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74話 ノルワルド黒森1

「さて、確認することはこのくらいですね」


 私は開いていたステータス画面を閉じ、下げていた視線をあげます。


 すると、この広場にいるプレイヤーらしき人たちからの視線がこちらに集まっているのに気づきました。


 …やはりクロークとかで顔を隠しておかないと特徴的な髪の色のせいで目立ってしまいますね。まあそれでも声をかけには来ないようので、そんな視線はスルーして待っているとしましょうか。


 そんな微妙に居心地の悪い感覚を覚えつつも待っていると、ちょうど広場の入り口辺りから兄様が歩いてくるのが見えました。


「兄様ー!」

「レアか、もう来てたんだな」


 私の呼び声でこちらに気づいた兄様は、そんな言葉を返してきながら私の元へ歩いてきます。


「レアと行動を共にするのは少しだけ久しぶりだな」

「確かにそうですね、前にゲーム内で会った時も特訓だけでしたし!」


 最後に兄様パーティと一緒にしたのはこの迷宮都市に来る時ですが、その後にした特訓の時から兄様の姿は特に変わってはいませんね。


 兄様に変化はないので、他のメンバーもおそらくはそこまで変わってはいないでしょうね。


 そんなことを考えていると、兄様のパーティメンバーであるマーシャさん、サレナさん、セントさん、ジンさんが皆で固まっておしゃべりをしながらこちらに歩いてきているのが確認出来ました。


「他のメンバーも来たみたいだな」


 兄様も来ているパーティメンバーの皆さんに気づいたようで、そう言葉を呟きます。


「あ、レアちゃん!久しぶりー!」

「まあまだ一週間は経ってないけどね!」

「相変わらず可愛いなー!」

「元気そうでなによりだ」

「お久しぶりです、皆さん」


 皆さんそれぞれの言葉を私へかけてくれるので、それに私は反応を返します。


 見た限り兄様と同じように装備の見た目は特に変わってはいないようなので、前に会った時とそこまで違いはないですね。


「…よし、皆集まったな。じゃあさっそく狩りに行こうか」

「はい!」


 私たちは各々の返事を兄様へ伝え、そこから皆でパーティを組んだ後に固まって今いる広場から東方面へ向かいます。


 あ、ついでに最近は構っていませんでしたし、クリアも呼んでおきますか。


 私は皆さんと一緒に歩きながらクリアを呼び出し、そのまま私の肩に乗せておきます。


 クリアを呼んだのは久々ですが、そこまで気にしていないようで、おはよー!とでもいうかのようにプルプルと震えて感情を伝えてきます。


 うーん、やっぱりクリアは可愛いですね!


「レアちゃん。レアちゃんは最近は何をしていたの?」


 そんなクリアを見て微笑を浮かべたまま皆さんと一緒に街中をテクテクと歩いていると、道中でセントさんからそう聞かれました。


 その言葉にマーシャさんやサレナさんも気になるのか、こちらに視線を向けて聞きたそうにもしているので、特に隠すことでもないのでわたしは素直に答えます。


「私は兄様や幼馴染であるクオンと一緒に特訓をしたり、この迷宮都市の散策をしていたくらいですね」

「そういえばレアちゃんには幼馴染がいたわね」

「やっぱりクオン君も強いの?」

「そうですね、ユニークスキルは持っていないようですが、充分強いですよ」


 まあ今は持ってませんが、クオンならいずれ獲得は出来るとは私は思いますけどね。


 多分クオンもユニークスキルを獲得すれば、私や兄様、カムイさんなどと対等なレベルになれるとも思いもしますし。


「話は変わるのですが、今から行く東の森には皆さんは行ったことがあるのですか?」

「俺たちは何度かはこのメンバーで行ったことがあるな」

「そうそう、確か結構暗い森だったよな」

「それに森全体も黒っぽかったわよね」


 私が皆さんにそう聞いてみると、今聞いたことに加え、セントさんとマーシャさんが続けてそのエリアについての情報も教えてくれました。


「暗い森ですか?」

「レアはまだ行ったことがないんだったか?」

「はい、今回が初めてですね」

「なら、行けばすぐにわかると思うけど、今までの森より暗い雰囲気だから少しだけ気をつけるといいよー!」


 そしてジンさんとサレナさんからもそんな言葉を伝えられたので、私は少しだけ不安に感じてしまいますね。


 暗い雰囲気に黒っぽい森、ですか。どんな感じかはまだわかりませんが、行けばばすぐにわかると言っていたのでそれまでの楽しみとして取っておきますか。


 そんな会話をしているとやっと迷宮都市の東門辺りに着きました。やはり広いせいで移動だけでも結構な時間がかかってしまいますね。


 今見えている東門も、この街に初めて来た時に通った南門と同じようにかなりの大きさをしており、門番らしき住人も側に立っています。


 こうしてみると、門番の仕事は大変そうですよね。怪しい人がいないか警戒をしないといけないですし、ずっと立っている仕事でもありますし。


 まあそんな門番さんについてはいいですね。とりあえず、こんなところに突っ立ってないでさっさと森らしいエリアに行きましょうか。


 それとどうやら迷宮都市の東にある草原も南門の外と一切変わっていないようで、兎や子豚に鶏などがいるくらいです。


 それらは私以外には特に狩っても使い道はがないようなので、スルーして草原を歩き続けていきます。私自身もそこまで今すぐに欲しいわけではないですし、欲しくなったら狩りにこればいいですからね。街からもすぐ近くなのと、ある適度はすでに持ってもいるので。


 そんな中、クリアも私との行動は久しぶりだからか楽しそうに肩で震えています。クリアも楽しそうにしてくれているなら、私も嬉しいですね!


 そこからも出てくるモンスターはスルーしながらとくに取り止めのない会話をしつつ歩いていると、やっと森が見えてきました。


「やっと見えてきたな」

「ですね。やっぱりこの世界はかなり広くてエリア間の移動は大変ですね〜…」

「まあその代わりに転移ポイントもあるようだし、それを使えということだろうな」


 まだ街以外の転移ポイントを私は見つけたことがないですが、兄様がネットで見つけた情報では、どうやら初期の街の北にある山の洞窟を抜けると、そこに転移ポイントがあると説明をしてくれました。


 そういえば前に高原の入り口付近には転移のポイントもある、と書いてありましたね。すっかり忘れていました…!


 そうしてここからも見えている目的地である森まで歩いていき、数十分近く歩いているとやっと森の手前まで着きました。


 近くに着いたのでそのエリアに入る前に目で確認したその森は、先程セントさんとマーシャさんが語っていたように全体的に黒い見た目の木々が立ち並んでおり、暗い雰囲気も感じ取れます。さらに森の中も見えている範囲では結構暗くて視界も悪そうです。


 私は【夜目】スキルを持っているのである程度は分かりそうですが、もしなければかなり視界が悪くて探索もままならなそうですね。


「レア、この森では魔法を使ってくるものもいるから、大丈夫だとは思うが一応気をつけろよ」

「魔法ですね、わかりました!クリアもここからは一緒に頑張りましょうね!」

「……!」


 魔法を使うモンスターの相手はまだしたことがないので、兄様の言う通り一応何が起きてもいいように気を引き締めておきましょうか。


 クリアにも私が声をかけると、クリア自身も任せて!と言うようにプルプルと震えて感情を伝えてくれます。


「よし、じゃあ狩りといくか」

「はい!」


 兄様の号令で私たちは軽くポジションを組んでからこの黒い森の中へと入っていきます。


 この森は最初に外から見た通り黒い木々が無数に存在しており、それもあってか全体的に光がなくて薄暗いです。しかも私の持っている【夜目】スキルでもレベルがまだ低めだからか完全には見通せないようで、およそ十メートル先くらいまでしか確認出来ません。


 まあそれでも【気配感知】スキルと【魔力感知】スキルがあるので、視界が悪くて見えづらくても近づいてくるモンスターは把握出来るとは思うので問題ありませんけどね。


 クリアもこんな暗い森に来たのは初めてだからか、少しだけ興奮しているのが感じ取れます。


 そんなことを考えつつ『ノルワルド黒森』という名前のエリアらしきこの森の中をキョロキョロと見つつ歩いていると、私の【気配感知】スキルと【魔力感知】スキルに反応が出てきました。


「ゼロ、くるぞ」

「了解、皆、戦闘用意を」


 セントさんも私と同じようにモンスターの反応を確認したようで、兄様に向けてそのように声を上げます。


 それを聞いた兄様は即座にそう言葉を発したので、私たちもそれに習ってインベントリから自身の武器を手元に取り出します。


 そんな私を見て、クリアも私の肩で警戒を強めています。多分感じ取れた感覚からすると、空中にいるようなのでとくにクリアの出番はなさそうですけど、こうして守ってくれようとするのは嬉しく感じますね。


 そこからクリアと一緒に警戒をしてから数秒後、森の奥の空中から黒色をした現実世界よりも一回りくらい大きいフクロウが二匹こちらに向かって飛んできました。


 ➖➖➖➖➖

 ブラックオウル ランク F

 森などに生息している黒いフクロウ。

 その知能の高さを活かし、魔法を使って獲物を狩る。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 鑑定をしてみた感じ、どうやらこのフクロウは兄様の言っていた通り魔法を使ってくるみたいです。


 そしてそれを証明するかのように、二匹のフクロウは空から氷の玉や風の刃を放ってきました。


 が、それらは即座に先頭に出てきたジンさんの大盾に阻まれ、防御に成功します。


 攻撃をジンさんが塞いだ次の瞬間には、私の撃った〈クイックバレット〉が一匹のフクロウの眉間辺りを撃ち抜き、もう一方のフクロウはセントさんの投げたナイフとマーシャさん、サレナさんの放った光と風の魔法によってHPが全て削れてポリゴンとなっていきました。


 倒したフクロウのドロップアイテムは黒い羽根と黒い羽毛、そして魔石でした。


 おそらくは魔法を使うモンスターのため、魔石が取れたのでしょうね。今の段階では特に使い道はありませんが、このまま使う時まで貯めておきましょうか。


 その後も森の中を探索していき、その途中で黒色をした花を見つけたので鑑定をしてみると、それはナテの花と言ってどうやら暗闇効果を回復する効果持ちの素材のようでした。


 こちらも今の段階では特に必要とはしませんが、見つけたものを放置するのもあれなので、これらも何個か採取をしてインベントリに仕舞っておきます。


 他にも、今までに手に入れてきていた薬草系統と同じだと思う特薬草に特魔草も複数発見したので、それらも同じように採取しておきます。それにここの森にもアプリの実やこの世界で初めて見たブドウなどの果物があったので、同様に採取しました。


 やはり森の中なら採取出来るアイテムがたくさんあるおかげでなかなか新鮮で面白いので、私にはやはり森が合っていますね。


 それと最近はあまり錬金をしてませんでしたし、今度時間が出来たらまた色々と作ってみますか。


「ゼロ、また来たぞ」


 そんな楽しそうな雰囲気で採取をしていた私をチラリと見つつも、セントさんはモンスターの反応を感じたようでまたもやそう声を上げます。


 採取に夢中になってはいましたが、私も近づいてくるモンスターには気づいていたので、特に慌てずにインベントリから武器である双銃を取り出して接近してくるモンスターを待ちます。クリアも同様に私の肩で再び警戒をしています。


 すると、今度はフクロウではなく黒色をした大きめの鹿が一匹こちらに向かってきました。


 ➖➖➖➖➖

 ブラックディアー ランク F

 森などに生息している黒い鹿。

 闇魔法を操り、敵対する者を倒す。

 状態:正常

 ➖➖➖➖➖


 その鹿はその赤い瞳に敵意を秘めながら、こちらに近づくのと同時に何やら黒色をした無数の弾を散弾のように飛ばしてきました。


 私はそれを見て回避をしようとすると、突然クリアが私の肩から跳躍して私の前へと飛び出します。


「クリア!?」


 私は思わずそう悲鳴をあげてしまいますが、無理もありません。ですがクリアはその小さな身体をめいいっぱい広げ、私一人分ではありますがその身体で飛んできて無数の黒い弾を防ぎます。


 しかもクリアはその黒い弾を吸収もしているようで、私に飛んできた無数の弾を身を挺して防いでくれました。


 ですがその分HPも結構減っており、この攻撃だけですでに七割まで減ってしまっています。クリアは【魔法耐性】のスキルは持っていますが、まだレベルが低いので仕方ありませんね。


 そしてそんな私とクリアに対して、兄様たちの方はジンさんが構えた大盾の背後に移動してそれらを防いだようで、鹿の魔法が止んだのを確認次第ジンさんの背後から飛び出して鹿へ攻撃を繰り出していました。というか…


「クリアっ!そんな危ないことはやめてくださいっ!」

「……!?」


 思わず荒げてしまった私の言葉を聞いて、クリアは私が今までに見た中で一番驚くのと同時に落ち込んでしまっています。


「…すみません、つい声を荒げてしまいました」

「……」


 クリアも私に向けてごめんなさい、とでも言うようにしょんぼりとした雰囲気で私の元に戻ってきました。


 初めてクリアの前でこんなに声を荒げてしまったせいで、クリアはとても落ち込んでいるようなので、私はそれを慰めるように優しい声で声をかけます。


「…いえ、クリアは悪くありませんよ。私を守ってくれたのですよね?その行動はとてもありがたいです。ですが、次からはもうこんな行動は取らないようにしてください」

「……!」


 落ち込んでいた気持ちも元に戻ったのか、これからは気をつけるね!というように地面でピョコピョコ跳ねてこちらに感情を伝えてくれるクリアに、私は強張っていた表情をなんとか直してからありがとうございます、と伝えます。


「レアちゃん、大丈夫…?」

「あ、すみません、マーシャさん。戦闘に参加していなくて…」


 いつのまにか鹿との戦闘が終わっていたようで、マーシャさんが恐る恐るというようにそう声をかけてきたので、私はそれに言葉を返します。


「いえ、それは大丈夫よ。それよりもレアちゃんが突然声を荒げたからビックリしたのよ」

「あたしも思った!なんだかいつもよりも緊迫したような声だったしね!」

「…そんなにですか?」


 私は手に持っていた双銃をインベントリに仕舞いつつマーシャさんたちへそう返しますが、マーシャさんたちはなんだか私のことを心配するかのような表情でさらに続けてきます。


「ああ、なんだか恐怖や怒りのような感情が声にこもっているように感じてね」

「レア、大丈夫か?」


 セントさんとジンさんからもそう心配されてしまっているので、私は一度目を閉じてから胸に手を当てて軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、もう大丈夫です、と返します。


「…それならいいが……ここからも大丈夫そうか…?」

「はい、心配させてすみません。もう大丈夫です」


 私は兄様の言葉にもそう返します。…ちょっとクリアの行動を見たせいで昔の記憶が蘇ってきてこんな気持ちになってしまいましたが、一度気持ちを落ち着かせましたし、クリアにももうしないように言ったので大丈夫なはずです。


 それに今は貴重な兄様たちとの狩りの時間です。こんな悪いことを考えてないで、もっと楽しく一緒に行動をしましょう。


「…じゃあ、狩りの続きといこうか」

「わかりました」

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