8話 山と採掘
「レアちゃんっていうの!その真っ白な髪ってキャラメイクでは出来なかったよね!もしかして地毛?」
「はい、そうですよ。私はリアルと全く変えていないので」
「リアルでもこんな美少女なんだ!」
サレナさんから聞かれたので素直にそう答えると、そんな言葉が返ってきました。
「俺もこんな可愛い妹が欲しかった…!」
セントさんのその言葉に、みなさん頷いていますが……そ、そんなにですか…?
そう思いつつも、私は兄様たちとフレンド交換を済ませます。
「とりあえず、パーティを組んで狩りに行こうか」
兄様はそう言ってパーティ申請も送ってきたので、もちろん承諾します。
そうそう、このゲームではパーティの最大人数は六人までで、それ以上になるとレイドを組まないとダメになっています。まあ戦闘での人数制限はありませんから多くても問題はないのですが、その分スキルへの経験値がほとんどなくなってしまうので、よほどのことがない限りはしないようが良いのです。
あ、そういえば…
「狩りはどこでするのですか?」
「一応、北の山で鉄などを採掘しながら狩りをしようと思っていたが、どうだ?」
「わかりました、ではそこへ向かいましょう」
私が兄様に聞くとそう返ってきたので、了承します。そしてそのまま私たちは北へ向かいます。
「あ、ツルハシと【採掘】スキル持ってません…」
北へ向かっている途中で私はそう気づきます。兄様との行動にワクワクしていて、大事なことを忘れていました…!
「【採掘】スキルは行動で取れるから良いが、ツルハシは途中で買ってくか。道中の鍛冶屋で売ってるしな」
そんな私に兄様はそう話してくれましたし、持っていないのは私だけらしいので途中で鍛冶屋に寄って1,000Gで銅のツルハシを購入します。それをしっかりとインベントリに入れた後は、再び兄様たちと一緒に北へと向かいます。
そうして特に問題もなく北に着きました。今いる北門のあたりから周りを見ると、街の近くの平原には兎ではなく鶏がいるようです。そしてここから見た感じ、平原を少し進んだらある北の山は麓は木が生い茂ってあり、山頂に近づくにつれ岩山になっています。
「それじゃあ行くか」
兄様がそう言って先頭を進んで山へと進んでいきます。私もそれに続いて追いかけます。鶏はこちらから手を出さないなら襲ってこないのでスルーです。今度一人の時に狩ってみますか。
「この山にはなにがいるのでしょうか?」
「確か、猿とか鷹とか鹿だな」
「それと岩場付近からは蟻とかもだな」
ジンさんの言葉に兄様が、あぁ、それもいたな、と言います。岩場からということは、ジンさんの言った生物は麓らへんにはいなさそうな感じですね?採掘はさっき見えた中腹の岩場辺りから出来るのでしょうか。
「鉱石は麓の森の中の何ヶ所かにも岩場とか、洞窟があるからそこで掘れるのよ」
私がそう思っていると、マーシャさんから教えてもらいました。なるほど、森の中にも洞窟などがあるのですね。
「てっきり、頂上近くまで行くのかと思いました」
「流石に頂上へはまだ行けるレベルではないな」
それにまだエリアボスを倒していないしな、と苦笑しつつ兄様はそう言葉を発します。まあそうですよね。まだサービス開始二日目ですし。
そう話しつつ歩いていると、山の麓へ到着しました。
「ここから森の中を少し進んだところに洞窟があるから、そこへ向かうぞ」
「わかりました」
私は兄様たちの後に続いていきます。そして森の中を歩いていると、突然【気配察知】に反応がありました。反応がある方へ集中すると、どうやら猿たちがこちらへ向かって来ているようです。
「ゼロ、猿の群れがこっちにきてるぞ」
「了解、皆警戒を」
セントさんも【気配察知】を持っているのか、そう言葉を発しました。
兄様たちはそれを聞いて武器を手元に出しました。 兄様は打刀、セントさんは短剣、ジンさんは片手剣と丸盾、マーシャさんとサレナさんは長杖を出して構えます。それに続いて私も自身の武器である二丁の銃を取り出して準備します。
そして木々の奥から土色の猿たちが現れました。合計で六匹いるようで、見た目はチンパンジーの姿をしています。
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マウントモンキー ランク F
山などに生息している猿。
木々を飛び交い襲ってくる。
状態:正常
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鑑定すると、そのような情報が現れました。特に変わったことは書いていないですね。
「キーッ!」
「キヤーッ!」
私が鑑定結果を見ていると、猿たちはそう発してこちらへ飛びかかってきます。
私へ飛びかかってきた猿は、空中で移動出来ないうちに両手の銃で蜂の巣にして倒しました。
兄様たちも、特に苦戦などもせずにすぐに倒しています。兄様は居合い斬りで胴体を真っ二つにしており、セントさんは攻撃をギリギリで回避しつつ短剣で首元を切り裂いて倒しています。ジンさんはその丸盾で攻撃を防いで後衛であろうマーシャさんとサレナさんを守っています。
「〈ライトボール〉!」
「〈ウィンドボール〉!」
そして後衛である二人が杖から魔法を撃ち、残っていた三匹の猿を倒しています。このゲームでの魔法はこんなふうになっているのですね。初めて見ました!
「片付いたな」
私はそう思いながら見ていると、兄様がそう言って刀を鞘に収めていました。ちなみに手に入れた素材は毛と皮でしたので、あまり使えそうな素材ではないですね…
「セントさんも【気配察知】のスキルを持っていたのですね」
「俺はこう見えてもシーフだからね!っていうか、も、ってことはレアちゃんも?」
さっき思ったことをセントさんに聞くと、そう返ってきました。
「はい。私は基本ソロなので」
「へー!そうなんだ!」
「二人とも、そろそろ行くぞ」
「はい」
「お、すまんすまん」
喋るのをやめて、私たちは道中で出てくる敵を倒しつつ進んでんいきます。道中で出たのは、さっき戦った猿以外には鷹と鹿が出ました。
鹿は東の森とはそこまで違いはなかったですが、鷹は空を飛んでいるせいで私の銃やマーシャさんとサレナさんの魔法でしか攻撃が出来なかったので、少し手こずりました。まあ私が弾丸で翼を撃ちぬいたら、そのまま地面に墜落してポリゴンとなりましたけど。
それぞれにドロップした素材は、鹿は森と同じで、鷹は嘴と羽を入手しました。嘴は槍や鏃などに、羽は矢羽に使えそうでした。
そうして進んで開けたところに出たと思ったら、目の前に洞窟がありました。
「よし、じゃあ入っていくか」
「「おう」」
「「「はい」」」
私たちはそう返事を返し、洞窟の中へと進んでいきます。
洞窟の中は意外にも明るく、そこまで狭さも感じないくらいの広さはあります。そして明るさの原因は、そこらじゅうの壁に生えている苔のようです。苔自体が仄かに光っていて、【暗視】系のスキルがなくてもある程度は見えるようです。
「じゃあ採掘していくか」
「そういえば、採取は普通に取るだけで良かったですけど、採掘の場合はどういう風に素材を得ることが出来るのですか?」
「それは、ツルハシを待てばわかるぞ」
ふと疑問に思ったので私が聞くと、そう返ってきました。なのでさっそくツルハシをインベントリから取り出して持ってみると、洞窟の壁が数ヶ所光って見えます。もしかして、この光っているところを掘ると手に入るのでしょうか。
「レアの思ってる通り、光っているところを採掘するとインベントリに採掘したものが入ってくるんだ」
「なるほど、それなら鉱石が枯渇することはなさそうですね!」
そうして私たちは採掘をしながら洞窟を進んでいきます。出てくる鉱石は、銅や鉄など、一般的な金属が取れます。それに稀にですが、宝石の原石なども取れるみたいです。
宝石の原石は、採掘したばかりではなんの宝石かはわからないみたいですが、【鍛冶】や【細工】のスキルで研磨すれば、よく見る姿の宝石へとなるみたいです。っと、兄様が説明してくれました。
『【採掘】スキルを獲得しました』
採掘を続けていると、そのようなシステム音が聞こえました。採掘を一度止め、確認すると取得スキル欄に【採掘】が増えてました。
「【採掘】スキルを手に入れました!」
「お、レアもゲット出来たか。おめでとう」
「ありがとうございます!」
兄様はそう言って祝ってくれるので、私は感謝の言葉を返しました。
今は二人でペアになって採掘をしていて、私は兄様と、そしてセントさんとマーシャさん、ジンさんとサレナさんと別れてしています。まあそこまで離れて採掘してるわけではないですけどね。
そうして採掘していると、セントさんが突然叫びます。
「向こうから石蟻の群れが来たぞ!」
セントさんのその言葉に、全員が戦闘態勢に入ります。少し待つと、私の【気配察知】にも反応がありました。私よりも先に見つけていたので、セントさんのほうがスキルのレベルが高いのでしょうね。
そう考えていると、洞窟の奥から灰色の大きな蟻が見えてきました。見たところ、大きさは全長一メートルくらいはありそうです。
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ストーンアント ランク F
洞窟などの岩場に生息している蟻。
大きな生物にも臆せず群れで戦う。
状態:正常
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こちらへ到着する前に鑑定すると、このような情報が出ました。鑑定結果にも載ってましたが、どうやらこの蟻たちは基本的に群れで襲ってくるようです。その証拠に、今も十数匹くらいの数で私たちへ向かって来ます。
私と魔法使いであるマーシャさんとサレナさんが、先手必勝で弾丸と光属性と風属性の魔法を放ちます。
群れの先頭にいた数匹に当たった魔法はそのまま弾けてその蟻たちをポリゴンへと変えます。
兄様たちは近づいてきた蟻たちへ刀や剣を振るいますが、硬い甲殻に阻まれてなかなかダメージを与えられていません。その分を私は弾丸で、マーシャさんとサレナさんは魔法で倒していきます。
私の武器である銃は魔法弾になっているので、甲殻に弾かれずに蟻の体に弾痕を残しつつダメージを与えられているのがわかるので、硬い敵だと魔法弾の効果がよりわかりますね。
兎や狼ではあまり実弾と違いがわからなかったので、ここで確認出来て良かったです。それと頭などの弱点には硬くて貫通しなくても、与えるダメージは増えるようです。
「関節だ!関節を狙え!」
私が蟻たちへ銃弾を撃っていると、兄様がそう声を上げます。チラッとそちらを見ると、どうやら甲殻の隙間の関節へなら刃が通るようで、兄様は相手にしていた蟻の足を切り落とし、そのまま首も切断してポリゴンへと変えています。
それに続いてセントさんも関節を切り裂いて倒し、ジンさんは丸盾で蟻の攻撃と私たちへの進行を防ぎつつ、もう片方で持っている片手剣を関節に差し込み倒しています。
そして残りの蟻たちは、二人の魔法と私の魔法弾で駆逐されていきます。蟻たちから手に入れた素材は甲殻と牙でした。
「ふう、倒せたな」
「結構な数がいましたね…」
兄様と私がそう言葉を漏らします。思ったよりも数がいて少し疲れましたね…
「でもスキルのレベル上げにはよかったな!」
「そうね。でも疲れたわ…」
「あたしのMP、もうほぼないよ…」
セントさん、マーシャさん、サレナさんがそう発します。やはり皆さんも少しだけ疲れているようですし、この辺りで終わりが良さそうですかね?
「いい具合に消耗しているし、そろそろ街に戻るか。鉄鉱石とかもここにくるまでに十分手に入れられたしな」
「そうですね」
そんなことを考えていると、私と同じこと考えなのか兄様はそう言葉を続けたので、それに私たちは賛成します。そして私たちはそのまま奥へと向かわず、折り返して洞窟を後にします。その帰る途中では鉱石は採掘しないでそのまま無視して歩いていきます。
そうして洞窟の入り口に着いたので、そこからは森を歩いていきます。その道中で出てきた猿は前衛の兄様たちが、鷹は私が主に倒していきます。途中からはMPが回復したのか、マーシャさんとサレナさんも戦闘に参加しました。
戦闘をしつつ歩いていると、やっと森を抜けて平原へと着きました。ここからはもう襲ってくるモンスターなどはいないので、ゆっくりと歩けます。なので私は今のうちにインベントリを確認します。
すると、銅が六割、鉄が二割、そして残りの二割を宝石の原石と石ころで埋めています。確認する限り宝石はそこまで取れなかったようで、石ころが多めでした。うーん、やはり初期のエリアだからか別段いいものがあるというわけではないですね。
まあそれでも鉄と銅がそこそこは出ましたし、文句はありませんが。
そんなことを考えつつも確認をしながら歩いていると、いつの間にか北門に着いていました。
「やっと着いたな」
「満腹度も減っているし、このままどこかで食事にしない?」
「あ、いいねー!レアちゃんともっと話したいし!」
「私はいいですよ」
マーシャさんのその言葉にサレナさんが賛成します。私もそれを断る理由がないので了承しました。
「じゃあここから南にあるフレンドの店にでもいくか?」
「ああ、あそこか。確かにあそこは美味いしな」
「俺もそこでいいぜ!」
男性陣も賛同し、兄様はお店を紹介してくれます。特に行きたいところもないですし、そこにいきましょうか。
そうして私たちは、兄様たちのフレンドがやっているというそのお店へ向かいます。
「今向かっているお店はどんなものを出すのですか?」
「まあ、色々だな。そのプレイヤーは色々な料理をやっていて、その中には実験メニューなんかもあるぞ」
その道中で私は兄様に尋ねると、そう返ってきました。へー、実験メニューなんてものもあるのですね。
そんな会話をしながら歩いていると、そのお店に着いたのか、兄様たちは立ち止まりました。
「着いたぞ」
外装は現実でもあるようなファミレスのような見た目で、壁はガラス張りになっていて中を伺えます。外から見る限り、結構な大きさがあるようです。
お店の入り口にある看板には『ムニル食堂』と書いてあります。ムニルという人がプレイヤーなのでしょうか。
兄様たちが入っていくので、私も後に続いて入ります。
中は昨日クオンと食べた料理屋とかは違い、外装から想像出来た通り、まさにファミレスの内装をしています。広々とした空間に、仕切りで区切られたテーブルと席がたくさん並んでおり、人もなかなかいるみたいです。
「何名様ですか?」
「六人です」
「ではこちらへどうぞ」
兄様がそう言うと、話しかけてきた店員さんは案内してくれます。
「こちらメニューになります。ご注文の時はお声がけください。ではごゆっくりどうぞ」
その店員さんはメニューを置いて、他のテーブルの方へ向かいました。メニューを見ると、実に多種多様な料理の名前が書いてありました。昨日クオンと食べたハンバーグやステーキはもちろん、パスタやカレー、丼物や揚げ物など、本当にたくさんの料理が乗ってます。そして兄様が言っていた実験メニューも隅に書いてありました。
んー、結構迷いますね……なら、これにしますか。
「みんな注文は決めたか?」
「はい、決めました」
「俺も決めたぜ」
「私も決めたわ」
「あたしもー」
「じゃあ呼ぶぞ」
兄様はそう言って店員さんを呼びます。そして来た店員さんへ注文をします。
「俺はカツ丼で」
「俺も同じで!」
「俺はカレーで頼む」
「私はカルボナーラでお願いします」
「私はシチューで!」
「あたしはナポリタン!」
「かしこまりました、少々お待ちください」
兄様とセントさんがカツ丼、ジンさんはカレー、私はカルボナーラ、マーシャさんはシチュー、サレナさんはナポリタンを注文しました。それにしても…
「兄様兄様」
「ん?なんだ?」
「カレーとかカツとか、カルボナーラやシチューに使うミルクとかってどこで手に入るのですか?まだ周囲にはそういう素材を落とす敵はいないですよね?」
「ああ、それか」
兄様は納得して説明してくれます。どうやら、ミルクや香辛料やお米は他の街から来る商人が相場よりは高いですが売っているようで、商会などに行けば買えるそうです。まあ高いので、香辛料はともかく、お米は住民のお店では出ることはほとんどないようですけど。
それと兄様とセントさんの頼んだカツは豚ではなく、周囲に生息している兎で作られているそうです。ちなみに小麦とかも近くの街で育てているらしく、それも商会で普通に手に入るみたいです。
「それにしても、レアちゃんってかなり強いんだね!」
「あ、それあたしも思った!しかも銃でしょ!ネットでは使えない雑魚武器って聞いたけど、ぜんぜん強くない?」
「それは多分、銃の性能が良いからですね」
そして私は続けて、ユニーク装備のことも教えます。そしてそれを売っていたお店のことも説明します。
「へー、だからなんだ!でもよく動いている敵に当てられるね?」
「それについては、昔からやっているゲームの影響もありますね」
私は昔からゲームでは銃を使っていましたし、それで慣れていますからね。