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75話 ノルワルド黒森2

 そうして兄様は行くぞ、と言って先に歩いていくので、私たちもそれに着いていくように歩き始めます。


 クリアも先程までいた地面ではなく私の肩へ移動しているので、お詫びのように優しくなでなでして、ありがとうの感情を伝えます。


 クリアも私の気持ちが伝わっているようで嬉しそうに手に擦り寄ってくれるので、少しだけ顔に微笑が浮かびます。


 …よし、クヨクヨしてないでこのまま楽しんでいきましょうか!


 それにしても、クリアはまさか魔法まで食べることが出来るとは思いませんでした。


 間違いなく【万物食】スキルが関係をしているのでしょうね。ですが、これを使わせるのは基本的にやめておきましょう。


 私を守るためだとしても、私にはどうしてもそれを許すことが出来ません。…もうあんなことは起こしたくないですしね。


 そんな思考をしつつも兄様たちと森の中を歩いていると、何度か黒色のフクロウと黒色の鹿と出会いますが、それらは特に問題もなく倒して素材を獲得出来ています。


 フクロウは先程と同じですが、鹿に対しては前に狩ったことのあるフォレストディアーと同じように肉、角、皮の三つをドロップしました。


 これらは全体的に黒色をしてかなり硬いのに加え、闇属性の魔力が少しだけ籠っているようで素材としてはかなり優秀そうに感じます。


 それに錬金でも使える特薬草に特魔草、ナテの花なども結構集めることが出来てもいますし、なかなかいい収穫です!


「ゼロ、何かが近づいてきているぞ」

「聞き取れる音は何やら軽そうなので、多分フクロウでも鹿でもなさそうです」


 獲得したアイテムに頬を緩めていると、私とセントさんはほぼ同じタイミングでこちらに向かってきているモンスターの反応を感知しました。


 私の言葉に兄様は了解、と言って警戒を強めます。私と肩にいるクリアも、もちろん兄様たちと同じようにインベントリから武器を取り出し、その音のする方へ視線を向けた後に警戒をします。


 そうして警戒をしていると、森の奥から身長130cmくらいで犬の頭を持つ人型のモンスター、ゴブリンとは似たジャンルであるコボルトが五匹も現れました。


 ➖➖➖➖➖

 コボルト ランク F

 森の中に生息しているコボルト。

 手先が器用で、様々な武器を自分たちで作ったりして扱う。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 そのコボルトは全身を灰色の毛並みで覆われており、前に出会ったゴブリンとは違って古そうではありますが、よく手入れのされているのがわかる鉄製の片手剣を持っています。


 そしてそんな五匹のコボルトの中に紛れて一番後方にいる、狼の頭蓋骨みたいなのを被った一匹のコボルトは何やら黒っぽい色をした木製の短杖を持っています。


 ➖➖➖➖➖

 コボルトメイジ ランク F

 森の中に生息しているコボルト。

 他の個体よりも魔力を扱う技術が高く、魔法を操って戦う。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 鑑定結果からもわかる通り、あの個体はまず間違いなく魔法を使ってくるでしょうね。


「ギガァ!」

「ギギャ!」

「くるぞっ!」

「ああ、〈タウント〉!」


 そして後方にいたコボルトメイジの合図で、前方にいた四体のコボルトは手に持つ片手剣を構えながらこちらに向かってくるので、兄様のその声と同時に私たちも動き始めます。


 そんな戦闘で最初に動いたのはジンさんでした。兄様の言葉を聞き次第、ジンさんは即座に先頭に出て、ヘイトを集める武技を使用してコボルトたちを自身の元へ集めます。


「クリア、いきますよっ!」

「……!」


 私はクリアに声をかけてから、両手に取り出していた双銃をジンさんに向けて接近しているコボルトの一体に向けて構え、そのまま両手の銃を連続して発砲します。


 それらはこちらに注意がいってなかったおかげでしっかりとその全身を撃ち抜き、コボルは悲鳴と共にポリゴンとなっていきます。


 そんな私を尻目に、クリアはいつのまにか私の肩から地面に飛び降りていたようで、【変幻自在】のスキルを使用してハイウルフの姿になっとと思ったら、その次の瞬間にはジンさんへイトが向いていて隙だらけのコボルトに一気に駆けていき、そのままその鋭利な爪で切り裂いてダメージを与えていきます。


「ギ、ギギァ!」


 ですが、前方で戦っているコボルトたちをサポートするかのように後方にいたコボルトメイジが何やら魔法を使ったようで、岩で出来た槍がこちらに飛んできました。


「無駄だ!〈秘剣・風断〉!」


 それは一番先頭でコボルトたちへ攻撃をしていた兄様に向けて飛んできましたが、兄様はそれを軽々と回避して、風の斬撃を飛ばすユニークスキルを反撃として撃ち返します。


 しかしその攻撃は再び魔法を使ったようで、岩で出来た壁を瞬時に発生させて防がれてしまっています。


 その岩の壁は、兄様からの攻撃を防いだ後はすぐにボロボロと崩れて消滅したので、すぐにコボルトメイジの姿が現れます。


「ギガッ!」

「〈第三の時(ドライ)〉!」


 そしてコボルトメイジに視線が向いていたせいで、僅かに出来た兄様の隙を狙って近くにいたコボルトが兄様に切り掛かりますが、私はそのコボルトに向けてユニークスキルの攻撃を加えてポリゴンへと変えました。


「レアか、助かった!」


 そんな攻防をしているうちに残っていたコボルトも全て倒し終わっていたので、私たちは最後の一匹であるコボルトメイジに全員で攻撃を与えていき、最終的に特に問題もなく無事に倒し終わりました。


「よし、倒し終わったね!」

「ですね。やっぱり魔法を使う相手だと、少しだけ面倒くさそうに感じちゃいますね」

「確かにそうだな。まあ特に苦戦はしないし、そこまで手強いわけでもないから問題はなさそうだが」


 こうしてモンスターからの魔法を見るのはこの森が初めてですが、やはり魔法は相手にすると少しだけ大変です。が、兄様の言う通り苦戦はしないですし、離れていても私の場合は銃で攻撃が出来るのでそこまで気にすることでもないですね。


「クリアも、お疲れ様です」

「……!」


 私たちがそう言葉を交わしているうちに、変身を解いたクリアが私の足元に擦り寄ってきていたので、優しく抱き上げてからありがとうの感情を伝えるように軽くなで、その後に肩へ移します。


「じゃあこの調子で狩りをしていくか」

「そうですね!このままいきましょう!」


 それからも私たちは森の中を練り歩き、出てくるフクロウや鹿とコボルトに、先程は出会わなかった黒い狼と同じく黒い蟷螂、そして灰色の毛並みをした猫とも遭遇して、無事に狩ってきました。


 そのモンスターたちの中でも、狼と蟷螂は俊敏な動きで森の中を動き回って襲ってきましたが、ジンさんが文字通り盾となることでその動きを誘導し、そんな動きの中で出来た隙に私たちの武器とマーシャさん、サレナさんの魔法でHPを全て削り、最終的にポリゴンへと変えました。


 そして灰色の猫については、他のモンスターよりは少しだけ苦戦しました。なぜならその猫は魔法か何かで幻のようなものを出し、私たちを惑わしてきたからです。


 ですが、そんな幻たちを私の放った無数の銃弾や、マーシャさんとサレナさんの魔法で全て消し去ると言うゴリ押しで対処して、それに驚いて一瞬硬直していたその猫へと兄様たちの放った攻撃でなんとか倒すことが出来ました。


 それぞれのモンスターのドロップアイテムは、狼は闇属性が僅かに籠った牙に爪、そして黒い毛皮を落とし、蟷螂が黒色をした鎌足に触覚、レア枠で一個だけ取れた複眼でした。


 それらに対して一匹だけ遭遇して倒した灰色の猫からは、幻属性という魔力が宿っているらしい黒色の瞳がドロップしました。


 うーん……モンスターではありますが、猫の瞳を手に入れるのはちょっと抵抗がありますね。まあけっこうレアそうなので、捨てることはしませんけど。


 それにしても、幻ですか。私も幻影ではありますが呼び出すことは出来ますが、相手にするとこんなに面倒くさかったのですね。なら、クオンの言っていた通り私のユニークスキルでも結構使い用はありそうです。


「…そろそろいい時間だし、街に戻らないか?」


 そこからもこの森で狩りを続けていると、ふと兄様がそう声をあげました。


 なので私は腰元にある懐中時計を確認すると、すでに五時になっていたようです。


「もうこんな時間ですか。なら、兄様の言う通り街に戻るのが良さそうですね」

「確かに結構な時間狩りをしてたみたいだし、MPポーションの数もすでに心許ないしね」

「あたしもいいと思う!」

「俺もそれでいいぞ!もう少しレアちゃんとはいたいけどね!」

「…俺もそれでいいと思う」


 兄様の言葉に私たちは口々に返事をしますが、それを聞いた兄様はじゃあ戻るかと言ってマップを見ながらこの森の出口方面へ向かうので、私たちもそれに続いて歩いていきます。


「そうだ、レア。この後はまだ時間はあるか?」


 森の中を歩いて街へと帰る途中で、私は兄様からそのように聞かれました。


「私は特に予定は入っていないので大丈夫ですが……何かあるのですか?」

「俺たちのポーションの数も結構使っていて心許ないから、ポーションを買いにいくついでにレアも顔合わせでもしないか、と思ってな」


 兄様の言葉にそう返すと、兄様はそう続けてくれました。


 なるほど、確かに私はポーションを売っているお店には未だに行ったことがないですし、紹介をしてもらうのはありですね!


 自分でもポーションは作れますが、それがメインというわけでもないのでそれ専門の人には負けてしまいますしね。


「兄様たちがいいのなら、ぜひ紹介してもらいたいです!」

「ふ、いいぞ。じゃあ街に戻り次第そのプレイヤーの元へと行くか」

「はいっ!」


 そこからは特に何かイベントがあるわけでもなく、時折襲ってくるモンスターたちを狩りながら移動すること数十分。


 やっとこの森の出口に着きました。ここからの草原で出てくるモンスターは森のモンスターとは違って自分から襲ってくるタイプではないので、ここまできたのならやっと一息つけますね。


「ここまでこれば、もう警戒はしなくてよさそうね」

「ですね。街まではまだ距離がありますし、このまま向かいましょうか」

「そうだね!レアちゃんにポーションのプレイヤーの紹介もしないといけないし、さっさと行こう!」


 私たちはそんな会話をしつつ迷宮都市へ向かって歩き続け、特に何か起こるわけでもなく無事に迷宮都市の東門の前に着きました。


「よし、着いたな」

「んー、少しだけ疲れたな!ジンもタンクお疲れ!」

「それが俺の仕事だからな」


 兄様たち男性人は私たちのような後衛とは違って少しだけ疲れているようで、そう声を発しています。


 やはり近接戦闘は疲れますよね。私も銃の時もそうですが、兄様たちのような剣状態の時も結構動き回りもするので少しだけ疲れてしまいますし。


 しかもそこにユニークスキルも使えば、高速で思考を張り巡らせて動かないといけないので結構精神的にも疲れますし、私は基本ソロでもあるので一度のミスが命取りになるので、神経を研ぎ澄ませておかないといけないですからね。


「じゃあレア、そのプレイヤーは初期の街の店にいるようだから、今から行こうか」

「わかりました!」


 私が兄様たちを見つつ思考をしていると、その間に兄様はフレンドメッセージでそのプレイヤーへ連絡していたようで、そう言葉をかけてきたので私はそれに頷き、歩いていく兄様を追いかけます。


 そしてまたもやそこそこの距離を歩いていると迷宮都市の転移ポイントがある広場に着いたので、私たちは早速転移を行って初期の街へと移動しました。


「レア、今からプレイヤーのお店に行くから逸れないように気をつけてくれ」

「はい。ですが、私ももう子供じゃないですから大丈夫ですよ!」


 兄様の言葉にフフンと胸を張りつつそう返事をした後、この初期の街にあるらしい目的地まで兄様たちと歩いていきます。


 初期の街を歩くのは久々ですが、やはり景観は全く変わってはいないようです。


 ですが、兄様が気をつけろと言ったように、この街には結構なプレイヤーたちと住人が道を歩いているようで、人混みが出来ているので少しだけ歩きずらいですね。


 さらに私は身体が小柄でその見た目通り力もないので、一度人の波に攫われたら抜け出すのにも苦戦はするでしょうし、気をつけないとですね…!


「…なんて言ってましたが、見事に逸れましたね」

「……?」


 そこ!フラグ回収乙なんて言わないでください!これでも気をつけてはいたのですよ!


 クリアもどうするのー?とでもいうように肩で震えていますが、どうしましょうか…?


「…あなた、迷子なの?」


 さてどうしたものかと考えていると、そんな悩んでいる私を見て迷子と思ったのか一人のプレイヤーがそう声をかけてきました。


 そのプレイヤーは身長150cm後半くらいで腰まである黒色の髪に黒い瞳をした、お淑やかそうな人間の女性でした。


「そうなんです。実は兄様、いえパーティメンバーと一緒にポーションを売っているプレイヤーのお店に向かう途中だったのですが、逸れてしまったのです」

「確かに今は人も多いから気をつけていても仕方ないもんね」

「それに私はそのお店に行ったことがないので、そこがどこかもわからないのですよね」


 さらにそう続けると、その女性プレイヤーは少しだけ何やら考えたと思ったら、考えがまとまったようで私に向けて声をかけてきました。


「…私、多分そのお店は知っているし、案内しようか?」

「いいんですか?」

「もちろん!とくに予定もないからね」


 なんと、まさかお店に案内もしてくれるなんて、この人はとても優しいですね…!こんな見ず知らずの私に声もかけてくれてましたし…!…ちょっと子供扱いみたいなのは気になりますが、それは私の身体が小さいので仕方ありませんね。


 クリアも、そんな女性プレイヤーに感謝の気持ちでも伝えるかのようにプルプル震えています。


「…なら、よければお願いしてもいいですか?」

「任せて!それじゃあこっちだよ!」


 そうしてそこからは女性プレイヤー、カグヤさんの案内でそのお店へと向かいます。その道中では名前を教えてくれましたし、どうやら私についても知っていたようでした。


 こんな白髪はキャラメイクでは出来ないようなので他にいないようですし、見た目も今は隠していなかったのですぐにわかりますよね。


 それと兄様からのフレンドメッセージも届いたので、案内してくれているプレイヤーと一緒に向かっているので少しだけ待っていてください、と返しました。


「そういえばPVでは見かけなかったけど、いつのまにかスライムのテイムもしていたんだね?」

「そうなんですよ!この子はクリアと言って、私の大事なパートナーでもあります!」

「……!」


 そんなお店へと歩いている途中でカグヤさんからそうも聞かれたので、私は自慢でもするかのようにクリアを軽く撫でて紹介をします。


 クリア自身もよろしく!というかのようにそのスライムボディを触手のように伸ばして挨拶を返します。


「クリアちゃんもとても可愛いね!」

「ありがとうございます!ふふ、クリア、褒められましたよ!」

「……!」


 クリアもその言葉を聞いて、嬉しそうに私の肩でプルプルと震えています。…今ふと思ったのですが、クリアの性別は無と書いてありましたが、どっちかというと私と同じように女性よりの性別に感じますよね?


 まあそれは特に気にすることでもないですし、置いといても良いですね。

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