71話 依頼
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黒姫の衣装 ランク S レア度 固有品
DEF+20
MND+20
AGI+40
耐久度 破壊不可
・黒姫の影 装備者のスキルによる隠蔽効果を強化する。
・黒姫の足 壁や天井を歩くことが出来る。
蟲惑の暗殺者が弟子のために用意した最高級の暗殺衣装。隠れることには強力な力となる。
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黒姫の羽衣 ランク S レア度 固有品
DEF+20
MND+20
AGI+40
耐久度 破壊不可
・黒姫の幻 装備者を認識するのが難しくなる。
・黒姫の闇 装備者に対する察知系の能力を無効化する。
蟲惑の暗殺者が弟子のために用意した最高級の暗殺衣装。隠れることには強力な力となる。
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黒蝶の涙 ランク S レア度 固有品
DEF+5
MND+10
INT+30
耐久度 破壊不可
・幻想の蝶 装備者のマーカーを偽装する。
・幻想の色 装備者の髪色を変化させる。
蟲惑の暗殺者が弟子のために用意した最高級の暗殺衣装。隠れることには強力な力となる。
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それらを鑑定してみると、そのような説明が出ました。見た目だけではなく、性能に対しても大変素晴らしいですね!
ナンテさんが用意してくれた装備はユニーク装備でもあるようなので、装備についている特殊なスキルも暗殺に活かせるものばかりですし、とてもありがたいです!
「早速試着させてもらいますね!」
「わかったよ」
私はナンテさんにそう一言声をかけてから、ウキウキしながらそれらをインベントリに移し、純黒のペンダントと入れ替えるように装備メニューから選択して装備をします。
ナンテさんからもらった装備を着てみた感じ、最初に思った通り結構ピッチリと身体に吸い付いているおかげで動きにくさが一切ありません。
ですが、ピッチリしているせいで体のラインが僅かに浮かび上がってしまっているので、それが少しだけ恥ずかしく感じますね…
まあ一緒に装備したクロークで大体は隠れるので、そこまで気にしなくても良さそうではありますが。
それと黒蝶の涙という蝶の髪飾りを着けたところ、私の髪の色がたちまち漆黒色に変わっていきました。
説明を見るに私のマーカーも変わっているようですが、それはどうやら緑色になっており、NPCのような状態に変わるようです。
これならもしプレイヤーなどに見つかった場合でも、上手く対応をすれば髪色も違うので私とバレることはまずないでしょう。
「うんうん、やはりレアには結構似合うね」
「そうですか?それならいいのですけど」
そんな確認をしている私を見て、ナンテさんはそう頷きながら言葉をかけてきました。
そして私は鑑定結果の説明を見て気になったことが出来たので、依頼に行く前に一度ナンテさんに聞いてみます。
「それと、これはもしかしてナンテさんが作ったのですか?」
「お、よくわかったね?まあ専門の職人には負けるが、あたしの腕前でもなかなかいい装備だろう?」
「はい!とても動きやすいですし丈夫そうなので、これなら問題なく依頼も出来ると思います!」
「そうかそうか、それならよかったさ!それじゃあ、もう行くのかい?」
「いえ、まだ暗くはないので少しだけ現実世界に戻って、八時くらいの夜の時間に行こうと思ってます!」
ナンテさんからしっかりとした装備ももらいましたが、今私が口にした通りまだ外は明るいので流石に暗い時間の方が目立たなそうですし、もう少し遅い時間で向かおうと考えて私はナンテさんにそう返します。
「そうか、ならここで待っているから、行く時は声をかけてくれよ?」
「わかりました!」
『サブクエスト【不正の証拠】が発生しました』
ナンテさんのその言葉の後にそのようなシステムメッセージが流れ、それと同時に私のマップの一箇所に標的である商会のあるであろう場所にマークが付きました。
クエストからも察するに、ここに向かえば良いみたいですね。よし、一度ログアウトして勉強やご飯などを済ませて夜に再びこちらに戻ってきたら、【気配希釈】スキルや【魔力隠蔽】スキルを活かして依頼をこなすとしましょう!
そうしてナンテさんに声をかけてから現実世界に戻り、夜の時間までは昨日と同じように勉強をします。
そこから黙々と勉強に集中しているといつのまにか七時になっていたので、勉強道具を片付けた後にストレッチも済ませてリビングに降り、作り置きしていた夜ご飯を先に食べ始めます。
そして一人でご飯を食べていると、そのタイミングで兄様も降りてきました。
「美幸か、先に食べていたんだな」
「あ、兄様!そうなんです、実は夜にするクエストが出来てしまって、それで先に食べさせてもらっていました。今兄様の分も用意しますね!」
私は食べていた手を一度止め、冷蔵庫に仕舞っていた兄様の分の夜ご飯を取り出してレンジに入れ、温め始めます。
「クエストか、それなら一緒の狩りはもう少し先の方がいいか?」
「いえ、おそらくは今日中には終わると思うので全然大丈夫です!なので、狩りに行くのは明日の学校から帰ってきた後でどうでしょうか?」
「明日か。多分大丈夫だとは思うが、後で俺のパーティメンバーにも聞いておくな」
「お願いします!」
そんな会話をしているうちに兄様のご飯も温めるのが終わったので、取り出してテーブルの上に置きます。
「では、私はお風呂に行ってきますね!」
「わかった。俺はこのまま食べているから、特にこっちは気にしなくてもいいからな」
「はい!」
私はその間に食べ終わっていたので、兄様にそう声をかけてから洗濯を開始した後に着替えを持ってお風呂に向かい、諸々をパパッと済ませてきます。
夜からはゲーム内で受けた依頼がありますし、気合を入れて頑張りましょうか!
「では、行ってきます!」
お風呂から上がってパジャマに着替え、洗濯物も干してやることを全て終わらせた後、現実世界からゲーム世界に戻ってきた私はナンテさんと軽く会話をしてからそう声を上げ、早速とばかりに今いる建物から出てナンテさんから見送られながら目的地である商会まで向かいます。
その商会まで向かう道は、まずナンテさんの家の屋根に向かうために壁を走って屋根に向かいます。
そこからは目的地であるマップについているポイントの場所まで、屋根と屋根を飛び移りながら進んでいってます。
その最中には隠蔽系のスキルもしっかりと発動もしているので全く目立つこともなく、人混みもないので快適に移動出来ています。
「うーん、こんなに快適なら、普通の時にもこうして移動するのも悪くはなさそうに感じますね」
まあその場合は今みたいな隠蔽効果の装備をしてないので、すぐに見つかって目立ちそうなのでやらないですけど。
そんなことを考えつつも屋根から屋根へと飛び移って移動していると、歩くよりもずっと早いからかすぐに目的地である商会が見えてきました。【夜目】スキルを持っているおかげで暗いはずですが意外とはっきり確認をすることが出来ていますね。
その商会はここから見た限りとても大きい建造物のようで、外観からするにおそらく五階建てはあるように感じます。
私は少し離れた位置にある建物の屋根の上からその建物を確認しつつ、すでに羽織っていたクロークのフードを下ろして極力目立たないように【気配希釈】スキルと【魔力隠蔽】スキルを意識して発動しておきます。
「…一番上の階の窓が一箇所だけ空いてますし、装備の効果を活かして壁を登って、そこから入るとしますか」
建物を観察しているとちょうどよく一つの窓だけが空いたままになっているので、そこから侵入出来そうですね!
それに今の時刻はすでに八時近くなので結構暗いですし、スキルの効果もあってかまず気付かれることはないでしょうから、そのままそこから行くとしましょうか。
私は軽く建物の周囲を確認した後、人目がない場所に降りてからその建物の壁に脚をつけ、一気に駆け上がります。
壁を走っているので結構目立ちそうに感じますが、装備などの効果もあってか一切こちらに注目されないので、順調に行動出来ていますね。
「…よし、では侵入といきましょう」
壁を走って目的の場所に着いたので、軽く中を確認してからスルッと窓を潜って中に入ります。
中はどうやら何らかの倉庫のようで、たくさんのアイテムや箱、樽などが無数に置かれていました。倉庫なのに埃などが一切見当たらないので、おそらくは掃除をした後に空気の入れ替えのために窓が開けられていたのでしょうね。
それに五階層の倉庫にある窓なので普通は侵入されるとは思わないからか、特に警備員のような者もいないようなので楽に侵入することが出来ましたね。
「…とりあえず、ここからさらに中を探っていきますか」
私は窓辺からその倉庫内を歩いていき、ここから見えていた扉に向かいます。
そして扉に近づいていくと何やらこちらに向かってくる足音が聞こえたので、即座に天井に跳んでそこで息を潜めます。
「まったく、何故この私がこんな目に会わないといけないのかっ」
そうぶつぶつと呟きながら入ってきたのは、170cm前半くらいの身長をして、縦ではなく横に大きくてまるまると太っているおじさんでした。
そのおじさんが着ている服はそんじょそこらの物とは比べ物にならなそうな程に綺麗で立派ですが、その見た目が全てを台無しにしています。
「あのくそ貴族め、あやつのせいで私の今までの悪事がバレるではないか。まあ良い、これさえあれば私はまだ立て直せる。ぐふふ、これを乗り越えてみせた暁にはあやつを思う存分痛めつけてやる」
今口にしている言葉とこのおじさんの見た目から察するに、まず間違いなくこのおじさんが今回の商会の会長でしょう。
何やらさらに悪どいことを考えているようですが、とりあえず気づかれないように尾行して証拠の確保と一緒に調べてもおきますか。
そのおじさんはそう呟きながら倉庫内に置いてあった黒い宝石が付いた指輪を手にして、ニヤニヤと気持ち悪い表情をしながらも踵を返してこの部屋から出ていきます。
なので、私もこっそり一緒に出て、天井付近で息を潜めつつ尾行していきます。
そこからおじさんを尾行し続けていると、この階層にある一つの部屋へと入っていったので、先程と同じように私も隠れながらついていきます。
この部屋はどうやら執務室のようで、無駄にお金をかけているのかゴテゴテとした宝石や金などで飾りつけされていて、悪趣味な部屋となっていて目に悪い感じがします。
「これはここに隠しておくとして、これはこっちに隠しておこう」
そうして私が天井から部屋を観察していると、おじさんは倉庫から取ってきた黒い宝石のついた指輪を執務室の奥に置いてあった見た目だけは豪華な執務机の引き出しの奥に仕舞い、さらに悪事の証拠らしき物も、今度は別の二重底になっている引き出しの奥に仕舞っています。
見つからないようにきちんと隠しているようですが、私に見られているのに気付いてないせいで場所がバレバレなので、なんというか間抜けに感じちゃいますね。
「…よし、隠すものも済んだし、さっさと仕事を済ませてくるか。まったく、この私を呼びつけるなんて…」
そう独り言を呟きつつおじさんはこの執務室から出ていったので、私はそれを見送り少し待ってから床に着地して、早速執務机に近づいておじさんが仕舞っていた証拠たちを確認していきます。
「これは……裏帳簿と裏金ですかね?それとこっちは詐欺や虚偽表示、価格操作に裏取引などの証拠ですか…」
あのおじさんは結構色々な悪どいことをしていたようでたくさんの証拠があったので、私はそれらを全てインベントリに仕舞っておきます。
「それとさっきの指輪も確認しないとですね」
あらかた証拠を確認して確保した私は、おじさんが隠すように仕舞っていた指輪を手に取り、鑑定をしてみます。
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劣・支配の指輪 ランク F レア度 稀少
INT+5
MND+5
耐久度 100%
・精神支配 触れた者の精神を乗っ取り自分の指示通りに動かせるようになる。
邪石から作られた黒色の指輪。触れた者の精神を乗っ取る力を持つが、劣化しているせいでその力は強くなく、装備者の精神を歪ませる副作用もある。
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指輪を鑑定してみると、そのような説明が出てきました。まさかの精神乗っ取りスキルの持つアクセサリーのようです。
「…劣化しているみたいですが、これは結構危険そうなアイテムですね…」
この指輪も不正の証拠と一緒にナンテさんに届けるとしましょうか。
「…悪事の証拠にこの危ない指輪も確保しましたし、こんなものですかね?」
そこからもこの執務机の引き出しや周囲に置いてある棚なども調べ、あらかた調べ尽くしてしっかりと不正の証拠も手に入れましたし、これで良さそうですね。
ではこんな悪趣味な部屋に長くいるのもあれですし、そろそろナンテさんのところに戻ってこれらを渡しましょう。
私は全ての証拠をインベントリに仕舞ったのを確認した後、この執務室の入り口の扉付近で一度スキルを使用して周囲を確認し、誰もいないのを確認した後に扉を開けて外に出ます。
そしてその後は先程の倉庫からここまで来た道を早足で戻っていきます。
その道中では特に誰かと出会うこともなく無事に倉庫まで戻ってこれたので、空いたままだった窓を超え、そこから下に向かうように壁を走って地上まで降りていきます。
「やはり、この装備はこういう場面では凄く便利ですね」
今私のしているように、壁や天井に足をつけていればそこが地面かのように行動が出来るので、このような依頼などで見つからないように隠れつつ動けるので、一度使ってしまえばもう手放せなくなりそうです。
そんなことを考えている間に地上付近まで戻ってきたので、私は一度この商会の建物の壁を蹴って一気に跳躍し、近くにあった建物の屋根に着地します。
「よし、ではナンテさんの家に戻りますか」
「戻りました!」
「おや、もう終わったんだね」
そうしてナンテさんの家まで屋根をつたって戻ってきた私は、家の扉を開けて中に入った後にナンテさんのいる部屋に向かい、そんな声を上げて帰ってきたことを伝えます。
部屋の中では、ナンテさんは黒い椅子に座りながらなんらかの作業をしていたようで、一度手を止めてからこちらに視線を向けてきます。
「さて、どうだったんだ?」
「もうバッチリです!たくさん証拠がありましたよ!」
私はそう言ってインベントリから多数の不正の証拠を取り出し、その部屋に置いてあったテーブルの上に乗せていきます。
そしてナンテさんは私の取ってきた証拠である紙などを手に取って確認していきます。
「ほう、やはり結構あったんだね。…なるほど、あいつの言葉通りだったみたいだね」
「あいつ、ですか?」
「ああ、レアには伝えてなかったね」
私がナンテさんの言葉に疑問を持っていると、ナンテさんはそんな私に気づいたのかそれについて説明をしてくれます。
「この依頼を頼んできたやつのことでね、そいつは今回の対象を調べるためにあたしたちへこの依頼を出したのさ。そいつは貴族なんで、そうやすやすと行動に移るわけにはいかないからね」
そういえば、その商会の会長らしき人を見つけたのですが、その人も貴族がどうとか言ってましたね。
それにナンテさんの言う通り、貴族という立場なら悪事を働いているかもしれないというだけで行動に移るのは危ないですもんね。
「あ、それとその商会の会長が何やら危ないアイテムを持っていたので、それも一応回収してきたのですよね」
依頼である不正の証拠以外にも危険だと思うアイテムも取ってきたのを思い出した私は、そう声を上げてナンテさんにそのことを伝えます。
「危ないアイテムかい?」
「はい、これなんですけど…」
不思議そうにしているナンテさんへ、私はインベントリから取り出した指輪を渡しますが、ナンテさんはその指輪を受け取ってから難しそうな顔でそれを見つめています。
「うーん、あたしには見てもよくわからないね。…よし、ならタイミングもいいし、あそこにいくとするか。レア、お前さんも来てくれるかい?」
「別に大丈夫ですけど……どこに行くのですか?」
ナンテさんの言葉に私がそう疑問を返すと、ナンテさんはニヤリと笑ってこちらに言葉を返してくれます。
「冒険者ギルドにある暗部……暗殺者ギルドさ」




