナさんからの声だったようです。


「レーナさん、結構繁盛しているのですね?」

「おかげさまでね〜!それで、さっきの連絡の通りだと泳ぐのに向いている服が欲しいんだっけ〜?」

「はい、先程港町に行って海を見てきたのですよ」

「なるほど、それでね〜……水着なら普通にお店で売っているし素材もあるけれど〜……それでも良いかしら〜?」

「水着ですか…」


 私は泳ぐのに向いている服が良かったですが……別に誰かに見せるわけでもないですし、そちらでも問題はない、ですかね…?


「まあ水着の場合でもレアちゃんが来る前でに確認した限り、レアちゃんの体型だとちょっと合うのはなさそうだから特注になりそうだけどね〜…」


 どうやら水着は普通の装備よりもしっかりと体型に合ったものの方が良いそうで、私に合う水着は売っていないようでレーナさんは特注を勧めてきました。


 今更ですが、この世界での装備などは特殊なスキルでも付いていない限り大きさは普通のゲームでよくあるシステムとは違って自分に合うようにはなっていないようで、こうしたプレイヤーの製作する装備などでは基本その人に合ったものを作る必要があるみたいです。しかも今回頼むのは水着ですし、尚更そこは気にしないといけません。


 それはさておき、ないなら仕方ありませんし特注をお願いしましょうか。ですが水着だけではちょっと恥ずかしいので、上に羽織れるものも一緒に頼むことにします。


「…なら、お願いしてもいいですか?それと水着だけではなく上に羽織れるものも欲しいのですけど…」

「任せて〜!上に羽織るものは特注でなくてもいいからすぐに用意出来るけど、水着はどんなのがいいか希望はあるかしら〜?」

「そうですね……何が良いでしょうか…?」


 私はこの通り、白い髪に白い肌の全身真っ白な見た目をしているので白い水着は似合わないとは思いますが……はてさて、何が似合うでしょうか?


「…なら、これはどうかしら?」


 そう言って一瞬で下書きを描いた絵を私に見せてくれるレーナさんですが、その描かれた水着の見た目はトップをフリル状の布で覆ったデザインの、いわゆるフレアビキニと呼ばれるものでした。


「いいですね!これでお願いしてもいいですか?」

「任せて〜!じゃあピッタリにするために軽く身体のサイズを計らせてもらってもいいかしら〜?」

「いいですよ、裏でですよね?」

「もちろんよ〜、流石にこの場では、ね〜?」


 まあ当たり前ですね。流石に見ず知らずの人にそんな大事なものを見られたくないですし。


 私は一度レーナさんと一緒にお店の裏に向かい、そこでレーナさんに身体のサイズを測ってもらいます。


「うーん、レアちゃんって、スタイルいいわね〜…?」

「そうですか?チンチクリンですしレーナさんみたいに女性らしさも全然ないですけど…」

「そんなことないわよ〜!レアちゃんは珠のように綺麗な肌にすらりとして流麗な身体つきだし、私も見惚れるくらいよ〜!」


 凄い褒めてくれますが、私的にはレーナさんのようなしっかりとした女性らしさが出ている体型の方が憧れますけど…


「よし、測り終わったわね〜!今は特に注文もないし特急で仕上げるから、出来たらまた連絡するわね〜!」

「お願いします」


 測り終わった後はそう言ってレーナさんは早速作りに行くようで奥の作業場らしき部屋へと向かっていったので、私は一応別れの挨拶をした後に一度お店を出ます。


「今の時刻は……だいたい一時ですね」


 レーナさんのお店には寄りましたが、時間はまだまだありますね。


 海に潜るのは頼んだ水着が出来てからにしますし、今の時間はすでに攻略をされている北の山の攻略といきましょうか。


「ふふんふーん」

「……!」


 そうしてレーナさんのお店辺りから初期の街を歩いていき、そのまま北の山に向かいます。


 その道中でもクロークを羽織っていないせいで結構な視線を感じますが、やはり声をかけてはこないのでまだ楽で良いですね。


 この調子ならこのまま顔を曝け出した状態でも問題はなさそうなので、わざわざクロークなどを被らなくても良さそうです。


 そんなことを考えつつもテクテクと歩いていると、いつのまにか初期の街の北門に着きました。


 ここから先は結構久しぶりですが、目標である北の山はすでに見えているので迷うことはありませんね。


「…よし、クリア、行きますよ!」

「……!」


 クリアにも声をかけ、私たちは北の山に向けて足を進めます。


 その道中では初心者プレイヤーもまあまあはいますが、街中や先程まで歩いていた平原などと比べるとやはり少ないです。西の湿地などよりは多いとは思うので、それと比べると、ですけどね。


 そんなプレイヤーたちを尻目に私は歩き続けていると、すぐに目的地であった北の山の麓に着きました。では、ここからは洞窟まで行って、その先のエリアボスを倒して高原までの道を解放しに行きましょう!


 私とクリアは気合を入れ直した後、早速とばかりに北の山に向かっていきます。


 北の山の洞窟までの道は初めて兄様たちと来た時にマップに残っているので、特に迷うこともなく洞窟へと到着しました。


 道中のモンスターについては今更苦戦するような敵でもないので、特にいりませんね。


「ではクリア、行きますか!」

「……!」


 洞窟前で私はクリアにそう声をかけるの、クリアも気合十分なようで、頑張るー!とでも言うかのように私の肩でプルプルと震えて感情を伝えてくれます。


 ふふ、では攻略に向けて頑張りましょう!


 洞窟の中は前にも来た通りそこまで狭さも感じないくらいの広さはあるので、クリアと一緒でも大丈夫ですね。


 そこからはこれまた前にも戦ったことのある石蟻の群れの他にも、新しいモンスターである灰色をした全長50cmくらいはありそうな程大きいグレイネズミや、鉱山でも出ていた岩などに似た見た目の蝙蝠のロックバット、唯一の虫系である私の一回り小さいくらいの大きさをした巨大百足であるビッグセンチピードが出てきました。


 それらのモンスターのドロップアイテムはそれぞれ、グレイネズミが歯に皮で、ロックバットが外皮、翼膜、牙の三つ、そしてビッグセンチピードは触覚に牙、外殻を落としました。


 これらは初期のエリアの素材でもあるのでそこまで強くはないですが、錬金などに使えそうなのでこのままインベントリに保管しておきます。


 そんな出会うモンスターたちをクリアと共に倒し続けながら洞窟内を歩いていると、何やら広そうな場所の手前まで到着しました。


「多分あの広場みたいなところがボスエリアなのでしょうね。特に消耗はしてませんし、このままいっちゃいますか」

「……!」


 クリアも張り切ってますし、初期のエリアでもあるので流石に苦戦はしないとは思いますが、油断はしないで行くとしますか。


 私と足元でピョコピョコと跳ねながら歩いているクリアがそのエリアに入った途端に、突如天井付近から岩の塊らしきものが落ちてきました。


 ➖➖➖➖➖

 ストーンゴーレム ランク F

 洞窟などに生息している岩人形。

 その大きな体はとても重く、力も強い。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 鑑定をしてみるにその落ちてきた岩の塊がどうやらここのボスのようで、ストーンゴーレムでした。


 ボスであるストーンゴーレムは私が【錬金術】スキルで作ったロックゴーレムよりも二回り近くも大きいようで、おそらくは五メートル近くはあるように感じます。


 それにロックゴーレムとは違ってずんぐりむっくりな姿ではないようで、人型とはっきりとわかるような手足などをしています。


「このエリアが広いとはいえ結構でかいですし、ちょうどいいのでこちらのゴーレムたちも試運転としましょう!」


 私はインベントリからゴーレムたちを呼び出し、そのままあのゴーレムを倒してください!と命令を飛ばすと、ゴーレムたちはその指示通りにボスであるストーンゴーレムに突撃し、複数でタコ殴りにしていきます。


 ですが、唯一鉱石系ではないハイウルフのゴーレムだけはなかなかダメージを与えられていないようで、少しだけ不憫に感じますね。


 まあ相性が悪いだけで十分力はあるみたいなので、ゴーレム相手でなければ特に問題はないでしょう。


『北の山のエリアボス〈ストーンゴーレム〉を討伐しました』

『北の山のボスを討伐した事により、次のエリアが開放されました』

『称号〈北の山のボスを倒し者〉を獲得しました』


「…あ、倒し終わりましたね」


 そうしてゴーレムたちを観察していると突如そのようなシステムメッセージが流れ、いつのまにかボスであるストーンゴーレムが倒されていたみたいです。


 今回私自身は一切攻撃をしてませんでしたが、初期のエリアボスなのもあってか呼び出したゴーレムたちだけでも倒せてしまいました。


 数の暴力もありましたし、ゴーレムたちも十分な強さはあるのでそうなるのもさもありなんですね。


「それはいいとして、さっさと先に進んでしまいますか」

「……!」


 私は地面にいたクリアを抱き上げてから肩に乗せ、ボスエリアの先へと歩いていきます。


 このボスエリアからも先に続いている洞窟内ですが、特にモンスターはいないようでスキルなどにも反応がありません。なので、安心してドロップアイテムを確認しながら歩けますね。


「ドロップアイテムは鉄鉱石と宝石の原石、そして魔石ですか。うーん、微妙ですね…」


 ストーンゴーレムのドロップアイテムは今の私からすると特に良さそうなものがないようで、南の大鶏と同じで狩りにくることはなさそうです。


「それにしても、作ったゴーレム系は思ったよりも強かったですね」

「……!」


 私の肩にいるクリアも賛同なのか、頷くようにスライムボディをプルプルと震わせています。


 数の暴力とはいえエリアボスであるストーンゴーレムを四体で倒せていましたし、これは思ったよりも使えそうです。


 これからちまちまとゴーレムを増やして、ゴーレム軍団を作るのも案外良さそうですね!


「っと、出口が見えてきましたね」


 そんなことを呟きながらも洞窟内を歩いていると、やっと洞窟の先に光が入ってきている出口らしき場所が確認出来ました。


 高原で出るモンスターについては調べたので知っていますが、地形に関しては特に載っていなかったため高原としかわからないので、ちょっとだけ楽しみですね!


 私はワクワクした気持ちを隠す気がないように、テテテッと擬音が付きそうな小走りで出口に向けて走ります。


「出口に……う、眩しいですね…」


 肩にクリアを乗せたまま出口に向かって走っていき、ついに洞窟を抜けたと思ったら、洞窟から出た瞬間に太陽による眩しい光が私を出迎えてくれました。


 失明するというわけではないですし、頭につけているローゼについているスキルのおかげで眩しくても視界が見えないわけでもないので大丈夫ですが、暗いところから急に明るいところに出たせいで明順応に似た現象が出てしまいました。


 ゲーム内にも関わらずこんな現象を再現しているなんて、やはり大人気のゲームなだけはありますね!


「…おおー…!」


 そして太陽による眩しさに慣れ、ハッキリと今いる場所からの景色を見て、私は思わずそんな声が漏れてしまいました。


 今いる場所は山の麓に近めの場所のようで、そこから見えるのはどこまでも広がっているかのような緑豊かな高原の風景が存在しており、モンスターらしき無数の生物も見て取れますが、何だかとても穏やかな空気が流れているようで牧歌的な雰囲気も感じ取れます。


 それに気候も初期の街の周囲などとは違って冷涼なようで、涼しげな空気が肌を撫でてきており、植物たちも元気いっぱいにその身を太陽に晒しています。


「これは、なかなかグッとくる景色ですね…!」

「……!」


 肩にいるクリアもこの景色を見て感動でもしているのか、今までよりも遥かに強く震えています。


 今までにクリアが見てきた風景は荒地、街、森、洞窟、海で、そこに加えて高原も入りますが、その中でも特にこのような風景がクリアの心に来たのでしょうね。


 まあそれもわかります。この風景は現実世界でもそうそうお目にかかれるものではないですし、私も少しだけ感動してしまいましたしね!


「おっと、そういえば転移ポイントの解放をしないとですね」


 私はハッと我に帰り、辺りを見渡してすぐに見つけた、水晶で出来たような小さめの木のようなものに手をついて転移ポイントの登録を済ませました。


 よし、これでいつでもここに来れるようになりましたね!


「まだ時間は結構ありますし、ついでにこの高原の散策もしちゃいましょうか」

「……!」


 クリアもそうだねー!とでも言うかのように肩で軽く身体を弾ませて賛同をしてくれるので、私はその反応にクスッとしながらも山付近から高原に向けて歩き始めます。


 そこから歩くこと数分で高原の入り口に着いたので、早速散策と行きましょう!ちなみに、このエリアはマップを見るに『ルーブ高原』という名前らしいです。まあ特に気にしなくてもよいですが。


 そんなことはいいとして、この高原にいるモンスターは確か牛や羊、犬に虎のような獣系が主だったはずですね。


 そんな獣タイプのモンスターのせいなのか、スキルや技術で気配を消したり音をなくしたりしても嗅覚などで把握されているのか、結構な頻度でこちらを襲ってきました。


 ですが、襲ってくるのは基本犬や虎だけのようで、牛や羊は結構近くまで寄らないとこちらに攻撃をしてきませんでした。


 …まあ不用意に近づいたせいで一回だけ複数の牛の群れが襲いかかってきたので、ちょっと本気で死にかけましたけど。


 流石にスピードは私の方が早いみたいですけど、他の牛たちともヘイトを共有しているのか逃げた先にもいた牛の群れまで迫ってきたので、地面に下ろして一緒に狩りをしていたクリアを即座に抱き上げ、四体のゴーレムも出してから囮にして全速力で走ることで何とか逃げ切ることが出来ました。


「はぁ…はぁ……こ、ここまで焦ったのは初めてですね…」

「……!」


 一度転移ポイント付近まで戻ってきて地面に座り込んだ私は、荒れた息を整えます。


 ワールドモンスターである深森のアビシルヴァと出会った時も、ここまで常に全速力で走ったりはせずに戦いを挑みましたし、こんな普通のモンスターで逃げるなんてこのゲーム内では初めてです…


 先程のストーンゴーレム戦でも思いましたが、やはり数は暴力ですね。それに牛から逃げながらも攻撃をして何体も倒してはいましたが、いくら倒しても次々と湧いてくるので本当に死ぬかと思いましたよ…


 しかも倒せば倒すほどヘイトが溜まっているのか、エリア中から集まってもきてましたしね。途中でゴーレムを呼び出しもしましたが、無数の牛の攻撃を受けて即座に破壊されてもいましたし。


「…一応鉄とか銅で出来ているので結構頑丈なはずなんですけどね…」

「……?」

「心配してくれてありがとうございます、クリア」


 クリアは私を心配するかのように足元へ擦り寄ってきましたが、もう大丈夫と伝えるように座った状態のまま抱き上げて私の膝に乗せます。


「…よし、もう大丈夫ですし、ここで獲得したドロップアイテムの確認でもしますか!」

「……!」


 そして一息ついて疲れもなくなったタイミングで私はそう声をあげ、先程の高原で手に入れたアイテムの確認を始めます。


 インベントリ内のアイテムを確認すると、ドロップアイテムは犬からは毛皮と牙、虎からは同じく毛皮と牙に爪。何とか何体かは倒した牛からは牛肉であるヒレ、サーロイン、リブロース、肩ロース、バラ、モモなど実にたくさんの種類のお肉がドロップしました。牛の相手は凄く大変でしたけど、これはなかなか嬉しい誤算ですね…!これなら苦労はしましたがそれに見合うだけの価値はあります!


 あ、それと羊は牛とは違って特にヘイトの共有はしていないようで、一体ずつ倒せたので楽でしたね。ちなみにドロップアイテムはこちらも牛と同様にお肉で、ロース、肩ロース、肩、モモ、バラなどが手に入れれました。ついでにもこもこの羊毛もたくさんドロップしたので、こちらは水泳用Tシャツをレーナさんから受け取る時にでも渡してみましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ